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第八十話 魔王様、ひらめく

幕間短編は全6話です!

 夏休みの思い出を作りたい。


 まおがそう思い立ったのは、クリーナーズ関東チームに就任して数日経ったある日のことだった。


 まだ夏休みは前半戦──。


 だけど、どうしてもこのタイミングで思い出を作らないといけない理由がある。


 そう……まおのダン友(ダンジョン友達)、みのりちゃんがスイス旅行に行っちゃうのである!!


 彼女が出発するのは、明後日。


 つまり、一緒に遊べるのは今日と明日くらいしかない。


 これはなにか、どデカい花火を上げねばなりますまい。



「良いでござるな! 小生もまお殿と夏の思い出を作りたいでござる!」



 天草高校ダンジョン部の部室。


 まおとテーブルを囲んでいるみのりちゃんが、ぱあっと嬉しそうな笑顔をのぞかせた。



「夏休みの思い出といったら、やっぱり旅行でござるよね? ちなみにまお殿は最近どこか行ったでござるか?」

「行ったよ! 浅草花やしき!」

「な、なかなかに渋い所を突いてくるでござるな」



 日本最古の遊園地として有名な浅草花やしきには、家族で定期的に行ってるんだよね。


 まおのお気に入りは「スワン」という白鳥の乗り物に乗って水の上をぐるぐる回るやつ。


 あとは、花やしきの前の通りにある、もつ煮込み屋さんかな!


 あれ、めちゃくちゃ美味しくて、つい食べちゃうんだよね〜。


 あずき姉もお気に入りみたい。



「しかし、既に旅行に行ったのなら、別のことが良いでござるかね?」

「いや、花やしき旅行も良い思い出なんだけど……なんていうか、もっとキャピキャピした旅行に行きたくない?」



 ほら、せっかくの夏なんだし、海でひと夏のアバンチュールみたいなさ!?


 アバンチュールの意味はよくわかんないけど!



「であるならば、近場に日帰り旅行にいくのも手でござるな。ついでにダンジョンに潜ってもいいですし」

「……あ、良いアイデアだねそれ!」



 思わず手のひらをパチン。



「だったら海があるところがいいかなぁ? 海で遊んで、その後ダンジョン探索に行くみたいなさ?」

「お、良きでござるな! 良い思い出になりそう!」

「だよね! まぁ、問題はそんな場所があるかってところなんだけど……」



 海があってダンジョンがある。


 そんな最高のシチュエーションに、思い当たる節はない。


 まぁ、海沿いの町に行けば必ず海水浴場とダンジョンはありそうだし、運任せで適当に行くってのも良いんだけど──。



「あっ、良いこと思いついた!」



 席を立ったまおは、部室の段ボールの中からとあるものを取り出す。



「これで行き先を決めよう!」

「それって……ダーツでござるか?」

「イエス!」



 以前にオシャンティな大人になるために買った、ダーツセット。


 なんでそんなものがダンジョン部の部室にあるかというと、秒で飽きてあずき姉に押し付けたからなのである。



「題して、『どの町にのダンジョンに行くかダーツで決めちゃおう! ダーツの旅!』企画っ!」

「おお、少々危ないタイトルですが、面白そうでござるな!」



 みのりちゃんがぱちぱちぱちと手を叩く。


 旅行は計画しているときから楽しくなきゃね♪


 というわけで、早速プリンタでA3サイズ4枚分の関東地方の地図を印刷して、壁に貼り付ける。


 ここに向かってダーツを投げるってわけだ。


 なんだかテレビで見た感じがするけど、ワクワクしてきた!



「……よっし! それじゃあ早速まおが投げちゃいましょうかね!」

「お願いしますでござる!」

「うむっ! まかせたまへ!」



 壁から2メートルほど離れ、狙いを定める。


 さてさて、どこを狙いましょうかね?


 近場で海が楽しめる場所といえば、横浜か千葉、だよね。


 どっちに行くかは、運次第ってことで。


 え? ちゃんと当てられるのかって?


 へっへっへ、このまお様を舐めてもらっちゃ困りますよ?


 ダーツ神って呼ばれる予定だったんだから!


