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第五十二話 魔王様、変態からストーキングされる

 夏休みも終わりが見えてきたある日の午後。


 まおがやってきたのは、マイホームタウンの表参道。


 まおが憧れる大人の街……なんだけど、目的はもちろんダンジョン探索だ。


 夏休みが終わっちゃうという悲しい現実から目を逸らすため、今日もかわいいモンスちゃんたちを目一杯愛でちゃいましょうかね!


 ──あ、もちろん配信外でね?


 待機エリアは多くのスカベンジャーさんでごった返していた。


 それを見て、なんだか嬉しくなっちゃった。


 いやぁ、スタンピードが沈静化してきて、ホントに日常が戻って来たって感じだよね!!


 ダンジョン探索にも気合いが入るというもの。


 てなわけで、ササッと準備をすませて、いざダンジョンの中にGO!



「こんまお~~! 今日も始まりましたまおのダンジョンさんぽ! やってきたのは……じゃじゃん! 表参道15号です!」


《こんまお~~~~~~》

《こんまお!》

《今日もかわいいですね魔王様》

《おお、表参道15号か》

《懐かしいな》

《バズ後初配信がここだったよね?》


「お、良く覚えてますね! そうなんです! 懐かしの表参道15号! ていうか、音声大丈夫かな? 昨日、あずき姉から新しいドローンちゃんを渡されて初運用なんだよね。音声が小さかったら言ってね!」


《問題ない〜》

《オッケーだよ!》

《問題ないです~》

《態度を少しだけ大きくできますか?》


「表参道15号のモンスちゃん……全員まおの前に出てこいやぁああ!」


《wwww》

《態度問題ないです〜〜》

《態度デカくなりましたwww》

《いやデカすぎだろww》

《ノッてくれる魔王さま最高です! ¥5000》

《やさしいなぁ》

《かわいい》


「えへへ、スパチャありがとう!!」



 盛り上がったところで、いざ探索開始。


 表参道15号のことは配信で紹介してるから詳細は割愛するけど、何ていうか、安心感があるよね。


 何回来ても楽しいっていうかさ?


 マイホームタウンって感じがするし、前にマカロンで「ダンジョンの歩き方講座みたいなのをやってほしい」って要望があったから、ここでやるのもいいかもね。


 とりあえずは、雑談配信しながらまったり歩きますか。



「もうすぐ夏休み終わっちゃうけど、みんなは夏休みどこか行った? まおはダンジョン三昧だったんだけど」


《知ってるww》

《配信みてたし》

《俺はほぼ家でダラダラしてた》

《解説おじ:解説しよう・・・我ら会社員に夏休みはないのだ・・・》

《解説おじwwww》

《お前、リーマンだったのかww》

《(´・ω・`)おじ・・・》


「あわわわ……サラリーマンの皆、お疲れ様だよ! 頑張るのもほどほどにね! はいっ! 嫌な上司に【超・理不尽パンチ】っ!」


《草》

《www》

《元気になった!》

《むしろ俺らが理不尽パンチ食らってんだよなww》

《それな》

《まおたんエネルギーで頑張れるぜ》



 むむぅ……魔王軍にはサラリーマンさんが多いみたい。


 これは配信で少しでも元気になってもらわねば。


 だけど、何か元気になれる話のネタ、あったっけ?


 お盆に帰ってきたあずき姉のズボラ話してもドン引きされるだけだしな。


 なにかこう、笑えるような話を──。



「あ、そうだ! 面白い出来事があったんだった!」



 ほら、チンチンお兄さんの話!



《面白い出来事?》

《なんぞ?》

《魔王様の存在自体が面白い定期》

《www》


「おいっ!」



 可愛いJKを掴まえて面白いとかいうなっ!



