第四十三話 魔王様、おでこが痛くなる
ウルツァイタイマイちゃんの雄叫びが轟くと同時に、喜屋武ちゃんが動いた。
──と言っても、まおたちに向かってくるわけじゃなく、付近の岩陰に身を潜めたんだけど。
さらに、刈谷さんとメリッサさんも。
え? どゆこと?
「まおたん、隠れて!!」
「全員、身を隠せ!」
メリッサさんと刈谷さんの声。
「喜屋武の武器は銃火器だ! ぼーっと突っ立ってると、脳天撃ち抜かれて一瞬でリセットだぞ!」
「じゅ、銃火器!?」
って、この前の宝箱開封配信でみのりちゃんが出した「拳銃」みたいなやつってことだよね?
あわわ。喜屋武ちゃんってば、凶悪な武器をお持ちのようで……。
これはまおも隠れたほうがよさそう。
サササッと近くの岩陰へ避難。
だけど、トモ様と四野見さんは身を隠すことなく走り出した。
「四野見さん!」
「……了解っ!」
四野見さんが巨大な剣を盾代わりにして構え、喜屋武ちゃんがいる方向へ。
トモ様は俊敏力を活かし、岩を盾にしながら側面へ。
《おおおおっ!》
《なるほど、あのデカい剣なら銃弾を防げるかもしれんな》
《頭いい》
《咄嗟にそんなことができるなんて、銃火器との戦闘経験ありなんか?》
《さすが大魔王軍四天王!!》
《え? 四野見さん四天王入りしたの?》
《いつのまにwww》
《まぁ、四天王入りしてほしいけど。魔王様との掛け合いおもろいし》
《理由www》
「……へぇ、対策バッチリって感じだね?」
岩陰から、ちらりと顔を覗かせる喜屋武ちゃん。
だけど、武器を構える様子はない。
「はあああっ!!」
間合いに飛び込んだ四野見さんが、巨大な剣を振り上げる。
岩ごと喜屋武ちゃんを真っ二つにしちゃえ──と思ったんだけど。
「ぐおおおおん!」
「……っ!?」
まるで喜屋武ちゃんを守るように、ウルツァイタイマイちゃんが巨大な前足を四野見さんめがけて振り下ろしてきた。
「くそっ! 【聖騎士の重盾】」
四野見さんがスキルを発動させる。
彼の体が淡く輝くと同時に、ウルツァイタイマイちゃんの巨大な前足を大剣で受け止めた。
「おおおおっ! すごいっ!」
思わず歓声を上げちゃった。
配信で何度か見たことがあるけど、四野見さんのスキル【聖騎士の重盾】って、「一時的にダメージを90%カットする」って効果だったっけ?
スキルのクールタイムがあるらしくて連続発動は無理だけど、ウルツァイタイマイちゃんの【絶対防御態勢】並みの鉄壁になるみたい。
リアルでみるのは始めてだけど、カッコいいな!
四野見さんは、受け止めたウルツァイタイマイちゃんの前足を払い除け、再び剣を構える。
「これくらいでやられる僕じゃない!」
「そう? だけど、余所見はよくないわよ?」
岩陰から喜屋武ちゃんが銃を構えているのが見えた。
刹那。発砲音が響く。
「……ぐっ!?」
「し、四野見さん!」
一瞬、四野見さんの体がくの字に折り曲がったように見えたけど、咄嗟に剣を盾にしながら岩陰に滑り込んだ。
「四野見さん! だだ、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、平気だよ、魔王様!」
サムズアップする四野見さん。
銃弾をまともに受けたみたいだけど、どうやら無事みたい。
多分、スキルのおかげかな?
「……しかし、すごい銃火器をお持ちのようで」
「ふふ、徹甲弾の味はどうだった? 気持ち良かったでしょ?」
喜屋武ちゃんがきゅうっと口角を吊り上げる。
《ヤバwww》
《あれ、M1A SOCOM16じゃん!》
《かっけぇ!!!》
《?? なんぞそれ?》
《ようわからんけど、軍用の銃なんか?》
《解説おじ:説明しよう! M1A SOCOM16はスプリングフィールド社製のM14の銃身を22インチから16インチまで短縮したカービンモデルで、軍隊や特殊部隊で使用されている銃なのだ!!》
《へぇ》
《ふ〜ん》
《ミリオタキモ》
《一瞬見ただけでわかるとかこわいね》
《解説おじ:モンスターのときは褒めてくれたのに(´;ω;`)ブワッ》
《解説おじwww》
《可哀想www》
《てか、ダンジョンって軍用の銃まで出るんやなww こわすぎるwww》
いや、ほんとそれな!
銃火器との戦闘ってはじめてだけど、 饅頭怖い……じゃなくてマジ銃怖い!
「ほらほら、さっきの威勢はどうしたの、お兄さん!? 早くあたしを殺さないと、その可愛い顔を蜂の巣にしちゃうわよ!?」
「く、くそっ……!」
喜屋武ちゃんがウルツァイタイマイちゃんの動きに合わせて攻撃してくる。
ウルツァイタイマイちゃんの前足攻撃を避けようとして、四野見さんが岩陰から飛び出したタイミングで発砲。
四野見さんは大剣を使って銃弾を防いでるみたいだけど、いつ頭を撃たれてもおかしくない。
なんていやらしい攻撃!
