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プロローグ

 夢を見ていた。

 それは、かつて神を殺した時の記憶。

 己の愛した人を生贄にするという運命を定めた、神への反逆。

 世界を救うという使命を負いながら、エゴで世界を見捨てた愚か者。

 自らの選択に後悔はないが、そのせいで苦しむ人々を見るのは、気分のいいものではなかった。

 人々からは石を投げられ、仲間は全員離れていき、愛する人は処刑された。

 残ったのは、死ねぬ祝福(呪い)と一人の共犯者(悪魔)

 もうこの世界には居場所がないことを悟り、俺は悪魔と共に森の奥へと身を潜めた。




「大丈夫ですか?こんなところで寝ると危ないですよ」


 声をかけられ、夢から醒める。

 聞こえたのは少女の声。およそ三百年ぶりに聞いた他人の声は、ひどく新鮮に感じられた。

 目を開くと、一人の少女がいた。雪のような白い髪を伸ばしており、こちらを覗く深紅の瞳は、思わず見惚れてしまいほどに綺麗である。しかし頭に生やした漆黒の角とそこから漏れ出る強大な魔力が、彼女が人間ではないことを物語っている。

 人型で角を持つ種族というのはいくつかあるが、これほど立派で魔力を帯びた角は、竜人で間違いないだろう。それもかなり高位の。

 竜人の集落でなら、神竜の生まれ変わりとして祀られていてもおかしくないであろう者が、こんな辺鄙な森に何の用だろうかと思い、声をかける。


「俺のことはお構いなく。しかし君はどうしてこんなところに?ここは恐ろしい悪魔が住んでいる森だ。君みたいな少女が来るような場所じゃないよ」

「私ですか。私は人探しに。優しい旅人さんが、ここに世界一の魔法使いがいると教えてくださったんです」


 ふむ。ここには高位の悪魔が住んでいるという噂を流しておいたのだが、どこからそんな話が出てきたのであろうか。


「魔法使い、ねえ。どうして君はその人のところへ?」

「私の中の邪竜を、退治してほしいのです」

「邪竜?それってファフニールとか、ニーズヘッグとか、そういうやつ?」

「はい」


 神竜などの高位の竜の因子を持っているのかと思っていたが、その実は逆だったようだ。彼女は邪竜の力を持つから、ここまでの力を持っていたのだ。

 これは興味深い。師匠も昔竜人の研究をしたいと言っていたし、連れて行ってもいいだろう。。


「へえ。邪竜の力を継いでいるとは、とても興味深い。いいよ。少し手狭ではあるが、君の言う魔法使いのところへ招待しようか」

「いいのですか⁉ありがとうございます!」

「それじゃ、ついてきて。途中魔獣とかがうろついていると思うけど、俺たちの使い魔みたいなものだから俺から離れなければ大丈夫だよ」

「わかりました」



 家へと向かう途中、ふと気になったことを聞いてみる。


「邪竜退治が目的だと言っていたが、どうして魔法使いのところなんかに?そういうのは勇者の役目だろう」


 まあ元とはいえ自分が勇者なのだけど。普通に厄介ごとは嫌なので他にあてがあるのなら是非ともそちらへ行ってほしい。


「あなたも知っているでしょう。昔に神が討たれ、勇者を選定する者がいなくなった。なので既に勇者は現代に残っていませんし、ギルドを頼ろうにもあっちは私を魔物扱いして、平和な解決ができないんです」


 これが因果というものなのか?世界を救うという役割からは解放されても、勇者であったという事実が残っている以上、そういう厄介ごとは俺に回ってくるらしい。実に面倒だ。

 ま、今までずっと代わり映えなかったし、新たな刺激としては丁度いいとポジティブに考えよう。じゃないと既に殺した神をぶん殴りたくなる。


「あー、まあ、それなら仕方ないな、うん。……お、見えてきたぞ」


 森の奥、少し開けた場所に木製の一軒家がぽつんと建っている。俺たちの住んでいる家だ。


「へー、意外と普通なお家ですね。もっとこう、おどろおどろしい感じのものを想像していました」

「そんなの家を作るのは変わり者の魔女だけだよ。それか雰囲気出したい悪魔や魔王の類」


 実際に魔王の無駄に巨大な根城は雰囲気づくりのためだったし。


「ようこそ俺たちの家へ。この家が建って以来初めての客人だ。存分に歓迎するよ」


 これが、勇者だった頃にも匹敵する、旅の始まりだった。

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