第四十四話 魔王様、いつの間にか倒す
「あは、あはは……これにはあたしもビックリだわ」
喜屋武ちゃんが、引きつった笑みを浮かべる。
「一発1800円もする7.62×51mmのM61徹甲弾でヘッドショットしてるのに無傷なんて……あなた本当に人間なの?」
「当たり前じゃないですか! まおはただのJKですから!」
他に何があるっていうんですか!
どっからどうみても、可愛い普通のJK!!
《いや、ただのJKは頭撃たれたら氏ぬからww》
《無敵と書いて「ただ」と読むタイプのJK》
《ていうかバンバンぶっ放してたけど、一発1800円もすんのかよwwww》
《徹甲弾ってそんな高かったんやな。見つけたらダンカリに出そっと》
《ひょっとして喜屋武ちゃん家も金持ち!?》
《もっと節約してもろて》
《いや、市場回すためにももっとぶっ放して!!》
《↑魔王軍とは思えない発言》
《ま、魔王様には効いてないし(´・ω・`)》
《そうだったwwww》
そんな魔王軍の声が届いたのか届いてないのか、一発1800円もする弾丸を惜しみなくぶっ放してくる喜屋武ちゃん。
「……痛たっ! あ痛たたたっ!」
わんさぶろうも気を使って左右に激しく動いて回避行動を取ってくれてるんだけど、的確に頭に命中させてくる。
すごく痛い。
けど、我慢できる!
「やるじゃない、まおちゃん……だったら、その脳天に1000発ぶち込んであげるわ!」
喜屋武ちゃんが、背中からニュッと別の銃を取り出した。
すんごくでっかいマシンガン。
それも2丁。
《ファッ!?( ゜д゜)》
《どっから出したwww》
《どでかいマシンガンのアキンボキターーーーー!》
《あれってあれだよな?》
《うん、多分あれだな》
《教えて詳しい人〜〜!?》
《解説おじ:説明しよう! あれは第二次世界大戦中にドイツ軍が使っていた「ヒトラーの電動ノコギリ」という異名を持つ、グロスフスMG42機関銃だ! 毎分1000発以上の弾丸をぶっ放すぞ!》
《出たwww》
《キモwwww》
《タイピング早すぎんだろww 流石に気持ち悪いわww》
《リアルでも早口で喋ってそう》
《解説おじ:(´・ω・`)》
《wwww》
「か、解説おじ……」
せっかく教えてくれたのに可哀想……。
皆、もっと優しくしてあげて!
「さぁ、まおちゃん! この子の弾幕から逃れられるかしら!?」
ギラリと喜屋武ちゃんの目が輝く。
本当にチェーンソーみたいな音が響いた──と思った瞬間、顔面にビシビシビシッと弾丸が飛んできた。
「痛たっ……痛たたたたっ! ちょ、喜屋武ちゃん!? 痛いってば!」
うおおお!
さっきより痛い!
流石に痛すぎて両手で顔をガード。
ていうかこれ、わんさぶろうも危ないよね!?
タイマンって言葉を守ってくれているのか、喜屋武ちゃんはわんさぶろうを狙っていないみたいだけど、流れ弾が当たっちゃうかもしれないし!
「わんさぶろう! 喜屋武ちゃんに撃たれないように気をつけて!」
「わふっ!!」
タタッと横に飛んだかと思うと、岩を使って上手く射線を切っていく。
おお! ナイス、わんさぶろう!
「あはははっ!! いいね、いいねぇ! まおちゃんっ! この手数で仕留められなかったのは初めてだよっ!」
甲高い笑い声を上げる喜屋武ちゃん。
そのとき、突然銃撃がパタッと止んだ。
あれ? もう弾切れかな?
そう思って、指の間からチラッと喜屋武ちゃんを見る。
びっくりした。
だって、さっきまで持ってたどデカいマシンガンとは違う、大砲みたいな銃を持ってたんだもん。
《あれ、グレランじゃね?ww》
《グレネードランチャーで草》
《マジかよwwww》
《いやいや、それはさすがにずるいから!!!》
《とんでもないもん出すなこの人・・・》
《てか、どんだけ武器もってんだよww》
うえええっ!?
グレネードランチャーって、ええと……確か爆弾を飛ばすやつだよね!?
