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「釣り」という出会い

果てしなく広がる海。大海原のど真ん中で大魚を釣り上げる!!、、、わけではなく私は大都会のど真ん中にいます。

「今日も暑いなぁ。」

セミのなく公園を遠くから眺めながらそう呟く。東京ゲートブリッジの下は日陰だけれどそう涼しくも無い。残暑の残る9月、和倉響子16歳は若洲海浜公園に来ています。なんでこんなところにJKが!?と思うかもしれないけれどこれが私の趣味。そう、釣りだ。学校では成績・運動共に人並み。部活にも入っていないし、もちろん彼氏なんていた事もない。こんな青春とかけ離れた生活を送っている私にとって、釣りだけが唯一の楽しみなのだ!

「あれ、和倉?」

落ち着いた低音が右耳に響いた。

「うお!?」

しまった。変な声がでた。

「ごめん。驚かせたか。」

一重の細い目、特徴的なオールバック。桐谷だ。なんでこんなところにヤンキーが!?

クラスではいつも周りに不良友達がいて、でもなぜかこんな格好なのに成績優秀。だけど格好のせいか友達以外は話しかけづらい。現にクラスで一番モテる花音ちゃんも桐谷には話しているのを見たことがない。

「なんでこんなところにjkが。」

「こ、こんにちは。」

いちゃ悪いか。こんなところに。

「何してるのって、、そりゃ釣りか。」

まあこの状況をみたらそう思うだろうな。大きなロッドケースとクーラーボックスを持って釣りに来ていないわけが無い。

「うん。桐谷は?」

「おれも釣りだよ。」

「え?」

「え?」

まじかよ。釣りとかするのか。桐谷が。確かにハワイでカジキとか釣ってそうだけども。

「ちょっと隣いいか。邪魔はしないから。」

「いいけど、、。釣りとかするんだね」

「趣味なんだ。親父の影響でな。」

「そうなんだ。何狙い?」

「特にはないけど、強いて言うなら黒鯛かな。」

そう言って取りだしたのは特徴的な円形をした観覧車のようなリール。タイコリールだ。

「よし。釣るか。」

そういって素早く準備を済ませた彼は海と防波堤の狭間、壁のギリギリに糸を垂らしはじめた。重りの重さを受けた糸がゆっくり、少しずつリールの上を滑り落ちていく。あ、そろそろ私も餌の確認をしなければ。そう思い自分の竿に手を伸ばした瞬間、

「きた。」

咄嗟に右を向くと隣の竿が大きくしなっていた。背の高い彼にあの小さく柔らかい竿は不釣り合いで、少し不格好にも見えた。そんな失礼なことを考えているうちに次第に黒い影が水面に浮かび上がってくる。

「でっか!!」

思わず口に出てしまった。でもこれはかなり大きい。

「ちょっと持っててくれ」

「え、ちょっと!」

背中から出した網を彼は私に押し付けた。

「ほら!早く!」

「は、はい!」

彼の呼び声に慌てながらも、ゆっくりと網を魚の下にくぐらせていく。

「よし!!!」

やった。成功だ。網の中に捉えられた大魚はゆっくりと海面から離れ、私たちの陸地にへたりこんだ。

「やった!年なしだ!!」

体がびくっとした。桐谷がこんなに大きな声を出すなんて。クラスではうるさい仲間の中で1人、口数が少なく落ち着いていたのに。

「やっとだ、、、。」

そこにはいつもの怖い見た目とは真逆の優しい笑顔があった。こんな笑顔をみせるのか。

「あ、お、おめでとう!!」

「うん。手伝ってくれてありがとう。」

その後はまた普段の落ち着いた雰囲気に戻ったけれど、その一瞬は私の頭に酷くこびりついた。

「じゃあ、またね。」

早々に年なしの黒鯛を海に返すと、彼は防波堤の奥に消えていった。段々と小さくなる背中を横目で見、振り返って私は帰路に着く。

「今日はすごい1日だったな。」

向こう岸まで続く巨大な橋の下に夕陽が沈もうとしていた。

面白かったら良かったです。

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