20 1章 20話 氷霊剣鬼
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「よお、シーカ。元気にしていたかぁ。早かったじゃないか。愛しの恋人を助けるのに必死だなあ。お前がもし、もっと早く必死になっていたら。親身になったら、彼女はこんな目に遭わずに済んだかもしれないのになぁ」
「やあ、デン。光がここに導いてくれたんだよ。汚れを許さない光が。おや、そういうお前はよく見ると、相変わらず汚らしくて、そして不細工だね」
ここは、いつしか旅芸人達が居を構えていた広場だ。ドーム状に吹雪が収まり、視界はクリーンで、そしてとても静かだ。
待ち構えていた男は姿こそ初見だったが、その正体はあからさまだった。フルフェイスのバカ派手な鎧はガシャガシャとやかましく、見覚えのある槍を脇に石突きを石畳に突き立てて構えている。その声や私の精神を逆撫で
ストウデンバーグ。私の仇敵だ。
「その槍は確か……マルトルクの魔法武具だな。彼をどうした。お前程度では彼には絶対に勝てない。少し魔人至上主義なところがあるが、人格者で戦士としても優れていた。不意打ちすら通じないはずだ」
「分かってる癖に、シーカキュンったら、薄☆情☆者。見りゃわかんだろボケが、てめーの頭蓋の中には一体何が詰まってんだ、ああ。脳みそ溶けてるてめえなんか興味ねえんだよ。てめぇさえ死ねば、俺の力は永遠に俺のものだ」
「それじゃあデン、一度だけ聞くぞ。カミナをどこにやった」
「殺したぜ」
そうか。
「そうか、もういい。もういいよ」
何も分からなかった私だけど、一つだけ確かに、今決めたよ。
「お前はただ殺してやる」
お前を殺してから、答えを、カミナを探すことにするよ。ストウデン。
「さあ、1対1だ。シーカ。正々堂々戦おうじゃないか」
鎧との距離は歩数にして20。
鎧に向かってまっすぐ歩く。あちらに動きはない。何かを狙っているのか。4分の1が通り過ぎる。
ツッ
背後から飛んできた飛礫を防ぐ。雪の中から起き上がる伏兵が居たらしい。ノールックで嫌われ者を投擲して破壊する。
「起き上がれ、憑かれた屍ども。氷精霊の意地を見せてみろ」
わらわらと起き上がるが、そこまで強くない。軽く素手で小突いてもダメージを与えることは出来るだろう。ただ少し体が?げたぐらいでは行動を停止させることが出来なかった。
一見地下で見た氷の繭に近い。手元に戻ったスタッフで殴ると、容易く砕ける。亡者はよく見ると、元の人間の原型を残しそれぞれ個性がある。彫刻のようにひび割れ砕け、その体は人のそれではなかった。
「悪趣味な」
デンとの距離は残り半分。四方から声が聞こえる。
「おやぁ、そいつらは元魔人だぜ。殺しちゃっていいのかな?」
もはや、彼への慈悲は要らない。
「無視すんなよ。シーカちゃん泣いちゃった。けど安心しろよ。お前はただ殺してやるよ。お前は動く屍すら不相応だぜ」
私刑の理由も要らない。
「この人殺し~。きゃー助けて~。シーカさん。坊主。シーカ。シーカ殿」
結局、私は誰も助けられず、氷精霊も止められず、ウォーディーンも見つけられない。私はこの氷精霊の物語でどうしようもなく脇役で、衝撃のエンディングも、感動の過去エピソードも知らない。
ただ、必要なのは、この滾る殺意だけだ。
今度は突然、吹雪が吹き荒れる。視界が完全に無くなり、新たな気配が3つ新たに感じる。
見る限りの白。音も風でかき消され。第六感のような感覚だけが頼りだが。
確かに近く何か居るが、それがどこで何かは分からない。
見つけられないのなら待てば良い。
「そこだな」