ゲームとかでみたことあるし!
《説明おじ:説明しよう! あれはワロップ社製のリボルビング・グレネード・ランチャー「エクスカリバーMk2」だ!》
《めげない解説おじwww》
《誰か解説要求した?》
《いや、求めてないね》
《ない》
《出番ではない》
《解説おじ:(´・ω・`)》
《wwww》
「か、解説おじをいじめないであげてっ!」
見て! 解説おじのHPはゼロだよっ!
なんて言ってると、ポンッと小気味よい発射音が聞こえて。
「……へ?」
何かが飛んできた!
──と同時にドカン。
「ひええええっ!?」
「あははっ! ほらほらほらほらっ!」
ぽんぽんぽん。
ボスエリアに、次々と爆発が起きる。
だけど、さっきの銃と違って命中率はあまり良くないみたいで。
まおから大きく逸れて、後方のウルツァイタイマイちゃんの顔面にドカン。
トモ様たちの近くにドカン。
「ぐおおおん!?」
「くそっ、これは喜屋武の攻撃か……っ! 全員グレネードの爆風に気をつけろっ!」
「ホントちひろちゃんってば、クレイジーなんだから!!」
ウルツァイタイマイちゃんを含め、刈谷さんやメリッサさんたちも大混乱に陥っちゃった様子。
「ちょ、喜屋武ちゃん!? まおとのタイマンのはずでしょ!?」
「知らない。巻き込まれるヤツが悪いのよ」
「ファッ!?」
なにその理屈!?
流石にちょっとカチンと来ちゃった!
「ほ、他の人を巻き添えにすなっ! ええい! 【どどんがどん☆】ッ!」
目には目を。
爆発には──爆発を!
喜屋武ちゃんの周囲がズドドドッと爆発する。
ただ、何というか……わんさぶろうが激しく動いてるせいで、ちょっとだけ狙いが外れて、その……トモ様たちのところまで……。
「くっ、これも喜屋武の攻撃か! おのれ! 卑怯だぞ喜屋武!!」
《トモ様、違います!》
《完全に風評被害www》
《てか、いくらなんでも狙いを外しすぎだろwww》
《魔王様、トモ様たちを巻き込んでます!!》
《もう少しちゃんと狙って!!》
《あずき:まおってば、足元のゴミ箱にゴミ投げても外すくらいエイム力ないからな・・・》
《wwwww》
《かわいい》
《あずき姐www》
《あ、魔王様の爆発でウルツァイタイマイひっくりかえった》
《草草草》
《ま・き・ぞ・えwwww》
《かわいそう》
《かわいそう》
「や、やったぁ!?」
こ、コレを狙ってたんだよね!
強敵とタイマンしながら仲間の戦いもサポートする……これぞ、まお流戦闘術の奥義!!
「……ぶえっ!?」
なんてドヤってたら、グレネードがまおの顔面に直撃した。
《うわああああっ!?》
《魔王様!?》
《顔面に直で当たったwww》
《あ、これ煙が晴れたら黒焦げハゲになってて「もうこりごり!」ってなるやつじゃね?》
《漫画でよくあるやつな》
「このプリティまおたんが黒焦げハゲなんかになるわけないだろっ!」
ちょっと火薬臭いけど、問題ないっ!
《wwww》
《あはは\(^o^)/》
《そうか、グレネードでも無理か》
《人間じゃねぇwww》
《もう笑うしかないwww》
「あはははははっ! 最高だよ、まおちゃん!」
喜屋武ちゃん、今までで一番嬉しそうな顔をしてる。
「だけど、これを見ても強気でいられるかなぁ!?」
「……!?」
そして取り出したのは、超どデカいバズーカ砲。
わぁ、おっきい。
《うわあああああっ!?》
《ロケットランチャーキターwwwww》
《さらにとんでもないもんが出ましたww》
《この人、人間武器庫じゃん・・・》
《一体どうやってそんな銃火器手に入れてんだよ!?》
《解説おじ:説明する? 大丈夫そ?》
《うん、いらないかな》
《いらない》
ロケットが放たれ、凄まじいスピードでわんさぶろうの足元に着弾。
「……っ!?!?」
大爆発が起き、爆炎が舞い上がる。
「わっ、わんさぶろう!?」
「……わふっ」
ああ、良かった!
