第八十六話 魔王様、謝罪する
「……みんな、準備オーケー?」
ひょっとこ面をかぶったまおの掛け声に、外国人ムキムキスカベンジャーさん、通称マッチョメンたちがこくりと頷いた。
今、まおたちがいるのは六本木0号ダンジョンの最下層。
さっきまでいた下層とはうって代わり、いかにもダンジョンって雰囲気の洞窟が広がっていた。
ゴツゴツとした岩肌に、天井から垂れ下がる鍾乳石。
ここで現実逃避という名の「モンスちゃん愛で活動」を行うつもりなんだけど、その前に謝罪配信をやろうと考えたのだ。
なにせ、スマホに残っていた鬼着履歴を見るかぎり、あずき姉は激オコ状態……。
ちょっとやそっとじゃ、彼女の怒りは収まりそうにない。
もしかするとあずき姉からお母さんに怒りが伝播して「《悲報》まおたんスカベンジャー強制引退」なんてことになる可能性もある。
それだけは絶対避けなければならない。
故に下層で知り合ったマッチョメンたちに全面的に協力してもらって、謝罪配信をしようと考えた……というわけだ。
我ながら発想力がすごい。
「よし、それじゃあ、いくよ!」
意を決し、スマホに映っているダンTV管理画面の配信ボタンをタップした。
すぐに「LIVE」の文字が表示され、同接カウンターが目まぐるしく動いていく。
《おおおお!》
《魔王様、配信待ってました!》
《あれ? 誰もいない?》
《魔王様、カメラが変ですよ?》
《え? どゆこと?》
《もしかして、間違って配信してる?》
コメント欄に動揺が広がる。
画面に映っているのは、誰もいない洞窟。
岩肌にこびりついているコケしか映ってない。
だけど、これはミスではない。
まおならやりかねないミスだけど、断じて違うのだ!
まおは待機しているマッチョメンたちにコクリと頷く。
すると彼らは、おもむろに上着を脱ぎ、ぞろぞろとカメラの前に。
横一列に並んだマッチョメンたちは、思い思いに決めポーズ取りはじめる。
みのりちゃんが見てたら大興奮しそうな絵面である。
《む?》
《お?》
《え? この人たち誰?》
《なんぞこれ?wwww》
《外国人スカベンジャーか?》
《すげぇムキムキだな》
《てか、なんで上半身裸なんwww》
《何だ何だ》
《わけわからんすぎて草》
《一体何が始まるんだ?》
《真ん中の人、なんかカンペ持ってね?》
《あずきねえごめんね?》
どうやら察しの良い魔王軍は気付いたみたい。
中央に立つマッチョメンが持っているのは、カンペみたいな小さな黒板。
まおが《あたし好みにな〜れ》で作ったミニ黒板なんだけど、そこに白いペンで「あずきねえごめんね」と書かれている。
まおはすうっと息を吸い、神妙な口調で言う。
「はい、ダンジョンからの〜」
「ダンジョンカラノー」
まおの声をカタコトでリピートするマッチョメンたち。
「サプライズ動画へようこそ〜」
「サプライズドウガヘ、ヨウコソー」
《wwwww》
《草草草》
《なんぞこれwww》
《クソワロ》
《あ、これネットで見たことあるww》
《世界からの◯プライズ動画かよwwwww》
《ぱくんなwww》
《今の声、まおたんだよな?ww》
《↑俺も思った》
《草草》
《いや、なにしとんww》
コメントを気にせず、まおは神妙な顔で続ける。
なにせこれは、謝罪配信なのだ。真面目にやらねば。
まぁ、まおの姿は映ってないけど。
「ごめんねあずき姉。ハイ!」
「ゴメンネ、アズキネエ」
「すぐ帰るから」
「スグカエルカラ」
「許してね」
「ユルシテネ」
「てへぺろ」
「テヘペロ」
「おっけ〜、ミュージックスタート! ヒア・ウィー・ゴー!」
ちゃちゃっとスマホを操作し、ノリノリのクラブミュージックを流す。
チル系ではなく、バイブスが上がるダンス系のカッコいいやつ。
ずんちゃんずんちゃん……。
それに合わせてマッチョメンたちがカメラに近づいたり、投げキッスをしたり指でハートマークを作ったりして踊りだす。
イイね! イイね!
