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夢現新星譚  作者: 富南
【Ⅰ】夢と現の星間郵便 プロローグ
5/70

05 夢羽と風羽

「私を呼んだのは貴方?」


 私は、ベッドに横たわっている髪の長い人に声をかける。

 しかし、横たわっている人物は、返事をせず寝ている。


「声、聞こえた気がするんだよな……呼びかけた人は別の人?」


 そう呟きながら、私は近くにあった椅子をベッドに近づけ、それに腰掛けて待つことにした。

 顔を覗き込んだが、髪がかかっていて上手く見えない。

 さすがに他人の髪を無断で触ってはいけない。

 見えるかなと角度を変えて見ようとするが、やはり見えない。

 そうしていると、横たわっている人が首を動かし、髪も一緒に動いた。

 すると、隠れていた顔がはっきりと見えた。


「え、私?」


 そこには、もう1人の私が寝ていた。

 寝る前に鏡を見たので、自分の顔ははっきりと覚えている。

 私がもう1人? どういうこと?

 私が首を傾げていると、


「んー! あ、待たせてしまったわね」


 起きて、背伸びをしたもう1人の私が声をかけてきた。


「あ、私はムウ。あなたは……夢羽(むう)?」


 私は端末で見た自身の名前を言った。


「そうよ。そして貴方はムウ……いえ、実際には名前はまだ無いわよね」


 夢羽はうーんと考える。


「貴方は自由な風……そう。風羽(ふう)よ」


 夢羽がそう言った瞬間、光に包まれた感じがし、すぐにそれは収まった。


「え? え? 何が起きたの? てか、私はムウじゃなかった?」

「ええ、違うわ。貴方は風羽。この世に生まれるはずだった魂。だけどあたしのせいで、それが叶わなかった魂」


 夢羽は私を見て、悲しそうな顔で微笑む。


「え? どういうこと?」

「いずれわかる時が来るわ……」


 夢羽は窓の方へ顔を向ける。


「じゃあ、私は死んでないってこと?」

「んー……それもまた違うのよねー。現世で生まれるはずが、死後の世界で生まれたって感じ?」


 夢羽は私を見て首を傾げる。


「いや、私に聞かれても……あ! だから、自分のことに関する記憶がないんだ!」

「そうなるわね」

「でも、なんで現世の知識は覚えているの?」

「元々貴方は、あたしのここにいたからね」


 夢羽は、自身の頭を指した。


「え? 私、夢羽に追い出されちゃったの?」

「違うわよ。抜け落ちたって言ったほうがいいかも」


 夢羽は頭に置いた手を、頭から離していくジェスチャーをした。


「何その憑き物が落ちた感じの言い方……」

「憑き物じゃないわよ。理由を言うと、私今寝たきり状態なのよね」


 夢羽はまた窓の方を見た。


「え!! やばい状況じゃん! なんで!?」

「不慮の事故だったわ。私だけ奇跡的に命拾いしたけど、両親はなくしちゃったわ……。その時に、風羽も一緒にいなくなっちゃったの……」


 こちらを向いた後に、俯いた。


「そう……なんだ……」

「うん……それで、この事に関するお願いを風羽にしたいのだけど」

「うんうん、言って言って」


 それを聞いてホッとしたのか、夢羽が微笑む。


「あたしを起こしてほしいの」

「え? どうやって? ここでベッドから立たせたら起きる?」

「そんな簡単じゃないよー」


 夢羽は、はははと笑う。


「この世界、風羽が死後の世界で起きた時にいた場所と似ていると思わない?」

「うん……うん? 話変わっちゃった?」

「いや延長線上よ。それで、今いるこの世界はあたしの夢の星。そして、あの場所は輪廻の世界といって、宇宙を覆っている外側の世界」


 よくわからなかったので首を傾げる。


「あらゆるものが生まれる場所、と理解してたらいいわ。それで、なんで風羽がそんな所で起きたのか。あたしの夢の星が輪廻の世界に似ているのか。それは……」

「それは?」

「あたしがその輪廻の世界に連れ去られたから」

「え? いるじゃん、ここに」

「夢の中だからね。あたしの魂が輪廻の世界に連れ去られて、夢の星まで輪廻の世界に変わっちゃったの。このままでは、魂が消滅しちゃうかも」

「それやばいじゃん!」


 夢羽はうんうんと頷く。


「だから、連れ去ったものを解放して、あたしを解放してほしいの」

「連れ去ったものを解放? 夢羽だけをじゃなくて?」


 私はまた首を傾げる。


「うん。厳密には生き物みたいなものではくて、魂に似た物だよ。風羽も見たはずだよ」

あ! もしかして!」

「うん、あの黒い水溜りみたいなの」

「たしかに、掴もうとしていたね……あれ何なの?」


 夢羽はその質問を聞くと、うーんと唸り始めた。


「うーん……今はとりあえず、邪気とだけ答えておくね。それがあたしの魂を縛っているの」

「私は何をすればいいの?」

「うん。風羽は、手紙を配達してくれたらいいよ」


 また首を傾げる。


「手紙を夢の主に渡した時、何か見えたでしょ」

「あー、あれはたしか、手紙の主の映像だったね」

「うん、思いのチカラ。あのチカラが邪気を弱らせていくわ」


 夢羽は力こぶを作る。

 だが、できているようには見えない。


「弱らせてくれるのはわかったけど、そのチカラはどうやって届ければいい?」

「大丈夫。貴方とあたしは繋がってるから」

「いや意味がわからん」


 首を横に振る。


「うーん……じゃあ、なんで風羽はこの夢の中にいると思う?」

「呼び出されたからではないの?」

「ううん、違うよ。ここが風羽の夢の星でもあるから」

「え?」

「あたしと貴方は元々1つだった。だから夢も一緒なの」

「あ! もしかして、私が思いのチカラを貰うと、夢羽にそのチカラが流れていくってこと?」

「正解! そういうことー」

「いや普通わからんし。逆に何で夢羽は知ってるのさ」

「うーん……秘密ー」


 夢羽は、悪戯(いたずら)っ子のように変な笑い方をする。


「むー……まあ、いずれ教えてよね……てか、私だけでやったら、すごく時間がかかると思うよ……誰かと一緒にやるのはだめなの?」

「1人で大丈夫よ。貴方には特別なチカラがあるの。だけど、誰にも悟られないこと。誰にもよ。あと、風羽の名前の事と、夢であたしと会った事も誰にも喋らない事。約束ね」

「またよくわからん事言ってるけど、まあいいや。いつか教えてよね」

「うん、教えるね」


 夢羽がサムズアップしたので、私もやり返した。


「さーてと。チカラを温存するために、また寝るね。あ、また会いたい時は、寝たら会えるからね」

「うん、わかったよ」

「じゃあね。おやすみー……ぐー……」


 夢羽は寝息を立てて寝始めた。


「寝るのはやいなー……。あ! ……私どうやって戻るんだ?」


 その場で右往左往しながら考える。


「とりあえず、夢羽みたいに寝るか」


 私は椅子の上でひと眠りすることにした。

続きます!

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