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3 1章 3話 氷霊剣鬼

 1章まで毎日投稿予定。

 良いね。賛否感想お持ちしております。

 読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。

 

 竈の熱で顔がひび割れるかのような、ちょっとした不快感で目を覚ますと、すでに月が空に昇っていた。白夜のようなものはないにしろ、なかなかその日によって日入り日の出にばらつきがある。正確な時間は計りようが無かったが、月の位置を見るに寝過ごしてしまった心配はいらなさそうだ。

  なんでも魔法の道具の中には正確に時間を計れるまさしく時計があるらしいが、なにせ明日は時間の流れが倍速いです、と言われても信じてしまえそうな世界だから、待ち合わせ日常生活だと待ち合わせぐらいにしか役に立たなさそうだ。

 事実、開拓者という職業の人々や、それこそ軍が持っていると噂で聞いたことがあるけれど。

 こういうときに水がすぐに飲めないのが良くないところだな。水が無尽蔵に湧き出る水筒とか売ってはいないだろうか。

 

「フゲェ」


 バランスを崩す。

 重い気持ちをやっと、雨水を沸かそうと立ち上がろうとしたが抵抗があり失敗した。背中から藁のベッドに落ちて引き戻された。見ると、右の腕にコアラみたいにしがみ付いている生き物がいた。

 そのまま右腕を持ち上げると、器用にそのまま持ち上がる。

 思わずジト目にもなる。


「カミナ。カミナ……起きないとこのまま町中引きずり回すぞ」


「起きてます」


 猫のように縮こまった所から、スタッ と。きれいに両足で着地する。スラムの仲間達は痩せきっているから、あまりそんな感じがしないが。この世界の生き物は平均して高い身体能力を持っている。

 さもなくば野犬以上の脅威、怪物にとっくに人は滅ぼされてしまっているだろう。

 

「うぅ、寒い。カミナ、クローク返して」


「いやよ」


 さいですか

 立て付けの悪い扉を開けて外に出ると、潮の香りのする夜風が吹き、立ち並ぶスラムのボロ小屋をガタガタと鳴らす。

 港町ニューケイオス。今から400年程前に建造された要塞を元にできあがった街。要塞は現在造船場として使われている。この大陸の中では最も古く大きな街らしい。

 問題も多いが良い町だ。例えば私が知っている町と比べると少し荒くれ者が多いような気はするが、武力を持っていながらもさながらも、騎士のように何かしら信念を持って行動する人間もいる。たとえ荒くれ者だって話の通じない蛮族ではない。ポンポン人が死ぬけれど、表情が暗い訳ではない。それが素晴らしくもあり、けれど少し不気味だった。

 港町ということもあり、商人も多くそれも活気があることに関係しているだろう。そしてこの大陸最大にして、開拓者達の拠点が最も多い町でもある。


「さあさあ、皆さん見ておいで、今夜は特別な催しだ。世にも珍しい怪物の見世物だ。美女があなたをお迎えするよ」

 

「シーカ見てよあれ。何かやっているみたいよ。寄っていきましょうよ」

 

 町の中心部には広場のような、大きな公園があり。祭りなんかがあるとここに出し物が催されたりする。

 祭りと言っても、祭事的な意味合いが強く、前世の感覚からは少し離れているところもあるが。花火は打ち上がらなくとも、美しいものはある。

 今日はその公園に、ドーム状のテントが張られて、黄金の明かりがぼんやりと照らしていた。魔術の明かりの特徴だ。

 時々祭りの他にも見世物小屋か、奴隷売買か。こんなテントが出ていることがある。たまに予想もつかないような奇怪な催しがあったりするが、今回は見世物小屋らしい。

 随分と気合いが入っているようだが、何にせよだ。今は関係ない。


「少し気になるのは否定できないけれど、ここは先を急ごう。ただでさえ今日は一度やらかしかけたからね、このまま目に映るものを全て調べていたら、朝になってしまう予感がするよ」


