第六十三話 魔王様、またしょうもないことを考える
翌日の放課後。
まおがやってきたのは、渋谷8号ダンジョンだった。
ここはマイホームダンジョンのひとつで、わんさぶろうと出会った記念すべき場所……。
このダンジョンでの出来事がきっかけでバズったわけだし、初企業案件をやる場所としてはピッタリだよね。
てなわけで、準備エリアでチャチャッと機材を整え、ドローンちゃんを引き連れてダンジョン内へと足を踏み入れる。
もちろん、配信開始ボタンを押すのを忘れずにポチッと。
【お、始まった!】
【こんまお〜】
【こんまお!】
早速、滝のように魔王軍のみなさんのコメントが流れていく。
【魔王様、待ってました〜!】
【まおたん、オーディションお疲れ様!】
【厳選の漢字間違えてて草だったけど】
【www】
【それもまおたんらしくて良きだろ】
【大魔王軍のダンジョン探索、楽しみにしてます!】
「……みなさん、こんまお〜……」
【( ゜д゜)??】
【ファッ!?】
【いやいや、テンションひくっwwww】
【どしたww】
ざわつくコメント欄。
……あっ、しまった。
初案件が青汁でテンションだだ下がりだったんだけど、そういうのは表に出しちゃだめだよね。
さらに、案件報酬が「二日酔いに効く生青汁1年分」だって聞いて、開いた口が塞がらなくなっちゃったけど……だめだめ。
受けたからにはしっかりやらなきゃ。
だってまおは、プロなんだから──。
「ええっと、今回のまおのダンジョンさんぽは、ななな、なんと、企業様とのコラボ回です! ぱちぱちぱち!」
【おおお、マジか!?】
【もしかして案件なのか!?】
【すご! やったね魔王様!】
【魔王様に案件依頼する企業があるなんて・・・】
【やったやん!】
【これで魔王様も一流配信者の仲間入りだな】
【てか、どこからの案件やろ?】
「みんな気になるよね!? はいっ! というわけで……青汁飲んで元気になろう! 今回は鶴亀飲料さんの生葉青汁を飲んで、健康的にダンジョンさんぽいってみま〜す! いえい☆」
粉末青汁が大量30パックも入ってる箱をカメラに掲げ、可愛く決めポーズ。
……まお、ちゃんと笑えてるよね?
【wwwwww】
【あ・お・じ・るwww】
【いやいや、なんで青汁?】
【ダンジョン探索と関連性が皆無すぎる】
【あ、わかった。これ取ってきたの酒豪のあずき姐だろ】
【↑それだ】
【草草】
【青汁なだけに草だわ】
【二日酔いにも効くらしいからなwww】
一瞬で魔王軍のみんなにバレちゃったみたい。
いやまぁ、そうだよねぇ。
これまでまお配信で、青汁のあの字も出てきたことないもん。
【スカベンジャーで青汁飲んでるやつとかおるん?】
【体が資本だからいるんじゃね? しらんけど】
【ヘラりやすい女性スカベンジャーが飲んでるとかなんとか】
【マ?】
【もしかしてバフ効果とかあったりしてw】
【長時間配信できる健康ステータスになりそう】
【それはあるな】
「お、良いこと言うね!」
その可能性は否定できないよね!
だって、青汁を飲んだら健康になるってことは、何かしらのバフ効果があるってことだし。
ダンジョン内で飲んだら、意外な効果が期待できちゃうかも……?
もしかしてまお、青汁探索の先駆者になっちゃう!?
あんまりうれしくはないけど!
「みんなが言う通り、長時間ダンジョン探索をやる配信者には体力が必要……つまり、健康体である必要があって、鶴亀飲料さんの生葉青汁がめちゃくちゃ良いってわけ! わかるかな!? わかるよね!? ねっ、ねっ!?」
【ん〜・・・】
【わかるような気がしなくもない】
【わからんけど勢いでわからせられた】
【全然わからんけど、可愛いからオッケー!】
コメントの反応も上々。
初案件にしては良い出だしだな。
よし、この流れでまずは一杯いっとくか。
こういうの、勢いが大事だから!
「というわけで、探索を始める前にちょっくら青汁を飲みたいと思います! まお、なにげに初青汁なのでワクワクで〜す!」
早速、携帯してきた水筒をカメラの前に。
てってれーん!
【魔法少女マニキュアの水筒wwww】
【幼児かよwww】
【可愛い】
【(*´ω`*)ホッコリ】
【ていうか、まおたん青汁大丈夫なん?】
【魔王様、本当に飲めるの?】
「大丈夫! こう見えてまお……野菜得意だから!」
ほうれん草とか食べられるし。
【そうか、野菜が得意なのか】
【なんだろう。不安しかない・・・】
【おら、ワクワクしてきたぞ】
【それなww】
ちょっと待って?
