15 1章 15話 氷霊剣鬼
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目覚めは最悪なものだった。医療ベットという名のただの板に転がされていたためか、戦闘の後遺症からか、体はひどく痛む。回復魔術でも、薬草でも、回復薬でも良いけれどそういうドーピングが必要だ。
そんなものの心当たりは今のところ全くないのだけれど。
ファンタジー技術とは、もっと便利な物を想像していた。軍事、医療、食、どれもすごく適当な感じがしてならない。
「かといって、あの世界の劣化コピーでは困るのだけれどね」
「目が覚めたか」
体を起こすと、衛兵隊長マルトルクがいた。詰所に運ばれたらしい。狼煙を炊けば衛兵の誰かが来るとは思っていたが、当たりを引いた。誰かしら隊長格が近くに居るだろうと思っていたが、彼なら言い訳ぐらいは聞いてくれるだろう。
「いいや説明は必要ない。スラムのご老人から大体は聞いている。まあそれは良い。お前が引き受けたのなら、お前がやれ。それよりもだ、あの猟犬について何か分かったことは」
ばれてますか、そうですか。
だが、やはり彼で良かった。
猟犬か。幽鬼の猟犬。なるほどしっくりくる。だがやはりアレが幽鬼本体ではないんだな。
「十中八九、幽鬼の眷属のようなものでしょう。温度を下げる、違いますね。氷を生成、操る能力、いやそれも」
「なあシーカ。その気持ちの悪い口調はやめないか。お前はそんな人間じゃないだろう、互い隠し事は無しでいこうじゃないか」
そりゃばれてるか。いい話が聞けるのなら喜んで、腹を割って話しましょうか。
「そこまでキャラクターを作っているわけじゃないのだけれ、。そんなに変だろうか。少しショックだよ。マルトルク、あなたのことはとてもリスペクトしているのだけれど。まあ、どうでも良いことか。どうやら、あそこで幽鬼とバージの男は一度戦闘したのではないかと思う。少なくとも討伐は完了していない。現状で分かる痕跡は無し、追跡中、あるいは相手の動きを待っているものだと考えられる」
「アレの正体に関しては俺が補足しよう。アレの強度は幽鬼とは思えない。建物1つ凍らせるぐらいならともかく、次の事件では氷に完全に閉ざし、そして今回の猟犬。1000前の亡霊でもなければあり得ない。どちらかと言えば精霊だな。ここいらで氷を扱う精霊種は一種しか確認されていない。氷霊の神アウミルに属する眷属だろう」
「氷霊の神アウミル」
神ね。ここ最近よく耳にする。あの旅芸人の彼らもそうだ。森の神ジャッカーロープとやらの元眷属だという。そもそも神ってのは何なんだ。
「ああ、我らが魔神には及ばないが、長くを生きる存在だ。とは言っても、詳しいことは俺も知らないがな。何にせよ、ヤツ本体や神に近い怪物は出張ってこないだろう。今回の騒動は規模からして、精霊の中でも弱い個体を一匹殺せばそれで今回の事件は解決する」
「神ってのは何なんだ。魔神、森神、氷神。私たちと何が違うんだ」
マルトルクの表情が曇る。
「お前、何を言っているんだ」
何か不味かったか。あのマルトルクから、怒っている?意味が分からん。神というのはそんなにも当たり前で、重要な存在のか。
「どうやら神と呼ばれる存在があるのは前から知っているけど、詳しいことは全然聞いたことがなかったなと。いかんせんカミナの、私の友人の言葉は釈然としなくてね。幼い頃にしか教育を受けていないこともあるのだろうけれど、他の事柄に関してはキッパリと説明してもらえるんだが。前に一度、神について聞いたとき、彼女は説明しかねていたんだ」
曲がりなりに魔術を扱えるカミナだ。年齢に対して異常なほど聡明なんだが。神を説明できないようだった。いや彼女は確かに言っていた気がする。「例えばシーカは右手の動かし方、心臓をどう動かしているのか、息をどうしているのかを説明することが出来るのか」と。