「お願いよ、シーカ。ほらこのクローク返すから。絶対面白そうだわ。行きましょうよ。ねえ、シーカ」


「そんな事言ったってな。ほら明日もやっているかもしれないし」


「そんな。シーカに人の心はないというの」


 そのとき空へ大きく光帯の束が空に打ち上がった。それはまるで花火のようだったが、夜空に映し出されてものはどちらかと言えばオーロラに近い。これは凄いな。こんなところでオーロラが見られるとは、初めて見た。

 なんとなく上空から地上へと視線を戻すと、地上にも何やら変化があった。俯瞰で見ると上空にある光と同じ形の影が地上に差している。


「これは」


「魔術よ。魔術は地の術。厳密には大地に因果があるだけで、本質がそこにあるわけではないのだけれど、空に模様を描くなんてくたびれちゃう。上空の模様が影で、地面に写っているのが光。魔術はそんな事のためにあるわけじゃないのに」


 なるほど、芸術らしい良い魔術だね。まあ魔術の花は殺しよな。魔術は怪物を討ち滅ぼしてこそで、私も力として魔術が欲しい。だがそういう技術の一般化が決して悪いことでは無いと思う。

 膨大な数の有象無象が技術を使い、時代を進めるほどに発展させるところを、私は見てきたのだから。

 とはいえ、ただの珍獣には興味がない。だが、たとえ光を灯すだけの魔術だとしても、誰にでも魔術を教えてくれそうな、俗物がいるのなら、寄り道をする価値があるかもしれない。


「――どうか魔術の美しき世界を御照覧あれ。さて、英雄達はその肉体だけではなく、強力な魔術を扱ったとされています。しかし、魔術を使うことが出来る方はとても少ない。しかし、私たちにかかれば簡単に、この美しい魔術を皆さんも使うことが出来るのです」

 

 よし是非とも行こう。


「よし。カミナ、仕事の前に景気づけだね。この邪道の魔術士、様子を見に行こうじゃないか」


 今にも走り出しそうな様子だったカミナだが、すっかり先ほどまでとは違い、不機嫌そうだ。よほど俗物、あるいは魔術士を金儲けに使うのが気に入らないらしい。カミナの魔術に対する思いはとても複雑だ。いつまでも半端者をやっているのもそこら辺があってのことだろう。

 

「いやよ。シーカだって興味ないって言っていたじゃない」


「さあ行くよー、カミナが行きたいって言い始めたんじゃなかったかな」


 どうせ中に入れば、カミナは見世物を楽しむのだ。こういう時はいつもそうである。

 カミナの手を引いて入り口まで行く。すると中に通じるたった布一枚を守るように、一人の男が立ち塞がっている。どうやら入るだけで何かしらの資格が必要なタイプらしい。

 会員制ではないだろうから、チケットが必要なのか。


「ねえー、お兄さん。中では何をやっているの」


「よく来たな、これはグレイトフェイクショー。見世物小屋さ、中に何があるかは入ってからのお楽しみ。だが坊主が中を見たけりゃ金を払わなきゃいけないぜ。全部で500ヒエロだ」


 予想はしていたが、良い値段がする。庶民でも頑張れば貯めることが出来る金額ではあるけれど。

 

「少し高くはないかい。それだけあれば一月暮らせるよ。風通の見世物小屋にしては随分と」


「そりゃそうだ。今日は内容が豪華だからな、多少高くもなる。それに二人分だからな。まあ悪いとは思うがコレも仕事だ、来年またやってきな。そうすれば良い物が見れるぜ」


 やはり魔術士が関わっているんだな。それだけ聞ければ問題なし


「シーカ分かったでしょう、行きましょうよ」

  

「うん、それじゃあね、お兄さん。今度来るときを楽しみにしておくよ」


 入り口を横に曲がってそのまま歩く。布一枚挟んで、喧噪が聞こえてくる。入り口の明かりが見えなくなった辺りでカミナが口を開いた。


「それで、シーカ。どうやって中に入るつもり。またダイナミックエントリーとか言って壁を爆破するんじゃないでしょうね」


「それ、前にスラムの盗賊団を破壊したときの話では。商売敵というかシンプルに敵の」


 あのときは楽しかったね。壁を貫いたり、首から下を埋めたり。カミナがハイになって首でゴルフ始めようとしてるのを止めたり。


「まあ忍び込むんですけれどね。さすがカミナさん、分かってらっしゃる」


「どうせ嫌々ついて行っても、なんだかんだすっかり楽しんでいた事を、後でシーカにいじられるに決まってるわ」

 

