表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 真幻想家族自重しない改造人間は実の父っ! (白目)

作者: 柴犬

  






 白い。



 




 白い雪が舞っている。









 チラチラと。

 チラチラと。











 ずきずきと痛む後頭部を摩る。

 はあ~~とため息が出た。

 僕は鞄を抱え直す。

 


「あ~~痛かった」


 後頭部の痛む。


 原因は家で家事をしている時に不注意が招いた結果だ。


 幸い病院に掛かるほどの傷ではないから良かった。

 大きな瘤が出来たのは御愛嬌だろう。



 派遣先の食品加工工場のから帰宅したのは良い。

 良いのだが残業が多く遅くなった。



 最終電車を乗り損ねなかったのは運が良いと思う。

 

「季節的に寒くなったな~~」




 季節は秋から冬。



 本格的に冷えてきた。


 空を見上げる。



 時間的に言えば深夜。






 見渡す限りの満天の夜空。



 綺麗だ。


 その美しさに僕は感嘆の息をつく。



 四十代後半。


 出会いもなく気が付けば此の年だ。


 最早結婚は無理だろう。



 両親は既に七十代後半。

 何時お迎えが来ても可笑しくない。


 兄弟は兄と姉が一人ずつ。

 自分が末っ子だ。


 残りの家族と言えば猫ぐらいだろう。


 兄と姉は既に結婚しており子供もいる。


 其れに比べ自分は結婚どころか出会いすら無い。



 目下の悩みは其れだ。



 まさしく何処にでもいるモブのような人生だ。


 僕は目を伏せて考え込む。



 後は……。




 うん?



 僕は後ろから人の気配を感じた。

 



「此の後カラオケ行く?」

「行くっ!」

「良いねっ!」


 十代の若者だ。



 白い息を吐きながら後ろから僕を追い抜く。


 近くのカラオケボックスに行く気だろう。

 いい気なものだ。



 将来も何も不安が無いんだろう。



 まあ~~人は人。


 僕は僕だ。


 

 そんな時だった。

 其れが現れたのは。






「「「キイイイイッ!」」」






 奇声が聞こえた。


 奇声が。


 何処からともなく現れ奇声を上げる男たち。

 正確に言えば全身黒ずくめの男たち。



 顔まで黒い布で覆われた其れ。



 其れは異常者と呼ぶに相応しかった。




 異常者にして異常な者たち。




 そう呼ぶ理由も有る。


 全身を覆う布はごく一部を除き目しか外気に晒して無かった。

 手には棒のような武器を持っている。



 それだけではない。


 異常者にして異常な者たちというにも理由が有る。

 眼の白目が無く黒かったからだ。




 人ではない。



 人にしては異常。

 異常にして異形。



 異形の化け物。



「ひっ! やめろっ!」

「うわっ!」


 それらは僕を追い越した若者たちを打ち据えた。

 おいおい。

 人間の出せる速度ではないぞ。


「ふふふっ!」



 何処からともなく辺りに響く声。

 思わず周囲を見回す。


「喜ぶがいい」



 声の聞こえる場所が分かった。

 地面だ。

 地面の影。

 其処から人の声がする。


「貴様らは我が秘密組織【ケッター】の構成員に選ばれたのだからな」


 影の暗闇から現れた新たな異形。

 影から顕現した異形。



 そう。




 其れは異形と言って良い。


 顔は獅子だった。


 正確には獅子の仮面を被った異形。



 胴体は人を模した獣の姿を持つ異形。




 そう異形。


 そう明らかに異形の者だった。




 異形……明らかに其れは異形。


 異形と言うには遥かに格上の存在。



 仮に怪人と呼んだほうが良いだろか?

 

 そう怪人と呼ぶに相応しい姿の者だ。

 




「なんなんだよ御前らっ!」

「警察に通報するぞっ!」

「ひっ!」


 悲鳴を上げる通行人。


「フンッ!」


 ザシュッ!



 肉を斬る音がする。

 その後起こる血しぶき。

 ゴロリと丸いものが落ちていく。

 

 血しぶきと共に落ちた其れ。

 其れは人の首だった。


「ぎやあああああああああああっ!」


 真っ青な顔をして悲鳴を上げる若者たち。

 だけどそれ迄だった。


「ひいいいいっ!」

「「いやああああっ!」」


 何かが切られる音と共に悲鳴が上がる。

 切られたのだ。

 再び怪人に。

 若者の一人が片手を切られていた。


「見せしめに二人ぐらい殺しといていいか……うん?」


 にいい~~と醜悪な笑みを浮かべる怪人。

 其れはあまりにも非現実的な光景だった。

 

「貴様……」

「はい?」



 其の時だった。




 何故か怪人は今初めて気が付いた。

 等と言わんばかりに僕を見る。

 其の目に戸惑いが見える。

 何故か分からない。


「何時から其処に居た?」

「はあ? 最初から居ましたが?」

「気にいらん」

「はい?」


 怪人の言葉に僕は内心首を傾げる。


「何故貴様は怯えない?」

「どうして……ていわれても……」


 予想外の事を言われ僕は苦笑いする。





 あれ?



 おかしいな?


 何で僕は目の前の光景に混乱してない?



 何故か酷く冷静だ。

 というかこの光景を見慣れてる気がする。

 何でだ?



「気に入らん」





 眼前の怪人は何やらポツリと呟いた。




「は?」



 思わず僕はマヌケな顔をする。


「気に入らんぞ貴様」


 何がだろう?

 全然怖くない。

 何でだ?




 

「まてええええええっ!」






 そんな時だった。


 その声が聞こえたのは。

 何処かで聞いた声が。



「何奴っ!」



 その声と共に僕らは一斉に振り返る。

 声の主の方に。




「ふ……」



 場所ははるか上。




 大きな月が輝いていた。

 大きく美しい月が。



 其れを遮る影。



 其処に一人の老人が居た。





 月を背に背負い佇む一人の老人。







 電柱の頂点に佇む老人。

 その人は此方を見下ろしていた。






 

「まさか……」





 怪人の言葉に釣られ僕はそちらを見る。







「貴様生きていたか」









 怪人の顔は作り物とは思えないほど歪んでいた。


 其の顔が作り物ではなく生物の様な感じで。




「生きていたのかっ! 貴様っ!」



 その表情は驚愕。








 驚き困惑し愕然としていた。


 信じられないという顔とも読み取れる。





「ママチャリライダーアアアアアアアアアアアアアッ!」






 此の状況が怪人の想定外の事態だと思われる。

 焦りと混乱の感情が込められていた。






「生きていた?」


 僕は怪人の言葉に眉を顰める。



「ママチャリライダー?」


 生きてるも何も……。

 

 僕はその老人の顔を何度も見ている。

 具体的に言えば()で。

 老人の名は暁太郎。

 僕の実の父である。



 元は建付け大工で工場長を務めていました。


 ですが五十代後半に尿道結石を患い腎臓を片方失ったのを機に退職。

 そのまま専業主父になり家の雑用を引き受けてる人です。



 なので普通に生きてるんですけど?


「また悪の限りを尽くす気か【ケッター】」



 怪人を指差すお父さん。

 其れは長い修羅場をくぐり抜けた猛者の風格が有る。




「ぬかせっ! 今日こそケリをつけてやる降りろっ!」



 激昂する怪人は大きく手を振りかぶる。



「ふ……言われるまでもないっ! とうっ!」




 ヨジヨジ。

 ツルツル~~。

 スタン。



 ……御父さん。








 電柱から飛び降りないんですか?


 電柱を伝って降りてるのはどうかと。


 しかも降りてくる御父さんを律儀に待ってる怪人と構成員。


 構成員……いや戦闘員かな?



 因みに一般人は気絶して白目です。


 何だろう此のカオスは?

 誰も突っ込まないんだろうか?


「待たせたなっ!」



 両手を斜めに上げるお父さん。

 変身ヒーローのポーズに似てる。



「おうともっ!」


 

 ……御父さん。






 何で変なポーズをしてるんですか?


 足を広げて右こぶしを天に掲げ左手で心臓に当ててるし……。




 どこぞの変身ヒーロー物ですか?