なんとかわんさぶろうは無事だった。
周りを見ると、穴凹だらけの瓦礫だらけ。
爆発の衝撃で舞い上がったでっかい破片が、まおの頭に直撃したんだけど、それどころじゃない。
「……こぉんの野郎っ! いい加減にしろっ!」
ちずるんの友達だから下手に出てたけど、流石に堪忍袋の尾が切れちゃったよ!
「まおが一生懸命掃除してんのに……ちらかすなっ!!」
「……あはっ! いい顔するじゃない!」
まおの顔面めがけてロケットが飛んでくる。
すごい速さだけど……さっき見たから、反応するのは簡単!
「ふんっ!」
横から張り手!
ロケットの向きがぎゅんっと180度変わって、喜屋武ちゃんの元に戻っていく。
「……え?」
《あ》
《え?》
《ふんっwww》
《打ち返したwwww》
《ふぁあああああああっwwww》
《ヘルファイアに続き、ロケットもビンタで打ち返してて草なんだが》
《いやいや、そうはならんやろwww》
《なっとるけど、普通はならんよな》
《うん、ならない》
《さすまお》
まさか打ち返されるとは思っていなかったのか、呆然としている喜屋武ちゃんにロケットが命中。
刹那、大爆発。
黒煙が風で流れた後、その場に残っていたのは──どデカい穴が空いた地面だけ。
喜屋武ちゃんの姿はどこにもなく。
《これは試合終了ですね》
《木下と同じパターンwww》
《リセットしちゃった(´;ω;`)》
《喜屋武ちゃん……いろんな意味でかわいそう》
《可愛かったけど、できればもう会いたくないタイプの子だなw》
《禿同》
「喜屋武ちゃん……」
待機エリアに戻っているはずの喜屋武ちゃんを思いながら、胸中でささやく。
リセットしちゃったけど、またダンジョンに潜ることがあったら、今度こそちゃんと綺麗に掃除してね、と……。
「よし、と」
喜屋武ちゃんをしっかりわからせたところで、あたりを見渡す。
グレネードとかロケットのせいですっかり地形が変わっちゃってるけど──。
「……あれ? ウルツァイタイマイちゃんは?」
ボスフロアに、ウルツァイタイマイちゃんの姿はない。
戦闘は終わっているみただけど、どうしたんだろ?
「まおたん!」
と、こちらに駆け寄ってくるトモ様たちの姿が。
「大丈夫か!? 怪我はないか!?」
「は、はい! みなさんもご無事みたいで」
「まぁ、なんとかね」
ズタボロになってる四野見さんがニッコリとサムズアップ。
髪の毛も少し焦げてるし、ウルツァイタイマイちゃんとの戦闘って、そんなに激しかったんだね。
こちらもスーツが黒焦げになってる刈谷さんが尋ねてくる。
「喜屋武は?」
「ええっと、打ち返したロケットが命中しちゃったので、リセットしたと思います」
「……そうか」
あれ? 同じチームメンバーなのに、あんまり興味なさそう。
状況次第ではごめんなさいをしようと思ってたけど、いらないかな?
「それで、ウルツァイタイマイちゃんは?」
「あ〜、ええっと……ね」
どこか言いにくそうにメリッサさんが続ける。
「ひっくりかえったところにまおたんの爆発攻撃が命中して」
「え? まおの爆発攻撃?」
「そう。ずどどどどって。それで、あっけなく爆死したわ」
「……ええっ!?」
てことは、まおが倒しちゃった!?
な、なんかごめんねウルツァイタイマイちゃん!
これは不可抗力ってやつだよ!
次会えたら、絶対に友達になろうね!!
でも、ウルツァイタイマイちゃんを倒したってことは、ダンジョンクリアってことだよね。
色々あったけど、「わからせダンジョンRTAアタックin白金10号!」はコレで終わりってことで──。
「……あ」
まおはそのことに気づく。
「ちょ、ちょっと待ってください!? 不可抗力とはいえ、まおがウルツァイタイマイちゃんを倒しちゃったてことは……」
「うん」
少しだけ呆れたような顔で、四野見さんが続けた。
「キミが最速でダンジョンクリアだね。おめでとう魔王様」
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