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7 1章 7話 氷霊剣鬼

 1章まで毎日投稿予定。

 良いね。賛否感想お持ちしております。

 読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。

 

 衛兵達の詰所は、城門の近くにある。別段スラムの人間を町の内側が拒むわけではないが、あまり良い顔はされないので、良い服を手に入れるまでは少し不安もあった。それは開拓者の死装束をリメイクして解決したのだが。

 そういう意味でも非常にアクセスが良く、四則演算レベルの基礎教育だけでもある程度役立てられると、衛兵の詰所での雑務は都合が良かった。すっかりかつて学んだ簿記の内容なんて忘れてしまったものだが、言われた仕事をするだけだからあまり問題は無い。仕事に納期なんてあってないようなものだし、そのデータを使うのも私ではないから、不可解な書類仕事であっても適当にサボりながら記載していくのだけでいい。

 そうこう歩いていると、城門までたどり着いた。

 城門の外であるスラムと町の中の光景はそこまで大きい違いは無い。経済の能力や保護者を失い、仕方が無く城壁外にできた町だが、別に迫害などを露骨にされているわけではない。例えばスラムで建物が必要とされる度に、公共事業として建造されたりしている。

 無論治安やそこに敷かれたルールは違うが、随分質素ではあるが同じ形式の建物が並んでいるのだ。場合によっては格安で住まいを作ってもらえるのだが、私のようにその格安の料金すら払えなく、払うつもりもなかった者達が建物を作りより混沌としているが。ともかく異世界というほどの違い、別世界というほどの違いは無い。広がっているのは地続きの、ジメジメとした大地だ。


「シーカ。よく来たな、仕事がたくさんあるぞ。早速これとこれを、後これもまとめてくれ。あと先に酒場に行って酒を買ってきて、エールでも、ワインでも、有る中で安い方を持てるだけだ」

 

 そして平等に力あるものは弱者を従える。それがここにあるルールだ。

 私をパシリにした衛兵が、珍しく城門に列を作るだけ並んでいる馬車を検問して、忙しそうにしている横を通り抜け詰所に戻ってきた。

 

「おや、マルトルク隊長、今日は非番では」

 

 使い走りの恨みを心の中でぶつけて、ようやく仕事に手を付け始めたところだった。本来は休暇だったらしい、私や彼ら下級衛兵の上司に当たる、男が唐突に現れた。どこか疲れた様子が珍しい。

 マルトルクはこちらを一瞥するが座ってゆっくり話すつもりがないようで入り口の戸を閉める。

 マルトルクはこの町の衛兵をまとめる衛兵隊長の一人だ。

 衛兵隊は現在、5部隊存在しているらしい。もっとも必要に応じて減ったり増えたりするそうだ。

 マルトルクはその隊長の中でも古参であり、古強者といって差し支えない。筋骨隆々で若々しくまさに戦士という顔をしている。

 衛兵の中で優秀なのはもちろん、優秀な実戦経験のある開拓者にも劣らない実力の持ち主だという。私は戦っているところを遠目にしか見たことが無いが、身体的な能力はともかく、体格や装備、経験からして私では楽には勝てないだろう。もし彼を殺す必要があるなら。私は間違いなく毒殺を選択するだろう

 私もここで下僕をする交渉のために、彼と話をした。面接というヤツだ。面接というものに少し苦手意識があったのだけれど、私が今ここで働いているのが全てだろう。

 子供だろうとできることがあるなら採用する。そんな子供に任せて、仕事をちゃんとさぼるし、大人では無く、子供を雇うことでコストカットできることも理解している。強いが脳筋というわけではない。それなりに小ずるく、それでいて自分で必ず行わなければならないところも理解している。人の善し悪しなどはかる立場であった事のない私から見ても優秀な男だ。

