第六十九話 魔王様、未知のモンスターと出会う
六本木は物々しい雰囲気だった。
至る所に警察官が立っていて、道行く人々のほとんどが外国人。
まだお昼前の時間帯なのにビジネスマンっぽい人たちは皆無。
なんだか外国の街に来ちゃったみたい。
や、前から六本木交差点あたりは外国人だらけだったけど、流石にここまでじゃなかったよね?
もしかしてこの人たち、全員スカベンジャーさん……なのかな?
「……へ、変装してきて正解だったかも」
六本木から乃木坂方面へ向かいながら、ほっと胸をなでおろすまお。
だってスカベンジャーさんだったら、まおのことを知ってる人もいそうだし……。
平日の昼間に知り合いとばったりなんてことはないだろうけど、念の為家を出るときに変装してきたんだよね。
マスクにグラサン……はデフォだけど、黒い地味な帽子に、普段は絶対着ないようなジャージの上下セット。
ビル街のガラスに映る自分の姿からは、まお成分を微塵も感じない。
う〜む、我ながら完璧な変装すぎる。
まおってば天才では?
「はは〜ん♪ むはは〜ん♪」
身バレの心配がないと鼻歌も出てきちゃうってもん。
てなわけで、軽くスキップしながら可愛いモンスちゃんたちが待つ0号ダンジョンへと向かう。
八十神さんに教えてもらった情報によると、乃木坂の路地裏にあるマンションが0号ダンジョンの入口だったよね?
「……ええっと、この路地かな?」
電柱の影に隠れてコソッと様子を伺う。
身バレは心配してないけど、路地裏ってちょっと怖いからさ……。
いかにもスカベンジャーさんっぽい、厳つい見た目の外人さんがたくさんいる。
中には警察官と言い合いをしている筋肉マッチョの黒人さんも。
め、めちゃくちゃ怖い……。
だけど、この路地で間違いないなさそう。
「し、失礼するでごわす」
まおは日本人の伝家の宝刀、「ごめんねチョップ」(人混みをかき分けて進むときにやる、手刀を縦にチョイチョイするアレ)しながら外人さんたちの間を通り抜ける。
やがて白いタイル張りの綺麗なマンションが見えてきた。
あれだ! ネットで見たから間違いない!
「ええっと……確か102号室だったよね?」
地上に近くて助かる。高いと怖いし。
今どきめずらしくエレベーターもついてないっぽいし、5階とかだったらダンジョンに入る前にバテちゃってたところだよ。
そうしてたどりついた102号室。
どうやらまだ立入禁止にはなってなさそうだ。
ドアを開けて、素早く中に入る。
「……す、すごい」
入ってビックリ。
待機エリアには、大勢のスカベンジャーさんたちがいた。
平日の昼間なのにすごい。
やっぱりみんな、一攫千金を狙ってるんだな。
ざっと見た感じ、9割外国人かな?
色々な組織が外国人を雇って0号ダンジョンに潜らせてるって噂は本当だったみたいだね。
しかし、と端っこで探索準備をしながら思う。
他のダンジョンの待機エリアと違って、すんごい高揚感に満ちあふれている気がする。
なんていうかこう、浮き足し立ってるっていうか……。
みんな一攫千金の魔力に魅了されちゃってるのかな?
この雰囲気に呑まれないようにしとかないとね。
みんなはみんな。まおはまお。
いつも通りにダンジョンに潜って──モンスちゃんを愛でるだけ!
「ふっふっふ……待っててよ、未知のSS級のモンスちゃん! うっは〜! バイブスぶちあがるわぁあああぁっ!」
思わず天井に向かってガッツポーズ。
すると、周りのスカベンジャーさんからの視線が。
「……金に魅了されてるな、あれは」
「だな。ああいうふうになったら終わりだよな」
「かわいそうに」
「……」
何だろう。
哀れみの視線を向けられている気がするけど、そんなことないよね?