 具体的に日曜日の定番の。


「今日こそケリをつけてやるっ!」

「やれるものならやってみろっ!」

「やれっ! 戦闘員よっ!」



 怪人の言葉に戦闘員が御父さんに襲い掛かる。



 え~~。


 何だろう?


 此の展開?




 バキッ!

 ゴスッ!

 ドンッ!



 

「ぐはっ!」

「ぎゃああああっ!」

「ひいいっ!」



 戦闘員が御父さんの格闘技で吹き飛ばされる。


「はあっ!」

「がっ!」



 何か人が有りえない高さで飛んでます。




 何で殴られた人が家の高さより上に殴り飛ばされてるの?



 御父さん人間?


「御父さん何やってるの?」

「おおうっ! マー君何んで此処に!?」


 僕の言葉に狼狽える御父さん。

 僕の冷たい目に動揺してるみたいです。


「貴様っ! まさかママチャリライダーの関係者かっ!」



 まさかそんな関係かっ!

 等という感じだろうか?


「息子です初めまして」

「父です」


 動揺する怪人に僕は律儀に挨拶する僕。

 御父さん貴方は挨拶しなくて良いですよ。


「お……おう」


 

 怪人が付いて行けてないですから。

 というか面食らってます。




「はっ!?」



 正気に戻った。



「ならば親子ともども抹殺したやるっ!」

「させるかっ! ママチャリ変身っ!」




 僕達に襲い掛かろうとした怪人に御父さんは両手を空に突き出す。

 其のまま胸の前で交差する。





 ピカッ!





 閃光が御父さんから発生する。

 閃光の後から現れたのは特撮ヒーロー物のような姿。

 いや実際に特撮ヒーローの様な感じだ。



「ナニコレ」



 思わず死んだ目で見る僕。


 怪人に向け走り出すお父さん。

 そのまま跳躍。

 怪人に蹴る。




「必殺ママチャリライダーキックッ!」

「ぎやあああああああああああっ!」





 ドカンッ!






 怪人は御父さんのキックを食らい爆発。

 後には何も残らなかった。


「……」





 あのう~~置いてけぼり何ですが……。


「え~~」



 頭痛い。




「正義は勝つっ!」



 無駄にカッコいいポーズを決めて明後日の方を見る御父さん。




 此れ何で爆発の影響を周囲が受けた無いんだろう?

 普通アスファルトの道路とか抉れるよね?

 破壊の後が無いんだけど?

 しかも近所の人見に来ないんだけど?




 そんな疑問を持ちながら僕は父の背中を見続けた。 

 

 




























  ママチャリライダー。

 

 僕の記憶では其の名は恐らく此の国で一部の人間にとって有名である。

 五十年前に流行った特撮物の主人公の名だ。




 ジャンルは仮面を被ったヒーロー物。



 世界征服を企む秘密組織が存在する近未来。



 悪の秘密組織に改造された人間暁太郎。


 彼は脳改造される前に逃げ出し正義の為に戦いに身を投じた。


 強化されたママチャリを使い戦う彼は何時しかこう呼ばれた。






 ママチャリライダーと。







 何時終わるとも知れない戦いに終止符を打つべく彼は今日も戦う。





 という設定です。




 当時特撮ヒーロー物と言えばアニメでしか見られなかった。

 其れを帝都チャンネルが社運を賭け特撮で放送したのだ。

 其れは視聴率三十を超える人気作品になった。

 以降に十年かけ放送され続けた人気作品である。

 放送終了した後も熱心なファンが居たというからその人気は本物だ。



 続編を望むファンの声を聴き何度も続編が作られたらしい。

 相手はストレス獣と言われる謎の敵。


 其のうち主人公が交代した続編も作られるようになっとか。



 魔法少女物。

 仮面を被ったヒーロー物。

 戦隊物。



 今では日曜の定番番組である。



 その初代ママチャリライダーが居ます。





 目の前に。


「はあ~~」



 まさか現実とは。



 現実は小説より奇なり。




「どうした」

「いえ」


 そういいながら僕は御父さんが茶碗に入れた御飯を貰う。



 今日のおかずは……。



 金平ゴボウに沢庵其れにキャベツの千切り。

 豆腐の味噌汁は昨日の残りもの。

 後は自家製キムチです。



 冬の間に家庭菜園で作られた白菜で作られた代物です。


 其のままでは腐るので冷凍して保存した物を解凍して出してます。

 

「美味い~~」

「そうだな~~」

「御母さんは?」

「何でも学生時代の友人と飲みに行くと言ってた」

「はあ~~」


 食後の緑茶を貰う。



 美味い~~。



 我が家では肉中心の生活から野菜魚中心におかずに変えられてる。


 健康のためだ。


 家族全員高血圧の為こうしてる。



 最初は不満でしたが体の調子が良いので満足してます。





「ではなくてっ!」

「おおうっ!」



 御父さんの言葉に僕がが慌てる。


「何で怪人とか見て驚いてないんだっ!?」

「ゑ?」



 そういえば何で僕は驚いて無いんだろう?




 不思議だ……。



 普通なら取り乱すのに。


「まあ~~帰った途端行き成り御飯にした御父さんも大概だけど」

「……」


 視線を逸らされた。


 うん。




 誤魔化す気だったけど僕が何も言わないからアレだな。

 調子が狂ったという感じかな。




 そんでもって焦って自分から聞いてしまい墓穴を掘った。

 という感じだろうな。




  ズルズルと御茶を飲む僕。



「そういえば御父さん?」

「なんだマー君?」

「御母さんは御父さんがママチャリライダーだという事を知ってるの?」

「知らない筈だ」

「ですよね~~」



 まあ~~当然だろう。



 ママチャリライダーとはいえ人間。

 その正体を知ってるものは居る。

 特に年単位で戦ってたんだ。

 知っている筈だ。



 うん。


 というかママチャリライダーという事を受け入れたのか……。

 

「……って知らないのかいっ!」

「何がマー君?」



 何故キョトンとしてる?



「御父さんがママチャリライダーだという事をっ!」

「まあ~~ねえ~~」



 ああ~~と手を叩くお父さん。




「御母さん長年夫婦をしていて何でしらないのさっ!」

「ゑ?」


 何故か変な顔をされた。

 何言ってんだ此奴という顔だ。


 実の息子に酷くない?


「何?」

「あ~~マー君……普通は怪人とか戦闘員は見えないんだが……」

「はあ?」


 御父さんの言葉に僕は、はあ? と間抜けな顔をする。

 緑茶を飲みながら答える御父さん。


「それどころかママチャリライダーの姿もね」

「はあ? 何で?」

「認識力断絶現象さ」

「認識力断絶現象?」


 御父さんの言葉に僕は眉を顰める。

 聞いたこと無いんですけど。



「これまで培ってきた知識や経験それに常識等に沿わない物を見た時にマー君はどうする?」

「其れは……例えばどんな状況だ?」


 御父さんの言葉に首をかしげる。



「例えば怪人の姿だマー君は見てどう思う?」


 怪人が何か?




 意味が分からないが……。


「怪人は怪人だろう?」

「そう其処」





 僕を指差すお父さん。



「はい?」


 ガリガリと御茶請けの漬物を齧る御父さん。

 良いけど塩分が多いから血圧上がるぞ。


「話が長くなりそうだから分かりやすく言うな」


 色々と説明してくれた。

 なのだが……今一つ分からなかった。



 だが暫く聞いてると段々理解できてきた。




 要するに普通の人は超常の存在を知覚し認識できないのだ。





 此れまでの常識が邪魔をして。


 超常の存在が何かしたとする。


 其れは普通は精々気のせいと言うレベルに落ち着く。

 若しくは其れを不自然と思わない。


 そうなると最早他人事になってしまう。





 それも致命的(・・・)なレベルに。





 

 例えば今日の話をしよう。


 僕が何時もの調子で歩いてたら怪人と遭遇し殺されるとする。

 御父さんたちは僕が怪人に殺されたと認識する。



 但し普通の人の場合は僕は通り魔に殺された思うのだ。




 認識の齟齬。



 というか認識した非現実が自分の常識に沿った物に置き換わるのだ。


 無意識に。


 そんな訳で普通の人は認識出来ないのだ超常の存在は。


 出来ても自分の都合の良いように記憶してしまうのだ。




 

 此れが認識の断裂現象。





 正しく事実を認識出来ないのが普通の人間らしい。



「となると御父さんは……」

「改造されて認識できた」


 マジかよ。


「あ~~でも僕は怪人とかは今日初めて見たんだけど……」

「……多分だけどマー君さあ~~頭を打たなかった?」




 何言ってるの?