いい感じだよ、みんな!
《(´・ω・`)??》
《おれたちは何を見させられているんだ》
《wwww》
《イミフすぎるんだが》
《なんで踊る必要があるのか》
《これ、もしかしてあずき姉への謝罪動画なのか?》
《どこに謝罪要素が?》
《あずき姉ごめんねって言ってただろ》
《たしかに》
《一ミリも反省してねぇだろwwww》
《てか、このムキムキお兄さんたちは誰なん?》
《あ、わかった。魔王様、勝手に六本木0号ダンジョンに入ってあずき姉に鬼電くらったな》
《www》
《それだwww》
《草草草草》
《良くわかったなww》
《てことは、ここ六本木0号ダンジョン!?》
《マジかよ!!!》
《でも、0号って森タイプのダンジョンじゃなかったっけ?》
《いろんな配信にチラチラとまおたんっぽいのは映ってたのは見たけど、本当に0号入ってたんかwww》
《クソワロ》
「……よし」
流れるコメントをチェックして、大満足のまお。
あずき姉からのコメントは来てないみたいだけど、反応は上々みたい。
これならあずき姉も許してくれるよね。
だけど、念には念を押して、しばらくマッチョメンたちにはパワフルダンスを披露してもらうことに。
マッチョメンに「あずき姉ごめんね」と書かれた黒板を掲げてもらったり、黒板にキスしてもらったり。
たっぷりじっくり8分くらいダンスを踊ってもらってから、配信終了ボタンをぽちっと押した。
《あ、終わった》
《いや、おわんなwww》
《なんなんwww》
《意味不明過ぎて草》
《結局、何を見せられたんだよ》
《タイトルが「まおさんぽ」から「まおたんの謝罪会見☆」になっとるww》
《ほんまや》
《wwww》
《え? いつ会見したん?》
《しまった見逃した》
《はじめから見てたけど一秒も会見してなかったぞ》
《謝罪会見なのに会見してない件》
《ムキムキマッチョマンしか出てきてないしな》
《なんぞこれwwww》
《さすまおすぎる》
《まおたん俺、笑っちまったよ・・・謝罪会見なのに・・・》
《ま俺笑》
《草草》
《さすまおに続き、新たな造語がwwww》
《魔王様っぽくて良きだと思います》
《だな》
《笑わせてもらった》
《これにはあずき姉もニッコリだと思うよ》
《いや、ブチギレだろww》
配信は終わったのに、コメント欄の盛り上がりは落ち着く気配がない。
どうやらまおの謝罪会見を楽しんでる様子。
ったく、こいつらはほんまに……。
これがよく言う「他人の不幸は蜜の味」ってやつ?
だけど、まおは堂々とするよ。
ちゃんと謝罪したわけだからね!
「ふぅ……これでよしっと♪」
スマホを閉じ、ポケットの中に。
そして、マッチョメンたちに向け、拳を突き上げる。
「みんなありがとう! それじゃあ、最下層探索をはじめようか! レッツゴー、ダンジョ〜ン!」
「ウェーイ☆ ダンジョ〜ン☆」
ノリノリでポーズを取るマッチョメンたち。
流石本場のブラザーたちだ。
ジメジメしたダンジョンのコケにも花が咲きそうなくらいの陽キャパワー。
これはバイブスぶちあがるわぁ!
てなわけで、重い肩の荷が下りたまおは、最高の笑顔で最下層探索をスタートさせるのだった。
***
まおと数人のマッチョメンたちで探索を始めたわけだけど、最下層には人の気配がまるでなかった。
ここは死ぬと本当に命を落としてしまう超危険なイレギュラーダンジョン。
さらにS級の上位種、SS級もいるのでは……なんて噂されているし、まだ誰も探索に来ていないのかもしれない。
「ふんふ〜ん♪ ふんふんふ〜ん♪」
そんな期待も相まって……まおのテンションは絶好調。
思わずスカーレット☆マニキュアのオープニング曲、「すかっとマニキュア☆」を歌っちゃうよね。
一体どんな可愛いモンスちゃんと出会えるのか、ワクワクが止まらない。
「(あ、あの、魔王イブリズ様?)」
と、ウキウキで歩いていると、ひとりのマッチョメンが声をかけてきた。
なんだかプルプルと震えている。
どうしたんだろ? 寒いのかな?
