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第1話:背中の落書きと初めての笑顔
バーの薄暗い照明の下、黒髪ロングの女性が一人で座っていた。
鼻にピアスをして、パーカーを着ている。その佇まいは、まるで周囲の空気とは別の場所にいるみたいだった。
ただ振り向いただけで、世界が変わった。
鼻ピアスと黒髪の彼女を見て、心臓が不自然に跳ねた。
人を好きになる瞬間なんて、もっとドラマチックなものだと思っていたのに――あれは間違いなく、一目惚れだった。
どうしても声をかけたい。でも、何を話せばいいか全く思いつかない。
そこで俺は、友人に頼んでトレンチコートの背中に落書きをしてもらった。それを口実にすれば、話せるかもしれない。
言い訳がこんなに心臓をドキドキさせるなんて。
自分でも情けないと思うけど、それでも声をかけずにはいられなかった。
勇気を振り絞って、彼女の後ろに立つ。
「……すみません、背中に、落書きが……」
彼女はゆっくり振り向く。
一瞬、クールな表情のままだったけれど――
その瞬間、彼女が笑った。
笑顔が、まるで太陽みたいに眩しくて、俺は赤面してしまった。
あの日の笑顔は、きっと一生忘れない――。