「打ったけど?」

「それだっ!」



 漬物を刺した爪楊枝を此方に向ける御父さん。



「へ?」

「詳しくは省くけが其れで急に認識出来る様になったんだ」



 うんうんと、頷く御父さん。







「……」





 マジですか?




「となると困ったぞ此のままではマー君は殺されるかもしれないぞ」

「誰に何でさっ!?」



 行き成り不穏当な言葉を聞いたんだけどっ!?

 何で!?

 としか言いようが無い。



「いや秘密結社に見られたし」

「そうでしたあああああっ!」

「アノ組織がマー君を見逃すとは思えないっ!」

「ぎゃああああああああああっ!」


 御約束だよ。



 秘密を見た者は消される。

 此れは御約束だ。


「認識出来る様になった人間をあいつらが見逃すものか」

「そうだよね~~って何で?」




 やさぐれてたらお父さんの言葉に引っかかる。



「簡単な話だ奴らのアジトは普通の人間に見えない此処までは分かるか?」

「うん」



 それはまあ~~。


「という事は普通はアジトが襲われないよな」

「まあ~~」



 当然ですね。


「自衛隊も警察も踏み込めない」

「あ~~」

「奴らを認識出来ないからだ」

「成る程」



 言われてみれば……。



「だから奴らは悠々とアジトでのんびりしてるのさ」

「のんびりしてるって……普通は警備ぐらいしてるでしょ」



 何言ってるんだろう?



「してないぞ」


 ボソリと言うお父さん。


 



「はい?」








 マジですか?

 え?

 マジ?







「奴らも事実を正しく認識出来る人材が少ないんだ」

「はあ」



 まあ~~分かる。



「だから遊ばせておく人材の余裕が無いんだ」




 あれ?




 のんびりという言葉は何処に?



「普通はあいつ等何してんの?」



 とりあえず聞いてみるか。


「怪人のメンテナンスに資金調達其れに新技術の実験かな」

「そんなに忙しいんだ」




 ふうん?



「ああ確か全員で十人しか居ないとぼやいてた」

「少ないっ!」

「しかも給料ない上に休みなし」

「酷いブラックだっ!」

「悪の組織だからな」




 え~~悪の組織って最悪のブラックだ。




「しかも御父さんが自分の死を偽装する為に色々したからな~~」

「何したの?」




 ジト目で言う僕。




「施設を破壊した上に今後の生活の為に資金強奪したから劣悪な環境になってるだろう」

「何方が悪役か分からないんだけどっ!」


 御父さん視線を逸らさないでください。

 唯の強盗ですから。


 ええ。


 本当に。

























 




 

 のんびりと御茶飲んでる時の事だ。





 リンリンと携帯が鳴った。

 御父さんの携帯電話だ。

 因みに未だにガラケーである。


「はい……おやっさんっ!」

「ぶひいいいいいいいっ!」



 御父さんの言葉に思わず噴いた。

 おやっさんって……。



「どうした? 行き成り噴いて」

「いえ……つかぬことを御聞きしますが御父さん」



 何か疲れがドッときた。


「何だ?」

「おやっさんって?」

「ああ~~改造ママチャリの専属メカニック兼サポートをしてくれた人だ」

「ですよね~~」



 お約束だ。

 というか此処まで似せなくても良いのに。



「昔使ってたママチャリの整備をおやっさんに頼んでたんだ」

「はあ」


 やっぱりか~~。





 おやっさん。




 本名は立花東陶。






 設定では元々はホンタモーターズというバイク屋の店長です。


 唯のバイク屋の店長何だが……。

 何故かママチャリのメカニックをしてるという謎の設定を持っている。


 しかもそれだけではない。


 ママチャリライダーが怪人に敗れる度に彼が考案した特訓を施し勝利に導いてるのだ。

 そして歴代のママチャリライダーの面倒も見てるという謎の人物である。



 というか……。

 ママチャリライダーのママチャリは普通の人は整備できんと思うんだけど……。


 本気で謎の人物だ。


「おやっさん~~どうですママチャリは? え? はい」


 う~~ん。


「はい修理代込みで三万えですね」

「えええええええええっ! 御金とるのっ!?」



 思わずお父さんに突っ込む。


「そりゃ商売だし仕方ないよ」

「商売っ!?」



 驚愕の事実に僕は驚く。



 ママチャリの整備と修理にしては高い。



 だけどママチャリライダーの愛機を修理するなら安い。


 安いんだけど……。

 何か釈然としないのは僕の気の所為かな?


「あ~~はい今から取りに行きます」

「取りに行くんだ~~」




 僕は死んだ目をする。



「ああ敵は待ってくれない万全を期して迎え撃たなくては」

「ああ~~うん」



 僕は遠い目をして頷く。



 うん。


 深く突っ込んだら負けかな。




 一時間後。



 御父さんは愛機を貰ってきました。


 ママチャリライダーの愛機。



 うん。



 おかしいな~~。


 僕の目の錯覚かな?

 

「あのう~~御父さん?」

「何だマー君?」


 ニコニコしながらママチャリを点検する御父さん。


 御父さんの愛機を観察す事暫し。


 錆びの出始めた歪んだ買い物籠。

 塗料の剥げた車体。

 普通のタイヤ。

 


 うん。



 普通のママチャリだ。


 どこぞの店で買えば二万くらいでする代物です。




「此れは昔から御父さんが愛用してるママチャリでは?」

「そうだけど?」



 え~~。

 何と言えば良いんだろう僕は。



「唯のぼったくり修理やんっ!」

「違う」

「そうやんっ!」


 何言ってるんだろうという顔は止めて。

 本当に。

 御父さん。

 















































 


  ママチャリライダー。



 その代名詞とも言うべきママチャリ。


 暁太郎は其の愛機と共に激戦を潜り抜けてきた。

 有るときは不死の王とも言うべきファラオ怪人と対決した時。

 或いは此の世界のあらゆる毒物を操るドクターラビ怪人と戦い。

 魔道を極めた怪人と勝負した。




 愛機にして武器。

 武器にして相棒。




「其れが此の愛機なんだ」




 ……。




「うん分かったからママチャリを下ろそうか御父さん」

「きゅう~~」


 持ち上げていたママチャリを下すように促す僕。


 御父さんの足元には気絶した怪人が寝込んでいた。



 うん。





 カオスだ。



 あの後庭でママチャリを点検していた時の事だ。


 家に怪人が襲撃してきました。

 普通お約束では家に襲撃しないんだが……。


 襲撃してきたから仕方がない。




 うん。




 仕方ないのは分かる。

 分かるんだけど。



「御父さん」

「うん?」


 此方を見るお父さん。


「ママチャリを鈍器代わりにして怪人を撃退しないでください」

「ゑ?」



 ポカンとするお父さん。



「何で予想外の言葉に驚いた顔をしてるんですか?」

「いやそんなツッコミが来るとは思わなかったから」

「いや言いますよ」



 有ろうことか御父さんは怪人を変身せずに撃退しました。



 ママチャリを振り回して。


 愛機はどうした?

 等と言いたい。



 愛機を鈍器代わり渾身の力で殴り倒す。

 怪人は此れで気絶した。

 其れを僕は遠い目で見てましたよ。



 ええ。


 変身ヒーローて一体……。



「ヒーローなら変身してください常識です」

「いや面倒だし」


 おい。


「面倒で愛機を乱暴に扱わないでください」

「え~~」

「本当に変身ヒーローなんですか」

「そうだよ」

「……」


 変身しないヒーロー。

 変身する意味あるの?


「其れはそうと何で此の家の場所が分かったんだろう?」

「ああ~~其れ御父さんの所為だ」

「え?」



 はて?




