第六十七話 魔王様、心揺れてしまう
まおの予想どおり、ネットやSNSは六本木に出現した未知のダンジョンの話題でもちきりだった。
入口が見つかったのは、乃木坂駅付近。
新国立美術館近くのマンションの102号室が、未知の新ダンジョンにつながっていたみたい。
ダンジョンの入口が新たに見つかるなんてほんと珍しい。
ダンジョンWikiによると、「ダンジョン黎明期」と言われている5年前までにあらかたほとんどのダンジョンが調査され、号数が決めらたみたいだし。
その「最終調査」が終わって以降、新しいダンジョンの出現は確認できてないんだって。そのせいもあって、今回の件は大ニュースになってるんだろうな。
「……あ、八十神さんが動いてるんだ」
真っ暗になってるまおの部屋──。
ビッグニュースに興奮冷め上がらぬままベッドに潜り込んだまおは、スマホで六本木ダンジョンの情報を漁っていた。
「あ、そっか。乃木坂って八十神さんの会社があるところだよね?」
先日、試作ARコンタクトを受け取りに行ったから覚えてるもん。
八十神さん自身はツリッターで情報発信はしてないみたいだけど、ダンTVでライブをしてるっぽい。
ど、どうしよう。めちゃくちゃ気になる。
「だけど、今見ちゃうとなぁ……」
壁の時計(劇場版魔法少女スカーレット☆マニキュアの限定時計!)を見ると、深夜22時をまわっていた。
今、配信を観始めちゃうと寝不足確定コースになっちゃう。
だけど……いちスカベンジャーとして、これは観ないわけには行かないよね!
乗るしかない! このビッグウェーブに!
てなわけで、ポチポチッと。
八十神さんのダンTVチャンネルは登録してあるから、簡単にアクセスできたんだけど──。
「あれっ!? もう配信終わっちゃってる!?」
チャンネルはオフラインになっていた。
うわ、10分前に配信が終わっちゃってるよ。
タイミング悪すぎ……。
新ダンジョン、どんな雰囲気なのか見たかったのに。
アーカイブはサブスク会員限定にしてるみたいで、見ることはできなかった。
「ん〜、ツリッターに写真とか出てないかなぁ?」
八十神さんじゃなくて、別の人でも良いんだけど……。
六本木、新ダンジョンで検索をかけてみるといろいろな情報が出てきた。
その中に、気になるニュース速報がひとつ。
六本木に出現したダンジョンで事故。探索中の男性5名が死亡──
「……あ〜、早速失敗しちゃったのか。結構号数が高いダンジョンだったのかもね」
潜ったのは登録者10万人くらいの、実力派スカベンジャーさんっぽい。
てことは、新ダンジョンは少なくとも20号ダンジョンレベル?
いや、他にも結構実力があるスカベンジャーさんとパーティを組んでたっぽいしら、ひょっとすると最難関の30号レベルかも?
「……いや、待てよ?」
なんて呑気に考えながら、ふと気づく。
そもそもだけど、これ、ニュースにする必要あるかな?
だってほら、モンスちゃんにやられてリセットしたってだけだよね?
や、リセットしちゃった本人さんにとっては悲しすぎるニュースだけど、別にホントに死んじゃったわけじゃないし。
それに「リセット」じゃなくて「死亡」だなんて、ちょっと大げさすぎ。
マスコミってこういうところあるよね。
なんでも過大表記しちゃうっていうかさ。
と、魔法少女マニキュアのオープニングソングが鳴った。
まおのスマホの着信音である!
「……え? 八十神さん?」
スマホに表示されたのは、八十神マリア琴子さんの名前。
電話をしてくるなんてびっくり。
だって、クリーナーズのお誘いのときや、ARコンタクトを提供してくれる話をもらったときはガチ矢文だったし。
「こんばんは、八十神さん。どうしたんですか? こんな時間に」
「遅い時間に大変申し訳ありません。ご迷惑ということは承知なのですが、一刻も早くクリーナーズ関東チームリーダーのまおさんと情報共有しておきたいことがありまして」
「……あ。もしかして、六本木に出現したダンジョンのことですか?」
「ご存知でしたか」
やっぱりか。
あのニュースの件と関係があるのかな?
「ダンジョンで事故っていうニュースを見たんですけど、有名配信者の方がリセットしちゃったんですか?」
「いえ、リセットではありません。文字通り、お亡くなりに」
「……へっ?」
しばし呆然。
ちょっと待って? お亡くなりってことは……つまり……?
