第八十七話 魔王様、ヤバいモンスちゃんに遭遇する
というわけで、急遽スタートしたマッチョメン育成計画。
まずは座学からはじめることにした。
まおの経験を元に、レベルアップの極意を伝授しようってわけだ。
「まおが渋谷20号ダンジョンをソロで潜れるようになったのは、渋谷20号ダンジョンをソロで潜ってたからなんだよね」
まおはスマホに向かってそう言うと、画面に表示されている「翻訳」ボタンをタップした。
すぐにホニャラホニャラと英語音声がスマホから流れ出す。
おお、簡単に翻訳できた!
めちゃくちゃ便利だな。
ていうか、気付いたんだけど、これがあるなら英語勉強しなくても良くない?
「(……え? ソロで潜れるようになったのはソロで潜ってたから?)」
「(どゆこと?)」
マッチョメンたちが一斉に首を捻る。
「(翻訳ミスか?)」
「(いや、違うぞ! これは日本で流行ってるネットミーム……いわゆる進◯郎構文ってやつだ!)」
「(あ、それ俺も知ってる! 同じような内容を繰り返すやつだよな!)」
「(あれ、俺好き)」
「(しかし、さすが魔王イブリズ様だな。日本のネットミームにもお詳しいとは)」
「(さすリズだな)」
「(あれ? でも、自分のこと『まお』って言ってなかったか?)」
「(しらん)」
「(翻訳ミスじゃね?)」
ざわ、ざわざわざわ。
最初は困惑していたマッチョメンたちだったが、次第に称賛するような雰囲気に変わっていく。
良くわからんけど、まおが言ってることが理解できたと考えていいのかな?
うん。そういうことにしておこう。
「つまり、みんなも頑張れば0号ダンジョンをソロで潜れるようになるということ……てなわけで、みんなにはここでモンスちゃんと戦ってもらいます!」
「(ここで戦ってもらう!?)」
「(いやいや、ここは0号ダンジョンの最下層なんだが!?)」
「大丈夫! やばそうだったらまおが横槍入れるから!」
それに、こっちには推しモンちゃんもいるし。
最悪、ぴかどらちゃんを呼んじゃえば、なんとかなるっしょ。
「(横槍?)」
「(その言葉の使い方、合ってるのか?)」
「(多分間違ってると思う)」
「(なんだかイブリズ様って、まおたんっぽいな……)」
「よし、いざ出発!」
てなわけで、マッチョメンたちを引き連れ、手頃なモンスちゃんを探しに最下層を歩くことにした。
改めて0号ダンジョンの最下層は、ザ・ダンジョンという感じだった。
天然の洞窟みたいな雰囲気で、数メートルほどの高さの通路が延々と続いている。
普段潜っている渋谷ダンジョンなら、すぐにモンスちゃんの気配を感じるんだけど、しんと静まりかえっていた。
まおたちの足音だけが、洞窟の中に響き渡る。
ちょっと怖いな……。
こういうときは、歌でも歌って気分を紛らわせたいところ。
「ふんふ〜ん♪ ふふふふ〜ん♪」
「(……っ!?)」
びくりと身をすくませるマッチョメンたち。
スカーレット☆マニキュアのエンディング曲、「悲しくてもマニキュア」を歌い出したところ、マッチョメンたちにびっくりされてしまった。
「おう、そ〜り〜。でぃすそんぐいず、スカーレットマニキュアのエンディング曲で、まいふぇいばりっと──」
と、まおが曲の素晴らしさを熱く語ろうとしたときだ。
突然、前方の洞窟の壁がドカンと破裂した。
「(うわあああっ!?)」
「(な、何だ!?)」
とっさに身構えるマッチョメンたち。
一方のまお、何が起きたかわからず放心状態。
そんなまおの頭に、デカい瓦礫が直撃した。
「(うわああっ!?)」
「(イ、イブリズ様!?)」
「(何事もなかったような雰囲気ですが、頭にどデカい瓦礫が当たりませんでした!?)」
「……あっ! 危ないっ! みんな気を付けて!!」
「(え?)」
「(え?)」
「(反応おそっ!)」
危険を察知したまおは、ササッと身構える。
うお〜、びっくりした!!
しかし、一体何なんだ?
