兄と買い物
私の名前は『世尾 未来』
中学2年生よ
最近嬉しい事があったの
それは『行方不明だった兄が帰って来た事』だ
兄は高校2年生で、目立つ事もない所謂『普通の高校生』だった
事件は数ヶ月前···兄はいつもの様に学校に登校する為に家を出た
しかし、学校には登校しておらず、夜に担任から連絡が来た事で『行方不明』が発覚
警察の捜査も虚しく、手掛かりがないまま月日が流れた···
そして数日前、警察から『兄を発見·保護した』と連絡があった
私達家族は喜び、すぐに面会する
しかし、兄は記憶を失くしていた
正確には『一部の記憶のみ』憶えているが、他は『何も知らない』といった感じだ
兄は私達の姿を見て驚いていたが、すぐに『何かに納得する様な顔』をしていた
そして『行方不明以前の事はほとんど忘れていた』が、私達の事は憶えていたので『一般生活には一応大丈夫』として、帰宅が許された
『家族と一緒に生活していれば、記憶も戻るだろう』との考えらしい
何はともあれ、兄が無事?に帰って来たのは嬉しい事だ
家に帰ると、兄は部屋の中を1つ1つ確認する様に見回す···
こまめに掃除はしていたので、汚れてはいないはず···
そして一通り見た兄は部屋を出て、家の中を歩き回る
両親の部屋を見て、私の部屋を見て、再び自分の部屋を見る···
その姿はまるで『失った何かが帰って来たのを確かめる様な行動』を思わせるものだった···
私の部屋を見られた時は、少し恥ずかしかったが、『兄の為』と我慢したわ
今度はもう少し綺麗にしよう···
少なくとも制服はちゃんとしまっておこう···
そして数日が過ぎ···
兄は今現在、自宅で通信教育で勉強をしている
「今の状態で高校に行っても、勉強についていけないから」と、両親に相談して、高校卒業が認められる通信教育をする事になった
そして「家にいるなら、家事はお···僕がやる」と言って、家事をしてくれている
私も手伝うと言ったのだが、「未来は勉強と遊びを大切にしてくれ」と断られてしまった
決して家事音痴だからではないはず···
···そうだよね?
何で全員私から目をそらすの?
そして今日、兄は「夕飯の材料の買い物に行く」と声をかけて来た
私は『また兄がいなくなってしまうのでは!?』と思い、同行する事にした
それに、まだ完全に『記憶が戻っていない』のだから、外に1人で出る事を許可する訳にはいかない!!
私は部屋ですぐに着替えて玄関に向かう
急いで着替えた為、髪が乱れてしまっていた
兄はそんな私の髪を優しく、手漉きで整えてくれた
とても優しく···まるで『大切な宝物を扱う』様に丁寧にしてくれる
(でも、何で『寂し気な目』をしているの?)
そんな事を思うが、兄はすぐに笑顔で
「はい。これで終わり。可愛くなったよ」
なんて言うから、恥ずかしくなって、外に出てしまった
兄は「やれやれ···」と言って玄関の施錠をして私の近くに来る
「行き先知らないのに、先に行ってどうするんだ?ほら、こっちだよ···」
私の手を取り、先を歩く兄の背中は、いつの間にか大きくなっていた···
次回『特売セールは戦場』