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第7話 案外気さく

「ツムギお嬢様は、普段ドレスはお召しになられないのですか?」


 ぐいぐいと締められるコルセットに苦しんでいると、メイドが不思議そうに首を傾げた。

 彼女は私についてくれているらしく、今日の朝も食事用の服に着替えさせてくれた。マスリーという二十歳ぐらいのそばかすが可愛い女の子だ。


 私からの敬語は絶対禁止! ということで、気楽に話させてもらっている。

 お嬢様呼びはとってもくすぐったい。


「私の居たところでは、こういったコルセットを日常的にする人はほぼいないんだよね。ドレスも着るのは結婚式ぐらいじゃないかなあ」


「慣れないと苦しいかもしれませんが、きっと大丈夫です!」


 謎の応援をしてくれるが、この苦しさは慣れる気がしない。結局かなり緩めてもらい、それでもまだ苦しいくらいだった。


 着替えが済むと、マスリーはうきうきと楽しそうに私の髪をすいた。


「コノート様がお待ちしているなら急がないとですね。王城に居ても、なかなかお目にかかれないのですよ」


「ええと、フィスラ様は人気があるの?」


「それは、もちろん! 殿下と並んでも全く遜色のないお綺麗な顔に、最年少で魔法師団長になれる才能。誰にも媚びないその姿勢が、とても格好いいですよね」


「最年少って、おいくつなんですか?」


「二十七歳ですよ。師団長の座に着いた時は二十三歳でした」


 思ったより全然変わらなかった。むしろ二つしか変わらないので同世代ともいえる。同世代であの威厳は確かに恐ろしい。


 ……でも、さっきの食事では、そこまで怖い感じはなかったかも。


「私とは同世代だから案外気さくなのかな」


「いえ。先ほどのようなコノート様は、私は初めて見ました。そもそもここには対等に話せるような人自体があまりいませんけど」


 私が思いついたことを言うと、マスリーはきっぱりと否定した。あまりにも高い地位だから、異世界人位の方が気楽に話せるのかもしれない。


「支度ありがとう。凄く上手だね流石プロだなあ。凄い久しぶりにおしゃれしたけど、やっぱり嬉しいものだね」


 マスリーは薄く化粧をしてくれた。肩までの髪は、編み込んで可愛い花の形のピンを刺してある。大きめの布らしきものでできたお花は薄いピンク色でとても可愛い。


 最近は繁忙期ですっかりお洒落とは縁遠く過ごしていたけれど、久しぶりに着飾るととてもテンションが上がる。


 すっかり嬉しくなった私は、マスリーの手を取った。すると、マスリーも嬉しそうに笑ってくれた。


「とっても可愛いですよ。研究棟が面白いイベントだといいのですが」


「……切り刻まれないことを、祈っておいて」





 そうして、フィスラと二人で並んで研究棟とやらに向かう。


 昨日は視界も気持ちもぼんやりしていたので良くわからなかったけれど、眼鏡越しに見るとただ歩いている回廊すら素晴らしいだろう調度品が並んでいた。


 私はあまりきょろきょろしないように気を付けて歩く。それでも物珍しさに目が泳いでしまう。

 こういうところで暮らしていると、まったく気にならなくなるのだろうか。


 隣に居る高地位の男を見上げると、確かに何も感じていなそうな顔をして歩いている。

 この人自体が調度品のように、優雅だ。

 姿勢がいいのだろうか。意外と筋肉もついていそうな気がする。


「なんだ、人の事をじろじろ見て」


「なんでもありません。……ええと、ちょっとなじみのない高級さに目を奪われていました」


 隠そうと思ったが、この先もまた同じことになりそうなので正直に打ち明ける。すると、馬鹿にもせずに、フィスラは頷いた。


「貴族でもなければ、王城で過ごすことはなかなかないからな。この調度品に目が慣れているものは少ない」


「フィスラ様は貴族なんですか?」


「そうだ。三男坊なので自由にやらせてもらっているが。……ああ、うるさい奴がきたな」


 そう言ってあからさまに顔を歪める。その視線の先には、大股でこちらへ歩いてきている王子様が居た。


 その顔は遠目でもはっきり怒っているのがわかる。

 対してフィスラは、一度はもの凄く面倒くさそうにはしたものの、すました顔をしている。


「おい、コノート師団長! 聖女を放置して何をやっているんだ!」


「お言葉ですがミッシェ殿下。聖女様に関しては、殿下がご案内するとの話がありましたし、これまで召喚が行われた文献を見てもそのようになっているかと」


 フィスラの言葉にイライラした様子を隠さずに、王子様は続ける。


「それでも! こんな女に構うよりは建設的だろう。聖女に関する文献は残さないという慣例から、実践で行っていくしかないんだ。人手が要るのは間違いない。コノート師団長も確かめなければならないことが多々あるはずだ。研究だって得意だろう。魔法師団が協力しない事はあり得ない」


「いかにも。ミッシェ殿下のおっしゃる通り、召喚に関しては確認事項も多々あり、研究も好きです。ところで、ミッシェ殿下がこんな女と呼んだ彼女。とてもいい研究材料になりそうなのです。素晴らしい成果が期待できるかもしれません」


 何故か自慢げに上から発言したけれど、私の事をはっきりと研究材料と言っている。

 恐ろしい扱いされたりしないか、ますます心配になってくる。


「聖女より優先するものはない。それにこの女は無魔力なんだろう?」


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