「以前悪の組織に所属してた時履歴書を書いてたから」

「履歴書いるんかいっ! 悪の組織っ!?」



 びっくりだよ。




「当たり前だろ? 常識だぞ」

「え~~」


 何だ其の嫌な常識は。

 頭が痛い。



「う……うん」




 気絶していた怪人が目を覚まし始めた。



「起きた」

「いやあああああああっ!」



 怪人は御父さんを見るなり這って逃げ出そうとする。

 だが御父さん其のまま逃げられない様に怪人の背中を踏む。




「御父さんママチャリを担いで何するんですか?」

「頭をミンチにしようかと……」



 サラリと残酷な事を言うお父さん。

 発言がサイコパスだ。



 

「止めろおおおっ!」



 怪人は御父さんのヤバイ発言に顔を青くする。

 ワニ顔なのに色が分かるって新鮮だな。


「止めて下さい」

「そ……そうだ息子さんの言う通りだっ!」




 僕の言葉に便乗する怪人。

 思わぬ援軍を得たと思っているみたいだ。

 違うんだが。



「家の庭に嫌なシミが出来て住めない様にするのは止めてください」

「気にするところ其処っ!」



 僕のぶっとんだ発言に驚愕の声を上げる怪人。

 何を今更。



「撲殺すること自体は止めないんだ」

「当たり前です」


 

 当然だろう?



「当たり前じゃねえええええっ!」



 僕の発言に絶叫する怪人。

 はて?



「ワニ怪人さん」



 僕は姿勢を低くし怪人の顔を見る。



 

「貴方は何で此処に来たんですか?」

「其れは当然……」

「当然?」



 何処か得意げな怪人を見る。


「我らが宿敵ママチャリライダーを倒すために来た」



 はい。

 ギルティ。



「御父さんスコップを持ってきますので車の準備をしてください」

「まてえええええっ! 何をする気だっ!」



 僕の言葉にぎよっとする怪人。



「裏山に宝さがしに行きます」

「埋める気だろっ! そうだなっ!」


 僕の戯言を看破する怪人。

 何を言ってるやら。


「いえいえ徳川埋蔵金を探すだけですよ」

「其れ絶対無いやつじゃんっ!」



 いえいえ。


 有るはずですよ。

 きっと。


 何処かに。





「そのさい掘った土を戻した時に土饅頭が出来るのは御約束ですね」

「埋める気だよ此奴っ!」



 顔面を蒼白にする怪人。

 何を言ってるやら。

 当然だろう?



「害虫は一匹見つけたら沢山いると思えと言いますし」

「怪人は害虫ではないっ!」

「人に害をなしてるので大差は無いですよ」

「違うだろ色々っ!」


 うん。


 何言ってるやら。


 はっはっは~~。


「人の家族を殺そうとしてるんです仕返しされても文句言えないよね」

「御免なさいいいいっ! 心を入れ替えますので許してくださいっ!」




 僕の黒い発言にとうとう泣きが入る怪人。




 というか股間が濡れてますが……。



 改造人間としてのプライドはどうした?




「我が子なんだよな……怪人を泣かしてるけど」

「そうですけど?」

「我が子ながら……エグイ性格してるな~~」


 御父さん貴方が言いますか?












































 長く艶やかな髪。

 透き通るような白い肌。

 二重瞼で気の強そうな印象を与える瞳。

 強意思を感じさせる引き締まった唇。

 黒を基調としたゴスロリ服。

 見るからに美少女だ。

 十代後半。



 見るからに美少女だ。


 其の美少女は土下座していた。


 僕の家の畳の上で。


「降伏の証として此れを差し上げますので助けて下さい」


 美少女は僕に向けて謎のカプセル二つを差し出す。

 はて?


「ワニが美少女に化けた」

「化けてませんっ! 此方が本当の姿ですっ!」



 いやそう言いたく成る。



「似非少女が本当の姿って……何処の狸だ? 狐か?」

「其処っ! いい加減に化けてることから離れろっ! 一般人っ!」

「其の一般人に恐怖してお漏らしした人に言われてもなあ~~」

「言うなああああっ! 糞デブウウウウウっ!」



 僕の言葉に狂乱するワニ怪人。


 いや元ワニ怪人かな?



 此の美少女。


 ワニ怪人が変身を解いたら美少女に成りました。




 うん。


 意味わからん。


「やるな~~我が息子は~~生身で怪人を圧倒するなんて……」

「人を化け物みたいに言わないでください」



 不本意です。



「悪鬼羅刹の方が良いか?」

「普通の一般人です」




 実の父の発言に呆れる僕。



「「何所が?」」

「仲いいな正義の味方に悪の怪人」


 御父さんと元怪人のツッコミに僕は言い返す。


「時にワニ怪人」

「何ですママチャリライダー?」

「良いのか此れ? 普通に悪の組織の規律違反だが……」




 御父さんは畳の上に有るカプセルに指をさす。


 

「害意が無いのを証明するためです」

「悪の組織の重要機密だろう」

「そうですが」

「粛清対象になるぞ」

「それはそうです」

「怖くないのか?」

「確かに怖いですが……」

「ならどうして……」

「笑いながら生きた怪人を埋葬する一般人より怖いと?」



 青い顔をして震えながら話す元ワニ怪人。



「悪かった」

「分かってくれましたか」

「ああ」




 異常者を見る目で此方を見るのは止めて。

 

 


「二人の話はこの際置いとくけど此れ何?」

「戦闘用経口ナノマシンです」

「捨ててくる」

「ちよっとおおおおおおっ!」


 立ち上がってナノマシンを捨てようとする僕に縋りつく。


「分かってるんですかっ! 其れ下手すれば数百万円の価値が有るんですよっ!」

「胡散臭い」



 普通そう思うだろうに。



「いいいいやああああああっ! ママチャリライダー止めてえええっ!」



 悪の怪人なのにヒーローに頼るな。


「ああ~~実際は違うけどな」

「ほらな」

「ママチャリライダーあああああっ!」



 御父さんの言葉に絶叫する。

 煩いな~~。




「材料費込みなら三千万ぐらい……」

「貰おう」



 現金というでなかれ。

 


「最初からそう言いなさい……」


 美少女がグッタリしてる。

 レアかも。





















 数分後。





 御父さんは何やら元ワニ怪人と話し込んでいた。



 何を話してるか分からない。


 分からないが理解してる部分が有る。


 話し込む前に新聞を大量に読んでいる事。


 其れにこの地域の地図を念入りに見ていた。


 こんな不可解な行動をとるときは決まってとあることをする。


「御父さん今から仕事に行くんですか?」

「ああ~~三日ほどで帰るから御飯の方は頼む」

「ではその間は御飯は僕が作っておきます」

「頼む」


 うん。

 やはり仕事か~~。


「お~~いワニ怪人~~御飯食べてく?」

「良いんですか? というか名前を呼んでください怪人とはいえ人間なんだし」



 不貞腐れる元ワニ怪人。



「聞いてないけど?」

「そういえば教えて無いですね」


 うっかり。

 等と言う感じですね。



「まあ~~聞く気もないけど」

「聞いてくださいよっ!」

「聞いたら情が湧くし」

「犬猫ですかっ!?」




 はっはっはっ~~。

 何をおっしゃる。




「いや~~墓標の名前を書くとき筆跡で身元がバレたら怖いんで」

「怖い発言しないでっ! まだ私を埋める気ですかっ!」



 ズザザ~~と後ずさるワニ怪人。


「冗談だよ」

「本当に?」



 此方を疑う目で見る。



「そうだよ~~襲撃してきたけど一応許したし」

「はっ! まさかっ! 毒殺する気ですねっ!?」

「食材が勿体ないからやるわけないよ」

「食材が勿体無いてことは其れ以外ならヤル気ですかっ!」

「そうだけど?」



 当たり前だろう?