「えええっ!? マジのマジで死んじゃったんですか!?」
「はい。どうやら乃木坂に現れたこのダンジョン、今までのダンジョンルールから逸脱しているようなのです」
それから八十神さんが現在わかっていることを事細かく説明してくれた。
まだ調査途中らしいんだけど、他のダンジョンと大きく違うことは「ダンジョン内で命を落とせば実際に死んでしまう」ということらしい。
「ただ、悪いことばかりでもありません。この新ダンジョン内で発見されたアイテムは外に持ち出すことができるようなんです」
「……ファッ!? マジですか!?」
「ええ、マジのマジです」
それって結構ヤバいことなのでは?
これまでダンジョン内で発見したアイテムは外に持ち出すことができないっていうのがダンジョンでのルールだった。
ダンジョンで金銀財宝を見つけても意味がない。
だから多くの人がダンジョンへの関心を失い、ただのアトラクションになったんだけど──。
「噂を聞きつけてすでに多くの組織が動いているようです。ニュースにもなっていますし、行政機関が動くのも時間の問題でしょう」
「行政機関……?」
眉根を寄せてしまうまお。
行政機関……ってなんだっけ?
「ダンジョンをインバウンドで活用していた観光庁は早速WEBサイトからダンジョンに関する情報を削除していますし、死者が増えれば警察や自治体……さらには国が動く可能性もあります」
「く、国……」
な、なんだかスケールが大きい話になってきたな。
八十神さん曰く、現在クリーナーズが新ダンジョンの調査を続けているみたいなんだけど、上層のエリア1で立ち往生しているらしい。
そりゃそうだよね。
だって、死んじゃったら終わりなんだもん……。
エリア1で確認されているモンスちゃんはA級以上。
最下層ではS級の上……つまり「SS級」のモンスちゃんもいるんじゃないかって話が出てるとか。
そんな危険すぎる場所だからか、ダンジョンナビでは「立入禁止」になっているけど強制力はなく、大勢のスカベンジャーさんが殺到しているっぽい。
う〜む、スカベンジャーさんって、ホント命知らずの人が多いんだな。
お宝をゲットすれば文字通り一攫千金だし、やられなきゃ普通のダンジョンと変わらないぜって考えなんだろうけど……危険すぎますよ。
「まおさんは関東チームリーダーで、強い影響力をお持ちでいらっしゃる配信者でもあります。なので、この新ダンジョンには近づかないよう情報を発信していただけませんでしょうか?」
「わ、わかりました! すぐにツリッターで!」
「ありがとうございます。追加で情報がわかりましたら、すぐに矢文をお送りしますので」
あ、2回目の連絡は矢文なんだ。
誰が矢文を放ってるのか詳しく聞きたいところ。
──なんて言ってる場合じゃなくて。
このダンジョンは「六本木0号ダンジョン」って名付けられたみたい。
なんでもイレギュラーすぎて号数がつけられないんだとか。
八十神さんとの電話を切って、早速ツリッターで「六本木に出現した0号ダンジョンは中でやられるとホントに死んじゃうからみんな近づかないで! まおとの約束だよっ!」って注意喚起をした。
──だけど。
「……SS級かぁ……」
思わずため息みたいな声がでちゃった。
だって、わんさぶろうの可愛さでS級なわけでしょ?
あれでS級ならSS級って……想像しただけでやばくない?
「……SS級モンスちゃん……会ってみたいなぁ……」
なんてひとりごちた瞬間、ピロンとスマホが鳴る。
LINKSで誰かがメッセージを送ってきたっぽい。
あずき姉だ。
『絶対行くなよ?』
「……」
こいつエスパーかよ。
姉妹とはいえ、心が通じ合いすぎじゃない?
すぐさま、タプタプ。
『行かないよ』
『顔、ニヤけてるが?』
「うっ……」
やばい。SS級モンスちゃん想像してニヤけてたのがバレてる。
まさか、まおの部屋に隠しカメラが設置されている!?
ポテトチップスの袋の中に小型テレビを入れて隠しカメラをやりすごしたほうがいいかな!?
「……けど、行くのは絶対だめだよ、うん」
ホントに死んじゃうとか、危なすぎるもん。
たとえ可愛いSS級モンスちゃんがいるとしても……鋼の精神で自重しなきゃ。
「…………どんなモンスちゃんがいるか、調べてみよ」
バフッと布団に潜ってスマホをポチポチ。
や、ネットで調べるくらいならオッケーだよね?
──え? 見たら我慢できなくなる?
またまた〜。
そんなことあるわけないでしょ?
まおってば、お母さんに「夕食前にお菓子食べたらだめ」って言われてしっかり我慢できる子なんだよ?
心配しすぎ! 余裕のよっちゃんイカだよ、もうっ!
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