第五十三話 魔王様、レクチャー配信をする
「……ふぅ、ここまでくれば大丈夫だよね?」
ぴかどらちゃんとやってきたのは、中層のエリア6。
上層の最終エリアくらいまで樹洞さんが追いかけてきたのは見えてたけど、なんとか巻くことができたみたい。
変な魔法を使われたときはちょっとビックリしたけど、あの人、やっぱり運動が苦手だったみたいだね。
良かった良かった。
これで安心して配信を続けられるね。
「……よし、口直しってわけじゃないけど、今から初心者向けのダンジョン探索講座でもやっちゃおっかな!?」
魔王軍のみんなに変なものを見せちゃったし!
というわけで、ぴかどらちゃんには一旦帰ってもらう。
《おおお!》
《魔王様のレクチャー講座だと!?》
《ガタッ!》
《マジか! すげぇ嬉しい!》
「ふっふっふ、そうであろう、そうであろう……」
腕を組んで不敵な笑みをもらしちゃう。
マカロンでも要望あったからヤツだからね。
とはいえ、どんなことを話せば言いのか全くわかんないけど……。
初心者向けだから、心構えみたいなものから話していけばいいかな?
それから、ダンジョンの探索のやりかたとかコツなんかを伝えて……うん! いけそう!
「じゃあ、早速はじめるね! まず、探索する前の注意なんだけど、はじめてダンジョンに潜る人は1号ダンジョンからスタートしようね! 間違っても15号ダンジョンとか入らないように!」
《わかりました!》
《15号ってかなりレベル高いからな》
《魔王様の配信観てると余裕でいけそうに思えるけど、リセット確定だぞww》
《それな》
《基本的なことだけど大事だな・・・》
《魔王様にしては常識的なことを言ってる》
《そうだな》
《おかしいな》
おかしいって何よ!?
「ダンジョンに入ってまず確認しなくちゃいけないのはユニークスキルね! ぽっと頭に浮かんできたのがユニークスキル! モンスちゃんと戦う前に一度使ってみてね! 戦闘じゃ使えないスキルもたくさんあるみたいだから! それから、最初はモンスちゃんと戦うことは避けて、アイテムを探したほうが良いと思います!」
《どうして?》
《なんでアイテムから?》
「ええっと……武器とか防具を揃えてから本格的に探索したほうが効率的らしいです! それに、宝箱をゲットするのってダンジョン探索の醍醐味ですからね!」
ここらへんの知識は、あずき姉から教えてもらったんだよね。
まぁ、まおは初っ端からモンスちゃん愛でちゃったけど……。
あずき姉から「あたしのアドバイスをガンスルーすな!」って怒られたっけ。
《なるほど》
《確かに、最初に宝箱ゲットしたときのドキドキは今でも覚えてるわw》
《変だな・・・魔王様が偉い人のように思えてきたぞ・・・》
《すごい真っ当なことを言ってる》
《おかしい》
《さすまおではない》
「それで、実際の探索のやり方なんですけど、ダンジョンに入って、まず探索することになる上層は良いもん落ちてないので、軽くモンスちゃん愛でたらさっさと中層に行きましょう!」
《・・・え?》
《は?》
《( ゜д゜)?》
《はい?》
《あ》
《いきなり中層ですか?》
《しかも軽くモンスちゃん愛でるんですか?》
《wwww》
《雲行きが怪しくなってきたなww》
「中層に到着したら本格的に探索を開始です! もし、モンスちゃんに襲われちゃってもビビらないように! グーパンして、怯んだ隙に逃げましょう! 殴り方は腰を入れて……こう!」
壁に向かってシュッ!
ドカン!
《わぁ・・・》
《いや、壁に穴が開いたんだがwwww》
《草草》
《ダンジョン破壊はやめてもろて》
《すげぇww》
《その力があったらモンスター倒せる定期》
《魔王様、良いこと言ってるって思ってそうな顔してるな》
《ドヤ顔助かる》
ふっふっふ。
我ながらナイスなアドバイスじゃない?
画面の向こうで、必死にノートにメモってる新米魔王軍の姿がありありと想像できるぜ。
「続けますね! 中層で一通り宝箱を開けたら、チャチャッと下層に降ります」
《チャチャッと下層www》
《いや、無理だろww》
《降りない方がいい気がする》
《魔王様、ルート品は拾わないの?》
「……あ、ルート品も拾います!」
《wwww》
《取って付けたwww》
《完全にルート品のこと忘れてたな》
そ、そんなことないし!
トモ様にルート品のこと、色々教えてもらったもん!