「もう嫌あああああああああっ! 此奴怖いっ!」



 泣き叫ぶワニ怪人。

 いや元か。




「あ~~いい加減に此の子を虐めるな」

「いや~~虐める気は無いんですけど……良い反応するんで……」




 僕は御父さんの言葉に苦笑いする。

 弄りがいがあるね。



「此奴……何時か絶対泣かせる……」


 

 ボソッと呟いてるみたいだけど聞こえてるからね。



「其れで名前は?」

「は?」

「名前だよ」

「あ~~鳳明日香です」



 此れは此れは。




「正義の味方の様な名前なのに悪の怪人か~~」

「元ですっ! 元っ!」


 ガルルと吠える明日香。

 うん。

 可愛いけど残念な感じだな。


 


 一時間後。





 御父さんは何やら色々準備をして出かける。



 そんでもって僕はというと御飯の準備をしていた。


 とはいえ最早時刻は遅い。


 自分の夕飯は済ませてる。


 御飯は明日香の分だ。



 とは言え一人で食べさせると寂しいだろう。

 なので軽く自分の分も用意する。


「ねえ? ママチャリライダーの息子」

「暁真央だ」


 僕はご飯をお茶碗に盛り渡す。


「なら真央……」

「マー君と呼べ」


 味噌汁と漬物の用意をする。


「……まあ良いけどマー君」

「どうした鳳?」


 二人で頂きますをと言う。


「……貴方の御父さん普段何してるの? 仕事は?」

「知らない」

「何で知らないの?」

「聞いてもはぐらかすし」


 いや本当に。

 身内でもあの人の事を良く知らないんだわ。


「不定期だけど収入は有るよ」

「手取りで幾ら?」

「月によって違うな~~」



 胡散臭い目で見るな。


「確か無収入の時も有れば札束を持ってきた事有ったけ……」

「……」


 何で黙る?


「其れ本当に仕事してるの?」

「多分」



 視線を逸した。


 何やってるのかね~~。

 お父さん。



 まあ~~何十年も同じ仕事してるし。

 多分犯罪はしてないと思う。

 





 ……悪の組織はノーカンで。






 二人で御飯を食べ御茶を飲んでいた時の事だ。


 時計を見ると目を丸くした。


 夜の九時だ。


 そして明日香の方を見るとノンビリと寛いでいた。

 

「あはは~~」


 バラエティー番組を見て笑う彼女は普通の女の子に見えた。

 無防備に見えるその姿は何故か年相応に見える。


 


 ではなく。


「なあ~~ワニ怪人」

「鳳よっ! 鳳っ!」

「どうでも良いけど」



 覚える気がないし。



「良くないっ! 花も恥じらう乙女に向かって何言ってるのっ!?」

「乙女?」


 僕は何処にいるのか困惑した。


「其処っ! 私よっ! 私ですっ!」



 はいはい。



「良いけど……帰らなくて良いのか?」

「え? 御父様から聞いてないの?」

「何を?」



 はい?




「私が貴方の妻に成る事」

「マテ」


 うん。

 行き成り話がぶっとんだっ!


「聞いて無いし妻に成る事も了承してないが」

「御父様が嫁の居ない貴方の事を心配して頼んだの」

「聞いてないぞおおおおおおっ!」



 余計なお世話だあああああああっ!



「まあ~~私としても渡りに船だったから助かったけど」

「マテ」


 妻になることを軽々しく……。


「組織を裏切ったからね帰れないし」

「其れと妻がどう関係する?」



 意味不明だし。



「御父様が身内に成るなら保護するというし」

「身内に成るのが僕の妻?」


 え~~。



「そ……幸い貴方は独身だし」


 幸いって……。



「なので婚姻届を出したから安心して」




 良い笑顔です。

 いやマテ。

 

「何を安心してだっ! 其れに僕は婚姻届に判を押して無いぞ」

「偽造して届けたから私に手を出しても合法よっ!」



 サラリととんでも無いこと言いやがったっ!



「止めろはしたないっ! 其れに考え直せ僕はオジサンだぞっ!」

「好みだから良いわ」

「良いんかいっ!」



 好みは人それぞれだなっ!

 おいっ!


「オジサンなのは嫌だけど」

「じゃあ何で婚姻届けを出したっ!」


 頭痛い。


「ノリ?」

「ノリで出すなああああっ!」

「冗談よ幹部候補の私を撃退した所に惚れたの」

「え~~」



 何で其れで惚れたの?

 意味わからん。



「だからよろしくね旦那様~~」




 いや良いんだけど。


 良いんだけど。


 中身は怪人だが美少女だし。



 普通に結婚は出来ないと思ったが……。


 まさかあっさりと決まるとは……。


 しかも年下。



 良いんだろうか。


「はあ~~良いけどさまあ~~結婚云々は兎も角」

「兎も角?」

「居候として扱う」


 今はね。

 そう今は。


 後で考え直すかもしれんし。



「手を出さないの?」

「出すかっ!」


 顔を赤くしながら怒鳴ると鳳明日香は……。


 いや今は暁明日香か。


 何か突然妻が出来たな。



 いや良いけど。

 良くないが。



 うん?


 何かが鳴っている。


 何処から?


 音源を探ると明日香のポケットから聞こえる。

 

「少し待って旦那様」

「あ~~」


 何か慣れない。


 こんな可愛い子が僕の妻?


 しかもノリで決められたみたいな感じだし。


 良いけど。

 嫌良くないが。


「旦那様大変よ御父様が……」

「御父さんが何?」



 ため息を付きながら僕は首を傾げる。

 はい?



「私が元居た組織に捕まったみたい」

「はいっ!?」



 明日香の報告に僕は沈黙する。


 御父さんが捕まった?


 その言葉に僕は沈黙する。

 

「其れ本当?」

「ええ旦那様」

「ソース元は?」

「組織です」


 


 あ~~。


「私が裏切ったとはまだ知られてないから報告してきたの」



 そうなると……。


 不味いな。



 御父さんが何をして捕まったのは兎も角。


 今この状況は不味い。


 目の前の明日香を見る。


 真剣な表情をしてる。


 だがその考えは読めない。


「良いのか僕に話して?」

「うん? 何のことです?」

「前は兎も角ママチャリライダーの保護を当てに出来ないだろう?」

「ああ~~其れですか……旦那様を裏切り組織に返り咲くつもりと思ったんです?」



 何しろ担保が無くなったに等しいからな。



「まあね」

「無いですね」


 明日香の言葉に僕は戸惑う。




「言ったでよね旦那様の妻ですよ私」


 その言葉に僕は思わず赤面した。


「幹部候補迄上りつめた私を恐怖させた旦那様を裏切れるわけないでしょうっ! 怖すぎる」

「そっちいいいいいいいっ!」


 思わず絶叫する僕。


 仕方ないよね。



 好かれてると思わないがまさか逆の理由とは思わんわっ!



 恐怖で裏切らないって何っ!


「ああ~~でも旦那様を愛してるのは本当ですよ」

「胡散臭い」


 ジト目で見る僕。


 普通はそうだろ。


 うん。


「命乞いする私を容赦なく埋めようとする冷酷さゾクゾクする」

「明日香さん」



 まさかそちらの性癖があるとは……。

 ジト目で見る。


「イヤだわ~~妻に他人行儀な~~」

「君に好感度を爆上げしたことないんだが……」


 頭痛い。



「そう? 私は好きよアノ冷酷さ怪人の私を超えてるし」

「全然嬉しくない」


 いや本当に。


「そう」


 うん。

 話が逸れた。


「まあいいや君は此処に居て」

「旦那様はどうするの?」

「御父さんを助け出す」

「悪の組織に行くの?」

「ああ」

「どうやって?」

「……」

「良いわ旦那様其れを使いなさい」


 明日香の指さす方を見て僕は目を丸くする。


 戦闘用経口ナノマシン。


 此れが何の役に立つのやら。


「幹部に成れば支給される此れは独自の判断で部下に渡せる物なの」

「そういえば此れは何なんだ?」

「簡単に言えば人を簡単に改造人間にする機械……」

「へえ」

「一つ飲めば戦闘員に二つ飲めば怪人になるの」

「つまり御父さんを助ける為の覚悟を決めろと?」

「そう」


「組織の裏切り防止は?」

「有るけど死にはしないは聞きたい?」

「いや……」

「では使うわね」

「いらない」

「何故?」

「悪いが裏切り防止が何なのか分からない状況ではリスクが高い」

「そう」

「だから使わない」


 僕は力を手にする機会を放棄した。

















 悪の組織【ケッター】。

 

 其の本拠地は山奥の交通の便の悪い場所に有る。

 という訳ではない。




 以外にも近くに有った。

 というか近すぎた。


 普通に。

 隣町でした。

 

「隣町に悪の組織の本拠地が有るなんて有り?」

「木を隠すなら森の中といいますか」


 うん。


 明日香さん。


 目を逸らすのは止めようか。

 

「建物を隠すなら建築物が多い方が良いという理屈は分かる」

「言わないでください」


 視線を逸らすな。


「いや言いたい」

「言いたいことは分かります」


 僕の呆れた顔に居たたまれない顔をする明日香さん。



 畜生っ!


