第2話:再会のバーで
前回のあの日から数日。
あの笑顔が頭から離れなくて、気づけばまた同じバーの扉を押していた。
どうして、あんな笑顔を見せられただけで心が乱れるんだろう。
こんなに胸がざわつくのは、初めてかもしれない。
バーの奥の席に、例の彼女がいた。
黒髪ロングに鼻ピアス、パーカー姿――まるであの日と同じ。
でも、彼女は俺に気づいていない様子だった。
勇気を出して隣の席に座る。
言葉をかけるべきか、ただ黙って見ているだけか。
一瞬、足がすくむ。
こんな時、どうすればいい?
ただ見ているだけでいいのか、それとも声をかけるべきなのか。
頭の中で何度も繰り返す。
でも、答えは一つ――声をかけないと後悔する。
「……昨日の落書き、面白かったです」
彼女は淡々と言った。でも、その声の端に、微かな笑みがある。
俺は思わず顔が熱くなる。
笑ってくれた。たった一言でも、心臓が跳ねる。
この人を、もっと知りたい――そんな気持ちが膨らんでいった。
それから少しの間、二人は言葉を交わした。
クールな彼女の口調の裏に、ちょっとした優しさや冗談が垣間見える。
それだけで、俺の胸はいっぱいだった。
小さな一歩でも、二人の距離は確かに縮まった気がする。
でも、まだ何も始まっていない。
それが、もどかしいほどに楽しかった。
夜が深まるにつれ、彼女はそっと立ち上がる。
「また、会えますか?」
俺の口から出そうになった言葉を、飲み込む。
今日のこの時間も、宝物だ。
たとえ次がいつになるかわからなくても――
俺は、この気持ちを抱えながら、前を向いて歩いていこう。




