第七十三話 魔王様、正体隠してピンチを救う
「……ふんふんふ〜ん♪」
森の中に、まおの美声が響き渡った。
「そこのけそこのけ、まおが通るぞ〜♪ 魅惑の笑顔〜♪ きみのハートを撃ち抜くぜ〜♪」
「わふっわふっ」
「ぶも〜ん☆」
まおに続いて、推しモンちゃんたちが声高に音頭を取った。
「いやぁ〜、未知のダンジョンを散歩するってすごく気持ちがいいね! 可愛い子ともたくさん友達になれたし……最高っ!」
今まおがいる場所は、上層のエリア9。
上層の最終エリア付近なんだけど、ここに至るまでに5匹のモンスちゃんと仲良くなっちゃったんだよね。
エリア1で仲良くなった「シカシカちゃん」。
そのお隣、エリア2で遊んだアルケインオーガの「きんにくん」。
エリア5で、いきなり木の上からドサッと落ちてきてまおの体を冷やしてくれたフローズンスライムの、「ひえぴたくん」。
さらにさらに、半透明幽霊のワンちゃんガルムの「がるりん」に、岩石と土でできた巨大なギガントゴーレムの「つっちー」。
全員初めて会うモンスちゃんなんだけど、こんなに仲良くなれるなんて感激。
本当はエリア2を覗いたら帰るつもりだったけど、そんなの無理だったよね。
うん、むりむり。でも、仕方ない。不可抗力。
ちなみに今仲良くなってるモンスちゃんのステータスを見たところ、全員S級だった。
上層でこれなんだから、中層に降りたら可愛さSS級のモンスちゃんに出会える可能性、大っ!
いやぁ、期待が膨らみますなぁ!
「……おやっ?」
な〜んて思ってたら、前方から何やら話し声が。
エリア3あたりからめっきりスカベンジャーさんに出会うことはなくなったんだけど、一足先にここまで来たひとがいるのかな?
どんな人たちなのか気になるけど、身バレは避けねばなりますまい。
「よし、ここは身を隠してやり過ごそう。カメラに映っちゃったら大変だからね」
「ぶもっ」
「ぐお〜ん」
まおがそっと木の陰に隠れると、推しモンちゃんたちも一緒に身を隠してくれた。
賢い。
だけど、体がおっきいので、だいぶはみ出ちゃってる。
「……あ、つっちー? 体がちょっとはみ出てるから、もう少しだけこう……体を小さくしてくれないかな?」
「ぐお〜ん」
ギガントゴーレムのつっちーが、「解った!」と返事をすると、体からボロボロと岩や土を剥がし、体のサイズを一回りほど小さくしてくれた。
わ。すごい。そんなことができるんだ。
まおもそんな感じでお胸のサイズを大きくできたら良いのにな〜……なんてしみじみしてたら、前方の茂みから何かが飛び出してきた。
真っ黒い鎧を着た、男性のスカベンジャーさん。
それに、短髪ボーイッシュな美形の女性。
あれ? なんだか見覚えがあるような……?
「……え!? 四野見さんに、トモ様!?」
嘘でしょ……と思ったけど、間違いない。
さらにふたりの後を追うように、見覚えがあるスカベンジャーさんが茂みから飛び出してくる。
派手な赤い髪をしたスカベンジャーさんと、しとやかな雰囲気の黒髪スカベンジャーさん──。
「うえええっ!? ア、アリサさんと、東雲さん!?」
うわああああっ!?
まおでも知ってるBASTERDの有名配信者さんが4人もいるっ!?
どど、どうしよう、サインもらっちゃう!?
……あれ? だけど、慌てて何かから逃げてるっぽい?
「ああ、もう……」
東雲さんが、心底呆れたような顔で言う。
「どうしてわざわざモンスターの体を踏んづけるんですか、アリサ? お陰で私の配信用ドローンが壊れちゃったじゃないですか」
「あっはっは! まさか地面の中にモンスターがいるなんてねぇ! マジウケるよね〜!」
「全然面白くない」
「月乃輪先輩! 東雲先輩! 喧嘩してないでしっかり走ってください!」
四野見さんの声が響く。
どうやらモンスちゃんに追いかけられてるみたい。
だけど、どこにもモンスちゃんは見当たらないし──。
「……あっ」
と、そのとき、四野見さんたちの背後、地面の中から巨大な腕がニュニュッと突き出てきた。
有に数メートルはあろうかと思うほどの、ぶっとい腕……。
まおと仲良くなった、つっちーとは別のギガントゴーレムちゃんの腕だ。
その腕に地中から引っ張り出されるかのように、ギガントゴーレムちゃんの上半身が現れる。
「ぐおおおん!」
そして思いっきり腕を薙ぎ払う。
完全に意表を突いた死角からの攻撃……だったんだけど、四野見さんたちは、振り向くこともなく空中に飛び退き、その攻撃を回避した。
す、すごい!