 可愛いじゃねえか。


 僕の嫁さん。

 しかも美少女。



 でも今は其れどころではない。


 建物に僕は集中する。


 見えずらいな~~。


 等と思いながら僕は来る途中で買った結束バンドを弄ぶ。



 金属バットは護身用として持ってきました。

 



「目の前の平屋が悪の組織の本拠地とは普通思わんけどな」

「偽装として普通の平屋が採用されているらしいです」




 僕の言葉に思わず明日香さんがため息を付く。


 

 そう平屋。



 建物は何処にでもある様な家だった。


 やや赤みを帯びた瓦に現代の建築技術をふんだんに使って建てられた民家。



 多分建築費は僕の家と変わらないレベル。


 普通の民家にしか見えない。


 見えないから偽装何だろう。





 うん。

 そう思う。



 という事で合ってくれ・。




「××異常無し」

「××ああ×」


 近くの建物に身を潜めた僕はスマホの角度を上手く変える。



 電源を入れてないスマはを鏡代わり出来るんだよね~~。



 此れは堅気では無いな~~。


 あの雰囲気は。



 家に出入りしてる者たちを見れば違うと分かる。


 明かに怪しい黒いスーツ姿の男たち。



その数二人。


 グラサンを全員付けてるから怪しさ爆発である。


 偏見かな~~。



 いや普通に何処かの暴力団組織の建物と言った方がしっくりする。


 ……という感じでもない。


 どれも違和感が酷い。


 何というか無理やり民家を使用してる様な感じがする。


 気のせいかな?





 ……うん?




「え? 採用って支部もこんな感じ?」


 先程聞いた明日香の言葉に僕は聞き返す。


「はい」

「え~~」


 呆れた。


「言いたいことは分かります」


 頭が痛いのだろう。

 額を抑えてる。


「まあいいや」

「其れでは手筈通りに」


 そういいながら明日香はそのまま隠れていた建物の陰から出る。


 一瞬身構える男たち。



 だけど明日香の姿を見ると敬礼する。



 

 うん。


 もう少し。

 あと少し。




 良し。


「変身」


 明日香の声がする。

 其れを合図に僕は走る。



「必殺うううううタコ殴りっ!」

「ぎやあああああああああああああああっ!」


 

 僕は金属バットを男の頭部に叩き込む。

 瞬時に異変を感じた男たちは声を上げようとしたが遅い。


 視界の隅では閃光と共に変身した明日香は男を気絶させていた。

 


 

「ふう安心しろ峰打ちだ」

「金属バットの何処に峰が?」


 明日香さん突っ込みは無しで。

 というか何故僕から離れる?

 



 其のあとは簡単に縛り上げ猿轡を嚙ませると近くの家の裏に隠した。



 この間五分。



 結束バンドは便利ですね。


 本当に。


「意外に簡単だな~~後は中に入ったら作戦通りに……」

「……」


 何で距離をとる?



「作戦をだね~~聞いてます?」

「……」


 明日香さん?



 僕の姿を見て怯えないでください。



 泣くからね。



 そう思いながら僕は血まみれの金属バットをハンカチで拭う。

 塩分で錆びるからな~~。







 本拠地の中。







 

 入る事暫し。



 玄関から靴を脱いで入る僕達。


 そのまま奥の応接間らしき部屋の畳を剥ぐ明日香。



 見ると畳の下は地下へと続く階段が有りました。


 年代を感じさせる其れは昨日今日で作られた物という感じではない。


 どうやら明日香さんの言葉は真実みたいでした。


「不用心すぎる」


 カツンカツンと階段から地下に有った通路を歩く僕達。


「警備の人が少なすぎるから?」

「そうだね」


 はっきり言えば会ったばかりの此の子を信用して良いか分からない。


「罠にはめたかもしれないと私を疑ってる?」

「うん」



 僕の心の内はお見通しか~~。



「其処は否定して欲しいんだけど」

「いや~~会って一日も経ってない子を信じろと?」

「其処は愛する妻を信じるよと言って欲しいな~~」



 おどける様に手を広げる。


 通路に備えれた明かりが彼女の笑顔を浮かび上がらせる。


「印鑑の偽造をして届け出をした人を信じろと?」

「うん愛してるから信用してほしい」



 ニコニコと笑うその姿に僕は視線を逸らす。



「僕に恐怖したからと言ってなかったけ?」

「ああ~~其れ方便」


 




「はい?」




 思わずフリーズした。



「実は昔ね旦那様に一目ぼれしたの」

「はあ?」

「だからね機会を伺ってたんだ」


 もじもじした明日香は一番奥の部屋までたどり着く。



 其れについて行った僕は彼女の言動に目を丸くする。



 途中で枝分かれした通路や部屋があるがスルーしていた。


 彼女の話に集中していたからだ。

 

「なんてね」

「はい?」



 ニコリと笑う明日香。




 其れに伴い通り過ぎた別の通路や部屋から足音がする。


「動くなっ! ママチャリライダーの息子」

「しやああ~~」

「グル~~」


 僕の背後から怪人が現れる。


 三人。


 嫌……三体か。


「明日香此処は一旦切り抜けてから後で話を……」

「必要ない」


 そう言いながらカツカツと怪人たちの方に向かって歩く。



 無防備に。

 変身もせず。

 


「ご苦労だったワニ怪人」

「いえ」




 その光景に僕はポカンとした顔をする。


 明日香は冷たい顔で怪人二人の後ろに回る。


「どおいう事だ?」

「どうもこうも御前は騙されたのさ」

「初めから御前を此処に連れてくるのが目的だったのさ」

「初めて出来た女に浮かれたか? 哀れな」



 僕の言葉に怪人三人は答える。


 冷酷とも言えるその言葉に僕は言葉を失う。


 明日香は何も言わない。


 無表情で僕を見る明日香だった。






 僕は目を細め周囲の状況を把握する。


 一番奥に明日香が。

 その前に怪人が三体。

 狼に虎其れに鷹型か。

 大盤振る舞いだな~~。

 戦闘員ではなく怪人。


 此処に来る前軽く明日香からレクチャーを受けた事を思い出す。


 御父さんの世代である旧式の改造人間と。

 明日香の世代である新型の改造人間の事を。


 旧式はナノマシンを最小限にした代物だ。

 その代わり様々な機械を埋め込んだ状来の改造人間だ。

 


 旧型の利点は圧倒的な攻撃力と防御力を兼ね備えている。

 但し予算が馬鹿みたいに掛かり改造期間が長いらしい。

 しかも拒絶反応なども無視できないらしい。



 其のうえ組織を裏切らない様にした脳改造は其のスペックを低下させるとか。

 主に反応速度の面で。

 此れが御父さんが組織を裏切り追っ手を圧倒できた理由だ。

 定期的なメンテナンスは多少の不具合に目をつぶれば良いらしい。


 新型はナノマシンを多めに使用した簡略版である。


 最新型の其れは新型のナノマシンを使用した改造人間だ。

 攻撃力や防御力といった面で旧型に劣るらしい。

 但し予算の面や改造期間が短くて済むという利点がある。

 しかも状来のナノマシンも併用するため拒否反応は殆どないらしい。

 但し組織を裏切る可能性を抑止する方法が状来より低いとか。

 其れを補うため様々な方法が試みられてるとか。

 唯定期的なメンテナンスをしないと状来の物より低下するとのこと。



 此処に居るのは新型が三体。




 如何に新型の改造人間といえど其の能力は侮れない。

 普通の人間なら対抗できない。

 普通なら。


「成程~~其れで此処に御父さんが居るのは噓だった訳か」


「まさか本当さ」


 おどけるように言う狼型の怪人。


「御父さんに組織を壊滅されてないのに?」


 トントンと僕は金属バットで床を叩く。



「奴は我らが新しい能力を得ていたことを知らなかった……ただそれだけだ」

「だからやられた?」



「そうさ我らが新しい高速再生能力の存在をしらなかったから~~敗れた」

「へえ~~」


 冥途の土産にしてはえらいペラペラ喋るな~~。



「一つ聞きたいんだけど」



「何だ?」



「何で唯の一般人である僕をワザワザ罠に嵌めるの? 意味が分からないんだけど?」

「其のことか」

「ああ」

「今年の秋謎の第三勢力が現れたからだ」

「第三勢力?」


 はて?

