21 1章 21話 氷霊剣鬼
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前日
【ウースー・ストウデンバーグ邸】
バージの存在は停滞していた私に対する強力な毒であり、たった1つの活路だった。
「ウースー卿。あなたは英雄譚に詳しいと聞きました。ウォーディーンというバージに心当たりはありませんか」
ウースー卿は今日初めて、真に驚いた様子で目を見開いた。
「よくその名前を知っているね。その名前は古くから生きる英雄達の中でも特に高名だ。新しきウォーディーン、渡り烏のウォーディーン、化け物のウォーディーン、半神ウォーディーン、隻眼のウォーディーン、裏切り者のウォーディーン、鬼の剣ウォーディーン、最後のウォーディーン。彼を称える呼び名も、貶める呼び名も両の手では収まらないほどの英雄だよ」
高名。それにしてはマルトルクは知らない様子だった。そもそもバージという存在自体がこのニューケイオスではあまり聞きなじみがないものではあるが、仮にもあのマルトルクが、そういう所でぬかるとは思えないのだが。
「彼は150年以上前から生きる伝説だからね。彼の伝説では始まりのバージの直弟子で今から170年前に生まれたとされている。赤子の時に始まりのバージに見いだされたウォーディーンは、10の頃には厳しい修行を終えて旅を始め、15で大鬼を討ち取った。とまあ、ここまでは彼の話では定番だね」
何か噂の一つでも聞ければと尋ねたのはこちらだが、まさか暗記しているとは。本当に英雄譚オタクなんだなこの人は。
「随分と長生きなんですね。私の目には老いているようには見えなかったですけれど」
神様が居るんだ、今更、長生きな英雄が出てきても驚きはしない。あれだけの若さ、力、それと名声を手に入れる、夢があって良いじゃないか。欲しいなその力、寿命。研鑽の時間はあればあるだけ良い。何しろ、あの竜を見つけるのすら達成していないのだから。道中拾える物がそれだけ輝いていれば、よりやる気も出るというものだろう。
報酬は多いだけ良い。なんせ私は己の死を克服しようとしているのだから。
「最近は、怪物狩りは引退したんじゃないかとか色々言われていたけれど、今はニューケイオスに居るんだね。どんな見た目だった。何か捜し物でもあるのかな。出来ることなら僕がウォーディーンを探し出したい」
この人なら本当に探しだしそうである。見つけたところで相手にされなさそうだが。
「立ち寄っただけだって聞きましたけどね。そのついでで氷精霊を殺す依頼を受けたとかなんとか。一言で表して眼帯の剣士ってかんじでしたね、強さは化け物でしたが」
「おや、何か思う所でもあったのかな。久々に表舞台にやってきて、わざわざ氷精霊とは、これは新しい伝説が生まれるかも」
完全にウースー卿は興奮した様子だ。確かにウォーディーンは凄い英雄なのだろうけど、それほどか。私みたいに目的があるのならともかく、そこまで興奮するところなのかね。まあ英雄がそこに居るというだけで、少なくともウースー卿には価値があるんだろう。
「何か氷精霊に関するエピソードがあるんですか、氷精霊の軍団を打ち倒したみたいな」
「いやいや、逆だよ逆。ウォーディーンは氷精霊の軍団に加わっていたことがあるんだよ、それも幹部としてね。改宗、コンバージョンと言う奴だよ」
「は」
「だからね。彼はおよそ10年ほど、魔人最高の怪物狩りとしての名声を手に入れた後に、氷精霊の傘下に加わったというのは有名な話さ。それでバージの虐殺なんて大事件が起こったりもしてね。ほとんどの人はそんな事知らず、今では余計に強まった半人に対する不信感だけが残っているのさ」
「えぇ……」
とんでもないクズじゃないか。弟子にしてくれと頼んでも、素直に教えてはくれなさそうだ。元より本人に弟子入り出来るとは思っていなかったけれど、子供の願い事だからと人情にながされたりはしなさそうですね、これは。
「ここら辺の歴史は、あまり残っていないから。結局ウォーディーンは魔神の元に戻っていることは確かみたいだから、何か目的があったんだろうとは僕は考察しているけど」
