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第七十五話 魔王様、グローバルな活躍を見せる

 ダンジョンの基本構造はごくごく単純だ。


 上層、中層、下層の各層にボスモンスちゃんがいて、ひとつ下の層につながる階段があるエリア10を守護している。


 まおの知るかぎり、そのルールに例外はない。


 つまり、この0号ダンジョンの上層最終エリアにも階層を守護しているボスモンスちゃんがいるはず──なんだけど。




「……おかしい。誰もいない」



 がるりんに乗ってやってきた上層の最終エリア10は、もぬけの殻だった。


 鬱蒼とした巨大な木々に囲まれた広場に、モンスちゃんらしき姿はない。


 もちろんスカベンジャーさんたちの姿も。



「ひょっとして、まおより先に中層に降りちゃったスカベンジャーさんがいるとか?」



 がるりんの背中で首をかしげる。


 だけど、それは有り得ないかな……。


 ここに来るまで見かけたのはトモ様たちくらいだった。


 そのトモ様でもかなり苦戦してたんだし、上層のボスモンスちゃんをあっさり倒しちゃうスカベンジャーさんがいるなんて、ちょっと考えられない。



「……あ、わかった! お昼休み中だ!」



 だって、そろそろお昼時だし!


 調査隊はエリア2から先に進めてないみたいだから、「誰もこないし、休憩取っててもいいっスよね〜?」的なさ?


 あり得る。


 まぁ、何にしてもボスモンスちゃんはいないみたいだから、素通りして良いよね。


 どんなモンスちゃんなのか見たかったけど、戦闘せずに中層に降りられるのは良きかな。



「……ん?」



 なんて思ってたら、広場の端っこにある巨大な祠みたいな建物の前にいくつかの人影があった。


 体の大きさは、ゆうにまおの3倍位ありそうな黒い肌の男性。


 シルエットが明らかに日本人離れしてる。


 もしかして外人さんかな?


 あの祠は中層に降りる階段だと思うけど、何をやってるんだろ?


 何やら首を捻ってるし、困ったことが起きてるのかも。


 気になる。ちょっと見てこようかな。



「ここで待っててね、みんな」

「がうっ」



 モンスちゃんたちに待てをして、外人さんたちの元に足早に向かう。


 何か困ってるなら助けてあげたほうがいいよね。


 だって今の時代ってほら、ええっと……グローバルじゃん?


 種族を越えた助け合い精神が必要っていうかさ。


 つまり、国境なきズッ友!


 筋肉マッチョの外人さんに話しかけるのはちょっと怖いけど、レベル6000のコミュ力を発揮して懐に飛び込んでやろうではないか。



「……あっ、待って?」



 そこでまおちゃん、大きな問題に気づく。



「まお、英語話せないのだが?」



 最大にして根本的な問題。


 言葉でのコミュニケーションができない。


 あずき姉に「英語勉強しとけ」って言われてたけど、学校以外では英単語カードすら開いてないし。


 外人さんにペラペラと英語で話しかけられて、何も答えられないまま引き返す未来が容易に想像できるっ……!


 このスマートイヤホン、自動翻訳機能とか付いてないよね?


 くっ……困ってる外人さんたちを横目に、ごめんねチョップで先を急ぐしかないのか……っ。



「Hey You」

「……んぎゃっ!?」



 突然背後から声をかけられ、ビックリして飛び跳ねてしまった。


 振り向いたまおの目に映ったのは、タンクトップに迷彩ズボンを履いた筋肉マッチョの白人さん。


 な、何っ!? 


 回り込まれていただとっ!?



「(変なお面つけた子供が、こんな所で何してんだ?)」

「……ほへっ?」

「(怪我する前に家に帰りな。ここはめっちゃ危険だから)」

「お、おういえ〜……」



 とりあえず、苦笑いで応戦するまお。


 ええっと……な、なな、何を言っていらっしゃるんですかね?


