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49話


 アイーシャ達はマーベリックの指示のもと、保養所跡の直ぐ側で待機しながら外観を眺め、ぽつりぽつりと会話をする。


「このような場所があったなんて。初めて知りました」

「ああ。私もあまり気に止めていなかったのだが……四代、いや五代前のルドラン子爵が別邸やカントリーハウスで働く者達のために建てたそうだ。わざわざカントリーハウスやタウンハウスからやって来る使用人もいたようで、当時は山中の道も整備され、賑わっていたようだぞ」

「そうだったのですね……、だからこの近くには人の手が入った痕跡が多く残されて……」


 ウィルバートの言葉に、アイーシャは納得するように頷いた。

 保養所跡にやって来る道すがら、所々人が通れるように整備されていた痕跡があった。

 昔は、この保養所を利用する人も多かったのだろう。だが、いつしか利用する者が減り今ではすっかり廃墟のような見た目だ。


 何故人の利用が減ってしまったのだろう、と考えるアイーシャの思考を読んだかのようにウィルバートが説明してくれた。


「廃れてしまったのは色々と理由があったそうだが……この山中で獣が出たり、魔物が頻出するようになり、保養所を利用していた使用人達が何人か犠牲になったそうだ。討伐のためにかつての当主は討伐隊を送り込んだらしいが……結果はこうだ」


 ひょい、と肩を竦めて語るウィルバートにアイーシャは眉を寄せて言葉を返した。


「獣、や……魔物が頻出したせいで廃れてしまったと言うのであれば、今現在もこの付近には魔物が多いのではないでしょうか? この建物に、危険はないのでしょうか……」

「──それを今調べさせているから安心してくれ、ルドラン嬢」


 アイーシャとウィルバートの会話を聞いていたのだろう。

 離れた場所にいたマーベリックが二人に近付きながら安心させるように言葉を発した。


「先鋒隊は、気配に敏い者達を使っているからな。魔物がいれば気配を察知して即座に報告するだろう──」

「──殿下!」


 マーベリックが言い切る前にマーベリックの言葉に被さるようにして、焦った声が保養所跡から聞こえて来た。


「何事だ!?」


 マーベリックが鋭い視線を保養所跡に向けると、その建物の入口から慌てて出てくる先鋒隊の一人がマーベリックを呼び、こちらに駆け戻って来る。

 先鋒隊の一員は、きっちりと着込んでいる隊服を所々破れさせ、肌には薄らと血が滲んでいる。


「──建物内、深部に魔物が巣食っていたようです! 物音に反応し、魔物が……!」

「すぐに向かうぞ!」


 慌てふためく先鋒隊の隊員の言葉を聞くなり、マーベリックは腰に下げていた剣を抜き放つとアイーシャ達に向かって声を上げる。

 クォンツとクラウディオは長剣ではなく、懐から刀身の短いダガーを。

 リドルはマーベリックに伴い長剣を抜き、刀身に魔法を付与している。

 アイーシャも、いつでも攻撃魔法が放てるように心を落ち着かせていると、隣にいたウィルバートがそっとアイーシャの肩に手を置き、建物の方向へと体の向きを変える。


 既にマーベリックとリドルは、攻撃部隊を先頭に建物内の入口まで行っており、クォンツとクラウディオは後に続くアイーシャとウィルバートを待つように建物の手前で停止している。


