第四十五話 魔王様、就任する
ウルツァイタイマイちゃんを討伐して、まおたちは待機エリアに戻ってきた。
配信は一旦終了。
だけど、時間があったら、また白金ダンジョンに潜って配信しようかな〜なんて考えてる。
だって、めずらしいモンスちゃん、たくさんいたしね。
待機エリアには、すでに多くのクリーナーズメンバーさんたちが戻っていた。
まおたちは最深部のボスエリアにいたせいか、一番最後っぽいな。
ていうか、みんな遠目にこっちを見ながらコソコソと何かを話してる。
な、何だろう。
すんごく気まずい。
「し、視線を感じる……」
「まおたんがボスを討伐したという情報が流れているんだろうな」
トモ様が誇らしげに言う。
「もっと胸を張れまおたん。ウルツァイタイマイを倒した魔王の凱旋なのだからな」
「ま、魔王の凱旋!?」
待って、トモ様。
それ、不名誉すぎる!
「ボスの討伐おつかれさまです。まおさん」
まるでまおの帰りを待ってましたと言わんばかりに、八十神さんが声をかけてきた。
「まおさんが白金10号の最速RTA記録を更新したみたいですよ。おめでとうございます」
「うえっ!? 記録更新!? まおが!?」
「ええ。それも30分以上記録更新です」
そ、そんなに速かったっけ?
ゴミ拾いしながらゆっくり行ったつもりだったんだけど。
あ。だけど、中層と下層はメリッサさんのご要望もあって、超高速でクリアしちゃったっけ。
「あ、そういえば拾ったゴミはどうすれば?」
「え? ゴミ?」
八十神さんがきょとんとした顔をする。
ダンジョンで拾ったゴミはポーチの中に入れてるけど、ここで処理しないと永遠にポーチに入ったままになっちゃうからね。
外には持っていけないし。
「ゴミ拾いだと……?」
「マ、マジかよ」
クリーナーズメンバーさんたちの声が聞こえた。
「ダンジョンの清掃作業しながらRTA記録を更新したのか?」
「す、すげぇ」
「片手間で記録更新余裕だったってことか……」
「流石魔王だ」
「ああ、さすまおだな」
「……???」
どゆことだろ?
ダンジョンのゴミ拾いのために潜ったのに、片手間??
皆の言ってることはよくわからないけど、拾ったゴミはダンジョンの入口に設置したゴミ箱に入れることになった。
と言っても、まおが【あたし好みにな〜れ】で作って置いたんだけどね。
パステルカラーのプリティでキュートな花柄のゴミ箱なんだけど、宝箱と同じ原理で無限に入れることができる。
おまけに一週間で自動的にゴミをデリートしちゃう自浄機能を付けた。
えっへっへ。これがあれば、ダンジョンのゴミ問題も少しは減るよね?
「まおちゃん」
「……え?」
ポーチの中のゴミをポイポイと放り込んでると声をかけられた。
誰だろと思って顔を見て、ギョッとしちゃった。
だって……さっきまおがリセットさせちゃった喜屋武ちゃんだったんだもん。
もしかして、激オコで恨みつらみをぶちまけにきたのかなぁ?
すごい装備だったし、リセットは相当きついよね。
うう、やだなぁ……。
「ダンジョンRTA最速記録おめでとう」
「……え?」
「八十神さんから聞いたよ。ここのRTA記録はうちのメンバーが持ってたんだけど、30分以上短縮したらしいじゃない」
「そ、そうみたいだね。ありがとう……」
大困惑のまお。
まさか祝福されるなんて。
「あ、あの……怒ってないの?」
「え? 怒る? なんで?」
「だって、まおがリセットさせちゃったわけだし」
バトルをふっかけてきたのは喜屋武ちゃんだけど、やっぱり罪悪感はある。
なにせ、オールリセットはスカベンジャーとしての死を意味するのだ。
逆の立場だったとして、リセットさせた相手を前に冷静でいるのは無理だと思う。
喜屋武ちゃんほどのスカベンジャーならなおさら──だと思ったんだけど。
「ああ、気にしないで。だって、すごく気持ちよかったし」
「そっか。気持ちよ……ぅえっ?」
変な声が喉の奥から出てきた。
「き、きき、気持ちよかった?」
「そう。何度経験してもあの死ぬ瞬間の快感はたまらないわ。体がスッと冷たくなる感覚……ああ、思い出しただけでゾクゾクしちゃう」
「快感」
「まおちゃんにはすごく感謝してるわ。1年5ヶ月ぶりの通算26回目のリセットを体験させてくれてありがとう」
「……にぇっ!?」
ど、どゆこと!?
え? え?
もしかして喜屋武ちゃん──。
「に、26回もリセットしてるの!?」
「そうだけど?」
「うわぁっ! 可愛らしいキョトン顔っ!」
喜屋武ちゃんってば、言動はやばいけど見た目は可愛いんだよねぇ。
──なんて、言ってる場合じゃなくて。
「喜屋武ちゃん、ユニークスキル無しでダンジョン潜ってるの!?」
「もちろん。スキルなんて、とっくの昔になくなってるし。だから銃火器に頼ってるってわけ」
「……あ、なるほど」
そういうことだったんだ。
銃火器だったら接近戦でリスクを負うことなく、安全な距離でモンスちゃんと戦えるもんね。
……待って?
てことは、まおの顔にビシバシ弾を当ててきてたのって、スキルじゃなくて単なる実力??