 秋?

 

「ストレス獣と呼ばれる奴の新種が現れたからだ」

「ぶっ!」


 おいおい。

 ストレス獣?

 都市伝説じゃないか?

 正気か?


「そいつは突然現れて暴れだした」


 正気みたいですね~~。


「一人だけだったから捨ておいたが……」

「集団で現れたから脅威とみなし探っていた?」

「そうだ」


 当たりかよ。


「其の捜査上浮かび上がったのは御前一人だけだ」

「いや知らんし」

「生憎他の者は記憶を失っていてな~~」


 はて?

 ああ~~。

 何か知らないけど集団記憶喪失事件というのが新聞で有った気がする。

 

 因みに僕も其の被害者です。

 何故か知らんけど。


「成果は無かったと?」

「ああ」

「でしようね」


 僕が一番マシだったんだ。

 他のやつは全員尋問しても意味ないだろう。


「だから僕を罠に嵌めて情報を引き出したかったと?」

「そうだ」

「期待されてるようで申し訳ないですが……」

「やはりお前もか」

「そうですね」

「まあ~~尋問してみれば良いか」

「ですよね」

 

 さて眼前の状況をどう打破するか考える。

 まあ~~上手くいけば問題何いんだけど……。


「狼怪人」

「何だワニ怪人?」


 明日香に視線だけ向けて喋る狼怪人。


「他のメンバーと首領は?」

「今関係あるか其の話は?」


 其の言葉に明日香は焦りの声を上げる。



「当然だ」

「はあ?」


 明日香の言葉に困惑する。


「此奴は私をたった一人で打ち破ったんだぞ」

「「「なっ!」」」


 明日香の言葉に動揺する怪人たち。

 え~~と?

 何で其処迄動揺する?


「嘘だろう……ママチャリライダー以来の天才児と呼ばれた御前が……」




 マジですか。



「ああそうだ」

「おいおい」

「首領たち抜きで捕縛出来ると思ったのに」

「マジかよ」




 ゑ?




 明日香さん?



 御父さんに戦いを挑んでたから唯の独断専行と思ったけど……。

 まさか本当に実力者?



 マジで? 



「圧倒的だった」




 違います。

 いや本当に。



「マジかよ」

「しかも生身でな」



 お~~い。



「「「ひっ!?」」」


 お~~い。



 御父さんが居た事を省いてない?


 良いけどさ。


「気を付けろあいつは強い……途轍もなくな」

「「「……」」」


 明日香の言葉に息をのむ怪人たち。

 折角だし上手く活用しますか。


「さて僕は生身で怪人を圧倒できる」

 


 引いてますね。


「……」





 おいおいドン引きかよ。

 今更。



「此れの意味は分かるな?」

「まだ変身してない状態で……」


 

 すみません。

 変身できません。


「という事は……俺ら四人で襲っても勝ち目がないっ!」

「おいっ!? どうするこんな化け物相手に出来ないぞっ!」




 化け物は余計です。




「首領に連絡をっ!?」

「首領は奥の部屋でママチャリライダーを直々に脳改造を施されておいでだ」

「ならママチャリライダーを人質にすればっ!」

「いや無理だ此奴が連絡をする時間をくれると思わないっ!」




 怯え過ぎと思う。



 僕の言葉に怯える怪人たち。



 うん。


 ベテラン怪人にしては慌てすぎである。


「慌てるなっ! 三人で時間を稼ぎつつっ……」


 ゴンッ!



 近づいて一発殴る。



 ズダンッ!



 壁に叩きつけられた怪人。



 ズルズル~~。



「ぎゃっ!」


 余りにも隙だらけだったので狼型の怪人の頭部を殴りました。


 金属バットで。


 しかも思いっきり。


 狼型の怪人は白目を剥いて気絶。


 天井に思いっきり飛びました。




 うん。




 ナイスホームラン。


「心配するな峰打ちだ」

「「金属バットにそんなものは無いいいいいいっ!」」


 残り二人の怪人が叫ぶ。

 ナイスツッコミ。


「ワニ型怪人御前も変身しろっ! 応戦する」

「ええ」


 虎型怪人の言葉に明日香は頷く。


「なら僕も変身させてもらう」

「「ひっ!?」」


 虎と鷹型怪人が悲鳴を上げる。


「変身」


 明日香の言葉辺りに響く。

 そうして明日香はワニ型怪人に。

 そして僕はこう唱える。


「変身ママチャリ」

「「「ひっ!」」」


 其の言葉と共に走りスイング。

 変身は唯のハッタリ。

 振り下ろされる金属バット。

 僕の言葉に萎縮する怪人。


「なっ! 変身ママチャリだとッ! 報告に無いぞっ!」

「待てっ! ワニ型怪人何をするっ!?」


 ガシッ!


 明日香に虎と鷹型の怪人が捕獲される。


「悪いわね旦那様の為に死んでちょうだい」


 明日香に首根っこを押さえられ動けない虎と鷹型の怪人。



 そう明日香は最初から僕を裏切ってなかった。



 御父さんと此処に居る残存戦力の存在を聞き出すために一芝居うったのだ。

 僕の金属バットが唸る様に轟音を放つ。


「必殺うううううタコ殴りっ!!」


 バットを振るう僕。


「「変身してねええええええええっ!」」


 二体の怪人のツッコミが決まる。


 ゴキッ!

 ゴキッ!


 二体の怪人の頭部に炸裂した。

 取り合えず突っ込み有難う。

 後には白目を剥いた怪人が二体倒れていた。

 血とか色々飛び散ってるけど気にしない。

 どうせ死なんだろうナノマシンで。


「死んだ?」

「死んでないよ」

「此れで?」

「安心しろ峰打ちだ」

「金属バットの何処に峰が?」



 明日香さんジト目で見ないで。

 貴方死んでちょうだいと言ったろうに。

























 

 奥の部屋。







 正式な名称は【ケッター作戦会議室】という。


 其れは悪の組織【ケッター】。

 組織が重要な会議を行う部屋である。


 其処に幹部が一堂に会し作戦の提案に進行など様々な事が話される。



 今回は御父さんの尋問室に早変わりにしてるが其の前は違う。


 旧式の改造人間の手術室でもあったらしい。




 明日香に聞きました。


 マジで僕の嫁さん有能すぎ。


 というか部屋数少なすぎない?



 悪の組織なのに。


 嘗ては明日香が此処に入る資格を貰う筈だった。

 なのに何を突狂ったか僕の嫁に成り組織を裏切ることに成った。


 人生とは分からないものである。




 いやガチで。


 まさか僕が美少女を嫁に貰うとは思わんかった。


 其れはそうと。

 

「此処か」

「ええ」


 僕は部屋の前に陣取る。



 部屋の中は流石にどうなってるか流石に知らないらしい。

 僕は手で合図して体当たりをして部屋の中に入る。












 ピコーン。













 何処からか妙な音がした。



 何処か場所は分からない。





 部屋が薄暗いからだ。


「ママチャリライダー」

「……」


 部屋の中央にママチャリライダーが鎖で縛られ気絶していた。

 下からライトの光が其の姿を浮かび上がらせる。




 顔に白い面を覆い。



 全身は赤と白に青三色のライダースジャケット。


 見たところぐったりとして動かないみたいだ。




 まるで人形の様だ。


 ああ~~テレビの特撮ヒーロー物みたいだ。

 そうなると僕はその仲間かな?



