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3話

◇◆◇


 夕食の時間。

 アイーシャが食堂に入るなり、義母であるエリザベートからギッと鋭い視線を向けられ、義父であるケネブから冷めた視線を向けられる。

 アイーシャは小さく「遅れて申し訳ございません」と呟き、自分の席──エリシャの外側の椅子へと腰を下ろす。

 エリシャは入って来たアイーシャになど目もくれず、まるで食堂内にはアイーシャは初めからいない物として食事が始まる。


 "家族三人"の和やかな会話が聞こえて来るが、アイーシャはその会話に入ることはなく、ただただ静かに食事を自分の口に運ぶ。

 幼い頃は、自分を見て欲しくて何とか家族三人の会話に入ろうと必死に話しかけたり、関心を持って欲しいから、と行動をしていたがそれが無意味な行動だと気付いてからアイーシャはただ静かに、邸内で息を殺すように生きていた。


 暴力を振るわれることもない。

 食事を抜かれることもない。


 ただ、生きるだけに必要な、最低限の援助だけはしてくれている。

 みすぼらしい、と噂にならぬ様にお茶会に呼ばれれば新しいドレスや宝飾類を与えられる。

 「外」では仲が良い、とは言い難いが最低限「家族」としての交流──会話は行われる。

 だから、誰も知らないのだ。

 アイーシャが邸の中で孤独に苛まれているのも。

 ある意味、この状況が子供に対する「虐待」だということも誰もが気付かない。

 だからこそ、アイーシャはもう直ぐ通うことになる学園に思いを馳せる毎日だ。

 早く、この子爵家から解放されたい。

 自分自身を見てくれる人と交流をしたい。


(──ベルトルト様は……エリシャの姿に、言葉に……騙されてしまっているわね……それを私が否定したとしても、きっともう無理……)


 幼い頃から似たようなことが沢山起きた。

 してもいない事をまるで「本当」のように信じ込み、エリシャの話を皆が信じる。

 エリシャが庇護欲を誘う、可愛らしい見た目をしているからだろうか。

 エリシャが泣き、アイーシャに怯えたような視線を向けると、周囲は勝手に「勘違い」をするのだ。

 アイーシャが否定しようとすればするだけ周囲は「必死になる程怪しい」と、益々アイーシャに厳しい目を向けるようになる。


(結局、私の言葉なんて誰も信じないんだから……)


 お茶会で出会った友人達も、いつの間にかアイーシャから離れて行ってしまい、今ではエリシャと良い友人関係を築いている。

 訂正するのも、新しい友人関係を築くのもアイーシャはもう疲れていた。


(どうせ、友人が出来たとしても……最後はエリシャの友人になっちゃうんだから……)


 だからこそ、早く学園に通うようになって。

 少しだけでもこの家から離れたい。

 学園を卒業したら、ベルトルトと結婚してこの家に再び戻らなければいけないのだ。

 再びこの家に戻るまで、少しの間だけでも学園生活を楽しみたい、と考えていたアイーシャは、まさか学園にエリシャが一緒に通おうと準備していることに全く気付かなかった。


◇◆◇


 それから。

 ルドラン子爵邸には、アイーシャの婚約者であるベルトルトは頻繁に顔を出すようになった。

 だが、アイーシャにベルトルトが来たと知らせが来るのはいつも遅く、ベルトルトが来た際はいつもエリシャが先にベルトルトを出迎え、二人で談笑した後に、アイーシャが呼ばれる。


 アイーシャはベルトルトが来たら早めに自分に知らせてくれるように使用人に頼んだが、使用人達はエリザベートにベルトルトが来たらエリシャに先に知らせるように、と告げているらしく、その言い付けを破りアイーシャに先に知らせた使用人達は解雇されていた。

 その為、仕事を失いたくない使用人達はアイーシャに申し訳ない、と謝罪しアイーシャに許され、ベルトルトがやって来るとエリシャに知らせに行っている。

 アイーシャがやって来るのがいつも遅い為、ベルトルトから苦言を呈されることもあったが、義母に嫌がらせをされている、と遠回しに訴えてもベルトルトはそんなことをする筈がない、アイーシャが卑屈になっているだけではないか、と逆にアイーシャを責める。

 ベルトルトに対して何を言っても無駄だ、と諦めたアイーシャは、ベルトルトがやって来てからきっかり一時間程。一時間程経ってからベルトルトの元へと向かうようになった。

 エリシャと交流をする内に、ベルトルトはエリシャと過ごす時間を楽しむようになり、アイーシャがやって来るとエリシャが部屋から退室してしまうのをあからさまに残念がるようになった。


(もう、いっその事私とは婚約を解消して、エリシャと婚約を結び直せばいいのに……)


 アイーシャがそう思ってしまう程、ベルトルトはエリシャに惹かれて行っているのが良く分かる。


(お義父様も、お義母様もきっとその方がいいでしょうに……)


 なのに、何故未だに自分との婚約を継続しているのだろうか、と不思議になってしまう。

 ルドラン子爵家がエリシャを勧めても、ベルトルトのケティング侯爵家が首を縦に振らないのだろうか。

 アイーシャは何故、と考えたがそこでふともしかしたら、と一つだけ思い至る。


(もしかしたら……私とエリシャが発動出来る魔法が関係しているのかしら)


 エリシャは、魔法を発動する為の魔力量が多いが発動出来る魔法の種類が少ない。

 威力の高い魔法を発動することが出来ないのだ。

 だが、アイーシャは違う。

 アイーシャはエリシャに比べると魔力量は劣るが発動出来る魔法の種類が多く、威力の高い魔法も発動出来る。

 そのことから、アイーシャを選び優秀な魔法士を血筋に残したいのだろうか、と予測する。


(それ、だったら……お義父様もお義母様も私を追い出さないのも頷けるわね……きっと、私がルドラン子爵令嬢であれば利用価値があるんだわ……)


 だが、逆を返せばアイーシャの魔法の能力以外に惹かれる物がなければあっさりと婚約は解消されてしまうだろう。

 もし、そうなってしまったらと考えてアイーシャはぞっとした。


(私が不要になれば……お義父様もお義母様も……私を子爵家から追い出してしまうかもしれない)


 誰かの後妻として嫁がせる。それだったらまだ良い方だ。

 普段から義母エリザベートはアイーシャを毛嫌いしている。アイーシャがこの子爵家に必要無くなればあっさりと切り捨てられるだろう、と予測がつく。


(私、一人でも生きていけるように準備は必要ね……)


 アイーシャはそう考えると、今日もまたベルトルトがやって来ている、と言う知らせを受け重い腰を上げてベルトルトの元へと向かったのだった。



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