流石はトップストリーマー!
こりゃあ余裕で勝てるのでは?
──と思ったんだけど。
「あ、あははっ」
アリサさんが引きつった笑顔を覗かせる。
「今のはちょっと危なかったわね!? 無意識で飛んだけど……」
「気を付けてアリサ! 完全に予備動作、予兆なしで攻撃が来ます! 私の人形でも感知できない!」
ううむ……もしかして、ちょっと苦戦してるのかな?
でも、四野見さんの【聖騎士の重盾】があれば、あんな攻撃大丈夫じゃないかなと思うんだけど……。
「ぐおおおおん!」
再びギガントゴーレムちゃんの雄叫びが轟いた。
だけど、姿が見えない。
さっきまで四野見さんたちの真後ろにいたのに、忽然と姿を消してしまっていた。
「……っ! 上だっ!」
四野見さんの声。
瞬間、ゴーレムちゃんが四野見さんたちの頭上に姿を現した。
うわっ、いつの間にあんなところに!?
木の樹皮を伝って移動したのかな?
体のサイズを自由に調整できるっぽいし、ギガントゴーレムちゃんってば、変幻自在すぎる。
「四野見さんっ!」
「ああ、任せろトモ! 【聖騎士の重盾】ッ!」
ゴーレムちゃんの拳が振り下ろされると同時に、四野見さんがスキルを発動させた。
青白く輝く四野見さんの大剣。
それを盾のように使い、ギガントゴーレムちゃんの攻撃を受けた。
確か四野見さんの【聖騎士の重盾】の効果は、ダメージ9割カットだったっけ。
この鉄壁スキルがあれば、どんな攻撃でも受け流すことができる。
──はずだったんだけど。
「う……くっ!」
凄まじい衝撃音とともに、ゴーレムちゃんの拳と四野見さんの大剣が同時に真っ二つにくだけてしまった。
ええっ!? ダメージ9割カットであの威力なの!?
ギガントゴーレムちゃん、すごい!
……あれ? ちょっと待って?
まおのときは軽く撫でてきた程度だったよね?
「よくわかんないけど、何にしても、これはピンチかもしれない!!」
ずっと静観していたけど、すっくと立ち上がった。
四野見さんの剣はもう使えないし、次の攻撃を防ぐ手段はない。
助太刀に入らなきゃ!
──でも、堂々と助けに入ったら、一発でまおだってバレちゃうよね?
トモ様はちゃんと学校を休んできてるのかもしれないけど、まおはズル休みだし。
「よし、ここはさらに高度な変装だなっ!」
グラサンマスクよりも更にカムフラージュ率が高いヤツ。
早速【あたし好みにな~れ】を発動させ、変装グッズを生産した。
出来上がった衣装に、高速で着替える。
「……み、皆さんっ! ゴーレムの攻撃が来ますよっ!」
と、東雲さんの声が聞こえた。
そちらを見ると、またしても彼女たちの頭上に巨大なゴーレムの拳が。
「くそっ! みんな避けてくださいっ! 僕がスキルで!」
「ッ! ダメだよまこっち! 剣がないんだから、あたしの後ろに──」
「お助けいたすっ!」
ざざっと四野見さんたちの前に飛び出すまお。
頭上のゴーレムちゃんの拳に向かって指をさす。
「はいっ! つっちー! やっちゃって!」
「ぐお〜ん!」
ずごごっとまおの周囲の土が盛り上がり、現れたつっちーが頭上に向けてパンチを繰り出した。
「……っ!?」
ズドゴッっとつっちーの拳がぶち当たり、空中で四散する。
雨のように土が降り注ぐ中、まおは腕を組んで四野見さんたちを見た。
「ふっふっふ、大丈夫ですかな、みなさん?」
「き、きみは……?」
「えっ? えっ? 誰?」
四野見さんに続き、アリサさんも困惑顔。
隣の東雲さんやトモ様も、
「なんですか? そのふざけた格好は?」
「そ、その面 は……?」
と、首を捻っている。
それもそのはず。
まおの格好は、想像を越えて大きく変わっているのだ。
ジャージにグラサンマスクから、赤い着物と口を尖らせたオッサンの面。
頭には手ぬぐいのほっかむり。
そう──これぞ「ひょっとこ踊り」のスタイルである!
でも、流石にひょっとこのまんまだと、まおのプリティさが全滅しちゃうので、ほっかむりの模様は可愛いスライムちゃん柄にした。
どうよ、このこだわり。
ふっふっふ。
これで堂々と知り合いの前に出ても、まおだとわかるまい……っ!
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