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第八十五話 魔王様、手紙をもらう

 楽しかった鴨川旅行から5日。


 まおはダンジョン部の部活動に参加すべく、ひとりで学校へと向かっていた。


 夏休みということもあって通学路をゆく学生の姿はなく、人混みにもみくちゃにされて命の危機を感じる心配はない。


 なんとも気持ちの良い朝──なのだけれど、まおの足取りは重かった。


 先日の鴨川旅行が楽しすぎたってのもあるんだけど、みのりちゃんがスイス旅行に行ってしまったからだ。


 今頃、一流のホテルでチーズフォンデュを楽しんでいるに違いない。うらやましい。けしからん。


 せめて癒やしキャラのちずるんが部活に来てくれたらるんるん気分になるってもんだけど、あの子ってば気が向いたら来るってスタンスだからなぁ……。


 小鳥遊くんは、別にどうでもいいや。


 まぁ、そもそもの話、無理して学校に行く必要はないんだけどね?


 だって、ダンジョンに潜って配信するのがダンジョン部の活動だし。


 年に一回開催される、学校ダンジョン連盟に加盟している全国の高校を対象にしたダンジョンRTA大会、通称「迷宮総合技能大会ダンジョンインターハイ」に出場するのが目標ではあるけど、毎年出られてるからね。



「……おっ?」



 部室の入り口を開けると、テーブルで何かを食べていたあずき姉がこちらを見た。



「おはよう、まお」

「おはよ、あずき姉──って、ちょっと待って?」 



 思わずギョッとしてしまった。


 こたつの天板を利用したテーブルの上にドサドサっと重なっていたのは、大きな貝が密封された袋……。 


 どうやらその貝を食べているみたいだけど──。



「な、何それ?」

「何って、『房州産とこぶし姿煮』だけど?」

「……」



 確かそれって、鴨川の名物だよね?


 ちなみに、「とこぶし」とは浅い岩礁にいる小さいアワビのことで、それを煮たものが「とこぶし煮」らしい。


 そんなとこぶし煮は酒のつまみにピッタシなのか、ドラクロアさんからもらったお土産は全部あずき姉が持って帰っていた。


 でも、こんなになかったはずだけど……。



「この前の旅行のときからはまっちゃって、取り寄せたんだよね。ふるさと納税で大量ゲットしちゃおうかって真面目に考えてる」

「いや、メチャクチャハマってるじゃん……」



 流石に部室にお酒を持って来るような愚行はしてないみたいだけど。


 そもそも部室で食べるなよって話なんだけどね。

 

 しかし、そんなに美味いのかね?

 

 ちょっと興味が湧いてきたので、あずき姉の隣に座って一切れぱくっと。



「……あ、美味しい」

「でしょ?」



 なんだろう。歯ごたえがしっかりあって、甘味と辛味のバランスが絶妙ですんごく美味しい。


 味が濃いからお酒が欲しくなるのかな?


 良くわかんないけど、まおは白飯が欲しくなった。



「しっかし、この前の旅行は楽しかったね、あずき姉」

「だな〜」



 もぐもぐしながらしみじみする、まおとあずき姉。


 美味しいものも沢山食べたし、ダンジョンも面白かったし、最高だったよね。



「というか、遊園地タイプのダンジョンなんてホントにあるんだね。あのイケメンモンスターがリフォームしたんだっけ?」

「ドラクロアさんね。なんちゃらカーペンターって人にお願いしてダンジョンを作り直してもらったんだって」

「へぇ〜……そんなことができるんだ」



 あの後ダンジョンWikiを見たんだけど、そのなんちゃらカーペンターについての記載はどこにもなかった。


 一般的には知られてないんだろうな。


 スキルが使用禁止にできるとか、簡単に高難易度のダンジョンが作れちゃいそうだけど、難しすぎるとスカベンジャーさんが来なくなっちゃうからやらないのかな?


