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17 1章 17話 氷霊剣鬼

 今回は視点が変わります。

 実はこの話だけ予約投稿し忘れていて、心臓が捕まれたかと思いました。コレが抜けてしまうと物語が意味不明に…ウゥ。 

 1章まで毎日投稿予定。

 良いね。賛否感想お持ちしております。

 読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。

 

 

 SIDE マルトルク


 その日の朝は、珍しく霧の立ちこめていた。この町は港町にもかかわらず、エネルギーが陸に向かってる特殊な町だが、港町は港町。特に大切な新大陸攻略の要ということもあり、海洋戦力も多くある。

 貧弱な内陸側の産業をまとえて支えるためにも、本土からの供給を一手に受けているため、自然と労働者は海の男が多かった。

 そんな海の男達にとって、霧はある種不幸の象徴だ。灯台の明りや天体が見えなくなるうえ、魔術への影響や海中からの奇襲をより警戒しなければならない。そして何より海上で霧に出くわしたときは、大物と出くわすことが体感ではあるが多い。それが最も危険だった。

 海の領域を人類は獲得していない。海の神全般に言える法則だが、ここらの海を支配する神は海上にあまり興味がない。魔神様が、海の神と親交があることもあり、海上の移動を許されている。だが許されていることは、安全である事とは一致しない。相応に身を守る術は必要である。

 なんでも、我々の先祖は海の領域も魔神様に献上するべきなのではと考えたらしい。そのとき魔神様曰わく、「海底には海の眷属によって作られた町があり、とても美しい光景であった。だが陸に生きる生命が暮らす場所ではない」とのことだ。


「しかし今日は本当に霧が濃い。海でなくとも不安になる」


 この事件は貴族の邸宅が突如、氷漬けになるという奇妙な出来事から始まった。当初、これは魔術士の失敗が原因だったと報告され、この出来事は誰にも注目されることはなかった。死んだのが、領地を失った名ばかりの貴族一家だけだった為である。

 だが匿名で持ち込まれた封筒には丁寧な字でしたためられた手紙が投函された。

 なんでも屋敷と共に凍って死んだ貴族が、怪物を材料にした実験をしていたのだという。

 外で話せば馬鹿らしいと鼻で笑われるだろう。だが、霜を纏う怪物が町をうろついていると噂があり、町の様子が少しおかしいのも確かだった。

 衛兵隊で主動の再調査が行われた。すると隠蔽された情報がこれでもかと出てくる。屋敷を凍らせたのは、魔人種以外の何かであることと、それを底辺貴族連中が隠したがっていることも分かった。

 だが、町の警備も万全ではない。特に地下は手薄だった。下水は入り組み、制限こそしているが、勝手に通路や地下室を増やされている可能性もある。はっきり言ってお手上げだった。

 旅のバージが、立ち寄ってきたのはそのときのことである。

 バージは気に入らない。アレは魔人の成れの果て、他の生き物だ。だが渡りに船であることも確かだった。


「半人も使いようだ。気に入らないからと、使える人材を腐らせるのは愚か者の行為だ」

 

 事件を時系列で並べれば、もっと前。頻発する子供の誘拐事件が始まりだった。

 誘拐と氷、一見交わりのなさそうな二つの事件だが、スラムの孤児院からの相談で無関係とは言えなくなる。元よりここ最近は行方不明が増えていたが、スラムでは行方不明者や孤児院と同じように貴族に売りつけられた子供が異常なほど増えていたのだ。

 氷精霊が子供が居なくなる原因だった、それはまあ分かった。だがスラムの子供はどうやって捕まえたのだろう。城門を怪物が超えるのは不可能だ、貴族も、その従者も、頻繁に出入りしているとなるとどうしても目に付く。


「なら、貴族以外の協力者がいるのでないか、そう考えたのだが、如何だろう。ストウデン君」 


 背後に感じていた気配。あえて路地に入ってみれば、素直に姿を露わにした。

 