「それで裏切り者のウォーディーン。それ本当に氷精霊を裏切ったんですか。結局のところ初めから神なんかどうでも良くて、自分だけが得をすれば良いってメンタリティーに思えますけど」
「神がどうでも良い?まあ確かにそう考えると収まりは良いけど、そんな事があり得るのかな。僕は何かしら魔神様との間で取り決めがあったのだと思うよ。なんせ氷精霊の軍団を抜けた後、魔神様を見つけるための冒険に2年の間、赴ていたとされていてね。ただの裏切り者を魔神様が何のペナルティーもなく許すとは思えないだろう」
うーん。2重スパイみたいなことか。それでも筋は通るけれど。
「シーカ君はウォーディーンに会うつもりなんだろう。それなら本人に聞いてみれば良いんじゃないかな」
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「まるで怪物そのものだな」
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる』
殺さなければ。許されない。
『この身が朽ちても殺してやるよ』
「おお、おお。怖いねえ。まるで呪詛だな」
ああ、これは呪詛だとも。一体どれだけの人が死んだ。何故死ななければならなかった。私は何故こんなにも悲しみなければならなかった。私は何を悲しめば良い。
「一応確認しようか。君がシーカでいいのかな」
『お前はウォーディーンだな』
確認するまでもない。
「良かった、それなら町が燃えてもおつりが来るぜ、まあ凍てるんだけどな」
もはや確かめる必要は無い。この男が秩序をもたらすの混沌を生むのか、知りやしない。この男は邪悪だ。
どうか皆、今だけは私自身の憎しみに従うことを、どうか許して欲しい。
『一体いつから見ていた、ウォーディーン。今日からか、昨日からか、それとも私たちが始めて会ったときからか』
「いつからか。そりゃもちろん今からさ。期待に添えなくて申し訳ないが、たった今ここに着いたところだぜ、シーカ」
その男は珍しくも剣を携えた、大男だった。筋肉質。剣を腰に二本もさげていて、更に抜き身の剣を一つ手に持っている。左いや右目が欠けているのだろうかだろうか。眼帯をしている。この町の衛兵ではない。身に纏っているのは戦士の服であるにもかかわらず、高価な装飾が施されている。そこから醸し出されるのは、高貴さなどではなく、もっとまがまがしい。王は王でも、戦場で血濡れの王だった。
「しっかし。大した大変身だ。いや、以外と中身は変わらないのか。体自体が変形しているのではなくて、氷の鎧、外殻を纏っているんだな。翼のようだが飛行能力はなさそうだし、ブレードか。剣を連ねたような追加の腕ということなのかね。精霊というよりは獣のようだな。何を元に設計されてるんだ、本人が考えて術を維持しているわけじゃないだろうし。形は熊とかの大型四足獣って感じだが」
このシーカの肉体から伸びた氷の奔流は、周囲にある冷気を飲み干し、それをウォーディーンに向かって放出した。
その咆哮に質量はともなわず。不可視だったが、それは確かに放出された。周囲の力を奪い取り。1000年以上の時が過ぎ去ったかのように、塵と化していく。それをウォーディーンはいとも簡単に剣で弾いた、それはまるで、一刀のもとに切り裂いたかのようにも見えた。
ウォーディーンが手にしている剣は刀身が三叉なっていて、鞘に収めるのは難しいだろう。事実それを抜き身で持ち歩いているようだ。
「この剣はトリシューラ。バージは相対する敵に合わせて使う剣を変える。その怪物に有効な戦闘手段を判別するためにも、事前により多くの怪物の情報を集め、場合によってはその怪物に特攻の毒、武器、罠それらを準備すらする。このトリシューラは精霊を切れる剣の中でも、氷精霊を殺すことに特化した剣だ。持ち運びにくいのが難点だけどな」
精霊が切れるからなんだって言うのだ。そんな大層な宝剣が何の役に立つ。お前や私のような人間はな、初めから剣で切られりゃ死ぬんだよ。
