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第五十一話 魔王様、変態と遭遇する


 今日のまおは、パシリである。


 その理由は単純明快。


 先日のあずき姉とのゲーム5番勝負で大敗を喫してしまったから!


 5対0のストレート負け……ってのは、まぁ千歩譲っていいとして、めちゃくちゃ得意だと思ってたゲーム対戦でまけちゃったってのが精神的にキツいよね。


 というわけで、自宅近くにあるカフェにやってきた。


 お盆休みで帰省してるあずき姉から「カフェでメロンスイーツ・フラペチーノ買ってきてくれない? 格下のまおさん?」って頼まれたんだよね。


 教師のクセに生徒をパシらせるなんて終わってるわ。


 教育委員会にチクってやろうかな。



「……ていうか、混んでるな」


 

 レジには列ができてるし、空いている席もないみたい。


 稀に見る込み具合。


 お盆休みだからかな??


 店内でまったりお茶をするわけじゃないから別にいいんだけどね。



「あ〜、みのりちゃんとお茶でもしたいなぁ……」



 列に並ぶと同時に、ぼやきみたいなのが出てきちゃった。


 ちなみにみのりちゃんは家族と海外旅行中。


 行き先はスイスだったっけ?


 スイスといえば、お金持ちが多い国だよね!!


 そんなところに旅行に行けるなんて、流石は名家のご令嬢だなぁ。


 お土産を買ってきてくれるって言ってたし、楽しみだ。金塊とかくれるのかな?


 列が動いて、まおの前のおばさんが注文する番になった。


 店員のお兄さんがにこやかに尋ねる。



「次の方、ご注文をどうぞ」

「ええっと……じゃあ、ブラック・モカチップ・フラペチーノください」

「はい、ブラック・チッチャイ・チンチーノでよろしいですか?」

「なんて?」



 思わず突っ込んでしまった。


 おばさんもビックリしている様子で。



「え? ブ、ブラック・モカチップ・フラペチーノですけど……?」

「は、はい! ブ、ブラック・チンチン……ペ、ペロペロンチーノですね!」

「「……ファッ!?」」



 おばさんとまおの素っ頓狂な声がカフェに広がる。


 聞き間違いかと思ったけど、マジだった。


 大衆の面前でチンチンとか、この店員……変態か!?



「ちょ、あなた、いきなり何を言ってるの!? ブラックなんですって!?」

「すっ、すみません!」



 お兄さんが焦りまくる。



「ブブ、ブラック・チンチン・ペロペロンチーノです……よ、ね?」

「ち、違うから! というか、あなた一体どういうつもりなの!?」

「も、申し訳ありません! ブラック・モット・チッチャイ・チンチーノでしたか!?」

「ふ、ふふ、ふざけないで!」



 激オコのおばさん。


 当然である。


 ていうか、凄い間違いをする人がいるもんだ。新人さんかな?


 カウンターが騒然になり、チンチン店員さんは慌てて出てきた店長っぽい人にバックヤードに連行されていく。


 当然である。


 これは裏で店長さんに怒られるパティーンだろうな。


 可哀想な新人さん……。


 でも、警察呼ばれなかっただけマシだよね?


 うん、強く生きろ。


 チンチン店員さんに代わって出てきた綺麗なお姉さんに平謝りされ、おばさんが不機嫌顔でレジを後にする。


 まおも危うく「ブラック・チンチン・フラペチーノひとつ」って言いそうになったけど、なんとかメロンスイーツ・フラペチーノを受け取ってカフェを出る。


 しかし、凄いことがあったなぁ。


 リアルでチンチンが聞けるなんて。


 ──なんて思いながら歩いていると、店の裏でヘコんでるさっきのチンチンお兄さんを発見。


 今日は気持ちがいい晴天なのに、お兄さんの周りだけどんよりとした暗い影が落ちている。


 人生、終った……みたいな雰囲気。


 いやまぁ、あんな間違いしたらそうなるよね。


 う〜む。


 なんだか可哀想な気がしたので、声をかけることに。



「あ、あの……お兄さん?」

「……」



 顔を上げたチンチンお兄さん。


 なかなかにイケメンだけど、可哀想になるくらいげっそりとしていた。


 店長さんに相当絞られたのかな?



「ど、どなたですか?」

「あ、ええっと、さっきお客さんとトラブってるときに店内にいて」

「……ああ、そうですか。ご迷惑をおかけしました」 

「いえいえ。間違いなんて誰にでもありますよ。だから元気だしてください」

「あ、ありがとうございます」



 うう、と泣き出しそうになっちゃうチンチンお兄さん。



「我、いつもこうなんですよね。この世界の飲み物の名前ってすごく難しくて、すぐチンチンが出るんです」

「すぐチンチンが出る」



 何そのパワーワード。


 しかし、これは重症っぽいな。


 あまり深く関わるのはやめておこう。


 そう思って足早に立ち去ろうとしたんだけど、チンチンお兄さんが突然スックと立ち上がった。



「どこのどなたかわかりませんが、お陰で少し元気が出ました。本当にありがとうございます。これ、お礼ってわけじゃないですけど」

「割引券?」



 それも50%オフの超割引!?


 わお! すごい!


 これって、えっと……棚からぼた餅ってやつじゃん!?


 他人には優しくするもんだね!



「ありがとうございます、じゅ、じゅ……」



 制服についている名前を読もうとしたけど、読み方がよくわからない。



樹洞じゅどうです。山田樹洞」



 ジュドー。


 チンチンお兄さんってば、すごい名前だな。 


 外国の人みたい。


 あ、もしかしてハーフなのかな?



