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第九十話 魔王様、翻弄される

「う、う、嘘でしょ……」



 まおは愕然としてしまった。


 目の前の光景が信じられず、目を擦ろうとしてひょっとこ面をつけていることに気づき、仮面の下に指を突っ込んでごしごしした。


 だけど、垂れ幕に書かれたその文字は間違いなくあのお方の名前で。



『我はあずき姉である』

「……ひ、ひぇっ」



 再び悲鳴が漏れてしまった。


 ひょっとこ面を付けてカムフラージュしてるのに、わざわざまおの前でこの垂れ幕を下げるってことは、完全にバレてるってことだよね?


 な、なんでバレた?



「(イブリズ様、このドローンは?)」



 不思議そうにマッチョメンのひとりが尋ねてきた。


 まおは努めて冷静に返す。



「あ~いえ~、のーぷろぶれむ! ていくいっといーじー! おーけー?」



 余裕をアピールすべくサムズアップしたまおの手は、小刻みにぷるぷると震えている。


 それを見て、余計に困惑した顔をするマッチョメン。


 やばい。全然動揺が隠せてない。


 どど、どうしよう。


 このドローンちゃん、自己紹介の垂れ幕を出したあとピクリとも動かなくなったのが余計に怖い。



「……あ、もしかしてあずき姉、トイレに行った?」


 

 まお、ひらめく。


 だとしたら──物理で証拠隠滅を図るチャンスかも!


 こうなったら仕方がないよね。


 あずき姉のドローンはここには来なかった!


 いいね!?



「へいぶらざー! ゆーの剣をぷりーず!」

「(……え? この剣ですか?)」

「いえす!」

「(ど、どうぞ)」



 マッチョメンから剣を受け取り、チャキッと構える。


 そして、思いっきりジャンプしてドローンちゃんに向け、斬り上げた。



「どりゃあああああっ! 滅!」



 だけど、まおの剣は虚しく空を切る。


 届かないのである。


 くっ、こんなところで背の小ささが仇になるとは……!



「あ、あの、ドローンちゃん? できれば少しだけ降りてきて欲しいんですけど……」

「……」



 ドローンちゃん、無反応。


 これはまおが頑張るしかない。



「えいっ……えいえいっ!」



 ぴょん、ぴょんぴょん。


 剣を振り回しながら、ジャンプを繰り返すまお。


 そんなまおを、少しだけ呆れた顔で見ているマッチョメン。



「(……イブリズ様、動物園のレッサーパンダみたいだな)」

「(俺も思った)」

「(GIF見たことある。扉のノブに向かってぴょんぴょんしてるやつな)」

「(可愛い)」

「(可愛い)」



 そうして、ドローンちゃんとバトルをすること3分ほど。


 ドローンちゃんがぶうんと動き出す。


 まさか逃げるつもりか──と思ったけど、何を思ったか少しだけ降りてきた。


 よくわからんが、コレはチャンス!


 ドローンちゃんめがけて、思いっきり剣を振る。


 だけど、まおの華麗な剣さばきはヒラリとかわされてしまった。


 ……うぐっ! 


 流石はスカベンジャーの機敏な動きを捉える撮影用のドローンちゃんだな!


 だけどコレで終わりじゃないからね!



「えいっ! このっ! もう少し!」


 

 だけど、まおの剣はかすりもしない。


 そんなまおを嘲笑うかのように、



『おいやめろ』

『これ以上罪を重ねるな』

『お母さんが泣いてるぞ』

『てかマジやめろ』

『壊れたらどうするんだ』



 と、ドローンちゃんが次々と垂れ幕を出してくる。


 てか、その垂れ幕、どうやって出してるの?


 あらかじめ用意したやつじゃないよね?


 もしかして、キーボードで打ってる?



「ぐぬぬ、このっ……天誅じゃあああっ!」

『こっちのセリフじゃぼけ』



 そんな文字が書かれた垂れ幕が出てきたかと思った瞬間、ドローンちゃんの下からニュニュっとロボットアームが現れた。


 その手には、巨大なおもちゃのピコピコハンマーが。



『話を聞け』



 新しい垂れ幕が吊り下げられると同時に、ピコピコハンマーがまおの頭に振り下ろされた。


 ピコッ!


 いたっ!


 こ、このドローンちゃん、中々やるな!?



『大変なことが起きた』


 新しい垂れ幕。


 同時に、ハンマーがまおの頭に振り下ろされる。


 ピコッ!



『0号ダンジョンに入ったみのりちゃんが』



 ピコッ!



『行方不明になった』

「……えっ!?」



 まおはピコピコハンマーが頭に直撃した状態で固まってしまった。


 ちょっと待って?


 0号ダンジョンに入ったみのりちゃんが、行方不明……?