 分かっていらっしゃる。前に旅芸人の一座を見に行ったときは、ワインと間違って蒸留酒飲んで酔って潰れたカミナを背負って帰った気がするよ。

 

「一応聞くけどこのテント、何か魔術効果がかかっていると思うかい。例えば侵入防止の結界みたいな」


「大丈夫だと思うわよ。開拓魔術士会がここを守っていたりしたらあり得るかもしれないけれど。そんな分けないでしょう」


 それなら入るだけならそんな難しくないね。少し布を切ればすぐにでも入れるだろう。だがそれではここから入りましたと言っているようなものだし、言い訳の猶予もない。

 それに、こんなデカいテント。骨組みだけそのたび作って、布は使い回しだろうし、それを傷つけてはかわいそうだ。


「ほら上手く出来ているけれど、ここが布の切れ目だね。後はこうすれば」


 くらくて見えにくいが、指を這わせれば、金属の手触りが簡単に見つかる。布を打ち付けてある釘を、指でつまみ上げて引っこ抜いた。


「相変わらず見かけによらない馬鹿力ね……」


 下から3本も抜くと十分通ることが出来そうだ。布をしたから持ち上げて中を覗くとと客席の真下のようだ。バックパックを背負ったままだとつっかえそうだが、ここなら中に入ってもひとまずはばれないだろう。

 ここからだとよく見えない。もっと前の方へと匍匐で進む。


グルルルルルル


 そこにあったのは巨大で凶暴な狼の口だった。

 鈍いうなり声。

 至近距離にある凶悪な表情。

 カミナが悲鳴をあげそうになるのを、手で塞ぐ。隣でフゴゥと変な音が鳴ってしまったが。歓声にかき消された。

 涙目で抗議をするカミナの凍てつく視線を感じるが。それよりもだ。

 狼は檻に捕らわれ更に大地から伸びる赤褐色の鎖で繋がれている。檻の側には耳が長く、小さな角の生えた女が、何やら呪文を唱えていた。

 コイツは一体。


「ママから聞いたことがあるわ。この土地に元々いた神ジャッカーロープの元眷属。それが私たちと交わった混血児は、耳が長く小さい角が生えた人の形をしているって。きっと彼女たちの事よ。初めて見たわ」


「へえ、要は別の人種って事ね。魔術が達者なら何でも良いけど」

 

 よく見ると扇情的な服装が妙に色っぽい。見世物小屋に似合う服装というものなのだろうか。辺り一面に花が咲き誇っている。

 そして次々に搬入される檻の数々。狼だけではない、多種多様な怪物が集められている。確かこれは素晴らしいな。

 シーカ。

 隠された口元、胸の形を明瞭にするに巻かれた布。腰布からはみ出た太ももの曲線。

 樹木が生長し森の光景を作り出した。奥から木の葉のカーテンをくぐり抜け、裸体の女が首輪のついた怪物を連れている。正気か?

 シーカ。

 かつてこんなにも清々しい怪物の展覧会があっただろうか。森を構成する木々や花々は、知らない植物ばかりだが、不思議だ。甘い香りがする。親しみや、愛着すら感じる。

 捕らえられている怪物はどれもここらで見たことがあるものだが、こんなにもおとなしくしていると事は知らない光景だ。中には首輪をされているだけで、檻の外にいる怪物がまるで絵画のようだ。幻想的な森だ

 しかもこんなにも多種多様とは。水生のものから森の怪物。老婆の顔の怪鳥も居る。いや一体だけ見覚えがない。アレは何だろう拘束されていながらも檻を凍てつかせている。骨だけとなった犬のような、いや骨も青白く半透明だ。水晶、あるいは幽鬼というヤツだろうか。

 シーカ!

