29 もふもふ天国を守れ!
「あ、壺! 風羽止まって!」
夢羽の声を聞いて急停止し、壺の置いてある場所を見た。
「うーん……あれからニオイはしないわね。たぶんまだ空っぽなのかも」
「一応壊しておくね」
「そうだね」
私は拳銃を抜き、壺を割った。
「ここにも桜と椛の星と同じ壺か……」
「また大蛇でも出るのかしら?」
「それは勘弁だね……」
少し進むと、家の形をした雲がチラチラと見えてきた。
そして、
「ねえねえ。あれって羊? 執事かしら?」
「執事の羊……かなー」
二足歩行の羊が執事服を着て、家らしき雲の近くで水をかけている。
よく見るとそこは花壇のようで、緑の芽が出ている。
「雲に植物って生えるの?」
「この世界での地面だし……まあ夢だしねー」
「このやり取り、前にもどこかで……」
夢羽はうーんと考えている。
まあゲンとの会話で、考えるのを止めた時に、簡単に流す時に言うセリフなんだけどね。
「それで、魂のニオイ? はどうなったの?」
「うーん、この辺に来たら急にしなくなったのよね。どうしてかしら?」
「ってことは、この辺にいるかもしれないってことだね。探してみようか」
「手分けして探す?」
「いや、他の局員の行方不明者もいるし、見られちゃまずいでしょ。あの壺を置いていった怪しい局員もいるかもだし、一緒に行動しようか」
「それもそうね」
家の雲が立ち並ぶ所に着地し、周囲を確認する。
フヨフヨと移動をする雲羊と、執事の羊が町中を歩いている。
「羊だらけ……もふもふしたい! けど我慢……」
「主を保護したらもふもふしてもいいよ」
「ほんと!? やった! 急いで探すわ!」
テンションが上がり、色んな方向を見ている夢羽。
「地面のもふもふと羊のもふもふ……そりゃ行方不明者出るよね……」
そんな事を呟きながら、行方不明者と夢の主の捜索を始めた。
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風羽と夢羽が夢の星に降下を始めて数分後。
「お嬢いないぞ!」
レンタカーの中で叫んでいる男が1人。
救助隊副隊長のタツロウだ。
「ちゃんと探しましたか?」
通信機でサポートしているのはチョウだ。
「探したぞ! 隈なくな!」
「遅くなったから先に降りたのでしょうか……副隊長、降りてみましょうか」
「おうよ! って、なんでチョウが指示しているんだよ!」
「オペレーター代行なので、指示ではなくサポートです」
「そうか! ならサポートよろしく!」
タツロウを乗せたレンタカーが雲の星へと降下し始めた。
そして、
「チョウ! 地面が無いぞ!」
「この星は土の地面ではなく、雲の地面です」
「なに!? 先に言えー!」
「いえ、言いましたよ。ミーティングの時と出発時の2回。今回で3回目です」
「なに!? 俺が忘れてただけか! 失敬失敬」
レンタカーの降下モードを手動運転モードに切り替えたタツロウは、乗ったまま着地ができそうな所を探し始めた。
少し走った所に、雲でできた家が立ち並ぶ集落を見つけた。
「あれは家だな! それで、あれは羊だな!」
「執事服の羊がいると聞いています」
「おいあれ! 執事服じゃないのがいるぞ!」
「行方不明の局員でしょうか! クルマは私が操作しますので、副隊長はそのまま降りてください」
「落ちたら消滅するぞ! あ、無重力なのか! あとは任せた!」
タツロウはカバンを取り、そのまま執事服ではない物を着ている者が姿を晦ませた方向へと泳いで行った。
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私達は、街中の進んだ先に、執事の羊がたくさん集まっている所があったので入ってみた。
このガヤガヤ感と行動を見た感じ、市場かなという印象だ。
だが、店員もお客さんも皆執事服なので、もう何が何だかわからない。
「……あれって、局員の制服じゃない?」
私が目を回している中、夢羽は誰かを見つけたようで、左の方を指していた。
「どれ? あ! チラッとしか見えなかったけど、あの後ろ姿はそうだよね。この執事服の集団の中であれは目立つな……追ってみようか」
「うん」
後を追っていくと、人通りの少ない裏路地的な場所に出た。
他の所より高めの建物が多く、太陽が当たっていないからか暗い感じがする。
「あ! あそこ曲がったわ!」
夢羽は曲がった所を指す。
私はその後ろ姿を追い、少し駆け足になる。
局員らしき人物を追っていくと開けた場所に出た。
太陽がいっぱい入ってくるようで、他より明るい。
どうやらその奥に低めの建物があったようで、その局員は中へと入っていった。
「行方不明者かな? でもこんな所に1人でいるなんて、罠かもしれない。気をつけて入るよ」
私はそう言い夢羽を見る。
夢羽は頷いた。
私は扉をゆっくりと開いた。
そして、銃を構えながら隙間から中の様子を確認し、開いた扉でできた死角も確認した。
外から見ると白一色で、更に雲で出来ているため分かりづらかったが、中から見ると2階構造になっている事がわかった。
少し広い廊下の先に階段があり、その途中途中に扉がいくつもあった。
部屋の中も雲でできていて、『白』ばかりで扉と壁の区別が難しい。
特に何も無かったので、2階へと上がった。
「ねえ、あれって……」
「うん、制服着てる。局員だね。でも怪我してるし、縛られているよ」
私は階段から2階を覗き込む形で立ち、奥を見ている。
そこには両腕両脚をロープで縛られた男の人が壁にもたれてぐったりとしていた。
その男の人の近くの扉の中から、誰かが話す声が聞こえる。
「ヒヒ、はい。手筈通りに誘導しました……はい。そのように」
やはり罠だったようだ。
だが、要救助者は見つけられたので、その人の近くに寄る。
「この人、気絶しているわね。ロープだけ切っておくね」
「うん、お願い。さて……タツロウさん、聞こえますか?」
私は端末を操作し、イヤーカフ型のイヤホンで通話を始めた。
「お! お嬢! 今どこだ?」
ちょうど端末を持っていたのか、すぐ通話が繋がった。
「今、建物の中だから、狼煙上げるね。そこに1名要救助者がいるよ」
カバンのポケットから狼煙を取り出し、紐を引いた後に窓の外に放り投げた。
「確認できたぜ! 近いな! 俺もその辺りに行った局員を追ってたんだ」
「もしかしたら同じ局員を追っていたのかもしれないね。それじゃ、合流したら作戦通りに」
「りょーかい! と言いたい所だが、厄介なやつに狙われてしまったようだわ」
タツロウの通話から銃をコッキングする音を拾った。
「やばそうだったら逃げて! 命大事にだからね!」
「ははは、死んでるがな」
タツロウはそう言い、通話が切れた。
私が通話をしている間に夢羽は、局員の腕と脚を縛っていたローブを切り終えたようだ。
こちらを見て頷いている。
私は頷き返し奥の扉を指す。
そしてその閉まった扉を開き、中に進入した。
「その場を動くな! 両手を前に組んでゆっくりとこっちを向きなさい」
私は見覚えのある髪型の、小柄の人に銃を向けた。
「キキキ! 待ってたわよ、ムウ」
その小柄の子どもがこちらを向く。
アイリスだ。
続きます!
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