「下層に降りたら、まずはモンスちゃんを愛でましょう! なにせ下層はそのダンジョンで一番かわいいモンスちゃんが住んでる場所……つまり、パラダイスです! 目一杯モンスちゃんを堪能したら、終わりです」
《終わったwww》
《終わるな》
《色々おかしいw》
《いつの間にかアイテム探しから愛でるモンスター探しに変わってない?》
《やっぱりさすまおだった》
《さすまお》
《これ、魔王様以外無理なんじゃね・・・?》
《そもそもソロ前提の時点でお察しなんだわww》
《参考になるような、ならないような・・・》
《いやぁ、切り抜き捗るわ~》
《先生! モンスターに絡まれたときの対処法の部分を詳しくお願いします!》
「おけ丸水産! 丁度いい感じであそこのボーンソードマンちゃんがいるので、協力してもらいましょう!」
ボーンソードマンは全身骨だらけのスリムなモンスちゃん。
可愛さはD級かな?
あの子はその名の通り剣を持っていて、倒すとゲットできるけどあまり強くない。
でも、ダンカリで2万円くらいで取引されてるのが、ちょっと不思議なんだよね。
コレクターでもいるのかな?
そんなボーンソードマンちゃんに声をかける。
「ヘイ! ほねたろう!」
「……?」
《いや、そんなタクシー止めるみたいにww》
《ボーンソードマンってB級モンスじゃなかったっけ?》
《やば。あの剣結構強いんだよな》
《10号くらいまで使える強武器だな》
《なんだか親しげだけど、あいつ推しモンなの?》
「いえ! 今命名しました!」
《今考えたんかいwww》
《そんな気はした》
《発想力がすごい》
《ベクトルはひん曲がってるけどな》
まおに気づいたほねたろうは、カタカタと音を立てながらこっちに走ってきた。
「あっ、いい感じで襲ってきましたね!」
ほねたろうは勢いそのままに、まおに向かって剣を振り下ろしてくる。
「はい! ここで相手の攻撃を躱して……こう!」
ひょいっと避けて、ボゴッ。
ほねたろうが粉々になる。
「隙が出来たので逃げます!」
くるっと反転してダッシュ!
《わ~、粉々になった》
《いや、逃げる必要ないのでは?》
《www》
《背骨粉砕したら、そらバラバラになるわな》
《ほねたろう・・・(´・ω・`)》
《さすまおすぎるwww》
《これはさすまおだわ》
「うむ、流石魔王様!!」
魔王軍のコメントに便乗して、拍手が聞こえたた。
おっ! 新人魔王軍がいるのか!?
──と思ったけど、全然違っていた。
むしろ、喜ぶべき相手じゃないっていうか。
喜々とした顔をしている、樹洞さんだ。
「……ぎえっ!? チンチン丸!?」
い、いつの間に!?
《チンチン丸www》
《センシティブな名前!》
《あの人、そんな名前だったっけ?》
《うん》
《だった気がする》
《絶対違うだろwwwww》
《おまえらwww》
「B級モンスターのボーンソードマンを素手で一撃とは、やはりあなたは魔王様に間違いない!!」
「人違いです!」
「……あっ、魔王様!?」
くるっと反転して逃げる。
せっかくいい感じにレクチャー会が出来てたのに、なんで来ちゃうかなぁ!?
猛ダッシュでエリアを駆け抜ける。
途中、モンスちゃんに遊ぼうって言われたけど、またの機会にしてもらった。
そして、エリア8に到着。
なんとか巻いたかな……とほっとしたまおの目に、物陰からこちらを見ている樹洞さんが映る。
「さすが魔王様だ。モンスターに襲われても全く意に介してない!!」
「ああ、もう! しつこい!」
再びダッシュ!
下層に降りて全速力で逃げる。
あの人、一体どこまで追いかけてくるんだよ!
「……あ、イビルアイちゃんだ!」
見つけたのは、おっきくてつぶらな目に体がついたキモかわモンスちゃん。
イビルアイちゃんとはまだ友達になってないんだよね。
す、すごい愛でたい!
だけど──。
「なるほど……魔王様、そのモンスターを従属化されるおつもりですね……?」
樹洞さんの目が。
「はっ……もしや魔王様、新魔王軍をお作りになって、この世界も手中に収めるおつもりで? 流石は魔王様、さすまおですなぁ……」
ふっふっふ、と不敵な笑みを浮かべる樹洞さん。
ううう、そんなこと言われたら、愛でられないじゃない……。
く、くそぉおおおっ!
