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第五十八話 魔王様、再び勇者をわからせてしまう

 ちょこまかと逃げていく木下を追う、しろろんとまお。



「ま、まて~っ!」

「やなこった!」



 上手く遮蔽物を利用して、姿を隠しながら逃げる木下。


 姿が隠れるのは一瞬だけど、いい感じに見え隠れするから追いかけにくい。


 こ、こいつ、逃げ慣れてる!?



《木下のやつ、逃げるの上手くね?》

《そらお前、迷惑系配信者だからな。追っかけられるの慣れてんだろ》

《逃げる勇者。追いかける魔王様・・・》

《普通は逆だよなw》

《仲間見捨てて逃げるとか勇者としてもアウトだし、組織のリーダーとしてもアウトだな》

《【悲報】木下リセットしただけじゃなく、人望もリセットされる》

《あずき:むしろ朗報定期》

《トモ:ああ、朗報だな》

《www》

《ちょwwww》



 うん、それな!


 木下が信頼を失ってモンスター愛護会が活動停止するのって、スカベンジャーさんたちにとって朗報だよね。


 だけど、このまま逃げられるとちょっと面倒……。


 またゴキブリみたいに復活してちょっかいかけられるかもしれないし。 


 どうにかしてあいつの足を止められる方法はないのかっ!?



「勇者っ! この我から逃げ切れると思ったら大間違いだぞっ!」



 背後から樹洞さんの声。


 瞬間、地面からニュニュっとツタが伸びて、木下の足を絡め取った。



「う、わっ!? 何……ぐえっ!」



 木下、派手に転倒。


 顔面強打。


 痛そう。


 だけど、ナイスだよ樹洞さん!


 その隙にとっ捕まえよう……と思ったんだけど、生えてきたツタが木下をがんじがらめにして、天井近くまで吊り上げてしまった。



「う、うわあああっ!?」



 轟く悲鳴。


 唖然とするまお。


 今まおたちがいるエリアは、天井がすごく高いお城のホールみたいなところで、木下が豆粒くらいになっちゃった。


 ……前言撤回。


 全然ナイスじゃない。


 むしろ余計に面倒になったっていうか。



「しまった、ちょっと高すぎた……」



 息を切らして追いついてきた樹洞さんも想定外だったみたい。


 チンチン丸、お前……。


 この人ってば、ホント良いところでポカするなぁ!


 あ、でもちょっと待って?


 樹洞さんが「失敗した!」みたいな雰囲気出してるってことは、魔法の射程外ってことなんだよね?


 もしやこれは好機!?



「ねぇ、しろろん? あいつのとこまでどうにかして行けないかな?」

「……わふんっ!」



 しろろんは、しばし周囲を眺めるとダダッと走り出す。


 そして、ダンジョンの壁の出っ張りを利用して、ぴょんぴょんと跳躍を繰り返しながら登っていく。


 おお、流石は狼!


 凄い身体能力!


 背中に乗ってるまおは、振り落とされそうでむちゃくちゃ怖いけど!



「ああっ!? ズルいですぞ、魔王様! 自分だけモンスターに乗って!」

「わっはっは! 勝負にズルいもクソもないっ!」



 それに、ツタを使って吊り上げたのは樹洞さんだし!


 壁を登りツタを渡り、ようやくたどり着いた、ツタの頂上。


 木下は必死にツタを振りほどこうとしてたけど、びくともしない。



「えへへっ、こんにちは木下さん」

「……っ!」



 ギョッとする木下ウンチ。


 ふっふっふ。


 これは勝利確定!!



「く、くそっ! すぐに俺を解放しやがれ! このクソガキゴミ魔王!」

「あれれ? 身動きは取れないのに口だけは良く動くね? ひょっとして大ピンチだってこと、気づいてない?」

「……っ!?」

「ねぇ、木下さん、どんな気持ち? 今、どんな気持ち?」

「こっ、こっ、この野郎……っ!!」



 ピキピキとこめかみに青筋を立てる木下。


 だけど何もできない。


 あっはっは。いい気持ちだなぁ〜。



「ほらほら~、早くしないと、まお、スキル使っちゃうぞ☆ えいっ! どどんがどん!」

「うわっ!?」

「ざんね~ん、スキルは使えませ~ん☆」



 見た今の顔?