 そう考えると、ダンジョン運営ってすごく大変そう。



「こ、こんにちは~……」



 なんて思ってると、部室の入口がガラッと開いた。


 ひょいと顔をのぞかせてきたのは、ショートヘアにメガネをかけた、背の小さい可愛らしい女性。



「……あれっ? 日下部くさかべ先生?」

「あ、まおさん」



 現れた女性──日下部先生が、苦笑いを浮かべる。


 彼女は、まおのクラスの担任の先生。


 将棋部の顧問もしてるから、夏休みも学校に来てるみたいなんだよね。


 そんな日下部先生に、あずき姉がとこぶし煮を食べながら尋ねる。



「どうしたんですか、日下部先生? とこぶし煮、食べます?」

「あっ、はい……えっ? と、とこぶし煮?」



 日下部先生が「ど、どういうこと?」と言いたげにメガネをクイッと上げる。



「な、なんでとこぶし煮を?」

「この前、まおと一緒に鴨川に行ったんですよ。そのときに食べてからハマっちゃって」

「あっ、そ、そうなんですね。鴨川ってことは、房州産ですかね……す、すごく美味しそうですね……」



 ごくりとツバを飲み込む日下部先生。


 日下部先生ってば、こういうの好きなの?

 

 超意外。 


 だって、マシュマロとか、マカロンとか好きそうな雰囲気だし。



「でっ、でも、それはまた今度で……えと、職員室にまおさん宛の郵便が届いたので届けに来たんです」

「……え? まおに?」



 誰からだろ?


 日下部先生から手紙を受け取り、「日下部先生もおひとつどうぞ」と、とこぶし煮のパッケージを渡すあずき姉の隣で、送り主を確認する。



「ええっ!?」



 そこに書いてあった名前を見て、ギョッとしてしまった。



「ド、ドラクロアさん!?」

「……はぁ!?」



 あずき姉が素っ頓狂な声をあげる。


 読み間違いかと思ってもう一回読み直したけど、封筒にはひらがなで「どらくろあ」と書いている。


 す、凄い達筆。


 だけど……ん〜、色々ちょっと待って?


 手紙を送るモンスちゃんってのもすごいけど、ダンジョンって外にアイテムを出すことができないんじゃなかったっけ?


 もしかして、リフォームしたときにそのルールも改定しちゃったとか?


 すんご。



「わ、私もビックリしちゃったんですよね……」



 日下部先生も驚いている様子だった。



「その手紙の送り主って、ダンジョンのモンスターさんですよね? 一体どんな内容なんですかね?」

「ちょ、ちょっと読んでみますね。ええっと、おが……お、おがみけい……おが……あずき姉、読んで?」



 スッとあずき姉にパス。



「お前、英語だけじゃなくて漢字も読めなかったのか……」

「ち、違うから! 文字が達筆すぎてわからないんだよ!」



 ほら、封筒に書いてる「どらくろあ」の文字見てよ!


 よく見ると判読できるけど、ミミズがニョロっと爆走してるようにしか見えないでしょ!?


 だから、断じてまおが漢字に弱いわけではない!!


 そんなまおを見て、とてつもなく胡散臭い顔をしたあずき姉が手紙を読み始める。

 


「ええっと……拝啓、魔王様、みのり様。残夏の候、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます……」

「はい、ちょっと待った」



 初っ端からストップ入れちゃった。


 うん、本当にモンスちゃんが書いた手紙なのかな?


 確か季節の挨拶ってやつだよね、それ?


 なんとなくドラクロアさんっぽくはあるけどさ! 色々おかしいよ!