「それで、ちょいと野暮用で家の近くのカフェにいったんだ。そしたらそのときの店員さんがすっごい面白くて、いきなりチンチ──」

「魔王様」



 まおの声を遮るように、聞き覚えのある男性の声がした。


 振り返ったまおの目に映ったのは、黒いパーカーを着た若い男の子。



「……ふげっ!?」



 変な声が出ちゃった。


 だって、今まさに魔王軍のみんなに話そうとしていたチンチンお兄さんこと、樹洞さんだったんだもん。



「ふっふっふ……見つけましたよ、魔王様」

「き、昨日の変態さん……!? なんでここに!?」


《え?》

《誰?》

《魔王様の知り合い?》

《友達がいない魔王様に異性の知り合いなんているわけないだろいいかげんにしろ》

《wwww》

《それもそうか》

《てか、変態さんって何だ?》


「まさに今、みんなに話そうとしてたんだけど、あずき姉とのわからせバトルに負けてパシリでカフェに走らされたときに、注文聞いてチンチン出しちゃったお兄さんがいたんだよ! それがこの人で!」


《・・・( ゜д゜)?》

《え?》

《は?》

《え〜と・・・》

《魔王様! 話の内容が大混雑してます!》

《wwwww》

《要素が多すぎwww》

《あずき姐にパシらされたらチンチン出した変態がいたってことでおK?》


「おっけー!!」


《なるほど》

《いや、どんな状況だよwww》

《あずき姐にパシらされたのだけはわかった》

《魔王様、さっそくあずき姉にこき使われてて草》

《注文聞いてチンチン出すってなんぞ》

《え? 魔王様がチンチン注文したの?》

《wwww》

《確かに変態だわ》

《笑い話ってか、警察案件だろww》

《魔王様の周辺って、なんでこう面白い人が集まるわけ?》

《それなwww》



 そ、そんなの知らないよ!


 ていうか、全然おもしろくないし!



「ふふ、どうやら配信で盛り上がっているみたいですね?」



 にやりと笑みを浮かべるチンチンお兄さん。


 お。リアルタイムで、まおの配信を観てくれてる?


 怖くて写真撮影断っちゃったからファン辞めちゃうかなって心配してたけど、よかった~。


 けど、この人にはあんまりかかわらないほうが吉だよね?


 またチンチン出されても困るし。



「はい。樹洞さんのお陰で魔王軍の皆も盛り上がってます。話題提供ありがとうございました。それでは、まおはここで」

「ちょ、魔王様!? いきなり立ち去ろうとしないで!?」



 まおは変態さんからにげようとした!


 しかし、まわりこまれてしまった!



「え、ええと、何かまおにご用が?」

「ご用も何も、我はずっとあなたを探していたのですよ! だから一緒に来てもらわないと困ります!」


《まおたんを探してた?》

《え? もしかしてゴースティング?》

《マジか》

《ちょっとやばくね?》


「……え? ゴースティングって何? ギター?」



 弾き語りでアーティストさんが弾いてるやつ。



《アコースティックな》

《↑反応速w》

《何のこと言ってるのか全然わからんかったわww》

《鍛えられてる熟練の魔王軍は違うな》

《てか、ゴースティングってなんぞ?》

《解説おじ:解説しよう! ゴースティングとは、オンライン対戦ゲームで用いられる用語で、配信を視聴しながら試合に参加しゲームを自分に有利な状況に進める不正行為のことである》

《しゅばばばばっwww》

《きた〜〜〜〜!!》

《今回は必要だったよ、解説おじ》

《ナイス解説》

《解説おじ:(*´ω`*)》

《よかったね解説おじ》

《魔王様をゴースティングするなんて自殺願望でもあるんかな?》

《それな》



 ゴースティングかぁ。


 よくわからないけど、嫌がらせの類だよね?


 てことは、ウンチ木下みたいな迷惑系配信者の可能性が微レ存……?



「状況は理解できましたか、魔王様?」

「おそらく」

「そうですか、良かった。でしたら早速、我と一緒に──」

「まおってば、露出狂に狙われていたのか」

「なんて?」



 間違いない。


 この人、まおをゴースティングして配信中にチンチン出して、まおのチャンネルをBANさせるつもりなんだ。


 くっ……なんて恐ろしいことを考えるんだろう!