突然、壁が爆発したみたいだけど……。
「ぐるるるぅ……」
破裂した壁から立ち上る煙の中に、巨大な影が見えた。
その影は、ゆっくりと壁の中から這い出てくるように姿を現す。
2本の角に、牛のような顔。
「(……う、嘘だろ)」
マッチョメンたちが愕然とした表情で固まった。
壁を突き破って現れたのは、雄牛の頭を持つ筋骨隆々の巨人さんだった。
だけど、なんだか見覚えがある。
「……あれ? みろろん?」
まおは首をかしげてしまった。
だって、ミノタウロスのみろろんにそっくりだったんだもん。
でも、【この指と~まれ♪】で呼んでないよ……?
「ブモオオオオオオッ!!」
みろろん(仮)が雄叫びをあげた。
ビリビリと空気が揺れ、ダンジョンがグラグラと揺れはじめる。
「(うわぁああっ! に、逃げろ!)」
「(ダンジョンが……っ!)」
「(一体、何が始まるんです!?)」
「(第三次大戦だ)」
大混乱に陥るマッチョメンたち。
そんな彼らをよそに、みろろん(仮)の体からもうもうと湯気があがりはじめ、次第に肌が真っ赤に染まっていく。
もしかしてこれって、第二形態的なやつ!?
カッコいいし、何だか強そう。
ちょっとステータスを拝見させてもらおうかな。
「ステータスオープン!」
《認識しました。所有者、有栖川まお。対象ステータスを描画します》
アナウンスとともに、まおの目の前にステータス画面が現れる。
―――――――――――――――――――
名前:ケイオスブルート
レベル:280
HP:8700/8700
筋力:1550(【超肉体Ⅲ】で強化中)
知力:610
俊敏力:210
持久力:800
スキル:【超肉体Ⅲ】【マイティハンマー】【ファイアヘブンⅤ】【グラビティⅥ】【なかまのうらみ】
―――――――――――――――――――
「ケイオスブルート……?」
聞いたことがない名前のモンスちゃんだ。
予想通り、ステータスはかなり高い。
スキルで強化しているみたいだけど、筋力は1000オーバーだし。
レベルも250を超えてて──。
「ん? ちょっと待って?」
まおはそのことに気づく。
確か下層エリアボスのきらーん☆ちゃんこと「キラーワイバーン」ちゃんのレベルは190だったよね?
それより100近くレベルが高いってことは──。
「あっ、もしかしてこの子……SS級モンスちゃん!?」
ひょっとこ面の下で、満面の笑みを浮かべてしまった。
きたきたきた〜っ!
ここに来て、ついにS級の上位、SS級が来ましたよっ!
そうか、この子がSS級のモンスちゃんか。
確かによく見ると、みろろんとはまた違う可愛さがある。
例えるならば……そう! きのこの山に対するたけのこの里的な!
甲乙つけがたい魅力っていうか!
こしあんに対するつぶあん。
コーラに対するペプシ。
今川焼きに対する大判焼き!
……あ、最後のは違うか。
「とにかく、相手にとって不足なしだよね!」
なにせ相手はSS級。
マッチョメンたちもケイオスブルートちゃんを倒すことができたら、余裕で最下層を回れるはずだ。
「よし! みんな! トレーニング開始だよっ! SS級モンスちゃんに向かって、いざ……突撃っ!」
それいけ〜と拳を突き上げ、マッチョメンたちに号令をかける。
しかし彼らは一瞬のためらいもく、一斉に悲痛な面持ちで叫ぶのだった。
「「「「(いや、絶対に無理だからっ!)」」」」
《告知》
27日に幼女魔王様の書籍版がファミ通文庫さんから発売されました!!
これも読者の皆様のおかげでございます。ありがとうございます。
イラストレーターのとくまろ先生が描く、まおのドヤ顔表紙が目印です!
書籍版はシーンの追加や改定など、WEB版から大幅改訂&まおとちずるんの出会いを描いた前日譚の短編つき!
あのふたりはいかにして出会ったのか……壮絶なドラマが待っているっ!!!!
WEB版を読まれた方も楽しめるようになっておりますので、是非よろしくおねがいします〜〜!!
書籍は最初の一週間の売れ行きで続刊が決まりますので、なにとぞ……なにとぞよろしくおねがいしますっっっっ!(切実)
文庫サイズなので、とてもリーズナブルですしおすし!!
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