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第七十二話 魔王様、周囲が騒がしくなる(その2)

「……ファッ!? BASTERDメンバーが行方不明だとっ!?」



 土曜の天草高校職員室に、有栖川あずきの声が跳ねた。


 ギョッとした先生たちが、一斉に彼女を見る。



「有栖川先生? どうかしましたか?」

「えっ? あっ、いえ〜、なんでもありませんわ、オホホ〜」

「……?」



 首を捻る先生たち。


 あずきは「あ、あぶねぇ」と、青ざめてしまった。


 なにせ彼女は「しとやかでクールな美人教師有栖川(彼氏なし)」で通ってるのだ。びっくりしすぎたとはいえ、先生たちの前で素の姿をさらすのは良くない。


 今日は土曜で授業はないが、部活の顧問の先生たちが職員室に来ていた。


 こうしてあずきが職員室にいるのも、ダンジョン部のため。


 生徒のためならば土曜出勤も仕方ない。


 しかし、そう思う一方で、あずきは強く願う。


 ──休日出勤、辛いです。特別手当ください、と。



「しかし、0号ダンジョンでBASTERDメンバーが行方不明ねぇ……」



 パソコンのモニターを見ながら、ため息をひとつ。


 昼食の時間、あずきはコンビニサンドイッチを食べながらネットの記事を読み漁っていたのだけれど、いきなりヤバいニュースが目に飛び込んできた。


 記事によると、早朝から六本木0号ダンジョンに潜ったBASTERDのメンバー4人の配信が同時に途絶えたらしい。


 そのメンバーというのが、月乃輪アリサ、東雲葵、四野見誠……そして、神原トモの4人だという。


 錚々たるメンバーすぎる。


 その4人が0号ダンジョンに入ったことはあずきも知っていた。


 これは早々にクリアされちゃうかと思っていたが、まさか行方不明になるなんて。


 どうやら0号ダンジョンは想像以上にヤバいところらしい。



「……なになに? 『BASTERD社長は彼らを引き止めたが、それを押し切ってダンジョン入りした』? え〜? ホントなのかねぇ?」



 むしろ、率先して旗を振ってそうだけど。


 胡散臭い目で記事を読みながら、サンドイッチをもぐもぐするあずき。


 0号ダンジョンの最深部に眠るお宝なんて、時価総額で言えば上場企業の年商くらい行く可能性もある。


 それに、0号ダンジョンを最初に踏破すれば、事務所のネームバリューもかなり上がるはず。


 やり手のBASTERD社長が、それをスルーするなんてありえない。


 このニュースって地上波でも流れてるのかな?


 そう思ったあずきは、動画配信サービス「GABEMA」アプリを開いてニュース番組をチェックしてみることに。



「お、やってるね」



 件のマンションが映っていた。


 画面には「LIVE」の文字。


 どうやら生中継のようだ。


 土曜日のお昼ともあって多くの人が集まっていて、画面の向こうからは物々しい雰囲気が感じられる。


 警察の姿もちらほら。



『そ、速報です!』



 と、血相を変えたレポーターが現れた。


 さらに、人だかりをかき分け、警官隊が部屋の中になだれ込んでいくのが映し出される。



『問題になっていた六本木にあるダンジョンに警官隊が突入しました! 立入禁止処置が出された模様です!』

「……あら〜、ついに行政が動いちゃったか」



 前々からそうなるとは思ってたけど。


 しかし警察が突入って、家宅捜索でもあるまいし。ダンジョン内で行方不明者の捜索でもやるつもりなのだろうか。


 そんなことをしたら、余計に被害者が増えそうな気がするけど……。


 番組のカメラが切り替わり、スタジオの中に。


 司会者が「ダンジョン業界に詳しいエッセイスト榊原」なる怪しすぎるゲストに尋ねる。



『榊原さん? このダンジョンというのは、若者に人気のアトラクションのようなものなんですよね?』

『ええ、そうですね。ですが、これまで取り締まる法令もなく、様々な犯罪の温床になっていたという事実もあります。その問題意識が以前から強かったのか、行政の動きが速かったですね』