 うわっ!? だって。


 ぷー、くすくす。



《草草草》

《ウザッwwww》

《これはウザすぎる》

《ウザいけどかわいいww》

《さすまおだわ》


「ほら、雑魚勇者さん☆ そのツタ早く切らないと、やられちゃうよ?」

「ざ、雑魚だと!? て、てめぇ……っ! 絶対に許さねぇ……っ!」

「あ、怒っちゃった? 雑魚なのに? ざ~こ☆ ざ~こ☆」

「……っっっっ!!!!」


《wwww》

《超絶煽りからのメスガキモードwww》

《これはひどい連携攻撃wwww》

《魔王様のメスガキモードきたああああ!!》

《生意気すぎるwww》

《ずるいぞ木下俺に代われ》

《メスガキ魔王様に罵倒されたい》

《かわいい》

《魔王様ずるい》

《色々と捗りそうではあるな》

《メスガキ魔王様の薄い本頼むわ》

《あずき:検討します》

《えっ》

《えっ》

《草》

《公式から出すの!?》

《wwww》



 ちょおおおおっと待って!?


 あずき姉ってば、またサラッとまおの許可ナシに変なもの作ろうとしてない!?


 だめだよ、ライン超えだよ!?


 この前はポスターだったけど、薄い本ってすんごくセンシティブやなつだし!



「まっ、魔王様っ! させませんよっ!」



 下界から樹洞さんの声がした。


 見下ろすと必死にツタを登ってきている彼の姿が。



「あと少しで魔法の射程……っ! 勇者はこの我が仕留めます!」



 あわわ。


 急がないと横取りされちゃいそう。


 ここはしっかり一発で決めなきゃ!



「よし! それじゃあ木下さん、しっかり歯を食いしばってね! 痛いのは一瞬だから!」

「……っ! ちょ、ちょっと待ってくれ!」



 木下ウンコがぶんぶんと首を横に振る。



「お、お、俺の話を聞いてくれ!」

「……え? 何? まさか命乞い? あんだけまおを散々コケにしてたのに?」

「あ、あれはその……口が滑ったというか、言葉の綾というか」

「それに、先日のお礼をしに来たって言ってたじゃん?」



 ほら、ドヤ顔仁王立ちでさ?



「ちっ、ちち、違う! お礼というのは、その……あの、ぜっ、ぜっ、ぜひ魔王様のお力になりたいなと思いまして……」

「え? まおの力?」

「そ、そそ、そうです! ええっと……あの、ど、ど、どうにかして私を大魔王軍に入れていただけないでしょうか!?」

「…………はい?」



 思わずポカーン。



《いやいや》

《何だよ、その取ってつけた理由はww》

《お願いすれば大魔王軍に入れて貰えると思ってんのかコイツ》

《頭勇者だわ》

《だけどこいつ、大魔王軍のオーディションに参加してなかったっけ?》

《あ》

《そう言えば》

《確かに》

《魔王様に問答無用で落とされてたけどなwwww》


「……なんだお前、魔王軍の軍門に下りたかったのか?」



 と、樹洞さんの声。


 なんとかツタを登りきったみたい。


 汗だくで今にも死にそうな顔してるけど。


 走っただけで逝きそうになるのに、よくがんばりましたね。



「魔王軍に入るために、魔王様を探していたと?」

「そ、そそ、そう! そうですよ! エ、エ、エリオットさん!」

「……ふむ」



 樹洞さんは腕を組み、しばし考える。



「魔王様、この男、実に弱っちいですが組織のリーダーを務めるくらい人望だけは厚いようです。捨て駒として使うにはもってこいかと思いますが、どうでしょう?」

「捨て駒」



 ええっと……言い切っちゃっていいのかな、それ?


