プロローグ
アンタはいったい誰なんだ!!
世界の終末のようなあるいは男の絶望に呼応したかのように、雨は降り続ける。
彼の前には1人の男が立っていた。薄汚れた茶色のコートにカウボーイのような帽子。さながら西部劇から飛び出してきたガンマンのような風貌。しかし男の腰には拳銃ではなく、大振りな曲刀が掛けられていた。
そしてその曲刀の切っ先は今、赤髪の男へと向けられていた。
彼の周りには既に事切れた仲間たちが無惨にもその骸を晒している。彼らの流した血は雨によって集まり、血河を作る。
赤髪の男は誓った。
この男を必ず殺すと。そして仲間の魂を弔ってやると。
彼は闘志を燃やし、この惨劇を引き起こした男に切りかかろうとした。
おおおおおおおお!!
彼を勇者たらしめる聖剣イルメンデュークを頭上に掲げ、この惨劇を引き起こした男に切りかかろうとした瞬間。
赤髪の勇者ラースは気づいた。
今まさに切りかかろうとしている男が震えていることに。何かをこらえるように曲刀の切っ先もブルブルと震えているのだ。
一瞬浮かんだ疑問は、戦いの思考によってすぐに流れ去っていった。
男の力量は圧倒的であった。ラースは死がひしひしと近づいてくるのを感じた。しかし諦めない。
この男を殺すまでは絶対に死ねない。そう勇気を奮い立たせた瞬間、彼の聖剣は弾き飛ばされた。
その一撃はそれまでの男の技量を感じさせる剣筋ではなく、やり場のない怒りの発露のようであった。そして返す一撃をラースはその身に受けた。
彼にはもうその一撃を防ぐ手立ては無かった。崩れ落ちる最中、赤髪の勇者ラースは見た。
ゴロゴロ⚡️
雷によって照らされた男の顔に、目尻に溜まる小さな輝きを。
ラースの意識はそこで途切れた。
倒れ伏した勇者から男はすぐに視線を逸らした。
男は顔が雨に濡れるのも構わず、曇天の空を見上げた。
そして彼はひとり呟く。
すまない
それは誰に向けた言葉なのだろうか。
ただひとつ言えることは、その声色が悔恨滲む懺悔のものだったということだ。
これは赤髪の勇者ラースと、仲間の仇であり、勇者の前に幾度となく立ち塞がる謎の男の出会いである。