みんなまおのこと、見くびりすぎじゃない?
仁王立ちして青汁を美味しそうに飲んでるまおを見て、吠え面かかないでよ?
水筒にドサッと粉末の青汁を投入。
うっ。ちょっと草の匂いが……。
「よ、よし……粉末を入れたら、あとはかき混ぜるだけ! おりゃ〜っ!」
しっかり蓋をして、思いっきりシャカシャカ!
しっかりたっぷり30秒。
これくらいでオッケーだよね!?
ぱちんと蓋を開けて、水筒備え付けのコップに注いでみる。
緑色の液体がどろっと……。
「……ヴッ、臭っ」
【てか、顔www】
【今、臭いって言わなかった?】
【魔王様! 案件ですよ!?】
「ちが、言ってないから! ほら、こんなにいい香りが……ヴヴッ!」
やばい。
顔近づけられん。
ちょっと待って、ナニコレ?
もしかして100年熟成した苔が入ってた?
くそっ。青汁のやつ、こんなに強敵だったとは……。
でも、顔に出しちゃうとかプロとして失格。
どんなときでも笑顔を絶やさず、可憐に商品を紹介していくのが本物のダンジョン配信者というもの!
がんばれ、まおたん!
「み、み、みなさん見てください、こっ、この色! 香り! じ、じ、じ……実に美味しそう! ヴォエ゛……ッ」
【いや、だから顔ww】
【魔王様、顔がすごいことになってるよ!】
【顔がマジ拒否してるw】
【表情筋は正直だなぁ・・・】
【てか、通販番組かよwwww】
「……ううっ!」
通販番組とか、痛いところを突いてくるじゃないか。
商品を紹介するだけじゃ、確かに普通の通販番組だよね……。
商品を紹介して、飲むだけじゃ面白くない。
面白いからこそダンジョン配信。
そして、しょうもないことでも面白くしてこそ、一流の配信者!
ううむ、どうにかして青汁を配信と絡めることはできないかな?
例えばこう、罰ゲー……じゃなくて、青汁の印象がグッと良くなるゲームをするとか。
あ、どうせなら、魔王の汚名も晴らせるようなものだとグッドだけど。
「あ、良いこと思いついた!」
ピコーン!
思わずまおもニッコリである。
【wwww】
【可愛い】
【嬉しそうwww】
【かわゆww】
【可愛いが過ぎる】
【この顔、良くないこと思いついてない?】
【それなw】
ちょっとうるさいですよ。コメント欄。
「ダンジョンには可愛いモンスちゃんたちがいるわけじゃん? んで、まおはそんな可愛いモンスちゃんが大好きなんだけど、それが原因で魔王っていう汚名が広がっちゃってる一面もある。ということはつまり、ダンジョンでモンスちゃんを愛でなかったらいいわけで……はいっ! 今回の企画は『ダンジョンでモンスちゃん愛でちゃったら青汁一杯飲みまSHOW』です!」
どう? 我ながら良きアイデアじゃない?
飲みま「しょう」と「SHOW」をかけてるのもプロって感じがするよね。
前にも言ったかもだけど。
【またそれwww】
【ただの罰ゲームじゃねーかww】
【あの、魔王様? これって案件なんだよね?】
【モンスちゃんを愛でながら青汁飲めばいいのでは?】
【↑それはだめだろwww】
【一応、広報さんに確認したほうがいいんじゃ・・・】
【あずき:オッケーだそうです】
【はや】
【はや】
「……はやっ」
リアルタイムで確認取れるなんて、さすがあずき姉だわ。
あれ? てことは、鶴亀飲料の広報さんも配信見てるのかな?
まずい、ちょっと緊張してきた……。
【フッ軽すぎて草すぎる】
【これにはまおたんもびっくりwwwww】
【てか、魔王様がモンスター愛でなかったら青汁飲まないことになるけど良いのかね?】
【いやまぁ、ね?】
【そうなる可能性は、ね?】
【草草草】
【wwww】
【まさか鶴亀飲料さん、そうなることを先読みした上で承諾を!?】
【まおたんのこと完全に理解してる】
【鶴亀飲料さん、さすがだわwww】
「……?」
え? どゆこと?
良くわかんないけど、モンスちゃんを愛でなければ飲まずに済むだけの話だよね?
いや、確かに今まで何度かこういう企画をやって、毎回モンスちゃんの愛くるしさの前に苦汁をなめてきたよ?
だけど、青汁を飲むことと天秤にかけたら……モンスちゃんの可愛さも霞むってもんだよ!
余裕、余裕。
愛でる気がしない。
「てなわけで、モンスちゃん愛でたら地獄の青汁ごっくん企画スタートだっ!」
これは意地でも愛でるわけにはいきませんぞっ!
…………え? 今まおが作った青汁は飲まないのかって?
え、ええっと……これは一旦保留で!!
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