 それこそ私よりも数段上手だ。

 マルトルクは部下から、私が買ってきたばかりのワインを受け取ると話し始めた。ちなみに職務怠慢ではない。この世界で安全な水分は煮沸した水と酒だけである。たとえ井戸の水だとしても特定の集団か個人が管理している、一杯にとんでもない価格がする特別な井戸の水でなければ安全とは言えない。そこらの井戸の水なんて飲もうものなら、虫か病を貰うこと間違いない。

 

「例の幽鬼の件でな。ただの兵士の手には余る、森に行かせる訳にもいかん。我が直接見回らねばならん。何か情報が入ってくればと思ったが、追加の情報は特にないようだな」


「しかし、バージを呼んだのではなかったですかな。確か貴族邸で調()()とやらを行っていたとか。横暴な化け物でしたがアレでも専門家、任せておけばよろしいかと思いますが」


 どうやらデンの話は本当だったらしい。おそらく幽鬼というのが骸骨の幽霊だろう。しかしバージとは一体。

 

「あまり当てにするものではない、アレは所詮半人だ。それに、たまたまこの地に来たところを、張り紙を見てヤツが引き受けたのだ。怪物嫌いの領主殿がバージを呼び寄せるわけがないだろう。だいたい、お前も知っているだろうが、バージ達は一つの場所に住み着くことはない、常に旅をして、各地で怪物殺しの依頼を受けている。問題が起きたからと呼べるものではない」


「奴らは本土ならともかく、いや本土であったとしても珍しい奴らでしたが、こちらの大陸でなんか見たことないです。何でニューケイオスに。どうも不気味ですよ。当てにしていないのなら今からでも依頼をキャンセルしましょう」


「さあな。俺が知るかそんなもの。こちらにも事情があるのだ。奴らにだって事情が何かあるんだろうよ」


 バージというのは何か職業のようなものであるらしい。

 半人とは、あの旅芸人の森人達のような混ざった存在のことだろうか。

 専門家。荒事解決の?そんなものの代名詞が衛兵であろうし。この町には少ないながらも開拓者が存在している。それに元開拓者がとても多い町でもある。こと怪物から領域を奪い守る事に関しては専門家の総本山だ。であれば、そんな人間達を差し置いて骸骨の幽霊の対処を任されている。

 おそらく怪物殺しの専門家。

 思い出されるのは、やはりあの男だ。眼帯の剣士。

 私はしばらく積極的に、それでもこの町の有名人ぐらいは見たことがある。見ないと顔は思い出せないけれど。

 貴族関係では、この土地の領主である伯爵、有名貴族のなんとかって子爵。魔術士は塔に籠もりっきりで名前も聞いたことがないが、開拓者の中でも戦闘能力に優れているとされている人は一人一人観察していた。

 開拓者という人種は皆屈強で、町の周りに怪物が出た場合にも集団戦術で何度かスラムを守ったこともあると聞く。私も一度本気で戦っているところを見たことがある。確かに人間とは思えないほど強くはあった。だが私が求める強さにはまるで届かなかった。

 何より、優秀とされていた人ほどすぐに死ぬ。開拓者は過去それは優秀な集団だったのだろうが、今前線維持に関わっている人の中に価値がある人材は見つからなかった。

 だがあの男はどうだろう。こちらに不利な状況であったが、いや違うな、別段一方的に不利だったわけでもなかったはずだ。不意打ちを受けてしまったが、こちらには未熟とはいえ魔術師のバックアップがあったし、場所はお互いに不利には働かなかっただろう。

 月明かりは十分にあった。それに私はこの体になってから暗闇でより多くのものを見ることができる。できれば知った地形でかつ立体的な町中が好ましいが、木々が立ち並び障害物は多かった。あの男にとって、それが攻撃や移動の障害になるとも思えないが、剣の振り方を考えねばならないだろうし、こちらは町までの撤退戦だ。

 今にして思えば、木々をスパスパなぎ倒しながら襲ってくるかもしれないが。

 ともかく、勝負になるヴィジョンが存在しない。


「はー。それもこれも、お貴族様が行方不明者を誤魔化していたせいですか。もう少し早く事が表に出ていれば、農村の一家も殺されずにはすんだでしょうに」


「お前……、大概口が軽いな、余計なことを外で言うなよ。それに子供だけは死体が見つかってないんだ、まだ生きているかもしれん」


「ところでマルトルクさん。そのバージっていうのはどんな人たちなんですか」

 