 ちょっと呆れてるっぽい感じだけど……何してんだ的な空気を感じる。


 あの、日本語でお願いできませんかね?



「(何してんだ。早く戻らねぇと、ヤバいモンスターに殺されちまうぜ?)」

「あ~、お〜いえ、オッケー! ディスイズアペン!」

「(……え? ペン? いきなりどした?)」



 外人さんは小さく肩を竦めて「参ったぜ」みたいな顔をする。


 あっ! このポーズ、映画とかで外人さんがよくやるやつだ!


 このジェスチャーは「面白いやつだな。気に入ったぜブラザー」みたいな反応じゃない?


 てことは……えっ? もしかしてまお、外人さんと英語でコミュニケーション取れてるぅぅ!?


 な〜んだ、英語なんて楽勝じゃん!


 将来苦労するぞ〜なんてあずき姉は言ってたけど、全然そんなことないし。


 いや待って? 


 これはまおが英語の天才だった可能性があるんじゃない?


 だってほら、授業で教わる英語と日常会話で使う英語は違うっていうじゃん?


 ナチュラルで日常会話ができるまお、すごい。


 よし、ここはこっちからグイグイいっちゃおう。


 困ってることありませんかって、英語でなんて言うんだっけ?



「へい、筋肉マッチョメン! えと……ゆーあー、ぱにっく?」

「(へ? パニック?)」

「イエス! ゆーあー、すーぱーぱにっくメン……えと、ゆーあー、すーぱーぱにっくメンだから、まおがヘルプしてあげて──ぎょえっ!?」



 と、そのとき、まおの言葉を遮るように凄まじい轟音があたりに響いた。


 何かが弾けたような音とともに、大地がグラグラと揺れ出す。


 うわわわわ……!?


 これには、まおがぱにっくメン!?



「なな、何だぁ!?」

「(くそっ! モンスターだ!)」



 外人さんが見ている先……。


 祠があった場所に、もうもうと煙が上がっている。


 でも、何かが燃えてるってわけじゃなく、砂煙が上がってるみたいだけど──。



「あっ!」



 その砂煙の中から、ぬうっと何かが姿を現した。


 おっきなトカゲ……じゃなくて、巨大な翼を持ったドラゴンちゃんだ。


 やもりんと似た感じだけど、背中に大きな翼があって体全体に赤い鱗をまとっている。


 初めてみるモンスちゃんだ!!



「な、何あの子!? きゃわわ!」



 新種のドラゴンちゃんの登場に、まおのテンションは最高潮!


 早速、ステータスを拝見することに。



―――――――――――――――――――

 名前:キラーワイバーン

 レベル:190

 HP:4500/4500

 筋力:350

 知力:330

 俊敏力:410

 持久力:390

 スキル:【グングニルインパクト】【ブラストブレスⅣ】【超硬化Ⅲ】【なかまのうらみ】

―――――――――――――――――――



「キラーワイバーン……?」



 カッコいい名前!


 ……だけど、ちょっと可愛さ成分が足りないかな?


 もっとプリティな名前が言いと思うんだけど。



「キラーワイ……キラーバーン……キラーン……あ、ひらめいた! きらーん☆ちゃんだ!」



 よし! きみのことは略して「きらーん☆」ちゃんって呼んじゃうね!


 我ながらセンスの塊すぎる。


 しかし、きらーん☆ちゃんってば、レベルが190もあるのね。


 シカシカちゃんよりレベルが高いんじゃない?


 スカベンジャーさんたちってシカシカちゃんにも苦戦してたし、あの外人さんたち、結構ピンチなのでは?



「(や、やばいっ! 逃げろ!)」



 砂塵の中から、すごい形相で外人さんたちが飛び出してきた。



「(マ、マジかよ!?)」

「(ドラゴンが出るなんて聞いてないんだが!)」

「(ふざけんなっ!)」



 おおう……。


 やっぱりスーパーパニックメンになってる……。


 早く助けてあげないと!