真っ白のカーテンを破るように、ぬるりと現れた鼻先を左の拳で砕く。もはや馴染みの猟犬だ。同時に右の腕に噛みつかれ、指先がなまぬるい。
クウォータースタッフを手放して、肋骨の辺りを毛皮の上から掴み折り、大地に押しつぶす。足下の雪が放射状に散らばって露わになっろ、石畳に血だまりができあがった。
突然に辺りが黒くなる。
背後。
棍棒のような腕が私を同じく大地のしみにしようと振り下ろされる。
足で拾い上げた嫌われ者で打ち合う。純粋な膂力での真っ向勝負。位置が上である以上相手の方が有利だった。あるいは押し返すことも可能だろうか。だが後方に受け流すことを選択し、背後で猟犬が完全に絶命する。
地面と肉を叩き、巨人の腕はピンと伸びきっている。その低い位置の肘に逆方向に嫌われ者たたき込む。
「ふん」
苦痛にもだえる巨人の眼球を石突きで押し込み、沈黙させた。
「ばれないとでも思っていたのか」
背後に響く金属音。潜に近づく鎧を捕捉して、胸部めがけて嫌われ者が鎧を貫く。衝撃で鎧が砕け、ボトボトと留め金が外れた。私にもたれかかった体から、兜が転がった。
吹雪が収まる。
そこに居たのは。
「カミナ?」
脳が理解を拒む。
私の背中に異物が突き刺さった。
急速に生命があふれていく。
細枝のような人を手放せず、ゆっくりと振り返った。
「俺様の勝利だ、シーカ。コレでお前の力も俺様の――ガフッ」
そこには薄氷を鍛えたような短剣を握りしめる、ストウデンバーグが居た。
だが、デンは無傷ないつもの貴族服にかかわらず、口から血を吐き出す。
「俺は。貴族に。もう一度。もう、一度……貴族 に」
デンの体が凍てついて変質していく。キーマンストルトムの地下室で見た、割れた氷人形と同じそれは、内側でうごめき、何かの卵のようだった。あるいは、まるで氷の繭のような物体として完全に変化し、それは羽化した。
デンの体積を無視するように、巨体が生まれ。現れたのは、
「骸骨面の精霊。氷霊鬼。」
白磁色の髑髏面の奥、人魂のように揺蕩う青い光を二つともした騎士。髑髏の面は外骨格のように全身をまとい、悪寒すら覚える冷たくてらりとした白色は、見ようによっては騎士のようであった。精霊、幽鬼、魔人、そのどれにも見えたが、まるで悪魔のようだった。
ガンガンと警鐘が鳴り響く、頭が割れそうだ。
ううっあ゛あ゛。
誰だよ。お前。お前が殺したのか。お前が企んでいたのか。デンすらも、私も全てをあざ笑いにでも来たのかよ。
カミナを雪のベッドに、ゆっくりと寝かせる。彼女の鼓動は感じられない。
カミナの傷口が固まり、うっすらと霜に包まれる。
精霊、骸骨面の氷霊鬼が私にかしずき。歓喜した様子で語り始める。
「ああ、初めまして、我らが神子よ。このような偶然があろうか、回り回って、幸運はこの邸に舞い込んだぞ。なんたる運命、なんたるお迎えに上がりました。どうか我が手をお取りください」
「うるせえよ。てめえみたいな糞虫なんぞ知ったことか。ああ、ああ、てめえなんて死んでしまえ。貴様らなんぞ死んでしまえ」
体の中で、何かが組み替えられる。
否。
眠る才覚が、私ではない何かが、解き放たれた。
手をかざす。大地が揺れる。そして閉じる。
その慟哭を、解き放った。
冷気がほとばしる。石畳の下から幾千もの針のように鋭く、そして鋭利な氷の剣が渦めく。破壊衝動が顕現したそれは、道も建物も粉々に薄く粉砕し氷霊鬼を破壊する。
ありったけを、吐き出した結果は、あきれるほどの放射状の破壊痕が形成される。だが――
『精霊無形』
渦からすり抜けた意識あるダイヤモンドダストが、完全に破壊される前と同一の骸骨面を再構築される。テレポーテーション、あるいはブリンクか?
