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第七十話 魔王様、偽る

「どっ、どど、どうなってんだ!?」



 スカベンジャーさんたちの声が森の中に響き渡る。



「S級モンスターの麒麟をぶん投げたぞ!?」

「あの突進攻撃を食らってピンピンしてるなんて……ありえねぇ!」

「あ、あの子、マジで何者なんだ!?」



 めちゃくちゃビックリしてるみたい。 


 う〜ん、ちょっとマズいかな?


 できるだけ目立たずにいたかったんだけど……。


 でも、全力で遊ばないとシカシカちゃんに失礼だしなぁ。



「きゅ……っ」 



 なんて考えていたら、シカシカちゃんが空中でくるっと身を翻し、綺麗に着地した。


 おお、すごい!! 


 新体操みたいでカッコいい!


 10点!



「ギャウッ!」



 なんて感心してたら、シカシカちゃんが突っ込んできた。


 まだまだ遊び足りないって感じがする。


 うん、良いよ! 遊ぼう!



「ギュギュッ!」

「どっせぇぇえいっ!」

「かっ、体で受け止めたぁあ!?」



 全力でぶつかってきたシカシカちゃんを、がっぷり四つの体勢で受け止める。


 あ、ちょっと待って!?


 これって……「相撲をしよう」の合図では!?


 モンスちゃんたちって、ほんと相撲が大好きだね!



「しかたないなぁ! じゃあ、この草ゾーンから落ちたら負けってことで!」



 まおたちが今いるのは、周囲2メートルくらいに草がびっしりと生えた場所。


 まさに土俵って感じがする!



「いくよ、シカシカちゃん!」

「ギュ、ギュギュッ!?」

「はっけよい……のこったぁ!」



 両足をふんばって、シカシカちゃんを一気に1メートルほど押し込む。


 このまま一気に土俵際に──と思ったけど、シカシカちゃんは四肢を使ってふんばる。


 おっ、シカシカちゃんってば、なかなかやるじゃん!!


 だけど、まおの力はこんなもんじゃないよっ!



「ふんっ!」

「……キュッ!?」



 ずりりっとシカシカちゃんが後ずさった。



「ふんっ! ふんふんふんっ!」

「キュキュッ!?」



 必死にふんばろうとするシカシカちゃんをグイグイと押し込み、あっという間に草の境界線まで押しやる。


 ふふふ、このまま一気にいっちゃうもんね!


 と、視界の端っこに、目を丸くしてるスカベンジャーさんたちの姿が映る。



「……も、もしかしてあの子、麒麟と相撲をしてるのか?」

「一体何を見させられてんだ俺達は」

「幼女がS級モンスターにパワー勝ちしとるが……」



 あっ、また幼女って言った!



「ふんぬぅ! まおは幼女じゃねぇええっ!」



 怒りをパワーに変えて、最後の一押し。


 角を持ってシカシカちゃんを持ち上げる。


 ちょっとだけ手のひらがビリビリしたけど、そのまま草ゾーンの外に押し切った。



「やったぁ! まおの勝ちっ! 決まり手〜、押し出し〜!」

「きゅう……」



 シカシカちゃんが、すごく残念そうにがっくりとうなだれてしまった。


 そんなシカシカちゃんの背中をぽんと叩く。



「元気だしてシカシカちゃん! 勝負はまおの勝ちだったけど、かなり強かったよ! ジジイでした!」

「……きゅ?」

「……え? ジジイ?」

 


 シカシカちゃんとスカベンジャーさんたちが、同時に首をひねった。



「ど、どういう意味なんだ?」

「わからん」

「あ、もしかしてグッドゲーム(GG)のことか?」



 うん、そうとも言う!

 

 いい戦いをした相手を褒め称える最高の言葉!!



「いい勝負だった! また遊ぼうね、シカシカちゃん!」

「……きゅうっ」



 そんなまおの称賛に、はっと顔をあげるシカシカちゃん。


 なんだか目がキラキラしてる。



《【以心☆伝心】が発動しました》


「……きゅきゅっ♪」



 スキル発動のアナウンスと同時に、シカシカちゃんがペロッとまおの頬を舐めてきた。


 あらっ。


 あららっ! 


 かわいいですねっ!



「えっへっへ、楽しかったよね、シカシカちゃん」

「きゅっ!」



 じゃれついてくるシカシカちゃん。


 頭をこすりす付けてきたので、背中をナデナデ。


 はわわ〜! シカさんの毛ってゴワゴワしているはずなのに、ふわっふわで肌触りが凄まじい!


 未知のモンスちゃん……可愛すぎるっ!!



「お、おい」



 と、ふたたびスカベンジャーさんの声。


 そっちを見ると、顔を青くしている彼らがまおのそばに来ていた。



「そ、そのモンスター、触って大丈夫なのか?」

「はい! このように仲良くなれました!」

「な、仲良く……」



 三人同時にごくりと息を飲むスカベンジャーさんたち。


 そのとき、ぶうんとドローンちゃんが飛んできた。


 これは配信用のドローンちゃん……?