「良い名前ですね。私はまおです。有栖川まお」



 ぺこりと頭を下げる。


 や、こっちも自己紹介しないと失礼かな……と思ったからさ。



「……まお?」



 ギョッとした顔をするチンチンお兄さんあらため、樹洞さん。



「有栖川、まお?」

「ん?」

「もっ、もしかして……魔王様ですか!?」

「……えっ!?」



 意外すぎてビックリしたけど、すぐにピンときちゃった。


 はっは〜ん。


 樹洞さんってば、まおのリスナーさん……つまり魔王軍だったのね。


 登録者は220万人を突破したわけだし、まおの周囲にいてもおかしくない。


 だけど、嬉しいな!!


 違いますと白を切るのは簡単だけど、まおはファンを大切にするプロ──。


 よぉし! ここはガッツリファンサしてあげるか!



「はい、そうです」



 ニコニコ。


 どれ、握手でもしてあげようか? よきにはからえ?


 スッと手を差し伸べたんだけど、樹洞さんは固まっている。


 あれ? どした?



「こっ」

「え?」

「ここであったが百年目……ではなく、探しておりました! 魔王様!」

「えっ? えっ?」



 何なに?


 どした、急に!?



「ええっと、どこかでお会いしましたっけ?」

「我ですよ! 灰燼の魔道士、エリオットです!!」

「……あ〜」



 しばし熟考。


 名前を検索中。


 ピピピ……ピン!


 検索結果。


 該当なし。



「誰?」

「えっ……」



 樹洞さんが目を丸くする。



「い、いや、こんな姿してますけど我ですよ!? てか、魔力の色見たらわかるでしょ! 魔王イブリズ様!?」

「イブリ?」



 ナニソレ。


 生理痛に効く薬?



「よくわかんないですけど、多分、人違いじゃないですかね。それに、まおは魔王じゃなくてまおですし」

「え? 魔王じゃなくて魔王? 何をおっしゃっているのです? もしや幻惑魔法にかかっているのですか……?」



 樹洞さん、訝しげな顔。



「しかし、大丈夫です! 我とグラドネルに戻れば、すぐにでも意識はハッキリするはず! さぁ、魔王様! 我と一緒にお戻りを!」

「うん、何が大丈夫なのかさっぱりわからん」

「ええい! 御冗談ばかりを! 失礼いたします!」



 不意にまおの腕を掴もうとしてくる樹洞さん。


 うわっ!? 何だ突然!?


 慌てて後ろに飛び退くまお。



「ちょ、ちょっと樹洞さん!?」

「手荒なことはしたくありませんが致し方ありません! どうか、我と一緒に! 皆が魔王様の帰還を待っております!」



 樹洞さんが、じりじりと近づいてくる。


 なな、何なにナニ!?


 もしかして……まおと一緒に生写真撮りたいの?


 だけど、今日のまお、あんまり可愛くないジャージ姿だしなぁ。


 ほら、まおってば一般的にプリティなイメージがあるじゃない? 


 だから、今写真を撮るのは事務所的にNGっていうか……。



「ご、ごめんね樹洞さん! 今日はちょっと無理かも!」

「今日は無理とか意味わかりません! 不本意ながら、力技でやらせてもらいます!」

「力技!?」



 強引に写真撮ろうとしてる!?


 流石にそれはダメだと思うよ!


 だけど樹洞さんは自重する様子がなく。


 ええい! 


 そっちがそういうつもりなら、こっちにも考えが!


 光の速さでポケットからスマホを取り出し、耳に当てる。



「もしもしポリスメン!?」

「……んなっ!」



 頼るべきは国家権力である。


 まぁ、実際に電話してるわけじゃないけど。


 だけど、流石にびびっちゃったみたい。


 樹洞さんは後退り。


 これはチャンス。


 ダンジョンで鍛えた俊敏力を活かし、踵を返して高速ダッシュ!



「あっ! お、お待ち下さい! イブリズ様!」

「だから、まおはまおですってば!」



 そのイブなんとかじゃないよ!



「くっ、仕方ない。少々手荒な方法ですが、我の拘束魔法で──」



 すぐさま、こちらに手のひらを向けて何かしようとする樹洞さん。


 そして、なんだかブツブツと言い始めたけど……何も起こらない。



「く、くそっ!! やはりダンジョン外では魔法は使えないか! ええい、こうなったら……体力勝負です!」



 そして、こっちに向かって全力ダッシュ。


 うわっ! ちょっと待って!


 男の子と体力勝負とか、まおに分が悪すぎるから!!


 ──と思ったんだけど。



「はひ……っ」



 樹洞さんは、すぐにヘロヘロになってバタンと倒れてしまった。


 足を止め、唖然とした顔でそれを見るまお。



「……え? マジで言ってます?」

「はひ……はひ……」



 運動苦手なまおより体力無いって、ちょっとひどすぎませんか樹洞さん?


 体、鍛えな?



「だけど、これなら逃げ切れるっ! ごめんなさい、樹洞さんっ!」

「お、お、お、お待ち下さい……っ! 魔王様……っ!」

「写真は無理だけど、配信は観に来てね! まおとの約束だよっ!」



 しっかりとフォローを入れる。


 過剰なふれあいはNGだけど、相手は大切なリスナーさんだからね!


 うん、やっぱりまおってプロだわ!!

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