「いやそういえばスラムの暮らしだったか。親が居なければそういうこともあるのか?しかしな神について説明しろと言われてもな。特徴を言う事はできるか。いいか、神と呼ばれる存在は多くあるが、最大の特徴は眷属を従えていることだ。我々魔人種は魔神の眷属だ。眷属になる方法は様々だ。神直々にその手で創造した種族。他の神からコンバーションした種族。神が生まれる前から存在し、その神に従うことになった種族。そして我々魔人が、神様が大地に満たした力を借りて魔術を使うように、眷属は神の力を借りて生活しているのだ。眷属と神との間には明確に繋がりがあるのだ」
何だそれは。私もいつのまにかにそんな不気味な生き物の眷属とやらにされていたのか。何だ神とは。その傲慢な存在は。
「神は老いない、神は生き返り、神は大地を砕き、神は空を歪め、神は海を裂く。そして何かしらのオリジン。力の奔流。あるいは能力、あるいは術を持っている。それが神だよ、シーカ」
「マルトルク、エンリルニムシュって名前に聞き覚えないかな」
星を滅ぼす存在。生命を抱える竜エンリルニムシュ。私と私の世界を滅ぼして、この世界に転生させた元凶。私が殺すべき最大敵。
私が神で連想したのはあの無慈悲な竜だった。
「聞いたことがないな。我々魔人が見たことがある世界はとても狭い。魔神様かあるいは天神の眷属であれば知っているかもしれないが。どうしてもと言うなら探しだし、聞いてみると良い」
「その天神というのは移動する浮遊大陸を治める事で有名な神だ。魔神様とも友好がある神だ。お互い侵攻するメリットがないからな、我々魔人と天人も交流があると聞いているぞ」
話がそれてしまったが、幽鬼いや精霊だったな。幽鬼と間違えられるような人形をしているなら、霊鬼というところか
「バージはおそらく霊鬼の痕跡を初めの現場から見つけているはず。私も霊貴族邸を調査しようと思っているのだけれど、どうにかその許可が取れないかな」
貴族邸に入るには貴族の、事件現場に入るためには衛兵隊か領主の許可が必要だ。もちろんそれらを無視してしまっても良いが、衛兵隊を敵に回したくはない。
「それは不可能だ。すでにあの屋敷は開拓魔術士協会に譲渡されている。俺にはどうしようもない」
この僻地へとやってきた魔術師達は派閥を追放されたりした癖のある人物ばかりだ。罰として開拓者として従事する事を強制された人物も多いと聞く。元より高い戦闘能力を持っている魔術士は、戦いに身を置くことを民に求められる。結果としてできあがったのが開拓魔術士協会という集まりだ。私も以前は関わりがあったが、随分とご無沙汰だ。
しかし開拓魔術士協会が権利を所有とは。奴らが欲しがる何かがあるとは思えないが、なぜ事故物件を買い取ったんだ。
「屋敷といっても、魔術士どもが持っている塔と比べてしまえばゴミみたいな物だろうに。一回氷漬けになったせいで、魔術的な重要地点にでもなりましたか」
「いや、そんなことはないはずだが。魔術士協会の連中が、あの屋敷を解凍する仕事を請け負う条件として提示してきたんだ。その理由までは分からん。我々は犯罪者を捕らえたり、怪物から町を守ったりするのが仕事で、それらの捜索は職務の範囲外だ。今更屋敷の中を見せろとは何の命令も無しには言えない。バージやおまえになんとかしてもらうしかない。とはいえ精霊種を野放しにしておくと町が滅びかねん、こちらも警戒を強めておく」
「分かった。まあ初めから期待していなかったからね。話が聞こえて良かったよ」
「気をつけろよシーカ」
「ああ待って。最後にあのバージの名前を知らないかな」
そういえば、いい加減あの男だ、バージの男だ何だと。まどろっこしいと思っていたんだ。
「それは確か、ウォーディーン。そう名乗っていた」
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開拓者。
未開の大地を進み、その地の主を殺す者達。それは神への祈祷だ。そう聞いていた。今ならその意味も少し分かる。私たちは全て魔神とやらの眷属なら、眷属の獲得した大地もその神の所有物だろう。特に、敵対しているらしい神様を殺して手に入れたのなら、それはもう素晴らしいことだろう。
神殺しの英雄が生まれ、その土地には新たな神が君臨することになる。
そういえば眷属がいることが特徴だと言っていたが、それと同時に土地との強い関係があるんだろう。奉納されるのは、神の首ではなく、神が持っていた土地と眷属なのだから。
