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第六十八話 魔王様、ひらめく

 六本木にイレギュラーの0号ダンジョンが現れて3日。


 ダンジョン界隈は大騒ぎになっていた。


 ネットやSNSはもちろん、連日のように地上波のニュースでも0号ダンジョンのことが伝えられている。


 テレビでダンジョンのことがニュースになるのはまおとしても嬉しいんだけど、今回に関してはあんまり喜ばしくない。


 だって、そのほとんどがネガティブな内容だったんだもん。


 ダンジョン内で死んじゃったらホントに命を落としちゃうんだし、仕方がないことなんだけどね。


 だからスカベンジャーさんたちの足は0号ダンジョンから遠のいている──のかと思いきや、人で溢れかえっているらしい。


 というのも、昨日、港区の区長さんが声明を出して、近々正式に立入禁止になることが決まったからだ。


 ダンジョンに入ることができなくなる前に一攫千金を狙おうと、命知らずのスカベンジャーさんたちがやってきてるってわけ。


 特に海外勢の出入りがすごくて、六本木は前以上に外国の街みたいになってるっぽい。



「な、なんだか大変なことになってきたね……」



 放課後の部室。


 部屋のど真ん中に鎮座するこたつ(今はテーブルだけだけど)でスマホをいじっていたちずるんが、震える声でそうきりだした。



「ひ、ひ、非公式だけど、この数日で、50人近いスカベンジャーが命を落としてるみたい。す、すぐに立ち入り禁止になりそうだよね」

「ごっ、50人もでござるか……っ!?」



 ギョッとしたのは、隣で紙パックのオレンジジュースをチューチュー飲んでいるみのりちゃんだ。



「う〜ん、そんなに犠牲者が出てるでござるか……確かに今日にでも警察が動きそうでござるね。ちなみに50人っていうのはどこ情報でござるか?」

「け、警視庁だよ。データベースにアクセスして調べたから、間違いない……」

「……相変わらずちずる殿はすごいでござるな」

「い、い、今のはオフレコだぞ」



 しっと人差し指を口元に当てるちずるん。


 ちずるんってばスマホの写真データを開くように、他人のパソコンのデータにもアクセスできるからすごいよね。


 流石あずき姉が一目置いてるだけある。


 まおは自分のスマホの操作すら、おぼつかないのに。



「あ……こ、これ見て。0号ダンジョンで確認されたモンスターみたいだよ」

「ええっ!? モンスター!?」



 その言葉につい手が伸びかけてしまったが、ぐっとこらえて引っ込めた。


 まおの代わりに、みのりちゃんがスマホを受け取る。



「……うわ、すごい! これって、グリーンベヒモスでござるか!? ほ、惚れ惚れする筋肉!」

「グリーンベヒモス!?」



 ってアレだよね?


 みろろんの親戚みたいな、ゲキカワ雄牛モンスちゃん。


 確かランクはA級だっけ。



「そうですよ! ほら、見てくださいよまお殿! この写真なんて、まお殿が好きそうなポーズで写ってて──」

「ぐわっちょい!」



 ピシッと空手チョップのポーズを取るまお。


 これは、煩悩を断つための気合の掛け声である。



「その子をまおに見せちゃだめだよっ!」

「……えっ?」

「どど、どうして?」



 みのりちゃんに続き、ちずるんも首をかしげる。



「だってモンスちゃんの画像見たら……今すぐにでも0号ダンジョンに行きたくなっちゃうもんっ!」



 さっきからふたりの会話に混ざれていないのは、そのせいなのである。


 八十神さんから連絡があった日、0号ダンジョンで確認されたモンスちゃんを調べてらダンジョンに行きたくなっちゃって、こっそり家を抜け出そうとしたところお母さんに見つかって捕縛されちゃったし。


 どうやらあずき姉がお母さんに告げ口してたっぽいんだよね。


 「六本木に現れた超危険なダンジョンにまおがこっそり行こうとするから、部屋にしかけてる監視カメラで動向を見守ってて──」だって。


 お前、いつのまにまおの部屋に隠しカメラなんてしかけてたんだ! 


 ──なんてツッコミは置いといて、またぞろ0号に行こうとしたら、ダンジョン禁止令が有栖川家に出ることも微レ存……。


 故にまおは、0号ダンジョンの可愛いモンスちゃんの姿を目に入れることができないのだ!!



「な、なるほど」

「そんなことがあったんでござるね」



 事情を聞いたちずるんとみのりちゃんが深々と頷く。



「だ、だ、だけど、まおさんなら命の危険なんてなさそうだけど……?」

「で、ござるよね? 掲示板の情報では上層にはA級やS級のモンスターがひしめいていて、エリア2にすら進めてないみたいでござるが、まお殿なら無傷で最下層をクリアできそうでござる」

「や、まおもそう思う」



 首が折れちゃうくらいに頷くまお。


 S級って言ったらわんさぶろうと同レベルってこと。


 つまり、いざとなったらわんさぶろうとかみろろんとか、ぴかどらちゃんを呼んじゃえば事足りるってことだもん。


 だけど、お母さんやあずき姉がその説明で納得するわけがないし。


 行くとなったら学校をズル休みして、お母さんが家にいない(お母さんはパートで働いているのだ!)時間を狙うしかないんだけど……。



「……」



 しばし、黙考。


 激しく揺れ動くまおの心。 


 はっきり言って、ずる休みなんてやろうと思えばできる。

 

 仮病を使えば一発だし。


 だけど……もしバレちゃったら怒られちゃうわけで。


 怒られてダンジョン禁止令が出ちゃうかもしれないわけで!