「どど、どゆこと!?」

『説明するからとりあえず落ち着け』

「わ、わかった!」



 そうして、あずき姉は垂れ幕を使って状況を説明してくれた。


 なんでも、みのりちゃんは喜屋武ちゃんと一緒に0号ダンジョンに潜り、上層エリア2で落とし穴のトラップに引っかかってしまったらしい。


 それを見て「う~む」と首をひねるまお。


 なるほど。


 情報が渋滞してる。



「まず、なんでみのりちゃんが喜屋武ちゃんと一緒に行動してるのさ?」

『喜屋武ちゃんは休日を使って0号ダンジョンに潜ろうと思ってまおさんを誘いに学校に来たみたいなんですが、不在だったのでみのりちゃんを(ちずる)』



 なが〜い垂れ幕が出てきた。


 この文字を打ってるのは、ちずるんか。


 あ、もしかしてこのドローンちゃん、ちずるんのカスタム品?


 文字が打てる垂れ幕機能とかロボットアームとか、妙にハイテクだなって思ってたけど、納得だわ。


 しかし……なるほど。


 休日を利用して0号ダンジョンに入ろうなんて、喜屋武ちゃんって相変わらずのバーサーカーで──。



「……ん? 休日?」



 まおの頭の上に「?」マークが出る。



「今日って学校あるよね? ちずるん?」

『土曜日でおやすみですよ(ちずる)』

「……お」



 おやすみだと……?


 しばし、ダンジョンの中に静寂が流れる。


 そっとポケットからスマホを取り出し、曜日を確認。


 デカデカと表示されている「土」の文字。


 ……あ~、な~ほ~ね。


 今日、土曜日だったかぁ。



「……あずき姉、話がある」

『なんだ』

「もちろん、みのりちゃんは全力で助けるよ? だけど、0号ダンジョンに無断で入ったことは許してほしい」



 しばしの沈黙。


 パラッと垂れ幕が降りる。



『お前、学校サボってダンジョン入ろうとしてただろ』

「うっ……し、してた」

『ごめんなさいは?』

「ご、ごめ……大変失礼いたしましたぁあああぁぁぁっ!」



 ずざざっと土下座するまお。


 そんなまおの頭上に、垂れ幕がはらりと。



『いいだろう。無事に戻ってきたら情状酌量の余地あり』

「ありがたき幸せにございます!」



 頭を下げたまま、ほっと胸をなでおろすまお。


 だってほら、情状酌量って確か《《無罪》》って意味だったよね?


 つまり、まおは完全無罪で自由の身。


 まおは光の速さで立ち上がると、スマホの翻訳機能を使ってマッチョメンたちに指示を出す。



「ごめんみんな。ちょっと予定変更して一旦中層まで戻ります」 

「(え? 中層?)」

「(何かあるんですか?)」

「まお……じゃなくて、イブリズの大切な友達がダンジョンのトラップに引っかかったみたいなんだ」

「(イブリズ様のお友達……?)」

「(もしや、異世界人のチン・チマールか?)」

「(まじか! 実在したのか、チン・チマール!)」


 

 なんだかマッチョメンたちがざわつき始める。


 友達ってフレーズに動揺してるみたいだけどどうしたんだろう。


 まさか、まおに友達はいないって思ってる?


 怒るよ?



「とにかく、行くよみんな! 推しモンちゃん達に乗って! 【この指と〜まれ♪】」



 すぐさまスキルを発動し、わんさぶろうやがるりんを呼ぶ。


 ダンジョンの奥から、どどどっと体が大きいワンちゃんズがやってきた。



「(え? またコレに乗るの?)」

「(じょ、冗談だろ……)」

「(ママンたすけて……)」

「なにやってんの! ほら、早く乗って!」



 げんなりするマッチョメンたちを強引に推しモンちゃんたちの背中に乗せる。


 待っててね、みのりちゃん!

 

 すぐにまおが助けに行くからね!!

《告知》


27日、幼女魔王様の書籍版がファミ通文庫さんから発売されました!!

これも読者の皆様のおかげでございます。ありがとうございます。

イラストレーターのとくまろ先生が描く、まおのドヤ顔表紙が目印です!


書籍版はシーンの追加や改定など、WEB版から大幅改訂&まおとちずるんの出会いを描いた前日譚の短編つきです!

あのふたりはいかにして出会ったのか……壮絶なドラマが待っているっ!!!!

WEB版を読まれた方も楽しめるようになっておりますので、是非よろしくおねがいします〜〜!!


書籍は最初の一週間の売れ行きで続刊が決まりますので、なにとぞ……なにとぞよろしくおねがいしますっっっっ!(切実)

文庫サイズなので、とてもリーズナブルですしおすし!!


▼▼ご購入はこちらから▼▼

https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322409000352/

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