 ダーツバレルを握りしめ、片目を閉じる。


 そして、思いっきり振りかぶって──投げる!



「どりゃああっ!」


 

 ズドッとすさまじい音が部室に轟く。


 どうよ、この威力!


 さぁ、千葉か!? 横浜か!?



「……あれっ? どこにもない?」



 目を凝らしてよく見たけど、千葉にも横浜にもダーツは刺さっていなかった。


 それどころか、東京や埼玉にも。


 しばし、捜索。


 ダーツがズッポシ刺さっていのは……部室の床だった。


 どデカいA3サイズ4枚分の地図から、数メートルは離れている。


 え〜と……。



「い、位置的に言えば、オーストラリアかな?」

「さすがに日帰りではいけないでござるな」



 う〜ん、おかしいな?


 肩が温まってないのかな?



「ごめん、ちょっと肩の体操するから、その間にみのりちゃんが投げてくれないかな?」

「えっ、小生でござるか!?」



 ギョッとするみのりちゃん。



「しょ、小生にできるかな……? ダーツなんてやったことないでござるよ……」

「大丈夫。外れちゃったら当たるまで交代でやればいいし」



 その頃にはまおの肩も温まってるだろうしさ。



「で、では……」



 ダーツを手に、地図の前に立つみのりちゃん。


 小さく深呼吸をして、スッと体を横向きに構える。


 へぇ? 結構良い構えじゃん?


 まぁ、素人にしてはまずますかな?



「……よっ」



 みのりちゃんは、肘を固定したままヒュッとスマートに投げた。


 ダーツが壁に刺さる小気味よい音が響く。



「あ、刺さったでござる!」

「……」



 喜ぶみのりちゃん。


 それを胡散臭い目で見つめるまお。


 ……うん、ちょっと待って? 


 みのりちゃん、なんだかうますぎない?


 だってほら、地図のど真ん中付近刺さってるし。


 え? もしかしてプロの方ですか?



「見てください、まお殿! 良いところに刺さったでござるよ!」



 ダーツが刺さったのは、千葉の房総半島の先っぽあたり。



「……ええっと、刺さったのは鴨川でござるな」

「鴨川!?」



 あ、まお知ってる!



「鴨川って言ったらあれだよね! ええと……シャチとかイルカがいるとこ!」

「そうでござるな! シャチやイルカのショウが観られる大きな水族館があるでござる!」

「シャチとイルカのショウ……」



 動物好きなまおにピッタリの場所じゃん。


 海も近いってことは、きっと海水浴場もあるよね!?


 ダンジョンナビで鴨川を調べてみたけど、ダンジョンもあるっぽいし……うん、これはベストポジションじゃなかろうか。


 よし、決めた! 鴨川に行こう!



「ただ、ここからだとちょっと遠いでござるな」



 スマホの地図アプリをみながら、みのりちゃん。



「どうしましょう? 電車で行くでござるか?」

「ん〜、電車はいつも移動で使ってるし、違う方法で行きたいかなぁ?」

「違う方法……自転車とか?」

「移動だけで1日かかる」



 日帰りどころじゃないし、到着した時点でクタクタになってるよ。


 楽して移動したいけど、どうせなら移動中も旅行を楽しみたい!


 てことは、つまり──。



「車でいこう!」

「く、車? まお殿、免許持ってるでござるか?」

「そんなわけがなかろう」



 ていうか、思い出してみのりちゃん。


 まおとみのりちゃん、同じ年齢!



「ほら、まおたちの身近に車を持ってる人間がひとりいるじゃん」

「身近に? あっ──」



 みのりちゃんがハッとしたとき、部室のドアがガラリと開いた。


 ふたりで同時にそちらを見る。


 入口に、天草高校のジャージを来た女教師が立っていた。



「……ん? どした?」



 マイシスターにしてダンジョン部顧問、有栖川あずき、その人である。


 しばしぽかんとするあずき姉だったけど、ダーツが刺さった日本地図と、まおたちの視線に何かを察したのか、次第にめんどくさそうな顔をした。



「……なんか嫌な予感がするんだが?」



 さすがはマイシスター。


 これぞ以心伝心である。

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