 そんなモンスちゃんらしからぬ挨拶から始まった手紙には、まおとみのりちゃんへのお礼、それと、ゴーゴーダンジョンの現在の様子について書かれていた。



「……へぇ、この前の配信がきっかけで、連日満員御礼なんだって」

「おお! それは良かった!」



 ゴーゴーダンジョンがバズったのは知ってたけど、その後どうなったかは良くわからなかったんだよね。


 手紙によると、バズった後、すぐに入場料を取るようにしたらしいんだけど、それでもダンジョンを訪れるスカベンジャーさんが後を絶たないんだとか。


 おまけに、ドラクロアさんの人気も一部界隈で爆発中っぽい。


 ちょっとツリッターで検索してみたんだけど、ドラクロアさんのファンアートが沢山アップされていた。


 中にはみのりちゃんが喜びそうなBLっぽいのも……。


 な、なるほど〜、執事っぽい雰囲気が世の女性のハートを鷲掴みしたんだな。


 そんな人気に後押しされ、アトラクションとは別に「ゴーゴーダンジョン探索ツアー」なるものも始めたと手紙には書かれていた。


 このツアーは、目的の階層までドラクロアさんが付き添うみたいなんだけど、半年先まで予約でいっぱいなんだって。



「是非魔王様たちもいらしてください、だってさ」

「ドラクロアさんの探索ツアーか〜……まおも体験してみたいな」



 だってほら、結局ゴーゴーダンジョンの探索はできなかったわけだし。


 下の層に住んでるモンスちゃんに会ってみたい!


 しっかし、こんな不思議なダンジョンもあるんだね。


 ダンジョンってば、本当に奥が深いわ。


 ダンジョンなだけに!



「旅行は楽しかったしドラクロアさんも助けることができたし、万々歳だね!」

「そうだな〜。ドラクロさんも含め、お酒を我慢して運転手に徹したあたしに感謝しろよ〜?」

「もっちろん感謝してるとも! 次はあずき姉もお酒飲めるように、電車で行こうよ」

「それだったらいつでもウェルカムだわ。あ、日下部先生も行きます?」

「えっ、わ、私……?」



 キョトンとする日下部先生だったけど、すぐに恥ずかしそうに頰を赤らめた。



「いっ、い、行きたい……」

「え? マジで?」

「わ、私、お酒が好きなんです」

「……おお! マジですか! それは知らなかった!」



 あずき姉が嬉々とした顔で続ける。



「ちなみに日下部先生って、どれくらい飲むんですか?」

「りょ、量ですか? ええっと……嫌なことがあった日は、余裕でワイン一本くらい開けますかね……。週末はいつも家で一人晩酌していますし、酔いつぶれて記憶がなくなっちゃうことも……こ、これは秘密ですよ?」

「おおお! それじゃあ今度みんなで旅行がてら飲みましょうよ!」

「い、いいですね」



 ワイワイと盛り上がる女教師たち。


 一方のまお、ちょっとげんなり顔。


 いや、ね? 


 教師といえどもひとりの人間だし、どんな趣味嗜好を持ってようと自由だよ? 


 だけど、浴びるほど飲むのはおふたりだけのときにして欲しいっていうか。


 酔いつぶれて記憶無くしたら、思い出もへったくれもないじゃん……。


 真面目紳士のドラクロアさんの爪の垢を飲んだほうが良いんじゃなかろうか。


 とこぶし煮をもぐもぐしながら、そんなことを考えるまおなのであった……。 

ここまでお読みいただきありがとうございます!

これにて幕間は終了でございます!

7章スタートは今しばしお待ち下さいませ!


そして、ビッグニュースです!

ななな、なんと、幼女魔王の書籍化が決定しました!!

KADOKAWA様から冬頃刊行予定です!!


すでにキャラデザ等上がってきているのですが、魔王様がめちゃくちゃナマイキ……じゃなくて可愛いすぎなんです……。

表紙から爆笑間違いなしなので、お楽しみに(笑)

レーベル等の追加告知は近況ノートやXでアップさせていただきますので、是非チェックくださいませっ!


さらにさらに、幼女魔王と同時連載していました

「おっさんリーマン、アヒルちゃん付き古民家で山暮らしをはじめる 〜だけど気づいたら、なぜか庭が異世界モフモフ神様のたまり場になってた〜」

の書籍化も決定しました!!

ダブル書籍化、ありがとうございます!!!

グラストNOVELS様より10月24日発売なので、是非こちらもよろしくお願いします!

https://ncode.syosetu.com/n1684jm/

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[良い点] 書籍化おめでとナス!
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