 微妙な空気が流れたところで、助け船を出してやる。今の話題を掘り下げたくなかったのか、なんとなく素直に答えてくれそうだった。


「んー、俺も詳しくは分かっていないんだが。ともかく本土。このニューケイオスがある所から、海を挟んでもう一つ大地があるんだ。そこでその土地の戦士の手に余るような強力な怪物を狩ることを生業にしている奴らなんだが」


「いい人達じゃないですか」


「まあ、奴らのおかげで人が暮らしやすくなっているのは間違いないんだが、そう簡単な話じゃないんだよ。奴ら異質なのは、怪しげな魔術で怪物の力を取り込んでいる。だから奴らの体は人ではない何かが、怪物が混ざってんだ。おれは直接目にしたことはないが、奴らは必ず体のどこかを隠していやがる」


 だから半人ね。どこの世界もそういう序列はあるわけだ。少し悲しいな。たとえどんなに醜い人でもそれが英雄であれば称えられる。そういう残酷な価値観だと思っていたのに。まあ貴族という価値観があるのだから

 

「マルトルクさん口調が汚くなってますよ。俺は怪物が混ざってるってのは初めて聞きましたよ。化け物みたいな目をしているバージは見たことありますが」

 

「確かにバージはこちらでは珍しいが、お前本土の出身だろうに。それくらい知っておけ。だが変な噂を言いふらすなよ。こっちではバージはなじみがないんだ、バカがバージを邪魔をすると面倒だ」


「はい。分かっております」


 あんた、絶対分かっていないだろう。いつか余計な事を絶対やらかすよ。


「坊主は、まあ言わんでも大丈夫か。だか気をつけろよ。あまり不用意に外を出て歩かない方が良い。世間では今回の殺人が初めてかのように伝わっているが、すでにかなりの数の凍死体が出てる、それも町中でな。さすがにまた町中に戻ってくることはないと思いたいが。ともかく間違いなく、我々が下してきた牙をもがれた怪物とは別物だ。町の下水に潜り込む雑魚や、ここいらの森で出てくるような子犬ではない。アレは開拓者達が挑んでいる真の怪物だ」


 町中でか。それに貴族が関与しているけれど、犯人は怪物で確定。物騒な話だね。聞いても詳しくは教えてくれないだろうけど。


「この間の行方不明者ってのとは別件ですか」

 

「分からん、タイミングはともかく、それ以外、関連性がない。あっちはあっちで10人近くの行方不明者が出ている。その被害者は全て子供だ。坊主よりも大分身長が低い、5から10才ぐらいの子供が主に狙われているようだから、そこまで気にすることはないだろうが、気をつけろよ」

 

「……そうですね、私はもうご――9才ですから。けれどスラムの子供達が襲われないか心配です」


「そうなのか、随分身長が高いんだな。俺はてっきり11ぐらいかと思っていたよ。それならなおさらだ。少し強いくらいではどうしようもない事が世の中にはいくらでもあるのだからな」


 剣の手入れをして、鎧の返り血を拭き取ると、マルトルクは立ち上がる。彼は再び警備に向かうようだ。

 子供が狙われている事と現在町の外にいることは分かっている。そういう、襲われやすい場所を見回っているらしい。


「特に森は再度、出現が予想されているからな。頻繁に俺や、他の隊長が見回りをしているのさ」

 

 これ以上詳しい話はおそらくここでは聞けないだろう。


「私もコレで失礼します。それでは」


「おう、シーカも気をつけろよ」

 

 私はすでに終えていた書類を提出し詰所を後にした。


「ああそれと、しばらくここには寄らないかもしれませんので、そのつもりでよろしくお願いします」

 

 良いね。賛否感想お持ちしております。

 読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。

 

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