第15話
眠い
両手に花束ではなく大量の買い物袋を持つ俺は非常に哀れだ。
今回のMVPにする行いじゃないだろ・・・。
もう腕の感覚ほぼ無いぞ。殴られた時よりダメージでかいぞ。
そんな俺を心配してくれたのか狭山さんが
「半分持ちますよ」
と半分以上の荷物を持ってくれた。
なんて優しい子なんだ・・・。前を上機嫌で歩いてる2人に爪の垢煎じて飲ませてやりたい。いや、もう直接石投げてやりたい。きっとキリストでもこれはしゃーないしゃーないと言ってくれるだろう。
未央家に戻ると早速鍋の準備を始めた。
時刻は18時過ぎ、いい時間だ。
俺は一度家に戻り電気鍋を取ってくる。その間に3人で食材の準備をするらしい。
未央家に戻るとキッチンは阿鼻叫喚と化していた。
「未央ちゃん包丁持つときはこう!猫の手!」
「朝霞さん違う!それは鍋が来てから!今じゃないの!やめてぇぇぇ!」
この間の朝食はこれを優香1人で食い止めていたのか。
俺の時は偶然なんとかなったパターンだったということだ。運がいい。
鍋の器の方を彼女らに渡し俺は下の加熱する部分にコンセントを繋ぎ一息つく。
キッチンの方を見ると器に具材を盛るだけなのにまだ阿鼻叫喚の地獄が続いている。
だがこう、女子同士でキャッキャうふふしてるのは見ていて目の保養になる。それも美少女揃いだ。むしろ毒になりつつある。
少しするとリストラされた未央が出て来た。
「あなたも手伝ったら?」
あんな醜態晒しておいてよく言えたものだな。
「俺は装備の提供したからいいんだよ。お前は足手纏いみたいだったみたいだけどな。プーーくっっククククク」
「喧嘩なら買うわよ」
「ごめんなさい」
マジトーンで返された。俺は今までもこれからも彼女の尻に敷かれることだろう。
少しすると鍋と器を持って2人が各々席につく。
鍋をセットして熱を入れてから具に火が通るまで少し時間があるので4人で談笑しながら過ごす。
10分ほど待っただろうか優香が鍋の蓋を開けると鍋からは湯気が立ちいい匂いがあたりに立ち込める。
順番にそれぞれの器によそい、食べ始める。
中まで出汁が染み込んだ白菜、めちゃめちゃ熱い豆腐、カサ増しとは言えないほど他の具材とマッチするもやし、豚肉の旨味が感じられるスープ。
どれを取っても最高に美味い。
だが6月に鍋はやはり熱い。少し汗をかいてきたので窓を開けると生ぬるいが気持ちのいい風がリビングを吹き抜ける。
その後も皆食べ続け時刻は8時を回ろうと言う頃には〆のうどんすら無くなっていた。
俺はというと〆に行く前にギブアップしていた。
3人は食べ終わった後もお菓子を食べていた。
一体どんな胃袋してるんだか・・・。
少しすると誰が先に風呂に入るかという話題になり未央曰く女性陣だけで話したいことがあるらしいので俺が先に入ることになった。
長いこと入っていてくれと言われたので風呂でソシャゲのデイリーを消化して時間を潰す
〜リビング〜
「狭山さんは彼氏いる?」
そう聞いたのは優香だ。
お菓子をつまみながら狭山さんに聞く
「いないですよ。この間まで部活漬けでそんな余裕もなくて」
「えーーーじゃあ好きな人はいないの?」
「そういう人もいないです・・・」
「それなら彼のことはどう思ってるのかしら」
「彼って川口君のことですか?川口君は・・・その、恩人です。それ以上のことはないですよ」
恋バナを始めてしまった女子という生き物はブレーキのない車のような止まることを知らない暴走車になってしまうのだ。
「じゃあじゃあ!蓮ちゃんが守ってくれた時どう思った?」
「あの時は怖くて怖くて何も考えられなくなってたので・・・」
「優香さん聞き方が悪いわ。さっきの帰り、彼が隣にいる時どう感じたかしら?」
「川口君が隣に・・・。その、安心するっていうか・・・心が温かくなってどうしようもない気持ちが溢れてきて・・・」
優香と未央が一瞬顔を見合わせ狭山さんの方を向き、身を乗り出して言った。
「「恋だ!!!」」
すると狭山さんは一瞬のフリーズ後顔を真っ赤にして
「違います!そんなのじゃないです!」
「嘘だー!じゃあ蓮ちゃんが今お風呂から出てきて『服忘れたわ』とか言って裸で出てきたところ想像してみてよ!」
狭山さんは10秒ほどの間を置き再び恥ずかしそうに顔を逸らす。
「さらに川口君がそこから狭山さんを抱きしめて『お前の着てる服貸してくれないか?』って言われるところ想像してみなさい!」
すると5秒ほどの間を置き
「いいかも」
とボソっとつぶやいた。
当然2人はその言葉を聞き逃さない。
「あーーーー!やぱり蓮ちゃんのこと好きだ!」
「あなた恋する乙女と二次創作の才能ありそうね」
「違うんです違うんです!私は・・・」
「何が違うか言ってもらいましょうか狭山さん。あなたは言い逃れができないほどに彼のことが好きよ!」
