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「連載版」婚約破棄されて辺境に追放された悪役令嬢ですが、のんびりカフェを開いたら無愛想辺境伯様に溺愛されています  作者: 夢見叶
第2章 カフェ開店と辺境スローライフ

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第13話 貴族嫌いの猟師さんと、あなた用の一杯

 昼下がりのカフェは、久しぶりに静かだった。

 朝の賑わいが落ち着いて、テーブルには飲み終えたカップがいくつか、暖炉の火だけがぱちぱちと音を立てている。


「なあリリアナ様、今日ってちょっと暇じゃないっすか」

 カウンターの中でノエルが、布巾をぶらぶらさせながらぼやいた。


「静かな時間にこそ、掃除と仕込みです。こういう時に差がつくんですよ」

「また社畜っぽいこと言ってる……」


 前世社畜の習性を指摘されて、苦笑いしかけたその時。

 カラン、と扉の鈴が鳴った。


 入ってきたのは、年配の男性。

 雪で白くなったコート、煤けた革手袋。ぎらりとした目だけは、若い兵士よりもよほど鋭い。


 その視線が看板から店内、そして私で止まり、ふん、と鼻が鳴る。


「ここが、貴族の小娘がやってるって店か」

「いらっしゃいませ。本日はようこそ」


 いつも通り丁寧に頭を下げると、男の人はさらに眉をひそめた。


「わしはグンター。森の猟師だ。……貴族の店なんぞ、ろくなもんじゃないと思っとる」

(第一声から全力で来ましたね)


「ご心配にはおよびません。ここでは皆さん、ただのお客さまです。猟師さんも、元公爵令嬢も」

「口が達者なお嬢だな」


 そう言いながら、グンターさんはカウンター席にどかりと腰を下ろす。

 その足取りを見て、私は小さく目を細めた。


(今の、ちょっと引きずっていたような……)


 片足に体重をかけないようにしているせいで、歩き方がわずかに不自然だ。

 椅子の背もたれをつかむ手も、ほんの少し震えている。


 私はそっと《生活鑑定》を発動した。


 対象:グンター


 古傷 +

 冷え +

 関節痛 +


(やっぱり。だいぶ無理を重ねている足……)


「で、ここじゃ何を出す。甘ったるいだけの菓子か」

「ふふ。甘いものもありますけど……」


 私は棚に並んだ穀物とハーブを見上げながら、頭の中でレシピを組み立てる。


(森仕事帰りの冷えと関節。体を温めて、塩分は控えめ。けど、ちゃんと力は出るように)


「もしよろしければ、猟師さん向けの一杯を試してみませんか」

「猟師向けだと?」

「雪の森から戻ってきた体のための穀物コーヒーです。関節を温めるハーブを少しと、塩気控えめの温野菜スープをセットで」


 グンターさんの目がじろりと細くなる。


「そんなもんで、この足がどうにかなると思っとるのか」

「一度で全部は難しいですが、今日より少し楽にすることは、できると思います」


 前世でも、無理して壊した膝や腰をたくさん見てきた。

 あの時は、残業と根性論の前に何も言えなかったけれど、今なら言える。


「それと、味にはちゃんと自信があります。もしお気に召さなければ、お代はいりません」

「おい、タダにする気か」

「気に入ってくださったら、きちんと頂きます。その方が、私も嬉しいので」


 サービス残業は二度としない、と前世で決めた。

 でも、お客さまが納得して払ってくれるお金は、堂々と受け取りたい。


「……好きにしろ」


 ぶっきらぼうな一言を合図に、私は素早く動き出した。

 香ばしく焙煎した穀物ブレンドに、体を温めるハーブをひとつまみ。

 大鍋で煮込んだ根菜スープは、いつもより少しだけ塩を控える。


 穀物ハーブブレンド

 冷え −2 

 関節のこわばり −1 

 気力 +1


(うん、このくらいなら、初回としてはちょうどいいはず)


「お待たせしました。まずはこちらを、ゆっくりどうぞ」


 湯気の立つカップとスープ皿を目の前に置くと、グンターさんはしばらく無言で見つめ、それから一口。


 熱さを確かめるように息を吹きかけて、ぐい、と飲む。

 ごくりと喉が鳴った。


「……ほう」


 低く漏れた声に、思わず息を止める。

 続けてスープを一さじ。噛みしめるように飲んだあと、固くなっていた肩が少しだけ落ちた。


「いかがですか」

「うるさい」


 即答だった。

 けれど、その声にはさっきまでの刺々しさがない。


 グンターさんは黙々と、最後の一滴まで飲み干した。

 それから椅子から立ち上がり、足を軽く踏みならす。


「……体が、少し軽くなった気がする」


 私はほっとして、思わず笑みがこぼれた。


「よかった。足を大事になさってくださいね。冷えは、あとから一気に来ますから」

「医者かお前は」


 むくれたように言いながら、出口へ向かう背中。

 扉の前でふと立ち止まり、こちらを振り返る。


「貴族ってのは、いつも上からものを見とると思っとった」

「……」

「だが、お前はちゃんと、こっちを見ておる」


 短い一言とともに、分厚いコートの背中が、雪の光の中へ消えていった。


「……今の、褒められましたよね、私」

 ぽかんとしていると、いつの間にか近くに来ていたノエルが、鼻を鳴らす。


「当たり前だろ。今の人、あの辺りの猟師の頭みたいな人だぞ」

「えっ」

「貴族嫌いで有名でさ。機嫌損ねたら森の連中、誰も寄りつかねえレベル。……まあ」


 ノエルは、空になったカップをひょいと持ち上げて、底をのぞき込んだ。


「さっきの一杯なら、俺も飲んでみたいですけど」

「ふふ。それじゃあ今度、ノエル用に調整しましょう。買い出し少年向けの一杯」

「名前どうにかしてください」


 いつもの毒舌が返ってきて、胸の奥の緊張がふっとほどける。


(試されていたのに、最後には少しだけ認めてもらえた)


 暖炉の火と、カウンターに残る穀物の香り。

 外では雪が静かに降り続けている。


(この店が、あの猟師さんにとっても、帰ってこられる場所になりますように)


 私はメモ帳を開き、ページの端に小さく書き込んだ。


 猟師さん向けブレンド 定番化要検討。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

第2章第13話、貴族嫌いの猟師グンターさん登場回でしたが、いかがでしたでしょうか。


「グンターさんちょっと気になる」「このカフェ、また覗いてみたいかも」と少しでも思っていただけましたら、


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よろしければ、「グンターの第一印象」や「飲んでみたいメニュー」など、一言だけでも感想をいただけると嬉しいです。

次回も、辺境カフェでお待ちしています


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