 そんなリスクを負ってまで0号ダンジョンに行きたいのか!?


 ……いや、行きたいけどさ!


 だってそこら中にS級に可愛いモンスちゃんがいるんだよ!?


 パラダイスじゃん!!



「……だ、だめだっ」



 だけど、がっくしとうなだれるまお。


 ちずるんが声をかけてくる。



「な、な、何がだめなの?」

「ズル休みしてまで0号ダンジョンに行くなんて、良くないよね……」

「え? ズル休み」

「うん。応援してくれてるお母さんとかあずき姉を裏切る行為だし。ここは大人しく静観してるよ……」

「そ、そこまでして行きたいんだね……」

「流石まお殿でござる……」



 ぽかんとした顔をするちずるんとみのりちゃん。


 だけど、まおの目に映っているのはちずるんたちではなく、遠く離れた0号ダンジョンにいるはずのグリーンベヒモスちゃんの姿。


 ああ、会いたかったな、グリーンベヒモスちゃん……。


 それから、八十神さんに提供してもらった最新ARコンタクトの機能についてアレコレとちずるんと情報共有し、部活はお開きに。


 途中までみのりちゃんと一緒に帰ったんだけど、みのりちゃんから「ま、まお殿、魂が半分口から出てるでござるよ?」と突っ込まれちゃうくらい上の空だった。


 0号ダンジョンのことが気になりすぎて、家に帰っても宿題も手がつかず。


 いや、もともと宿題は手についてないんだけど……。



「……ぬわあああああっ! ぜろごーだんじょん!」



 ベッドにダイブして、スマホをポチポチ。


 検索したのは、もちろん0号ダンジョンのこと。


 今日の半日でも色々な情報が出回っていた。


 世間の予想では、やっぱり今日明日中に0号ダンジョンが立ち入り禁止になるっぽい。これだけ人的被害が出てるし、むしろ遅いくらいだってのが世間の意見っぽい。



「……あっ、グリーンベヒモスちゃん」



 ダンジョンWikiに、現在0号ダンジョンで確認されているモンスちゃん一覧が更新されていた。


 グリーンベヒモス、ミノタウロス、ケルベロス。


 オルトロスにティアマット。


 おまけにS級の上位種──SS級の存在が確認されたとかされなかったとか。


 思わず身震いしちゃった。


 ホントにA級以上のゲキカワモンスちゃんだらけじゃん。


 さらにSS級とか……。


 立入禁止になっちゃったら、二度と会うことはできないかもしれない。


 やっぱり学校を休んでダンジョンに行くべきじゃあ──。



「……いやダメダメ」



 ばふっと枕に顔を突っ込む。


 二度と会えないモンスちゃんがいたとしてても、0号ダンジョンは危険なんだ。


 だって、名だたるスカベンジャーさんたちでさえ、エリア2にも行けていないっていうし。



「……ん? 待てよ?」



 とあることが頭に浮かぶ。


 みのりちゃんの話だと、誰もエリア2に行けてないみたいだった。


 エリア2に行けてないってことは、《《エリア1には行けてる》》ってことだよね?


 つまり、エリア1は安全。


 だったら……エリア1に行くくらいなら、いいんじゃなかろうか?


 ほら、ちょっとエリア1を覗くだけ、みたいなさ?


 触りだけ見て、さよならするなら危険はない。


 それだけなら、オッケーだよね?


 まおは緻密に脳内シミュレーションする。



 ──まお、あんた無断で0号ダンジョンに行ったの!?


 ──行ったよ? だけど、安全なエリア1で引き返してきたもん。あずき姉たちに心配かけたくなかったし。仮病を使ったのはまおの優しさなの。


 ──ま、まお!? あんたってば……なんて頭が良くて家族思いでプリティで可愛いくて大人っぽい女の子なの!?


 ──へへっ、よせやい。



「我ながら良いアイデアかも!」



 キタコレ。ひらめきのまおだわ!


 バレてもバレなくても怒られないルートを考え出せるなんて、まお天才すぎる!



「……よしっ、それじゃあ明日に備えて今日は熟睡だっ!」



 なんだかワクワクしてきたっ!


 興奮で眠れなくなるかも……。


 だけど、寝不足でダンジョンに潜るわけにはいかないし、しっかり寝なきゃね!


 ぐふふふっ、まってろよ可愛いモンスちゃんたち!


 全員まとめて……愛でまくってやるからなぁ〜っ!

  

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