「そんな真実を突き止めた探偵みたいに言わないでくださいよ!本当に違うんです!!」
問い詰められる狭山さんは苦し紛れにこの状況の突破口を探す。
「そ、そうだ!みなさん私のこと奏音って呼んでくださっていいですよ!」
と、出て来たのは話題を変えるという選択だった。
「じゃあ私のことも優香って呼んで!」
「ええよろしくね花奏さん。私のことも未央って呼んでもらっていいわ。それよりも彼のことを!」
逃げようとする狭山さんを壁まで追い詰め逃げ場はないとばかりに問い詰める。
すると俺が戻ってきた。
「お前ら何やってんだ?風呂冷めるぞ」
「聞いてよ蓮ちゃん!奏音ちゃんね!」
「ああああの!川口君も私のこと花奏って呼んでください!じゃあ私お風呂頂きますね!」
「ああ、うん。わかった。俺のことも蓮でいいよ」
花奏の勢いに押され動揺する暇さえなく花奏は風呂に向かった。
2人に何があったのか聞くと女子だけの秘密らしい教えてくれなかった。
〜未央と優香が風呂を上がり消灯後〜
2人はすぐにに寝てしまった。あれだけはしゃいでいたから当然か。
私は2人を起こさないように布団を抜け出すと彼の元へ向かった。
リビングにはフローリングの床に枕とタオルケット一枚で寝転がる彼の姿があった。
「蓮君起きてますか?」
「ん?ああ、狭山・・・じゃなかった花奏か。起きてるよ」
「無理しなくていですよ。慣れなければそのままでも」
体を張って私を逃がしてくれた時はあんなにかっこよかったのに可愛い一面もあるんだなぁとその違いに少し笑ってしまった。
「どうしたの?優香のいびきがうるさいとか?」
「いやそうじゃなくて、お礼を、と思って」
「ああ、いいよ。花奏が無事なのが一番のお礼だから」
「でも私の口からお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。蓮君がいなかったら私・・・」
「・・・ええっと、どういたしまして。でいいかな?俺こういう時なんて返せばいいかわからないわ」
そう言って彼は微笑む。
「それと今からすることは全て忘れて欲しいんですけど・・・まず立ってもらっていいですか?」
そう言って彼を立たせ抱きしめた。
自分でも何をしているのか理解できない。それでも私は止まらなかった。
彼は何も言えずに固まっている。でも心臓の鼓動はとても早くなっているのを感じた。もしかしたら彼のではなく私のかもしれないがこの際そんなことはどうでもいい。
「蓮君も抱きしめて」
そう言って彼の腕を私の背中に回す。
彼も私を抱きしめてくれた。
なぜだろうか。涙が溢れてくる。
全てが終わり怖がることは無くなったというのに目から溢れるこの水滴は一体なぜだろう。
すると彼は何かを察したのか震える私の頭を撫で始めた。
彼の温かい手、頼もしさに欠ける胸板、彼の温かさを感じさらに涙が溢れてくる。
私。川口君が好きだ。
私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれた彼は私にこう言った。
「なんかあったらいつでも頼ってよ。相談にも乗るしまたこうして抱きしめてあげるよ」
やっぱり彼はいい人だ。そして私は今までにないくらいに幸せだ。
朝起きると再びキッチンでは阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。
元気があって大変よろしい。
俺は寝具を片付けた後顔を洗い再びリビングに戻る。
戻ると再びリストラされた未央が食卓に食器を並べていた。
すると花奏も起きて来たのかすれ違いざまに一言「おはようございます」と声をかけられそのまま洗面所に行ってしまった。俺は気まずさで何も言えなかった。昨日の夜中にあんなことがあったのだ。しかし彼女は気にしていないのか。なら俺も気にしないことにしよう。
だが、なんて恥ずかしいことを言ってしまったんだ・・・。死にたい!!殺してくれ!!宇宙が歌ってくれている!!・・・思い出すだけで顔を背けたくなる。
落ち着くために頬を思い切り引っ叩くと2人は不思議そうにこちらを見ていた。
その後は朝ごはんを食べ俺と優香は学校の荷物を取りに一度家に帰りそのまま4人で学校に行った。
今回の一件でお互いに仲が深まった気がする。ペ◯ソナ式に言えば部のコミュも上がったのではないだろうか。
はい。今回で花奏の回が終わりました。当初は今話含めて2話で完結の予定だったんですが書きたいことが増えた結果3話になりました。先に言っておきますが多分文化祭は7話くらいに膨れ上がりそうです。
これでも削ったんだよ!削る前だと5話くらいになりかけてたんだからね!
はい。言いたいことは以上です。
次回からは楽しい回が続くといいですね。
俺もどうなるかはわからんのよな!
PS
最後の花奏は寝ぼけて夜のことを忘れてるだけです。洗面所で気づいて悶えてます。




