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この星屑を口にして  作者: 冬馬海良
エピローグ
40/40

X月X日

 今日は特別な日だった。

 朝起きて、身支度を整え、自分の部屋を出る。階段を下りて事務所の扉を開けると、すでに来ていた助手の少年が彼女に笑顔で挨拶した。

「あ、ミライさんおはようございます!」

「おはよう」

「早いっすね。今日はー……、あっ、出かける日でしたね」

「ん、留守番よろしく」

「任せてくださいっ!」

 ミライが引き出しを漁っている間、少年は彼女に伝えなければいけない連絡事項を上げていく。彼は「そういえば」と思い出したように彼女に近づき、手紙を渡した。

「これ、魔法省からです」

 はい、と渡されてミライはお礼を言い受け取る。少し嫌そうな顔をしたのを少年は見逃さなかった。ミライはペーパーナイフで手紙の封を切り、中の手紙を開いて目を通す。

「……なんて書いてあります?」

「……なんにも」

 ミライはゴミ箱にぽいと手紙を捨てた。少年は大げさにため息を吐く。感情表現が得意ではないミライの分まで表現してくれるので助かっている。特に依頼人の前では、ミライだけだと怖がられることが多いと自分で分かっているから。

「ま~た誘いの手紙っすか? 懲りないな~」

「本当にそう」

「ミライさんが魔法省なんかに入るわけないのに」

 ミライはティーカップに注いだ温かい紅茶を飲みながら、家を出る時間を確認する。

(それにしても、私が探偵になるなんてね)

 あの日々を思い出す。あの時間のお陰で自分の才能を活かすだけでなく、他人を知ろうと思えるようになった。依頼内容は浮気調査なども多いので人の醜いところも見えるが。それでももともと性に合っていたのだろう。やりがいは感じていた。

 飲み干した紅茶のカップを片付け、上着を羽織る。出掛ける準備をするミライに少年が書類の整理をしながら声をかけた。

「ミライさん、昔向こうの世界に行ってたことあるんですよね。そんなにいいところなんですか? 向こうに行くために、何年も前から申請出してるって聞きましたけど」

「そんなに変わらないよ」

「じゃあなんでわざわざ行くんです?」

 向こうの世界に行く理由が思いつかない助手は不思議に思っている様子だ。

「あ、もしかして奴の痕跡がまだ向こうに残っているとか?」

「それは関係ないの」

 ゆっくりと首を振り、ドアノブに手をかける。外の光が入る。

 ミライは振り返り、微笑んだ。

 昔を懐かしむように、大事そうに、言葉を紡ぐ。

「友達が書いた本が読みたくて」

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