「よし、推しモンのみんな、かむひあ! あの外人さんたちを助けるよ!」

「がうっ!」

「ぶもっ!」



 すぐにずどどどっと待機させていた、がるりんたちがやってくる。


 それを見ていた、まおに声をかけてきた外人さんは、



「(じょ、冗談だろ……? この子供、モンスターを手懐けてるだと……?)」



 と、呆然と立ち尽くしてる。


 何を言ってるのかわかんないけど、ビックリさせちゃったっぽい?



「そーりー、マッチョメン! あいむごー!」



 まおはヒラリとがるりんにまたがると、きらーん☆ちゃんに指を向ける。



「みんな! きらーん☆ちゃんにアタック&デスだよっ!」

「がうっ!」

「ぶもっ!」

「ぴぎっ!」

「れっつらごー!」



 まおを先頭に、きらーん☆ちゃんに向かって一斉に突っ込んでいく。


 てか、勢い余って英語で指示を出しちゃったけど、日本語で良かったよね。


 かぁ〜っ、英語が使えるようになって、日本語が不便になってきたわ〜!



「きぃっ!」

「……むむっ!」



 と、上空に飛び上がったキラーン☆ちゃんが、猛スピードで急降下してきた。


 両足の爪で外人さんたちを一網打尽にしちゃうつもりらしい。


 そうはさせないもんね!



「へい! 外人さん!」



 がるりんの上から、外人さんたちに向けて叫ぶ。



「みんな、しゃがんで!」

「(な、なんだありゃ!?)」

「(モンスターか!?)」

「(え!? 子供!?)」



 外人さんたち、困惑した表情。


 どうやらパニックで思考が停止してるっぽい。


 ここはわかりやすく、しゃがんでって英語で説明してあげなきゃ!



「ええっと、え、えぶりばでぃ、すとっぷあんど……すたんだっぷ!」

「(え? 立ち止まって立て?)」

「(どゆこと?)」

「(よくわからんけど、言う通りにしよう!)」



 一斉に足を止め、ぴしっと直立する外人さんたち。


 えっ!? いやいや、何で棒立ち!?


 すたんだっぷって言ったんだから、しゃがみなさいよ!


 ……あれ? しゃがむって、すたんだっぷだっけ?



「ええい! きんにくん、外人さんたちを強引にしゃがませて!」

「ぶもっ!」



 アルケインオーガのきんにくんが前に出て、巨大な拳を振り上げる。


 そして大地に打ち付けた瞬間、巨大な地震を発生した。


 きんにくんのスキル【アースシェイカー】だ。



「(うわっ!)」



 その衝撃で、外人さんたちが一斉にドスンと尻もちをついた。


 瞬間、上空からきらーん☆ちゃんの爪が襲いかかる。



「きぃっ!!」



 間一髪、その爪攻撃が空を切る。


 自分たちの頭上をかすめたきらーん☆ちゃんの攻撃に、目をまんまると見開く外人さんたち。



「(ママ、マジかよっ!?)」

「(た、助かった!?)」

「(俺ら、あの子供に助けられたのか!?)」

「(し、信じられん……)」

「(しかし、なんなんだ? あの変なマスクの子供は?)」

「(けど、なんだか可愛いくね?)」

「(わかる)」

「(それな)」



 呆然としている外人さんたちのそばを通り抜け、彼らと距離を置く。


 そして、空に向かって声を張り上げた。



「ヘイ! こっちだよ、きらーん☆ちゃん! かむひあ!」

「……きっ!」



 上空に飛び上がったきらーん☆ちゃんが、こっちを向いた。


 狙いを外人さんたちから、まおに移したみたい。


 よしよし、いい子。いい子。


 これで外人さんたちが狙われることはないはず。



「ぎゃおんっ!」

「うん、わかった! もっと広い所でまおと遊ぼう!」



 きらーん☆ちゃんもその気になったみたいで、まおめがけて突撃をしてきた。

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