***
今回は配信しないのでドローンちゃんは起動しなかったけど、ステータスが見られるARコンタクトは装着してダンジョンへと足を踏み入れた。
これがあれば未知のモンスちゃんの名前とかわかるからね。
まぁ、いつもの流れで、つい配信しちゃいそうになっちゃったけど……。
マジで危ない。
今日は学校を休んでいるんだから、配信したらアウトだよ。
「うわ! 森だ!」
待機エリアのドアを開けた先に広がっていたのは、森林地帯だった。
熱帯雨林みたいな言葉がピッタリの蒸し暑い森──。
ダンジョンなのに森なんて不思議だよね……って思ったけど、そう言えばピカドラちゃんと出会った恵比寿9号も森ダンジョンだったっけ。
「てことは、恵比寿9号と似たモンスちゃんが出てくるのかな?」
あのとき会ったのはイタチのモンス、エリオルちゃん。
他にも歩きキノコちゃんとかいたっけ。
流石にピカドラちゃんは出て来ないと思うけど、同じくらいカワユイモンスちゃんたちに期待だね!
というわけで、まずはエリア1を軽く散歩してみることに。
けど、あんまり目立たないようにこっそりと……。
周囲にはたくさんのスカベンジャーさんたちがいて、ドローンを飛ばしている人もいるからね。
変装してるとはいえ、配信にまおが映っちゃうなんて失態は避けたいところ。
「……ん?」
人目を避けて歩いていると、早速、変な生き物を発見。
全身毛むくじゃらの丸っこいモンスちゃんだ。
手足はなくて、毛玉の真ん中につぶらな瞳がある。
「……きゅっ?」
ぱちくりと不思議そうにまおを見ている。
か、可愛いな。
ネットにも出てなかったし、明らかに新種のモンスちゃん。
この子……なんて名前なんだろう?
「ふっふっふ……こういうときの『ステータスオープン』なのだっ!」
八十神さんに提供してもらった最新ARコンタクトの新機能!
すぐにステータス画面が目の前にぶうんと表示される。
―――――――――――――――――――
名前:コロモックル
レベル:67
HP:1100/1100
筋力:72
知力:98
俊敏力:150
持久力:87
スキル:【超再生】【なかまのうらみ】
―――――――――――――――――――
「……コロモックル!」
うわぁ、いかにもって感じの名前!
ええと、コロモックルだから……もっくるんって名前がぴったりだよね。
「こんにちは、もっくるん」
「……ぐぅ?」
不思議そうに首を傾げる。
首はないけど。
ていうか、レベルは67か。
みのりちゃんが48だったから、結構強いほうなのかな?
危険なスキルは持ってなさそう。
この【なかまのうらみ】っていうのはちょっと気になるけど。
「とりあえず、仲良くなっておきましょうかねぇ」
早速【以心☆伝心】を発動させようと近づいたんだけど、一歩踏み出した瞬間、ピューッって逃げていっちゃった。
「きゅきゅきゅっ!」
「は、速っ!?」
目にも止まらぬ速さで森の中に消えていくもっくるん。
す、すげぇ。
でも、足がないのにどうやって走ってるんだろ……。
某アニメの青いタヌキさんみたいに、地面から少しだけ浮いてるとか?
しかし、もっくるんには逃げられちゃったけど、初っ端から知らないモンスちゃんに会えるなんて幸先が良いな。
「……0号ダンジョン、かなり楽しいかも!」
この調子でどんどん行っちゃいましょう!
てか、ネットの情報だとエリア1から危険なモンスターだらけって話だったけど、全然そんなことないじゃん。
だってほら、あそこにも無害そうな可愛いシカさんがいるし!
「やっほ〜、シカさん! はじめまして! 良かったらまおと友達に──」
「……キシャアアアッ!」
「ぎえっ!?」
シカさん、まおを睨みつけ全身に黄金色のオーラを纏う。
こ、これは明らかなオコ……?