 これが人気ストリーマーの宿命か!



「よし、チンチン出される前に逃げよう」


《チンチン出すwwww》

《直で言っちゃアカンwww》

《魔王様、もう少しこう、濁してもろて》

《あずき:まお、そろそろ自重しよっか?》

《www》

《ブレインからストップ入りましたwww》

《あずき姐の力でピー入れてもろて》

《あずき:いや、流石にむりですよ!?》



 盛り上がるコメント欄を横目に、クルッと反転して待機エリアに逃げようとしたんだけど、樹洞さんが必死の形相で追いかけてくる。



「待ってください魔王様!? なんで逃げるの!?」

「だってチンチン出されたくないし!」

「えええっ!?」



 見たくないし、BANされたくないもん!


 それに、この人意外と体力ないみたいだし、逃げれば大丈夫なはず。


 ──と思ったんだけど。



「仕方ありません! 外では遅れを取りましたが、ここは我のテリトリーです!! 今度こそ逃がしませんよっ! 【花卉の鎖(プラントチェーン)】!」



 樹洞さんが指を掲げた瞬間、植物のツタみたいなやつが地面からニュニュっと生えてきて、まおをぎゅっと縛り付けてきた。



「わぁああっ!? 何これっ!?」

「抵抗するのはおやめください! 我の束縛魔法です! 暴れると縛り付ける力が強くなりますよ!」

「えええっ!?」



 な、何だって!?


 ま、まま、魔法!?



《おお?》

《こ、これは》

《幼女が触手にがんじがらめに・・・》

《実にけしからん》

《や、やめろぉおお!(ニヤニヤ)》

《この男、チンチン出すだけじゃなくて縛りプレイも得意なのか》

《やりおるなチンチン兄》

《やりチンだな》

《やりチンwwww》



「……くぬぅううぅっ!」



 必死にツタを切ろうとするんだけど、力が入らない。


 これもこの拘束魔法の効果!?


 樹洞さんってば、意外と強い!


 このままだとちょっとマズいかも!


 ヘルプミー! 推しモンちゃん!!



「こっ、【この指と〜まれ♪】!」

「……っ!?」



 地面がズゴゴッと割れ、キラキラと輝くクリスタルドラゴンのぴかどらちゃんが現れる。



「たっ、助けて! ぴかどらちゃん!」

「きゅいっ!」



 ぴかどらちゃんのかわいい鳴き声が響くと同時に、まおの足元から結晶がズババッと飛び出してくる。


 その攻撃で、まおを拘束していたツタがバラバラに。


 ナイスだよ! ぴかどらちゃん!



「お、おおおおっ……このモンスターは、クリスタルドラゴン!?」



 ぴかどらちゃんを見た樹洞さんが、目を丸くする。



「先日から行方がわからなくなっていましたが、まさか魔王様が従属化されていたとは! 流石は魔王様……さすまおですなっ!」


《あ〜・・・》

《状況はよくわからんけど、さすまおだな。多分》

《うん、さすまおだね》

《ていうか、チンチン兄さんってクリスタルドラゴンの関係者?》

《嘘だろww》

《魔法とか使ってるし、チンチンお兄さんってば一体何者なのさ?》



 確かに気になる。


 ただの変態さんってわけじゃなさそうだけど……。


 何にしても、関わっちゃいけないタイプの人なのは間違いない。


 拘束は解かれたわけだし、急いで逃げよう……と思ったんだけど、待機エリアには戻らせないと言いたげに、再び樹洞さんがまおの前に立ちふさがる。



「逃がしませんよ、魔王様! 我と一緒にグラドネルの世界へと参りましょう!」

「いや、変態の世界になんて行きたくないんですけど……」

「変態の世界ってなんです!?」



 ギョッと身をすくめる樹洞さん。


 あっ! 隙が生まれた!


 今がチャンス!


 まおは咄嗟にぴかどらちゃんの背中に乗っっかり、待機エリアとは逆の中層に向かってダッシュした。

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