あれだけ望んだ力に対面しても、今は殺すだけの力は役に立たない。
『お前がこの数日何をしていたかなんて知らない。だがお前が農村で戦闘をしたとき、お前はいとも容易く氷精霊を殺すことが出来たはずだ。私も実際に凍り精霊、氷霊鬼に対面するまでは気がつかなかったが。あえて言おう。こんな雑魚はお前の敵じゃなかっただろう、ウォーディーン』
咆哮と共に氷の飛礫が飛び出る。だが、奴のトリシューラに、奴がアクションを起こすまでもなく、吸い込まれ当たりすらしない。
氷精霊の力を理解した今、ウォーディンの英雄性を。どれだけの力を持って、どれだけ強大な敵を打倒できるのかが分かる。なるほど、コレが神と戦う権利を持つ戦士ということなのだ。
この力、あふれ出る熱量。生物として違うステージに立っていることが分かる。
その正体は研鑽された魔術なのか、剣なのか、はたまた別のエネルギーなのか。技量だとか、精神とか、知識そんな範疇ではない。存在で氷精霊を圧倒していた。
かつて私の力が猟犬に通じなかったように、氷幽鬼の力もウォーディーンには通じないそれだけのことなのだろう。
ウォーディーンはその気になればこんな町一人で破壊できる。虐殺ではない。町そのものの破壊だ。たかが町を凍らせる程度の力に負けるわけがないのである。
事実、私が気を引いていたとはいえ、私がダメージを与えられなかった氷霊鬼。それをいとも簡単に殺してみせたのだから。
『死んで詫びろ』
感じるままに。拳を振り上げる。ウォーディーンは攻撃を歩くような緩慢さで全てを避け続ける。散歩に行くような気楽さで、俊敏性の欠片もない、だが攻撃が当たらない。
「おい、落ち着けよ」
振り下ろし。横薙ぎ。突き。飛びかかる。紙一重で避けているなら分かる。素早く回避行動を取っているのなら、避けられない行動をすれば良い。動きが先読みされているのなら更にその先を読もう。攻撃の起こりを減らしてもいい。しかしこれは何だ。まるで時間の流れ方が違うようで、私の攻撃が当たるとは初めから思っていないかのようである。
「だから、まて、まて、まてって。このトリシューラはお前切るために持ち出してきたわけじゃない。アウミル殿は出てきやしないだろうが、スルーズが万に一、出張ってきてもお前を逃がせるように持ってきただけだ」
鋭利な翼を使って、攻撃の手を増やしても、まだ捉えられない。
「まあ、切らないとは言ってないけどな」
手足が大地に縛られる。これは蔦だ。メキメキと植物が生長し、氷の鎧が、殻が巻き取られる。私の動きが止まったところを、懐に入り込んだウォーディーンに鎧を切りつけられた。私に傷はない、だが氷の制御が剥離していく。
クソ新たな手札か?意識をずらされた。
この得体のしれない力は獣性だ、力に身を任せればどうしても意識が散漫になる。完全な制御は出来ない。実は止め方も分からなかった。はっきり言ってこの力は、私の今の限界を超えている。
それでもウォーディーンには届かないのか。
「これは、森神か?」
いや、ウォーディーンも驚いている?この植物は奴の力じゃないのか。イレギュラーすらも、関係無いか。恐らく、この植物があろうとなかろうと、わたしは同じタイミングで切られていたのだろう。全ては奴の前では些事なのだろう。
町を飲み込む森が、柔らかな光がを放つ。それは私の心を溶かし、殻の外に投げ出された。
遺体がのそばに転がる。カミナの体に植物が寄り添い、失われた心の臓を構築していく。死した人体が違う形で修復される、それは一種の奇跡だった。
「お前はジャッカーロープの」
奇しくも、かつてここで出会った、小さなウサギの怪物、小さな獣。それがカミナに寄り添って、彼女を癒やしていく。
私から溶け出した、氷の力が小さなウサギと、カミナに流れ込んでいく。
私の体に纏う氷と、獣の鎧が溶けてゆく。
カミナの青みがかった肌は血色を取り戻し、胸部は再び浮き沈みを繰り返す。冷たい石のようだったそれは、蘇生していた。
「カミナ、お前」
「おはよう。シーカ」
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