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【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事!?  作者: 未知香


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第51話 新たな聖女

 王は感情の読めない声で淡々といさめる。それにカッとなったように、更にミッシェは言いつのった。


「でも! それが聖女だろう! 聖女の書にも書いてあった! お前がミズキをよんだんだろうフィスラ! すべての責任はお前にあるんじゃないのか!」


 ミッシェは強い眼差しでフィスラの方を見る。その目は聖女の間で見た時と同じままだった。


「フィスラ! お前が責任を取れ! ミズキは聖女だとお前が!」


「黙るんだ。ミッシェ」


 王の言葉は決して大きくなかったのに、ミッシェは悔しそうな顔をしたものの素直に引いた。

 フィスラはじっとミッシェを見ている。


「ミッシェは廃嫡となる。そして、北のミスリアードの鉱山の指揮を執ってもらう。成果があれば戻る様に」


 一瞬ざわめいたが、私が内容を把握する間もなく皆口をつぐんだ。


「もういい。ミッシェは連れて行ってくれ」


「ミズキ……! ミズキ……! 私は、君と……!」


 王の指示で、ミッシェが両脇を騎士に抱えられて連れて行かれる。必死にミッシェはミズキの名前を呼ぶが、ミズキは結局顔をあげなかった。


「聖女ミズキよ」


 王が呼びかけると、やっとミズキは顔をあげた。その顔はぞっとするほど冷たかった。騎士がミズキの手を離すと、すっと立ち上がる。


 その姿は冷たさと相まってとても綺麗だった。

 まるで彼女が王であるかのように、悠然と立っている。


「なんでしょうか」


「申し開きはあるか。……確かに、召喚はこちらが行った事だ。それでも、そうしないという選択肢もあったはずだ」


「そうでしょうか? 世界が手に入るのに、そうしない人は居ますか?」


「もちろん居るだろう。そうでなくても、通常の手順で瘴気を浄化していれば君は大量の魔力に、聖女というゆるぎない立場も手に入れることができたのだ。」


 王が諭すように伝えると、ミズキは馬鹿にしたように笑った。


「そんないつ裏切られるかわからないような立場では良くないわ。今までは、聖女は世界を手に入れられる力があるのに、そうできなかった。……フィスラ様が、ひそかに私への制約を行おうとしていたわ。今までの聖女のように、出遅れるわけにはいかなかった。結果は残念だったけれど、仕方ないわね」


 ちょっとした間違いを指摘されたかのような気軽さで、ミズキはちらりとフィスラを見た。


「聖女の書はあげる。見て後悔するといいわ。今まで聖女がどんな目にあってきたかをね。聖女の書を読んだミッシェ殿下は、私にとても優しくしてくれた。私の未来を憂いてくれていたわ」


 フィスラはじっとその言葉を聞いている。

 ミッシェが連れ去られた方をちらりと見て、彼女は初めて表情を崩した。


「……だから」


 ぐしゃりと泣きそうな顔をしたミズキはまるで子供のようだった。握った手で必死に涙を拭い、どうして、と繰り返す。


「どうして、やられるってわかってて、従わなきゃいけないの? こういう事をさせたのはあなた達じゃない……。どうして……」


 聖女の書には何が書かれているのだろう。彼女を凶行に走らせた聖女の書にを受け取るのが恐ろしい。


 彼女も被害者なのかもしれない。泣いているミズキを見ると、苦い気持ちになる。

 それでも、フィスラに危害を加えた彼女を、私は許すことは出来ない。


「聖女の書を受け取ろう」


 フィスラに促され、私達はミズキの前まで向かった。再びミズキは騎士に後ろ手を拘束された。


「聖女の書は、ここに。魔力を通して開けるんだ」


 騎士に手を掴まれ、聖女の書にミズキの手が触れた。


「……わかったわ。解除」


 ミズキが暗い声で唱えると、聖女の書はふわっと光りすぐ消えた。フィスラはそのまま私の手をとり、聖女の書に登録した。


 受け取った聖女の書は、ずしりと重い。


 これが、ミズキとミッシェ、その他の人生を狂わせたと思うとより重く感じる。


「私達が、この内容をきちんと受け止めると約束しよう」


「無駄だと思うわ。この国の汚さを知るだけ。搾取される側になるなんて、最低。ツムギもきっとそうなるのよ」


 私の事をじっと見て、ミズキは呪いの言葉を吐く。


「ミッシェはあなたの味方だった。だったらやり方はあったはずだわ。魅了関係なくあなたの事が好きだった彼の事を裏切った。私はあなたのやり方は、最低だと思う。私はフィスラ様を信じているわ」


 私も彼女の目を見返して、告げた。

 ミズキはカッとした顔をして暴れたが、すぐに騎士に拘束され退出した。


「ツムギ。其方が聖女の書を受け取った。ツムギが聖女だと、ここに宣言する」


 王がそう宣言すると、周りははっとしたように私に向かい、礼をとった。

 皆が私に向かって跪いた光景は、少し恐ろしい。


 あっという間に聖女に仕立てられた。


 不安になった私は、隣に立つフィスラを見上げた。


「大丈夫だ。私が居る」


 静かに言うフィスラの言葉は約束の様で、すぐに私の不安はなくなった。


 ミズキのミッシェへの気持ちがこんな風だったらと思い、その傲慢な思いを私は首を振って払った。


 聖女の書を読まなければいけない。


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