「……何いってんだこいつ」



 あずきは棒アイスではなく、サンドイッチをもぐもぐしながら突っ込んでしまった。


 ダンジョンが現れて十年以上が経つのに、規制のきの字も出ていなかった。


 それに、犯罪の温床なんて言いがかりも良いところ。


 これはいろんな利権が絡んできて、めんどくさいことになってきてるのかもしれないとあずきは思う。


 お宝がダンジョンの外に出せるようになったというのは、やはりとてつもなく大きいのかもしれない。



「うっわ……ダンカリで0号ダンジョンの出土品が500万で取引されてるじゃん」



 ダンカリを見てみると、とんでもないことになっていた。


 装備やアイテム類はそうでもないけど、現実世界にない鉱石や金貨などが高値で取引されていた。


 これらは多分、0号ダンジョンから出土したものだろう。



「なるほどね。こりゃ行政も動くわけだわ」



 おまけに、立入禁止になったというのに、ダンTVでは「噂の0号ダンジョン探索してみた」とか「【一攫千金】0号チャレンジ!」なんてタイトルの配信が無数にある。


 これはしばらく騒ぎは落ち着きそうにない。


 まおに念押しの「絶対行くなよ」連絡しておいたほうがいいかもしれない。金に目が眩んだ連中から、変なDMが行くかもしれないし。


 それに、まおのことだ。


 行方不明になったトモ様を助けに行くなんて言い出しそうだし──。



「……ん?」



 と、ダンTVの配信を流し見していたとき、妙なものがあずきの目に止まった。


 見知らぬ配信者のライブ配信──なのだけれど、変な格好の子供が映っていたのだ。


 紺色のジャージに、グラサン、マスク。


 カメラの前を避けて通ろうとしてるのだが、画角を把握できていないのかバチコリ映っちゃってる。


 子供がダンジョン、それも0号にいるなんてまずいのでは?


 そう思うあずきだったのだが、な〜んか見覚えがあるような気がした。


 ぱっつん前髪だし。


 メッシュが入ったツインテールだし。



「これ……まおじゃね?」



 カメラに映らないようにサッと屈み込んだとき、ポロッとサングラスが落ちて、慌てて拾おうとしてマスクが脱げた。


 はい。どっからどうみてもまおです。ありがとうございます。



「ファッ!? なんであいつ0号ダンジョンに入ってんの!?」



 おまえ風邪はどうした、風邪は!?



「あ、あの、有栖川先生?」



 向かいの席から声をかけてきたのは、まおの担任の日下部あすか先生だ。


 将棋部の顧問をやっていて、知性あふれる姿から男子生徒の人気も高く、あずきと双璧をなす人気教師だ。

 

 ──まぁ、1位は私だけど?


 彼女を見るたび、あずきは心の中で、つい対抗意識を燃やしてしまう。



「あの、やっぱり何かあったんですか? もしかして妹さんのこととか?」

「……え? まおに何かあったんですか?」

「実は今日、まおさんのお母さんから『風邪を引いたので学校を休ませてください』って連絡があったんですよね。今日、学校は休みなのに。お母さんも少し変な声でしたし、まおさんの家では風邪が流行っているのかもしれませんね……」

「……」



 あずき、思案する。


 答えは1秒で導き出された。


 はは〜ん。あいつ、今日が平日と勘違いしてるな。


 んで、母親を名乗って学校に連絡して、仮病で学校をサボってダンジョンに行こうと考えたと。


 なるほど。


 なるほどなるほど。



「はい、色々アウトォォ!!」

「ひゃっ!?」



 ギョッとした顔をする日下部先生。


 あずきは颯爽と席を立つと、ジャケットを羽織る。



「すみません、日下部先生! ちょ〜っと身内の不幸がありましたので早退させていただきますねっ! 午後のダンジョン部、お願いしますっ!」

「えっ!? ちょ、有栖川先生!? お、お願いしますって、わわ、私も将棋部を見なくちゃいけないんですけど……」

「そこはいい感じで!」

「えええっ!?」



 日下部先生の悲鳴が職員室に響き渡る。


 そんな彼女の悲鳴を聞き流し、あずきは職員室を飛び出すと、愚妹あほたれまおが居る六本木ダンジョンへとダッシュした。

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