「だからって俺様が犯人だと断定するのはひどいじゃないか。なあ、衛兵隊長マルトルク。俺様はたまたま偶然見かけたから偉大な衛兵隊長に声をかけようとしただけだぜ」


 バカみたいなボロボロの貴族服を着ている。まだ子供のようにも見えるが、その矮小さに似つかわないその気配は、とても気持ちが悪かった。


「そうかい、こっちはお前に用があったんだ、ストウデン」


「俺様モテモテ。まったくひどいぜそんな全身鎧でやってきて、まるで怪物退治にこれから向かうみたいじゃないか。まあ、その見た目は嫌いじゃないぜ。伝統的な派手な装飾だ、勲章代わりに下賜でもされたのか」


 その通り、これから始まるのは怪物退治。裏切り者を殺して、その背後の化け物もころす。ただの怪物退治だ。


「衛兵の仕事は、別に怪物退治や、逮捕するだけじゃない。我々の主な仕事は町に外敵を入れないことだ。そのために町に住んでいる多くの住民の顔や、出入りを監視、記録している。当然お前のことも知っていたぞ、追放者ストウデン」


「俺様はストウデン・バーグだ。二度とその名で呼ぶな」


「バーグ家はもう存在しないんだよ。お前の加護がすでに剥奪されているのと同様に、お前はもう貴族ではないんだ、ストウデン」


 ストウデン。かつてバーグ家の跡取りであったが、両親が大罪を犯したことで、この地に追放される。普通であれば、そのまま朽ち果てて死んでいたであろうに、神の気まぐれか、こうして生き残った奇跡の子供。

 人並みに幸せに暮らす方法はいくらでもあっただろうに、愚かな男だ。


「そもそもだ、城門を頻繁に出入りする人はあまり多くない。そのほとんどは商人と開拓者で、商人の馬車は禁制品や関税の関係で商品を全て検閲している。開拓者は遠征以外で馬車を利用することがない」


 そして唯一、そういった監視から逃れた、人間を運ぶ手段を持っているのが貴族だ。ニューケイオスと、ニューケイオスに隣接している町に所属している貴族は、自身と側近数名の馬車に紋章を施すことが出来る。その紋章のある馬車は、内部を調べなくても城門を通ることが出来るのだ。


「だが、紋章を持っている人の中に、城門の内外を頻繁に行き来する人間は存在しない。新しく貴族に取り入ったストウデン、お前以外にはな」


 ストウデンは、底辺男爵の家で急速に昇格をしていた。そしてその側近筆頭となった時期と、誘拐事件が始まったのはあまりに類似しすぎている。

 

「なるほど、それは俺様が一番怪しいと考えるのも無理はない。だがマルトルク、お前は一つ間違えているぞ」


「なに」


「それはな、お前がこのストウデン・バーグ様の所へ一人で来たことだぜ」


 ストウデンの足下が不自然に凍てつき、その中から氷精霊の猟犬が姿を現した。

 どういうことだ。ストウデンは純血の魔人種のはずだが。

 背に背負った魔法武具(マジック)の槍を構えた。槍を下段で自らの体で穂先を隠し、地面を這わすように突き出した。穂先から光のブレードが這うように飛び出し、猟犬とストウデンを貫くように地面すれすれから上空へ登った。


「それがお前の武器の力か、マルトルク」


 地面から生まれ切っていなかった猟犬を体を二つに割り。雪が煙幕のように飛び散った。視認できないが、ストウデンには当たらなかったか。


「槍から光の帯を射出する力。単純だが便利だな。だが俺様には不要だ」


 それは人の形をしているが、それ以外の何かだった。

 動きは遅く巨体だが雪のように柔らかく脆かった。白く丸みを帯びたシルエットは、ゴーレムのようにも見えた。だが切り裂いたところから赤い氷をまき散らす。それは血肉の交じったグロテスクな物体だった。

 フレッシュゴーレムって奴だろうか。だがブレードを使えば両断するのは難しくない。念入りに縦にスライスし、奴に迫る。


「悪趣味な」


「ならこれは綺麗かな」

 

 ストウデンが振るった手から、小鳥が10ほど生み出される。氷から生み出された鳥は、矢のようにこちらへ向かってくる。

 速度はそこまででもないが、不規則な軌道は一振りで片付けるには難しかった。

 槍を突き2、3体をブレードで潰すが、残りは味方が血を流して落ちるのも、お構いなしにこちらを殺そうと飛ぶ。

 槍で3つ払い、体を横に投げる。すると残りの鳥が一斉に角度を変えて追尾していた。鳥が体を爆散させる。


「大したものだ、さすがは衛兵隊隊長。お見事、お見事。直前で、今まで以上の出力のブレードを放出した反動で自分を飛ばしたな。だが良いのかぁそんなに力をつかっちまって。その破壊力、見るからに奥の手と言う奴だろう。せめて鳥を巻き込んで俺様に打つんだったな」