もしかしてお昼寝中だったのかも。
―――――――――――――――――――
名前:麒麟
レベル:177
HP:2800/2800
筋力:220
知力:210
俊敏力:130
持久力:280
スキル:【サンディゴⅣ】【避雷針】【流星光底】【なかまのうらみ】
―――――――――――――――――――
「なになに? 名前はええっと……シ……シカシカ……?」
読めないよ!
ちゃんとルビをふってくれないと!
良くわからないから、キミは「シカシカちゃん」で。
というか、レベル高っ!
もっくるんの倍以上あるじゃん。
見た目から強そうな感じ、するもんな……。
「お、おい、あんたっ!」
と、背後から声がした。
振り向くと、顔を青くしている三人の男性スカベンジャーさんが。
「はっ、早く逃げろっ! そいつはS級モンスターだぞっ!」
「急いでこっちにこい!」
「致死級の電撃攻撃をしてくるヤツだ! 早くしないと黒焦げにされるぞ!」
「……S級?」
なるほど。
もしやと思ってたんだけど、やっぱりS級だったみたいだね。
だって……メチャクチャ可愛いもん!
「よしよし、早速【以心☆伝心】でお友達になっちゃいましょうかね」
「……っ!? お、おい! 何をしてる!?」
シカシカちゃんににじり寄るまおを見て、悲鳴を上げるスカベンジャーさん。
「馬鹿野郎! お前、死にたいのかっ!?」
「そ、そいつに近づくなんて自殺行為で──」
「キシャアアアアッ!」
甲高いシカシカちゃんの鳴き声が響く。
瞬間、ズドンと天井から巨大な雷が、まおの頭に落ちてきた。
「う、うわああっ!?」
スカベンジャーさんたちの悲鳴が轟く。
その一発でまおの周囲の大地がえぐれ、樹木が裂けて燃え上がりはじめた。
「すごいすごい! 大きな木が一瞬で燃えちゃった!」
ぱちぱちぱち。
思わずシカシカちゃんに拍手!
今のがスカベンジャーさんが言ってた電撃攻撃ってやつだね!
でも……致死級っていうのは、ちょっと盛りすぎじゃない?
だって、全然痛くなかったし。
「……あれ?」
シカシカちゃんとスカベンジャーさん、なぜか目が点に。
え? なんでそんな顔?
「お、おいあんた……」
スカベンジャーさんのひとりが、恐る恐る声をかけてきた。
「な、な、なんであいつの電撃攻撃を受けて平気なんだ?」
「え?」
「あの攻撃を受けて、俺の仲間は何人も犠牲になったんだが……」
「そうなんですか? ちょっとビリっとしただけでしたよ?」
「ちょっとビリっと」
唖然とするスカベンジャーさん。
お仲間さんたちもポカンとしている。
「う、嘘だろ……相手はS級だぞ?」
「こ、この子何者だ?」
「小学生……なのか?」
はい、ちょっとストップ。
今、まおのこと小学生って言いませんでしたか、あなた?
死にたいですか?
「ギャギャゥッ!」
再び、シカシカちゃんの声。
体に雷みたいなビリビリ電撃をまとわせ、すごいスピードでまおに向かって突進してきた。
「あ、わ」
突然すぎて、ちょっと反応が遅れちゃった。
まばゆい光と衝撃が、同時に襲いかかってくる。
気づけばシカシカちゃんの角がまおの腹部にグサッと──。
「……あれ? 痛くない」
角の先っぽがプスッと刺さってたみたいだけど、ジャージすら破けてない。
それを見て、ああと完全に理解した。
これ──戯れだわ。
取っ組み合いのじゃれ合いをしたいって意思表示なのかもしれない。
これは仲良くなるチャンスでは?
「よっしゃ!」
俄然やる気がみなぎる。
遊びなら任せて!
「まお、高い高いが得意なんだから!」
シカシカちゃんの角を掴んで、ポイッと投げ飛ばす。
ぽかんとした顔のシカシカちゃん、華麗に宙を舞う。
「「「……うそおおおおおおっ!?」」」
スカベンジャーさんたちの綺麗にハモった声が、森の中に響き渡った。
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