「(このまま最下層を進むのは、少し怖いのですが……)」
「……え?」
思わず目をぱちくり。
どういうことだろう?
──英語でペラペラ喋られても、全然わからないのだが。
「ほわっと? じゃすともーめんとぷりーず。ええっと、わんもあたいむ」
「(えっ?)」
「モウイッカイ、イッテネ? わんもあぷりーず?」
「(あ、ええっと……このダンジョンの最下層にはS級の上位種もいるって話がありますし、このまま進むのは危険というか)」
「……でんじゃー?」
あ。今、デンジャーって言ったよね?
デンジャーってアレだよね。
ご飯炊くやつ。
けど、この状況と何の関係が?
「おーけーおーけー、あ〜、ユーが話してる言葉、わからないアルね。あっはっは」
「(……えっ)」
笑うまおを見てギョッとしたマッチョメンさんは、慌ててポケットからスマホを取り出し、画面に話しかける。
そして、そのスマホをこちらに差し出すと、日本語音声が流れ出した。
『この先にSS級のモンスターが出る可能性があるので、私達は怖いです』
「……おおっ!? 日本語!?」
何これすごい!
今、英語を自動翻訳したの!?
へぇ! 今のスマホってこんな機能も付いてるんだ!
再びマッチョメンがスマホに話しかけ、画面をこちらに見せる。
『私達は死にたくないです』
「あ〜、な〜ほ〜ね。SS級のモンスちゃんが怖いってことか。ううむ……」
腕を組み、しばし思案するまお。
SS級なんて可愛いだけだと思うけど、マッチョメンたちの不安もわかる。
だってほら、さっき「きらーん☆ちゃん」に苦戦してたみたいだしさ。
彼らの身の安全を考えるなら、一度地上に戻ったほうが賢明かもしれない。
「だけどなぁ……う〜む、どうしよう」
まおは凄まじく悩んだ。
謝罪会見をして許しを請うたんだけど、あずき姉から返信はない。
つまり、マッチョメンたちは「帰る=生還」だけど、まおは未だに「帰る=死」の可能性が高いのだ。
それに、可愛いモンスちゃんを愛でずに帰るってのも、もったいないし。
何か良い解決方法はないものか。
ちきちきちき……ピーン!
まお、ひらめきました!
「それじゃあ、まお……じゃなくて、魔王イブリズが特訓してあげるよ!」
「(……え?)」
「特訓! えと……トレーニング!」
「(えっ、トレーニング!?)」
マッチョメンさんたちがざわつきだす。
「(トレーニングというのは何のことなんだ?)」
「(まさか、魔王イブリズ様が訓練してくれるのか!?)」
「イエス!」
勢いよくサムズアップするまお。
言葉はわからなかったけど、言いたいことはわかった気がする!
「この魔王イブリズが、みんなのレベルアップのお手伝いをしてあげるってわけよ!」
《告知》
本日、幼女魔王様の書籍版がファミ通文庫さんから発売されました!!
これも読者の皆様のおかげでございます。ありがとうございます。
イラストレーターのとくまろ先生が描く、まおのドヤ顔表紙が目印です!
書籍版はシーンの追加や改定など、WEB版から大幅改訂&まおとちずるんの出会いを描いた前日譚の短編つきです!
あのふたりはいかにして出会ったのか……壮絶なドラマが待っているっ!!!!
WEB版を読まれた方も楽しめるようになっておりますので、是非よろしくおねがいします〜〜!!
書籍は最初の一週間の売れ行きで続刊が決まりますので、なにとぞ……なにとぞよろしくおねがいしますっっっっ!(切実)
文庫サイズなので、とてもリーズナブルですしおすし!!
▼▼ご購入はこちらから▼▼
https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322409000352/