 もう少しこう、手心というか……。


 しかも、その人望も現在進行系で薄くなっちゃってると思うけど。


 仲間見捨てて逃げてるもん。



「う~ん……」



 まお、しばし考える。


 モンスター愛護会を大魔王軍に、かぁ。


 ぶっちゃけ──すごく嫌だな。



「え~と、まおのスカベンジャーチームに木下を入れるのは絶対ヤだけど、使いっ走りとして使うくらいならいいかなぁ?」



 ほら、コーヒー屋さんにパシってもらったりさ?


 そういうのなら、別にいいじゃん?


 実害ないし。



《えぇ・・・?》

《木下、魔王様のパシリになるwww》

《おいおいおい》

《マジかよwww》

《【速報】大魔王軍、モンスター愛護会を傘下に収めてしまう》

《ガタッ!》

《これ、なにげにデカいニュースなのでは?》

《モンスター愛護会って会員多いし、大魔王軍は大勢力になったなw》

《トモ:まおたん正気か!?》

《あずき:あのちょっと、まおさん?》

《四天王とブレインが動揺しとるwwww》


「わかってるって、トモ様、あずき姉……」



 まお、思いつきでパシらせようとか思ってないから。


 相手の千歩先を読む、千手観音JKと呼ばれたこのまおを舐めてもらっちゃ困るよ。



「ただし、条件があります! これから迷惑行為は絶対しないこと! それと、モンスター愛護会はモンスちゃんを愛でるだけの集まりにするように!!」

「……え? モンスターを愛でる!?」



 木下、目を丸くする。


 いや、何その顔?


 もしかして、モンスター愛護を掲げてるクセに、モンスちゃんの可愛さをご存知ではない?


 はぁ、コレだから素人は。


 仕方ないなぁ。


 まおがおしえちゃる。



「しろろん、甘噛して」

「わふっ」



 木下の腕をがぶり。



「……ぎ、ぎゃああああっ!? 痛い痛い痛いっ!」

「いやいやいや、甘噛なのに騒ぎすぎだから」



 そんな騒ぐようなことじゃないし。


 いい塩梅の甘噛だから、愛情感じるっしょ?



「どう? モンスちゃんの可愛さ、理解できた?」

「りっ、りり、理解できました魔王様! な、なのでどうかお許しを! 痛たたたたっ!!!」

「……うむ、解ったのならよいぞ。許してやろう。ぬわっはっは!」



 気持ちよくなっちゃって、ふんぞり返って高笑い。 


 何だろう。この高揚感。



《魔王様、ご満悦www》

《この高笑いは間違いなく魔王だわ》

《やっぱり魔王様はガチ魔王様》

《この雰囲気はリアル魔王しか出せないもんな》

《よかったなチンチン丸!》

《だけどこれ、チンチン丸との勝負はどうなったんだ?》

《あ〜・・・》

《引き分けじゃね?》

《引き分けwwww》

《結局グレーのままで草》



 確かに勝負は引き分けだな。


 う〜ん、それじゃあちょっと後味悪いし、やっぱり今からぶっ飛ばしとく?


 だけど流石に可哀想だよねぇ……。


 なんて思ってると、グゥとお腹が鳴った。


 まおではなく、チンチン丸さんの。


 いや、そこはまおのお腹が鳴るべきじゃない?


 何、可愛い枠取ろうとしてんだ、お前。



「……とりあえず、お家に帰りましょうか。魔王様」

「そうだね。結構疲れたし」



 まおもお腹すいたもん。


 それに、結構良い時間だし、帰らなきゃお母さんに怒られちゃう。


 この前も、みのりちゃんと遊んでて帰りが遅くなったとき、「お主、処られたいのか?」って、真顔で怒られたもんな。



 あれは怖かった。


 マジで魔王みたいな顔してて──。



「……あ」



 そこでハッとするまお。


 ちょっと気づいちゃったんだけどさ、もしかしてまおのお母さんが樹洞さんの探してた魔王イブなんとかってオチじゃないよね?


 違うよね?? 

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[良い点] オカン魔王説か…良いな!
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