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「連載版」婚約破棄されて辺境に追放された悪役令嬢ですが、のんびりカフェを開いたら無愛想辺境伯様に溺愛されています  作者: 夢見叶
第2章 カフェ開店と辺境スローライフ

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第11話 初営業と、おばさまの「流行るよ」宣言

 まだ外は薄暗く、窓の向こうでは細かな雪が舞っていた。

 私は深呼吸をひとつして、キッチンに入る。


(今日から、本当に……のんびりカフェの営業が始まるんだ)


 大鍋では骨と香味野菜が静かに煮えている。マリアはすでにエプロン姿で、いつも通り落ち着いていた。


「本日のスープはどうなさいますか?」

「冷えますし、体が温まるものにしましょう。根菜と豆、たっぷりで」


 私は根菜と豆にそっと《生活鑑定》をかける。


《生活鑑定》

対象:根菜と豆のスープ

冷え対策:中

腹持ち :大

安心感 :中


(うん、開店初日にはぴったり)


 そこへ、マフラーぐるぐる巻きのノエルが裏口から顔を出した。


「さっむ……おはようございます」

「おはようございます、ノエル君」

「しかしほんとに客、来るんすかね」

「最悪、私たちで全部食べればいいだけですよ」

「太りますよ、リリアナ様」

「開店記念ですから」


 マリアの冷静なツッコミに、思わず笑ってしまう。緊張が少しだけほどけた。


     ◇


 看板を出し、扉につけた小さな鈴が、カランと鳴った。


「のんびりカフェ、本日開店です」


 そう宣言してカウンターに戻ると、さっそく鈴が鳴る。


「いらっしゃいませ!」


 入ってきたのは、ふくよかな体格のエルザおばさんだった。近所で一番の情報通だ。


「ほんとに開いてるじゃないの。ちょっと冷やかしに来たんだけどねえ」

「ようこそお越しくださいました。本日は穀物の飲み物と、スープとお菓子をご用意しています」


 私はこっそり《生活鑑定》をかける。


《生活鑑定》

対象:エルザおばさん

冷え  :中

疲労  :小

好奇心 :大

安心感 :小


(買い出し帰りで冷えてる感じね)


「おすすめは?」

「ノルドハイム・ブレンドと雪国ハニーオートクッキーのセットはいかがでしょう。体も心も温まります」


 もう一度《生活鑑定》をのぞく。


《生活鑑定》

対象:おすすめセット

冷え  :−2

空腹感 :−2

安心感 :+3


(安心感+3、開店早々なかなか優秀)


「よく分からないけど、お嬢さんの推しをひとつもらおうかね」


 私は香ばしい黒褐色の液体をカップに注ぎ、蜂蜜の甘い香りのクッキーを添える。


「お待たせしました。ノルドハイム・ブレンドと、雪国ハニーオートクッキーです」


 エルザおばさんは一口飲み、目を丸くした。


「……あら」


 さらにもう一口。慌てて《生活鑑定》を見てしまう。


冷え  :中 → 小

安心感 :小 → 大


(本当に上がってる)


「どうでしょうか?」

「これはねえ……」


 一拍置かれて、心臓がどくんと鳴る。


「流行るよ、これ」


 その一言で、膝から力が抜けそうになった。


「本当に、ですか?」

「本当さ。体がぽかっとして、変にほっとする。外仕事帰りにこれ出されたら、帰りたくなくなるね」


 エルザおばさんは窓の外をのぞき、通りかかった女性に手を振った。


「おーい、グレタ! ちょっと寄ってきな! 変な黒い飲み物だけど、うまいよ!」

「変って言わないでくださいませ」


 思わずツッコミを入れる私を見て、おばさんは声をあげて笑う。


「変でも流行れば勝ちだよ、お嬢さん」


     ◇


 そのあとが、怒涛だった。


 市場帰りの主婦、夜勤明けの兵士、雪かき途中の職人。エルザおばさんの一声で、次々と人が入ってくる。


「おすすめのセットを」

「甘いの、まだある?」

「一番あったまるやつください」


 私は半分パニックになりつつも、前世のブラック企業で鍛えられたマルチタスクを総動員して手を動かす。


「リリアナ様、スープ残り少ないです」

「次の鍋も火にかけましょう。ノエル君、お皿お願いします!」


 忙しい。それなのに、胸の奥は不思議と軽い。


(ああ、これが……私のカフェの忙しさ)


 試しに店全体に《生活鑑定》を広げてみる。


《生活鑑定》

対象:のんびりカフェ店内

暖かさ:高め

不安 :小

安心感:高め


(ふふ、上出来)


     ◇


 日が傾くころ、ようやく客足が途切れた。


「本日の営業は、ここまでですね」

「つ、疲れた……でも、思ったより全然来ましたね」


 マリアは椅子を整え、ノエルはカウンターに突っ伏している。


 私はレジ代わりの木箱を開けた。銅貨と銀貨がこつこつと音を立てて積まれていく。


「……こんなに」


 思わず声が漏れる。


 王都を追放された日、馬車の中で握りしめていたメモ帳。そこに小さく書いた「辺境でのんびりカフェを開く」という夢が、今、硬い硬貨になって目の前にある。


「よく頑張りましたね、リリアナ様」

「まあ……悪くないスタートっすよ」


 マリアの手が肩に置かれ、ノエルがそっぽを向きながらぼそりと言う。


 視界がじんわりにじんだ。泣くつもりなんてなかったのに。


「ありがとうございます。ふたりのおかげです」


 私は目尻を指で押さえながら、売上の山をそっと撫でた。


(まだ始まったばかり。でも今日の一日は、きっと何度でも思い出す)


 初めての営業日の温かさを、胸の奥に大事にしまい込んだ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リリアナ視点で書きながら、看板を出す瞬間と、エルザおばさんの

流行るよ

のひと言に、私自身も胸がじんわりしました。


追放された元公爵令嬢が、初めて自分の手で稼いだ硬貨を数える場面は、物語全体の中でも大事なターニングポイントになる予定です。

あの小さな木箱のしゃりんという音が、皆さまにも少しでも届いていたらうれしいです。


皆さまなら、のんびりカフェで何を頼んでみたいでしょうか。

穀物ブレンド派か、スープ派か、それともクッキー派か……想像していただけたら作者はにやにやします。


次回は、噂を聞きつけた兵士たちや子どもたち、そしてついにあの無愛想な領主様がカフェに姿を見せる予定です。常連第一号が誰になるのか、お付き合いいただければうれしいです。


少しでも続きが気になると思っていただけましたら、評価やブックマークをぽちっとして応援していただけると、とても励みになります。

感想や一言コメントも、とても力になりますので、もしよろしければお気軽に残していってくださいね。


それでは、また次のお話でお会いできますように。

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