というか、なんでウルツァイタイマイちゃんは喜屋武ちゃんと連携してるんだろう──って思ってたけど、これはあれだ。
四野見さんが雄叫びあげたりしてて目立ってるから、狙われてるだけだ。
なるほど。だから喜屋武ちゃんってば、真っ先に岩陰に隠れたわけね。
「メリッサ! 四野見を援護するぞ! お前は神原と側面に回れ!」
「は〜い、了解」
刈谷さんが岩陰から身を乗り出し、拳銃を構える。
えっ!? 刈谷さんもそれ持ってるの!?
拳銃持ってる刈谷さんってば……ヤクザ映画の登場人物みたいで怖い!!
「あは、そんな豆鉄砲であたしのライフルとやり合うなんて、正気なの刈谷?」
「頭にぶち込めば口径の差など関係ない」
ドンパチと銃の撃ち合いがはじまり、さながらヤクザの抗争の真っ只中に迷い込んでしまった感じに。
──だけど、ここにはヤクザ映画には絶対に出てこない子がいて。
「ぐおおおん!」
「……っ!?」
ウルツァイタイマイちゃんのワガママボディプレス!
間一髪、岩陰から飛び出して難を逃れる刈谷さん。
あわわ、四野見さんや刈谷さんが目立っちゃってるから、集中的に狙われてる!
な、なんとかしないとマズいかも!
「喜屋武ちゃんっ!」
咄嗟に叫んだ。
岩陰から喜屋武ちゃんがこちらをちらりと見る。
「喜屋武ちゃんの狙いはまおなんだよねっ!? だったらまおと一対一のタイマンしようよっ! 他の人は関係なしだよっ!!」
「……あはっ」
喜屋武ちゃんが嬉々とした表情を浮かべる。
「いいねまおちゃん! そうこなくっちゃ!」
そして、銃口をこちらに向ける。
「……っ! まおたん!?」
「大丈夫です! メリッサさんたちは、ウルツァイタイマイちゃんをお願いします!!」
これでほかの人たちが喜屋武ちゃんに狙われることはなくなるはず。
なんだけど、問題は──。
《どうやって銃火器持ったあの女に勝つんだ??》
《そらお前、必殺奥義でパツイチよ》
《当たれば一発だけど、近づく前に蜂の巣だぞwww》
それなんだよね。
まおが突っ込んだところで、喜屋武ちゃんは得意としている距離を保つはず。
つまり、まおが近づいた分、後退する。
せめて【キラキラ☆結晶】の間合いまで近づかないと話にならない。
だけど、どうやって近づこう?
四野見さんみたいに弾を防ぎながらとか絶対無理だし、トモ様みたいな脚力があるわけじゃないし──。
ええいっ! めんどくさいなっ!
ここはまおらしく、こう……いい感じにダーンっていくよっ!
「わんさぶろう!」
「わふっ!」
岩陰から現れた、もふもふのわんさぶろうが跳躍する。
《わんさぶろうきたーーー!》
《かわいい》
《いやいや、どっから出て来たwww》
《四次元ポケット的なやつかな?》
《完全に召喚してて草なんだが》
まおを守るように目の前にズザザッと着地。
すかさずその背によじ登る。
「喜屋武ちゃんのところまで一気に行っちゃって! でも、銃弾には気をつけてね!」
「わふんっ!」
わんさぶろうが走り出す。
左右にフェイントを入れながら、瞬く間に喜屋武ちゃんとの距離を詰めていく。
「あははっ! すごいスピード!」
岩陰から飛び出し、銃を構える喜屋武ちゃん。
「だけど、あたしの狙撃の腕を甘く見たね、まおちゃん! どんなに速くても、あたしの弾丸から逃れることなんてできないから!」
「……えっ?」
マズい。
今気づいたんだけど、まおってば、喜屋武ちゃんのスキルのこと全然考えてなかったわ。
もし、【百発百中】みたいなスキル持ってたら……。
ぞっと背筋に寒気が走る。
瞬間、乾いた発砲音が聞こえて──。
「……っ!?」
眉間に衝撃が走った。
視界が歪む。
「あははっ! 頭に当たっちゃったねぇ! 胴体ならまだしも、脳天撃ち抜かれて生きていられるスカベンジャーなんて──」
「いっ」
「……え?」
「い、い、い、痛ったぁああああっ!?」
涙目で、おでこをごしごし。
「ちょ、ちょっと、喜屋武ちゃんっ!? 今、おでこにバチコリ当たったよっ!? めちゃくちゃ痛いんですけどっ!?」
「…………は?」
《は?》
《え?》
《wwwwww》
《ウソだろwww》
《痛いんですけどwwww》
《あ〜、うん、そら痛いわな》
《普通、眉間をぶち抜かれたら痛いじゃすまないと思うんだな〜》
《それで済むのが魔王様クオリティ》
《さすまおだわ・・・》
《【朗報】魔王様、完全被甲弾を脳天に食らっても傷一つなし》
《てか、私ってば無敵すぎる使ってないよな?》
《うん》
《使ってないね》
《なんで?》
《↑多分、テンパってて存在忘れてる》
《草草草》
《かわいい》
《色々おかしいだろww》
《さすまおがすぎる》
「え!? ちょ、ちょっと待って!? なんでそんな反応!?」
そこは「大丈夫まおたん!?」とか、「怪我はない!?」とか、「まおたんの可愛いお顔が!」とか、心配の声であふれるべきでしょ!?
本当にめちゃくちゃ痛かったんだからね!?
ほら、ちゃんと見て!
赤くなってると思うよ、絶対!!
【読者様へのお願い】
「面白い!」「続きを読みたい」と思われましたら、作者フォローとブックマーク、広告の下にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして応援して下さると嬉しいです。
皆様の応援が作品継続の原動力になります!
よろしくお願いします!
 




