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「連載版」婚約破棄されて辺境に追放された悪役令嬢ですが、のんびりカフェを開いたら無愛想辺境伯様に溺愛されています  作者: 夢見叶
第1章 婚約破棄と辺境行き

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第10話 のんびりカフェ計画、始動!

 ノルドハイム・ブレンドができて、数日後。


「ここを、店にするつもりなのか」


 穀物コーヒーを飲みに来たディルク様が、リビングを一巡してから口を開いた。


「は、はい。いつか、この家の一部を、ささやかなカフェにできたらと」


 言いながらも、自分で少し笑ってしまう。夢物語だと思っていたからだ。


「雑穀の飲み物と、簡単なスープやパンだけの、小さなお店ですけれど」


「穀物コーヒーの店か」


 ディルク様は黒い液体を一口。ほんの少しだけ、目を細めた。


「悪くない」


 短いその一言に、胸の奥で花火が上がる。


(よし、本日も最高評価ゲット)


「場所も悪くない。市場と広場の間で、人通りもある。兵にも目が届く」


 淡々とした声が続く。


「店として開けば、領にも収入が入り、冬の居場所にもなる。改装費用の一部は、領主館の予備費から出せる。必要な物の一覧を作っておけ」


「……えっ。本気で?」


「冗談で金の話はしない」


 あっさり返されて、むしろこちらが固まってしまう。


(え、これ、もしかしなくても正式許可では)


「あの、すべてを負担していただくのは心苦しいので……できる限り、自分の売り上げで返したいです。ここで、ちゃんと生きていきたいので」


 自分でも驚くくらい、するすると本音が出た。


 少しの沈黙。やがて、低い声が落ちる。


「……半分はこちらで持つ。残りは、店が回り始めてからでいい」


「ありがとうございます! 全力で、領内一居心地のいいカフェにしてみせますわ」


「あまり金はかけすぎるな。帳簿は確認する」


「はい、節約と費用対効果重視で」


「ひよう?」


「あ、ええと。経済的に無駄なく、という意味です」


「ふむ。お前の言う悪くない方向なら、任せる」


 そう言って、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。


(決まった。本当に、店を開いていいんだ)


     ◇


「ここがカウンターで、こっちが客席ですね」


 数日後。テーブルの上に広げた紙の上で、私は簡単な見取り図を描いていた。両側から、マリアとノエルが覗き込む。


「暖炉のそばに大きなテーブルが1つ。窓際に小さなテーブルをいくつか。ここは長い椅子にして、親子連れでも座れるようにしましょう」


「いいですね。お盆を持って歩くなら、この棚は動かしたほうがよさそうです」


 マリアが、今ある家具の位置を指でなぞる。


「たしかに。ここが狭いと、お客様とぶつかってしまいますものね」


「さすがマリア。動きやすさ担当ですわ」


「た、担当……。がんばります」


「俺は、この奥のほう、好きっす」


 ノエルが指さしたのは、少し奥まった角だ。


「落ち着くし、仕事帰りの人が静かに座れそうじゃないですか」


「たしかに。じゃあ、そこは半個室っぽくしましょう。静かに休みたい人と……領主様席です」


「領主様席!」


 ふたりの声が同時に上がる。


「領主様が来てくださる店って、それだけで安心感がありますでしょう? だから、そっと座れる席があったらいいなと思って」


「ふふ。ディルク様、きっと来てくださいますよ」


 マリアが嬉しそうに笑った。


     ◇


「次は、店の名前ですわ」


「出た、店名会議っすね」


 ノエルが身を乗り出し、マリアもぴんと背筋を伸ばす。


「この街の名前を入れるのも素敵ですけれど……」


 私はペン先をくるくる回しながら、王都を離れる馬車の中で握りしめていたメモ帳を思い出した。


 辺境で、のんびりカフェを開く。


 あの時書いた、小さな決意。


「あの、少し個人的な案でもよろしいかしら」


「もちろんです!」


 マリアの目がきらきらしている。


「店の名前は、のんびりカフェ、というのはどうでしょう」


「のんびり……カフェ」


 ふたりが、同時に繰り返した。


「私、前からずっと、のんびりカフェを開くのが夢だったんです。ここに来た人の緊張や不安が、少しほどけていくような場所にしたくて」


「いいと思います!」


 マリアが、ぱっと笑う。


「ここに来ると、みんなほっとして、のんびりしていく。そんなお店になったら、とても素敵です」


「俺も賛成っす。仕事終わったら、のんびり行こうぜって言いやすいっすし」


「それは心強い宣伝係ですわね」


 思わず三人で笑い合う。


「では、決まりです。店名は、のんびりカフェ」


「はい!」


「おう!」


 小さな拍手が、木の家にぱんと響いた。


     ◇


 さらに数日が過ぎ、テーブルと椅子が運び込まれ、壁にはノエルが描いた看板が立てかけられた。


 素朴な木の板に、丸みのある文字で書かれた、のんびりカフェ。横には、小さな湯気つきのカップの絵。


 日が暮れ、マリアとノエルが帰ってしまうと、家の中は一気に静かになる。


 私はひとり、並べ終えた椅子とテーブル、磨き上げたカウンター、暖炉の火をぐるりと見渡した。


「……本当に、カフェみたい」


 まだ飾りつけも少ないし、メニューだって穀物コーヒーと簡単なスープくらい。それでも、ここはもう、ただの家ではない。


 ふと思いついて、《生活鑑定》を起動する。


 対象:のんびりカフェ(準備中)

 居心地:中

 温かさ:中

 わくわく度:小→中


「わくわく度って何よ」


 思わず笑いながらも、胸の高鳴りはごまかせない。


(でも、たしかに。私の心は今まさに、わくわく度中だもの)


 カウンターを軽く撫でてから、私は入口の扉の前に立つ。


 冷たい金属の取っ手に、そっと手をかけた。


「明日、このドアを開けたら……本当に、私のカフェになる」


 外では、静かに雪が降っている。


 辺境の夜のしんとした空気の中で、第二の人生と、のんびりカフェ物語の本当の開幕を、私は確かに感じていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


ついに「のんびりカフェ」の形が見えてきました。次回はいよいよ開店回の予定です。ディルク様や街の人たちが、どんなふうにお店と関わっていくのか、私自身とてもわくわくしながら書いています。


少しでも続きが気になる、応援してもいいかな、と思っていただけましたら、作品評価やブックマークをぽちっとしていただけると、とても励みになります。感想もすごく力になります!


今後も、のんびり甘くてあたたかい物語をお届けできるよう頑張りますので、どうぞお付き合いいただけたら嬉しいです。


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