「アイーシャに危険が及ばないように私がしっかりと守るから安心しなさい」

「っ、ありがとうございますお父様……! ですが、お父様もあまり魔法を使い過ぎないようにして下さいね? 私も、多少ですが攻撃魔法は覚えておりますので」

「ふふ、十年の内にアイーシャは頼もしくなったな。喜ばしい事だ。ならば私の魔力が切れたらお願いしようか」


 ウィルバートは小さく笑い、アイーシャの背中を優しく押してやりながら建物の前で待つクォンツとクラウディオに合流すると、躊躇いなく建物内に足を踏み入れた。





「──暗いな」


 コツン、と薄暗い建物内に足音が響く。

 ぽつりと落ちたウィルバートの声は、前方を駆けるマーベリックとリドル、先鋒隊の隊員達の足音と声に掻き消えてしまう。


「今、灯りを」


 アイーシャはそう告げると、火魔法で周囲を明るく照らす。


「お父様や、クォンツ様、クラウディオ卿が戦闘に集中出来るよう補助魔法は私が行いますので、必要な魔法がございましたら教えて下さいね」


 アイーシャは気丈に告げるが、魔物が同じ建物内にいるという事に僅かばかり緊張しているのだろう。

 声が硬く、緊張を孕んでいる。


「ああ、有難いアイーシャ嬢。補助に回ってくれるだけで戦い易いからな」


 アイーシャの緊張を察したのだろう。クォンツはにやり、と口端を持ち上げてアイーシャに礼を告げると肩をぱしぱしと叩く。

 緊張感が少しでも解れるように、とクォンツは軽い口調でそう言ったが、前方から恐ろしい魔物の咆哮が聞こえて来て、アイーシャを除く三人は前方に鋭い視線を向けた。


「ウィルバート卿、あの方向には何が?」

「少しお待ちを……。確か、昔に見た見取り図では従業員休憩所があったような……」


 クラウディオの声にウィルバートは昔確認したこの保養所の見取り図を思い出して答える。

 すると、クォンツが小さく言葉を零した。


「て、事は……っある程度広い空間がある! 俺は先に殿下とリドルのもとに向かいます……!」


 クォンツはそう言うなり、アイーシャ達の返事を聞く前に前方のマーベリックとリドルへと駆け出した。

 クォンツから遅れてクラウディオも駆け出し、ウィルバートもアイーシャを気遣いながら駆け出して、前方にいたマーベリック達と合流するなり目の前に広がる光景に目を疑う。


「──なっ!? なんですか、これはっ」


 アイーシャは思わず自分の口元を抑え、顔色を悪くさせてしまった。

 目の前にいる魔物は二体、三体の魔物の部位を無理矢理くっつけたような様相をしていて。

 バランスが取り辛いのか、傍目からもわかるほど、明らかによたよたと足の長さが合わないせいで蠢いている個体もいる。

 だが、くっつけられた魔物ばかりではなく、通常の魔物もそこにはいたようで。異様な魔物の姿に戸惑っていると通常の獣の姿をした魔物が素早く攻撃を仕掛けて来る。


 マーベリックに命じられた先鋒隊の面々は、アイーシャ達より奥にいて、退路を複数の魔物に塞がれているようだ。

 あのままでは、先鋒隊全員がこちらに戻って来るのは難しいだろう。


 異様な光景に、アイーシャが言葉を失っていると魔物の声が響いた。


「──ギャウッ」


 異様な光景に戸惑っていたのは同じだろうが、逸早く気持ちを切り替えたのはクォンツで。

 突然姿を現したアイーシャ達の死角から飛びかかって来ていた、狼のような姿の魔物を手に持ったダガーで正確に目を貫いた。


「動きが素早い! アイーシャ嬢とウィルバート卿は入口付近まで退避しておいた方が良い!」

「──了解した!」


 クォンツの鋭い指示に、ウィルバートは返事を返すなりアイーシャの腕を引っ張り、後退する。

 後退して行くアイーシャをクラウディオはちらりと横目で見遣り、前方を指差して声を上げた。


「アイーシャ嬢! 最深部、先鋒隊がいる辺りと私が立つ少し奥、そして後方に灯りを!」

「か、かしこまりました!」


 クラウディオはアイーシャの返事を聞くなり、先鋒隊の退路を阻害している魔物を排除するため前方に走り出した。

 アイーシャはクラウディオに言われた通り、三箇所に向かって順に火魔法を発動して行く。

 戦闘を行うクォンツ達の視界をクリアにするために、周囲の様子を明るく照らすように魔法を発動して、そして。


「──ぇっ?」

「あれは……」


 アイーシャの火魔法により、戦闘を行っている場所が明るくなり広範囲が照らされ、今まで見えなかった部分がはっきりと見えるようになってしまった。


 良く見えるようになったこの空間の最奥。

 魔物達は檻か何かに入れられていたのだろう。

 だが、その檻が破損して魔物が出て来てしまった。


 だが、その檻の近くには沢山の人の衣類が落ちており。


 その中には、アイーシャの母。イライアが気に入って度々身に付けていたデイドレスが混ざっていた。



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