 そして何より、この怪物を繋いでいる魔術。素晴らしい。規模が小さいがそれでも魔術。是非とも欲しい。物理的な鎖と変わらないのか、それとも特別な効果があるのか?怪物が暴れていないと言うことはエナジードレインのような、拘束効果が。


「シーカ!」


「あれ、カミナ何を」


 カミナに肩を揺らされる。ゆがんだカミナの顔だ。そんな涙目にならなくても良いだろうに。

 アンバーのように輝きの神々しさすらあった光景が、すでに色彩を失われている。そこにあったのはどうしようもなく凡庸な女、見たことない薄気味の悪い植物、ただの痩せ細った怪物だった。

 ショーは進行し。怪物が一組お互いを鎖で繋がれたまま解き放たれ。周囲のものには目もくれず、お互いを喰らい合う。飢えた怪物同士の殺し合いだ。

 このショーに見るものがないわけではないが、あまりに悪趣味な。


「魔術でしょうね。多分、観客を幻惑しているんだと思う。観客を興奮させるとか、そんな害の無いものだと思うけど。最悪な魔術ね」


 そう、確かに最悪だ。そして強力でもある。


「詳細は分からないのかい」


「私はこんな魔術は知らないわ。少なくとも一般的に知られている、誰でも覚えられる魔術ではないと思う」


 あの女達。汎用の魔術ではないということは、何かしらの組織で研究を扱える立場の魔術士なのだろうか、そこまで良い身分には見えないが。

 私が言うのも何だが、魔術を娯楽に使うとは随分と酔狂な。無能な商人に人質でも取られているのかこいつらは、魔術が仕えればもっと良い働き口もあるだろうに。そんな無駄に力を使うのなら、少しくらい分けてくれても良いのに。いや、全員が魔術士とは限らないのか。


「あの女の人たち全員が魔術士なのか?魔術士の」


「多分違うわ。あの青い髪を玉にしてまとめているのと、少し角が長い白い髪の彼女。彼女達二人が術者ね。他の女は分からない」


 確かに、二人ともストリップなんてしていないし、その姿はしゃんとして凜々しい。服装はまあ扇情的だが、実際似合っている。彼女たちだけは衣装に着せられていなかった。


「それじゃあ、あっちのオーナーっぽいのは」


 いかにもな小男が袖の影に見える。よく見るとそれも角がはいているように見える。受付の男はそう見えなかったが、実は彼も森人とやらだったのだろうか。

 白い髪の女が布のかぶった荷車を引いてきた。おそらく乗っているのは小型の檻だろう。

 オーナーらしき小男が高らかと歌い上げる


「かつてこの地は、人の支配下にはありませんでした。そうこの地の始祖、森神ジャッカーロープが支配していたのです。それを現生人類が討伐し、現在のニューケイオスとなりました。これは世にも珍しい森神ジャッカーロープ直系の子孫。その怪物です」

 

 その中から現れたのは、純白の毛並みの角をもつウサギだった。飢えているのだろうか。幼体にしても痩せ細っている。とてもじゃないが、そんなたいそうな肩書きの生き物には見えないが。怯えそして、魂の死んでいる。覇気の無い目だ。


「シーカ。あの子たち、どうにか出来ないかな。怪物を捕らえているのもそうだけれど、こんな町中に連れ込むだなんて、正気じゃ無いわ。怪物がかわいそう」


「殺すだけで良いなら」


 アレらをいくら弱っているとはいえ、町に解き放つのはな。怪我をした怪物を無事に森まで逃がすのは、別の一般人の犠牲が出そうだ。弱っていても所詮は怪物、殺しておくのが正しい対処だろう。勝手に商品がかわいそうだったからそれを盗んで、商品が実は凶暴だった、なんてあまりに無責任にすぎる。


「ありがとう、シーカ」

 このエピソードは後から足したもので、読んでてコレ必要だろうかとも思うのですが、書いたからには発表しないわけにはいきません。

 まあ、世界観の補則部分としては機能しているのでよしとしてください。 


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