体の中にあった、私ではない何かが使い切られる。それと共に何も変わらないはずなのに、形容しがたい倦怠感が体を襲う。
「なあこの力は何だ。この衝動は何だ。何故、殺す必要があったんだ。なんで」
それと共に、思考にかかった靄が消えていく。クリアになった現実にあったのはやはり絶望だった。
「神子よ。その力こそ、我らの主の力。我らが神子よ困惑するのも無理はない。その苦悩は全て、あの憎きウォーディーンの罪によるもの。安心されよ、と言っても聞けぬか。ならば我がおとなしくしてみせよう」
絶望的に会話がかみ合わない。どこか手加減をしているような、威圧感に違和感を覚える。今はカミナの遺体を背にこれ以上傷つかないようにするしかなかった。
『白氷の王剣』
骸骨面の氷霊鬼が、手を横に振るとその手の中に剣が握られる。
それは透き通るような白で、氷と言うよりは水晶や金属のようだった。魔人と比べると比較的大柄な氷霊鬼の体と、柄も合わせるとおおよそ同等の長さで、鍔の上部に顔らしき意匠の施されたはばきのような部分があるのが特徴的だった。
刀身には波打つ波紋のような紋様が内部に閉じ込められていていて、それがうねっているようにも見える。それがただ剣の代わりに取り出したものでない事は明らかだ。
その剣の力は、おそらく私の魔法武具を超えている。氷霊鬼との距離を埋めるために嫌われ者では足りない。
氷霊鬼は後ろに下がりつつ、その剣を地面に突き刺す。
ゴーン と。鐘の音が剣から鳴り響いた。
「剣鬼流精霊術式『雪国』」
一瞬の白。そして長い暗い雲のような、形のある暗闇を超えた先はまさしく雪国であった。膝まで降り積もった雪は歩くことすら困難なほどで、視界こそクリアだが、しんしんと降る雪はそう遠くないうちに人が埋まるのに十分な雪を積もらせるのではないかと思わせるほどだった。
とうの氷霊鬼はまるで氷の上を滑るかのように雪の中を移動している。ただの斬撃も避けるのは難しく、嫌われ者で受けるしかない。
やはりというべきか、ギリギリ受けられているが何度も同じ箇所で受けると砕け散るだろう。だが――
「そういうのには、此方人等なれているんだよ」
かつて、とても細い木の枝で怪物を突き殺した。
見ず知らずの命を守るのに必死だった。私は怪物を無事に殺し、人々は私を称えたが、私の前を歩いていた子供を救うことは出来なかった。子供を悼む者は一人を除いて居なかった。
かつて、遺品をかき集め、そのボロボロの刃を振るっていた。
剣はそもそも何度も固い物と打ち合えるように出来ていない。剣とは、槍が破損した場合や槍を取り扱えない狭い所で仕方がなく使う物だ。それ故、戦死した人間の持ち物でも破損していないことが多かった。
かつて猟犬と戦った。ただの金属の棒きれでだ。剣と比べれば頑丈だが、それでも動物の形をした交通事故と闘うには、正面から受けているばかりにはいかなかった。
歩くことが困難だったあのときに比べれば、この程度の雪が障害になるものか。
「剣鬼流精霊術式『鏡の刃』」
「クッ」
無造作に振られた刃をスタッフで弾く。だが、背後で衝撃が走る。体が燃えているようだ。
私を囲うように、氷霊鬼と同じ幻影が3体、虚ろな刃を振るっている。だが、何故だか切られた衝撃はあっても、体が二つになる様子も血が出る様子も無い。
突如氷の刃が胸部から飛び出し私の体を貫く。声にならない悲鳴が漏れる。内臓を貫かれる痛みは筆舌に尽くしがたい。私はなすすべもなく地べたを転がり回ることことになる。そしてふと気がつく。己の体がまだ五体満足で血の一滴も流れていないことを。
「やはり、氷精霊の術は効きませんな。目を覚まして下せれ、あなたは我らが神子。雄々しい姿は立派ですが、しかし察するに相当の苦痛でしょう。従って頂けますか」
「バカを言え。夢は5年前とっくに品切れだ。」
目を覚ませだと、お前にも何か事情があるのは分かっている。だが目を覚ませだと。これ貴様が始めた戦争だろう。子供のような破壊をもたらしたのはお前だろう。私はまどろえなくとも、彼女にはもう少し夢を見ていて欲しかった。
「そうですか。出来れば使いたくなかったのですが。剣鬼流精霊術式『鏡の刃』」
やっていることは、デンの伏兵と同じだ。それが速度と破壊力をともなって、努力と実績に裏打ちされた技術として襲いかかってくる。たったそれだけで立派な脅威だった。けれどそれはもう見た。