 いや違うか。


 しかし此の姿綺麗すぎる。




 傷一つ無い。



 ふむ。









 ピコーン。











 再び音がする。



 その音と共にママチャリライダーの背後の壁が見える。


 壁には旗がかけられていた。




 赤い光が【ケッター】の旗を浮かび上がらせる。

 

「良くぞ此処まで来たママチャリライダーの息子よ」

「御前が首領か」

「貴様の父親は……」


 その言葉と共に僕は全速力で走る。



「必殺タコ殴りいいいいいいっ!」


 ズガンッ!


 僕の金属バットが唸りを上げ目標を粉砕。



 目標ママチャリライダーの頭部をだ。





 金属と肉片等が辺りに飛び散る。




 うん。

 



 一件落着だ。



「「えええええっ!」」



 僕の行動に驚愕の声を上げる明日香と首領。

 首領の此の声はやはり聞いたことのある言葉だ。



 うん。


 やはり。

 

「ふう安心しろ峰打ちだ」

「「金属バットの何処に峰が有るううううううううううっ!」」



 僕の言葉に明日香が詰め寄りガクガクと揺さぶる。



 気持ち悪い。


 首領呆然とした声を出すなよ。



 世界が揺れる~~。


 明日香さんいい加減に離して~~。


「何してるんですかああっ! 実の父親をっ!」

「何言ってるの?」

「え?」



 僕の言葉に呆ける。



「御父さんなら其処に居るじゃない」

「……」


 呆ける明日香に僕は【ケッター】の旗を指さす。


「何時から気が付いていた?」

「えっ!?」





 旗をめくり壁の向こうから御父さんが出てくる。




 うん。


 やはり。


「明日香が現れてから」

「其れだけか?」




 マジかよ。

 等という顔はやめて。



「不審に思ったのは前の怪人は破壊してたのに明日香は生かしてた事」

「他は?」



 それだけで?

 等という顔ですね。



「履歴書だよ」

「あ~~やはりアレは無理があったか~~」

「流石にね~~」

「あ~~」



 不味った。

 等と考えてるんだろう。

 額に手を当ててる。



「普通御父さんが死んだなら其の痕跡を調べるだろ」

「まあな」

「なのに調べず今まで放置してたのはおかしい」

「だよな~~」

「確信したのは明日香がナノマシンを僕に差し出した時かな」

「あ~~」


 さて。

 アノ時明日香が僕にナノマシンを二つ差し出した時だ。


『悪の組織の重要機密だろう粛清対象になるぞ怖くないのか?』


 と御父さんはあの時に言った。


 何故かナノマシンを一目で見て。


 此れは明らかにおかしかった。


 現役を引退してる御父さんが新しいナノマシンの事を知っていた不自然だった。



 だけどこの時は唯の疑問。



 その疑問は明日香のレクチャーで確信に変化した。


 片方は従来のナノマシン。


 此れは御父さんが知っていても不自然ではない。

 現役時代でも使われていたかもしれないからだ。



 問題は新型の怪人に使われるナノマシン。


 此れは話の内容から理解したが新型にしか使われてない。


 つまり御父さんは知らない筈だった。



 なのに知っていた。



 だから組織のトップに近い者と繋がってると思ったんだが……。


 この部屋に入り僕は首領こそ御父さんだと考えた。


 何故か?


 この部屋に入った時に気が付いた。


 ママチャリライダーの姿が綺麗すぎる。


 という矛盾に。


 普通捕まるなら抵抗するだろう。



 なのに傷一つ無く吊るされてた。


 此れは首領が御父さんだろうと気が付いたのだ。


「成程ね~~我が子ながら良くわかったな~~」

「まあね」

「ええ~~」


 御父さんの言葉に僕は胸を張る。

 明日香は項垂れる。

 どうやら知らなかったらしい。


「所であそこのママチャリライダーが本当に父さんならどうした?」

「峰打ちだから安心して」

「「ゑ?」」


 僕の言葉に絶句する明日香と御父さん。



 うん。


 峰打ちだから良いだろう。

 死なないし。

 

  

 我が子の発言に真っ青になる御父さん。


 明日香なんて乾いた笑みを浮かべてます。

 

「我が子がまさかのサイコパスとは……」

「サイコパス言わないでください」

「言いたくなるわ吊るしてたママチャリライダーが人形で良かった」

「やっぱり」

「気が付いてたのか?」

「峰打ちした感触がおかしかった」

「……粉砕してるんだけど……」




 呆れてるお父さん。


「峰打ちなので粉砕してません」

「いや明らかに粉砕……」

「分かりましたもう一度峰打ちする所を……」

「よしっ! 峰打ちだな」

「分かってくれましたか」

「……此奴絶対サイコパスだ」



 呆然とした御父さん。



「やはり峰打ちを見せて」


 その発言に僕は反論する。



「もう良いわっ!」

「そうですか?」

「疲れた」




 別に死なないんだし良いと思おうけど……。

 峰打ちだし。


「旦那様の残酷な所素敵です」

「うわ~~」


 明日香の様子に御父さんは頭を抱える。

 突っ込んだら負けだと思うよ。

 明日香のこんな所可愛いと思います。

 

「それはそうとマー君聞きたいことが有るんだが」

「他の怪人が言ってた事ですか?」

「そうだ」

「すみません記憶に無いです」


 僕の発言に明日香と御父さんが目を剥く。


「「マジ?」」

「マジです」

「「あ~~」」


 うん。

 二人して呆然とした顔をする。

 仕方ないのだろう。

 記憶に無いんだし。


「手がかり無しだな」

「そうですね」

「「あ~~」」


 何でか二人して落ち込んでた。

 



「でもまあ~~御父さん何で敵対していた組織の首領をしてるの?」

「それか~~」


 詳しいことを省くが色々教えてくれた。


 昔組織を壊滅させた御父さんは真実を知った。



 実は此の組織は国が作り上げた物らしい。


 その目的は主に表に出せない非合法な仕事を専門にしたモノだ。


 例えば外国に拉致された国民を救い出したり。

 とある独裁者を誘拐して洗脳して此方の言いなりにしたり。

 或いは敵対国に潜入して破壊工作をしたりとか。



 本当に碌でもない。




 怪人はストレス獣に対抗するための手段の一つなのだとか。

 良いけど。

 肝心のストレス獣は……・



 本当に居るの?


「滅んで良かったんじゃない? 前の組織」

「其れがな~~抑止力として組織は機能してたんだよ」

「抑止力?」



 はて?



「組織が潰れた途端外国の工作員が色々としてきて大問題になった」

「うわ~~」

「だから急遽国は組織を再編成其の首領に私が指名された」

「断ればいいのに」

「出来なかったんだよ~~被害を受けた資料を見せられたからな」

「だからって一般人を強制的に拉致して改造するのはやりすぎと思う」

「ああ~~アレ? 説得して好待遇を約束したら殆どの人間は仲間になったぞ?」

「好待遇?」



 いい響きだ。



「基本給三十万に交通費支給福祉系は充実ボーナスは十」

「おお」

「其れに危険費込みで出張したらその都度五十万」

「え?」



 凄い待遇に僕は驚く。


 あれ?


 給料無いのでは?


「本当ですよ」

「マジ?」

「はい私が前に言った労働条件は嘘です」

「マジか~~」


 うん。


 多少命の危険は有るが凄い好待遇である。


 出張てのが恐らく何処かに国に危ないことをした見返り何だろう。

 そして危険な事をしないでも基本三十万は貰えると。


「其れはそうとマー君?」

「何です?」

「組織に入らない?」

「喜んで」


 正義の味方?



 何其れ美味しいの?

 世の中御金ですよ。

 嫁も出来たし。


 こうして僕は悪の組織に正社員として就職した。


 なお組織の鉄のおきてだけは守るように言われた。

 一般人は傷つけない事だそうだ。

 やったら首領直々に制裁されるらしい。

 うん。

 だから破壊されたのかあの怪人。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