 でも、まおは配信してないし。


 ……あっ、もしかして、この中に配信中の人がいる!?



「あ、あの、誰か配信してます?」

「え? あ、ああ。俺がやっているが?」



 スカベンジャーさんのひとりが手を挙げる。


 あ、やっぱり!


 変装してて良かったぁ!


 いきなり身バレしちゃうところだったよ!



「なぁ、ちょっといいか?」



 配信していたスカベンジャーさんが続ける。



「今、俺のリスナーから教えてもらったんだが、あんたってもしかして、ネットで噂になっていた魔王まおなのか?」

「いえ、違いますけど?」



 速攻で否定。


 視聴者さんがどれくらいいるのかはわからないけど、正体を明かすわけにはいかないもんね。


 まおは今、天草高校で授業を受けてます!



「……え? 魔王まおじゃないのか?」



 キョトンとした顔をするスカベンジャーさん。



「マジか。俺もそうじゃないかと思ったんだが……」

「しかし、魔王じゃないってことは、モンスターを従属化できるスカベンジャーが他にも居るってことになるよな……?」

「いやいや、モンスターを従属化させるバケモンなんて他にいるわけがないだろ」

「だけど違うって言ってるし……」



 こそこそと耳打ちしあうスカベンジャーさんたち。


 これはちょっと嫌な流れだな。


 面倒なことになる前に逃げちゃうのが吉……だけど、このまま名乗らずに去るのは逆にまずいかもしれない。


 だってほら、「0号ダンジョンに正体不明のプリティなスカベンジャーがいた」→「あんなプリティなのは、まおちゃんしかいない」→「ズル休み乙」ってことになりかねないじゃん?


 ここは偽名を使って存在を偽ろう。


 それも、説得力がありそうな名前がいいんだけど……。


 あっ、良いこと思いついた



「良く聞け野郎ども!」

「……え?」



 まおの声に、スカベンジャーさんたちが一斉にこちらを向く。



「我は魔王まおではない! 異世界の王……魔王イブリズであるぞっ! 頭が高ぁぁい! 控えおろう!!」



 魔王っぽく胸を張って、近年稀に見る最高のドヤ顔を披露した。


 ぱっと頭に浮かんだ名前だけど、結構いいアイデアだったかも。


 この名前を知ってるの、チンチン丸さんくらいだし。


 魔王を自ら名乗るのはちょっとヤだけど、変な噂が立つよりいくらかマシってことで。



「ま、まま、魔王……イブリズだって!?」



 スカベンジャーさんたちが、ギョッとした。



「初めて聞く名前だが、魔王まおとは別の魔王ってことか!?」

「別の魔王って、これは一大ニュースじゃないか!?」

「これはすぐにツリッターで広めなければ!」

「リスナーのみなも広めてくれっ!!」

「……あ、あれっ?」



 ん〜、ちょっと待って?


 これは予想外の展開。


 まお的には「魔王イブリズだって!? これは危険すぎる! 配信を終わらせて逃げないと!」みたいな反応を期待してたんだけど……。


 もしかしてやぶ蛇だった?



「え、えっと……というわけで、さよならっ! 魔王イブリズはクールに去るぜ!」

「……あっ!」

「ちょ、ちょっと待って!? 新魔王さん!!」



 シカシカちゃんにまたがり、サササッと高速移動で立ち去る。


 そのまま一目散にエリア2の方向へ。


 しばらくして後ろを振り向いたけど、スカベンジャーさんたちが追ってきているような気配はない。


 ふぅ、危なかったぜ。


 二人目の魔王とか、ちょっと騒ぎになりそうだったけど、まぁいいよね。


 まおに直接、害があるわけじゃないし……。


 0号ダンジョンに魔王イブリズが現れた──くらいのもんでしょ。


 うん、良い良い。


 ネガティブに考えないのがまおなのだ!


 ──てことで、そのままシカシカちゃんと探索続行することに。


 エリア2に入ったんだけど、筋肉ムキムキの亜人モンスちゃん、アルケインオーガちゃんがいた。


 この子って確か、渋谷8号の最下層ボスモンスちゃんだよね?


 ボスモンスちゃんが上層エリア2に出るって、やっぱりこのダンジョンってばいろいろとおかしい。


 これはゲキカワモンスちゃんの期待が膨らむわ!


 というか、上層エリア2で筋肉マッチョのモンスちゃんが登場するなんて、みのりちゃんが来てたら、大興奮だっただろうなぁ……。  

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― 新着の感想 ―
[一言] >アイアムイブリズ! これ「今話題のダンジョンで人が死んじゃうのは、魔王イブリズってやつの仕業なんだ(草加○人並感」と、冤罪(?)を押し付けられる可能性があるんじゃ…?
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