「嫌われ者ァ」
クウォータースタッフとは器用な武器だ。ロングスタッフのように身長と同じだけの射程と破壊力が有るわけではない。だが槍や剣の射程の外から攻撃できることは大きなアドバンテージとなる。
ショートスタッフのように槍に近い操作感や、取り回しやすさがあるわけでもない。棍棒、スタッフのように携帯性や、コストに優れてもいない。だがクウォータースタッフは理想の長さと評される。
横薙ぎでは4~3人を巻き込んで十分な威力を出せない。
嫌われ者を構え固め、体を投げ出すように、背後の幻影にその先端でタックルをかました。
吹き飛んだだろうそれを無視し、振り下ろされる途中の二振りをスタッフの反対で薙いだ。バランスを崩した幻影は、対面する幻影に剣を振り下ろした。
「お見事。しかし、まだ一歩足りない。剣鬼流精霊術『白雪』」
5歩の距離を滑るように、氷霊鬼が接近する。
ちょんと、胸板に切っ先の触れたところから、真っ白に塗りつぶされる。体の自由が次々に失われ、石像にされたかのようだった。指の一本どころか、まぶたの一つに至るまで全く動かすことが出来ない。
私はこんなところで終わるのか、そんな事が許させるのか、私に継がれた数十億と一つの魂はそんなことを許すのか。まさか。
何より、私自身がそんな事を許さない。
氷が体の内側に取り込まれてゆく。この千載一遇、鋭利に、確実に、ここで仕留める。
「バカな。白雪が破れただと」
氷の剣が始めて殺意を持って振るわれる。
「剣鬼流精霊術式『涙』」
『精霊無形』
私の体が再構築される。一筋の風のように、刀身をすり抜けた私は、背後から氷霊鬼の頭を今度こそ離さないように掴む。
蒸発するように『白氷の王剣』が解ける。
その声は平坦で。意識にすらりと入り込んだ。その脅威が発する言葉は、今までの一線引いたような声とは違った。少なくともその声に悪意はなかった。
「ああ、どうか神子よ。我はあなたの従僕。これ以上の争いは無意味、お互いに攻撃は有効打となり得ないでしょう。分かりました。我はあなたの願いなら何でも叶えたいのです。そのためにも一度我が王に、どうかまみえて貰えませぬか」
少し迷った。
この恨みはデンへ向けたものだった。
自分に向けたものだった。
カミナに向けたものだった。
だからこの問いをしたのは間違いだった。
「ならカミナを、彼女を生き返らせてみろ。和解などあり得ないことだ」
「おや、たったそれだけで良いのですか。この娘、幸いあの貴族どもの短剣で、我らの同胞へと半分変質しております。それでしたら十分可能かと」
何事もないように氷霊鬼は頭蓋を掴む私の手をすり抜ける。
バランスを崩して一歩足が出て、振り返ると氷霊鬼がカミナの方に歩いて向かう様子を見た。
氷霊鬼は、やはり攻撃をすべてすり抜けることが出来るのだ。私が真似を出来たように。
何故そんな事が出来たのだろうか。そんな事はどうでも良かった。
奴を止めるべきなのだろうか。どうせ止めることなんか出来やしない。氷霊鬼にはずっと遊ばれていたのだろう。あちらは何故か私を殺せない、私は氷霊鬼を殺す手段が無い。思考は私の足を鈍らせ、そして私の目に映るカミナはどうしようも無く亡骸だった。
氷霊鬼との距離が空く。
私の胸元に吊された。指輪が光を放った。この指輪は私をデンの元へと、カミナの所へと案内してくれた。まるで所有者の危機を知らせるように。そして私はここにたどり着いた。
その指輪が再び光を帯びてひとりでに動き出す。カミナの元へ、残ったもう一つの腕の指へと収まる。
「おい、本当に直るんだろうな」
氷霊鬼は足を止めて振り返ろうとして。
そして、氷霊鬼は三つに分割された。
それは驚いた様子で、どこか納得した様子で、怯えた様子で。雪や霰のように今度こそ霧散することなく、それは三つに分かたれた。
その体は今度こそ再構築されることがない。
「どうか神子よ、あの罪人にだけには、ほだされぬよう……どうか」
虚しく。氷幽鬼は消滅した。
「それは困るぜ、お前は俺が作ったのだから、和解なんてされてはとっても困っちまう」
そこにいるのは眼帯の男だった。この物語を始めた男が、最後に最後に現れ立ちはだかる。
私の体から氷があふれ出す
「ウォーディーン」
内なる怪物が解き放たれる。
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