「どうせ先ほどの奇妙な術で避けるつもりだったのだろう」


「さあ、何のことだか」


 確かに、自分でも制御できず吹き飛ぶほどのブレードは、今日はもう使えない。だが通常のブレードを使うには問題なかった。初手に放ったブレードは確実に命中している軌道だった。先ほどは雪で見えなかったがそのからくりを暴いてやる。


「攫った子供達はどこへやった」


 今度はより直線で最速で接近する。ストウデン自身は、この戦闘で大きく動いていない。この得体の知れない力は驚異だが、おそらく本人の戦闘力はたいしたことがないはずだ。

 ストウデンの発する冷気が膨れると足下が更に広く凍り付き、巨大な腕が地面から拳を突き上げる。

 猟犬と違って直ちに現れたのは私の4倍はあるだろうほどの巨人だ。


「大きいからなんだというのだ」


 勢い良く表れたは良いが、巨人の体躯にしては、私との距離が近すぎる。それにストウデンの姿は丸見えだった。

 右から左へ横薙ぎで巨人の膝を切り裂くと同時に、打ち出したブレードでもう片方の膝を貫く。返す刃で太刀筋を逆順でなぞるように左から薙ぐ。そして、ブレードが槍の軌道に呼応するように、奥に居るストウデンを切り裂いた。


「こりゃ驚いた。ただブレードを打ち出す、魔術がかけられているのではなく、そのブレードを操ることも出来るのか。これは一本取られたぜ」


 ストウデンの切り離された上半身がパキパキと崩れたかと思えば。下半身から新たに生えた氷が体を再構築する。


「今の俺様は半分精霊、半分幽鬼。すでに肉体は死んで魂だけの存在になり果てたが、俺様を殺した短剣は肉体を精霊の繭に変える特殊な短剣だったらしい」


「あり得ない。そんな事があり得るわけがない。魔人を精霊に変質させるだけなら良い。それは魔人がすでに実践している。だが半分が幽鬼だと、完全な幽鬼すら意識を保ってるはずがないのに、そんな不安定な魂、肉体もなしに今すぐにでも霧散するはずだ」


 死んだ肉体だとしても屍鬼のように魂の入れ物があるなら分かる、だが魂を半々で変質させた存在だと。なぜ存在していられる。なぜ正気を保っていられる。なぜそんな脅威が存在を許されている。


「そこら辺は少し裏技があってな。ようは今の俺様は、魔人でも氷精霊でも幽鬼でも死鬼でもない、肉体のない怪物なんだとさ。だからこんなことも出来る」


 すっと、力が抜けるのを感じる。下半身が熱い液体で濡れていくのが分かる。振り返ると小さな少女が、下品な笑みを浮かべていた。


「君はシーカの」


 そこにいたのは、シーカがよく連れている少女だった。彼女もまた城門を何度も出入りしているが、容疑者から早々に外した、人物の一人だ。

 だがその瞳に力は感じられず。その体を動かしているのは邪悪であると理解した。


「気がついたか。条件さえそろえば、こんな風に他人の体を奪うことも出来る」


「カミナ。しっかりするんだ、君はシーカに。シーカに」


 のばした手は空を切る。本来、体にとって重要な器官があるはずのそこには、大きな傷が残っている。そこにあるべきの心臓がそこにはなかった。


「おっと、まだ死んではいないぜ、俺様と同じさ。カミナも氷精霊の繭にされるはずが、凍えた動く死体に成り果てた。そのまま死ぬところだったのを俺様が魂を維持しているのさ」


「シーカ」


 その時、カミナの瞳に理性が戻る。それはとても短く、何が要因として起こったことだったのか。確かに彼女の心はまだ死んでいない。


「まあいい。これから戦争が始まるぞ。俺様とこの町との、シーカとの戦争が。ああ待ちきれない、どうやってよびだしてやろうか。とびっきりのサプライズを俺様が用意しよう。ハッピーバースデイ」


 シーカ。どうか、この町を、彼女を救ってやってくれ。




 

 

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