すごっ。
「だけど26回もリセットしてるのに、どうしてあんなにすごい装備が整ってたんですか?」
「装備を預かってくれる人がいるんだよね」
「預かってくれる人?」
「そ。ダンジョン内で拾った装備を保管してもらってるんだ。リセットしてなくなるのは所持してるアイテムだけだし」
ああ、なるほど。そういうことね。
今使っている装備以外は保管してもらってて、リセットしたら返してもらってるってことか。
すごい賢いな。
でも、そんな面倒なことに協力してくれる心優しい人なんているんだね。
預かってる装備をなくすわけにはいかないし、ダンジョン探索をしてないスカベンジャーさんでもなければ断られるんじゃ──。
「……あ。もしかしてその相手って」
「そ。ちずるちゃん」
やっぱり!
ちずるんってば、喜屋武ちゃんの技術サポートをしてるって言ってたけど、そんなこともやってたんだね。
う〜む、流石は幼馴染。
「でも、今回のタイマンバトルでまおちゃんに負けちゃったわけだし、ちずるちゃんに装備保管してもらうのはやめたほうがいいかもしれないわね」
残念そうな顔で喜屋武ちゃんが続ける。
「だけど、このまま引き下がるつもりはないからね? すぐに装備を整えるから、あたしとまた真剣勝負で殺し合って頂戴?」
「こっ、殺し……い、いえ、もう大丈夫です!」
もげそうなくらいの勢いで首をブンブンと横に降った。
「今までどおり、ちずるんに手伝ってもらってオッケーですよ! だってほら! 喜屋武ちゃんの相手って、ちずるんくらいしかできないっていうか!!」
「……そう?」
「ええ、ええ! おふたりはすんごくお似合いだと思いますよ!!」
「うふふ、ありがとう。まおちゃんってすごくいい人なんだね」
嬉しそうにきゅうっと頬を吊り上げる喜屋武ちゃん。
ふう、危なかったぜ。
今回はなんとか勝てたけど次はどうなるかわかんないし、下手したらストーカーみたいになっちゃいそうで怖いもん。
可愛いモンスちゃんに追いかけられるのはウェルカムだけど、物騒な理由で人間に追いかけられるのは勘弁願いたい。
「皆さん、お疲れ様でした」
待機エリアに八十神さんの声が浮かぶ。
「ご存知の方も多いと思いますが、最初にダンジョンボスを討伐したのは有栖川まおさんです。彼女を関東チームのリーダーに任命しようと思いますが、皆さんいかがでしょう?」
「異議なしっ!」
即座に賛同の声があがった。
そして、まおを祝福するかように、待機エリアに拍手が起きる。
白鯨のメンバーさんや七本指のメンバーさん、それに古参の赤坂剛力兵団さんや志々雄十傑集さんたちも賛成している様子。
どど、どういうこと?
だって、わからせRTAが始まるとき、白鯨の小川さんとかめちゃくちゃ異を唱えてたよね?
まお、小川さんたちを納得させるようなこと、何もやってないけどな……。
それに、リーダーの話は辞退したほうがいいのではなかろうか。
まおがリーダーなんて、絶対ムリだし。
前にダンジョン部の部長に立候補したとき、あずき姉に「部が滅ぶからやめろ」って即座に却下されたくらいなんだよ?
当初の計画通り、トモ様に譲ったほうがいいのでは……。
「ね、ねぇ、トモ様。まおの代わりにチームリーダーになってくれませんか?」
「私が代わる? はは、何を言ってるんだ」
めっちゃ笑われた。
「まおたんよりチームリーダーにふさわしいスカベンジャーなんているわけがないだろう? それに、まおたんがリーダーだったら、私も活動に熱が入るし」
「そうだよ魔王様。キミの強さはハッキリ言って人知を超えているからね。異を唱える人間なんていないよ。よろしく頼むよ、リーダー」
「し、四野見さん!?」
ちょ、何を言ってるんですか!?
さらに刈谷さんやメリッサさんもやってくる。
「俺もはじめからこうなると思っていたぞ、魔王」
「まおたんがリーダーになって、メリッサもうれしい!」
おめでとうと言いたげに、頭をポンポンされた。
メリッサさんはいいけど、刈谷さんはやめて?
ていうか、どうしよう。
この祝福ムードの中、やりたくないですって言い出しにくいし……。
「さて、まおさん。リーダー就任のご挨拶をお願いしてもよろしいですか?」
「えっ、挨拶!?」
「ええ。あなたがクリーナーズ関東チームの顔ですし、ダンジョン掃除を本格的にはじめる前に、ぜひ皆さんを鼓舞してあげてください」
「こ、ここ、こんぶ……?」
腸内環境を整える食物繊維……。
まお、おしゃぶり昆布好きなんだよね。
「さぁ、お願いします」
肩を捕まれ、ぐいっと八十神さんの前に。
うげげ、身動きが取れない。
す、すごい力なんですけど!?
「え、ええっと……」
全員の注目を浴びる。
あ、挨拶って、何を言えば言いんだろう?
これからよろしくお願いします?
活動をがんばりましょう?
いや、今言うべきは、そういうことじゃない。
そんなありきたりな言葉じゃなくて──。
「みっ、みなさん! 可愛いモンスちゃんのために、ダンジョンをキレイキレイしましょうね! 間違ってもダンジョンにゴミのポイ捨てはしないように!」
「うおおおおおっ!!! わかりましたっ! 魔王様バンザイ!!」
「……えっ?」
魔王様バンザイ?
え? なんで魔王でバンザイ?
全然関係なくない?
首をひねるまおをよそに、大盛りあがりになる待機エリア。
こうしてまおは、超ウルトラスーパー意外すぎる展開で、クリーナーズ関東チームのリーダーに就任してしまったのだった。
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