《【悲報】魔王様、モンスターを愛でられない》
《これは結構イライラしてる?ww》
《チンチン丸さん、逃げたほうがよいのでは?》
「あのう……」
じろり、とチンチン丸さんを見る。
「ん? どうなされました? 我と戻る気になりましたか?」
「いい加減にしてもらえます? これ以上まおにつきまとうなら……グーでいっちゃいますよ? チンチン丸さん?」
「チ……チン!?」
ギョッとするチンチン丸さん。
ものには限度ってモンがあるからね。たとえまおファンだとはいえ、つきまとい行為はやめてもらわねばなりますまい。
まおは拳を握りしめ、ずんずんと大股で近づいていく。
だけど彼は全く焦っていない様子で。
「はっはっは。おやめください魔王様。転生なさった今のあなたの魔力は我の10分の1程度……我を殴れば逆に怪我をしてしまいます。それに、見た目幼女ですし。絶対怪我しますよ?」
「よっ……幼女ぉ!? カッチーン!」
《あ》
《あ》
《あ〜・・・》
《禁忌に触れちゃったな》
《終わったわ》
《存在がBANされるぞ、チンチン丸!》
こ、この野郎……っ!
まおのこと幼女って言うし、上から目線だし!
まおより運動苦手なくせに、生意気っ!
「はい、魔王軍のみんな! レクチャーの続きをやるね! こんなふうにストーカーさんに絡まれたときの対処法です!」
「だからよしなさいってば、魔王様」
「みんな、いい!? やめてって言ってるのに、グイグイこられたら──こう!」
「はっはっは、怪我をすると言ってるのに……うげっ!?」
まおの怒りのグーパンを食らったチンチン丸さんは、ダンプカーに跳ねられたような勢いですっ飛んでった。
ピンボールのようにドゴゴッと壁を跳ね返りながら、はるか彼方へと消えていく。
《ふぁぁああああっ!www》
《すごいぶっ飛び方》
《ワンパンで草なんだが》
《超・理不尽パンチじゃなくてよかったね、チンチン丸さん》
《いや、同じようなもんだろwww》
《こうしてまた一人、魔王様の手によって迷惑系スカベンジャーがリセットされたのだった・・・》
「しつこい男は嫌われるのだ……」
これ、恋愛の常識。
恋愛なんてやったことないけど。
さて、めんどくさい人はいなくなったし、講習会を続けましょうかね!
──と、思ったんだけど。
「い、今のはちょっとビックリしましたよ」
「……あれっ?」
物陰からチンチン丸さん登場。
え? なんで?
なんでピンピンしてるの?
《(゜д゜)!》
《魔王様のパンチを食らって生きてるだと!?》
《リセットしてない!?》
《てか、前に吹っ飛んだのに、なんで後ろから現れたんだww》
「リセットしてないんですか?」
「……? リセット? なんですかそれは?」
キョトンとするチンチン丸さん。
「今のは残像……我の魔法【代替術】ですよ」
「魔法!?」
ええっ、またそれ!?
というか使える魔法はひとつだけじゃないの?
チンチン丸さんってば、まおと同じ複数スキル持ちの可能性が微レ存……?
う〜む、これはどうしよう。
原理は良くわからないけど、まおが殴ったのは魔法で作られた幻だったってことだよね。
だから本体のチンチン丸さんは無事だった。
「……あ、てことは、その魔法が使えなくなるまで何度も殴っちゃえば、いつかは本体にたどりつくってこと?」
「はっはっは」
高笑いするチンチン丸さん。
「それはすごく効果的なやつなのでやめてください」
「あ、やっぱり?」
「ちょ、魔王様? そんな生き生きとした顔で近づいてくるのはやめてください……いや、ホント! マジで死んじゃうやつだから!」
「まぁまぁ、そう言わずに。ちょとだけだから。さきっぽだけ」
「ちょっとだけって何!? さきっぽって何処!?」
形勢逆転。
逃げ出すチンチン丸。
おいかけるまお。
「まて〜〜!」
「やっぱり、あなたは魔王イブリズ様だ! だって……だって、昔からこんなふうに戯れで我を殺そうとしてきたしっ!!」
《チンチン丸、確信する》
《wwww》
《戯れで殺そうとしてくるwwww》
《とんでもないこと言ってるけど、笑えてくるのはどうしてだろう》
《チンチン丸さん、苦労してんだな(´・ω・`)》
《でも、コイツの話しをまとめると、魔王様はマジ魔王様ってことだよな?》
《そう、なるのか?》
《う〜んwww どうだろうwww》
《そうだとしても、別に驚かねぇけど?》
《まぁ、既成事実だしな》
《おちつけおまいら。言ってるのチンチン丸だぞ? それだけで決めるのは流石に早計だろ》
《まぁ、たしかに》
《せやなww》
「まて〜〜!」
「や、やや、やめろっつってんだろ! ばかっ! ホントに死ぬだろっ!」
盛り上がるコメント欄をよそに、必死の形相でまおから逃げるチンチン丸さんなのであった。
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