であれば開拓者というのもなかなかしっくりくる。ある意味では神職だな。とても野蛮な神官だ。
「良いね。私も暇なら開拓者をやってみたいな。楽しそうだし」
開拓者の拠点はこの町では有名だ。大きな建物が町を占有しているというのもあるが、彼ら英雄と将来の英雄をリスペクトしているからだろう。神の家ではないから、教会というのは何か違うし、商いをしているわけでもないからギルドと言うのも違和感がある。何かしら最前線から新たな素材を持ち帰ってくることもあるが、それらは開拓魔術士教会を筆頭に、各地の魔術士の派閥に高額で売却されるらしい。そういう意味では商いをしているのかもしれないが。まあおとなしく略称ではなく、開拓者の拠点と呼んでおこう。
開拓者の拠点は木造の大きな建物だ。こう中に入るのは初めてだが。どうやら中庭を囲うような構造をしている。大昔のどこかの国では、泥棒の対策で窓が作れず、家の中心の中庭から光を取り入れる構造をしていたと聞くが、この建物は泥棒対策と共に中央の空間で訓練をする人たちが多く居た。血の跡も残り、過酷さがうかがえる。事務所ではなく、まるで訓練所のようだ。
「あれ、お姉さんどこかで、会ってはいませんか。」
顔は見覚えがあるのだけれど。名前が思い出せない。成人式じゃあるまいし、そんな顔が変わって分からないとか、そもそも存在が覚えていないとか、そんな事は無いと思うのだけれど。やっぱり分からないな。
「あれ、シーカ君じゃん。ヤッホー、9本指のミルアちゃんだよぉ」
「すみません、やっぱ勘違いです。初めまして」
ダメだ名前を聞いても思い出せない。悲しいなあ。
「コイツ思い出すことを放棄しやがった。昔いくつか一緒に仕事をしたじゃない、魔術士協会の方でさ」
ああ思い出した。確か、万年未婚の微妙魔術士だ。彼女にはカミナを紹介してもらった借りがあるが、それを遙かに超える貸しもある。足し引きでどちらかといって微ストレスだ。
「丁度良い。開拓魔術士協会が貴族の屋敷を買い取ったという話を知ってるかな。私はその屋敷の調査をしたいのだが、話をつけて欲しい。それと氷漬けになった屋敷を元に戻したとき、ウォーディーンというバージの男がいたはずだ。そのとき屋敷に居た魔術士に話を聞きたいんだ、どうだ」
「無理、無理。私、だって今協会のメンバーじゃないもの。他を当たってちょうだいな」
「まさかついにクビになったのか。元からダメな奴とは思っていたが、本当に……」
「それこそ、シーカ君が研究のための材料を取ってきてくれなくなっちゃったから、お金がどんどんと無くなってじり貧に。それもコレもシーカ君のせいだよー」
いい年してその話し方はどうなんだ。古傷が多いとなおのこと怖いよ。シュールホラーだよ。というか屍鬼の素材ぐらい自分で取って来いよ。まあ彼女は魔術士なんかよりも受付嬢の方が性に合っているんだろう。魔術士協会に居たときからこんな感じだった気がするし。
「それにしても、昔の知り合いぐらいいるだろう。取り次いで貰うぐらい良いじゃないか」
「おや、シーカの坊主ではないか。お困りかな」
そこに居たのは武器屋で私に仕事をしてきた男だった。そういえば彼も元開拓者だったな。
やはり開拓者は貴重な人材の宝庫だ。だが彼らは何でも屋ではないし、貴重で優秀なぐらいではやはり足りない。神を殺せないのならばそれはやはり集団としてすら不足している。
「えっと、モドブ殿。実は開拓魔術士協会に用事がありまして。実はそろそろモドブ殿の依頼を受けようかと思っていていたのですが、こちらも外せない用事でして。ひとまず、どちらか約束だけでも取り付けようかと」
「それなら、そちらも手伝えるかもしれないぞ」
モドブは部屋の隅まで歩いて行き、酒を抱えて潰れている爺をつまんで連れてきた。この爺ただの酔っ払いにしか見えないが、どうにもいやな感じがする。さすが開拓者、死にかけでも達人か。
「爺さんは元開拓魔術士協会の重鎮だ。爺さんには貸しがあってな、どうせ俺の依頼を受けてくれるつもりだったんだろう、報酬に追加してやるよ。達成でも失敗でもこの爺さんに協会の塔を案内させるぜ。どうだ」
私にとってはありがたいことだが。
「それで良いのか爺さん」
爺は片目だけを開き、私の姿を上から下までなめ回すと、酒瓶を一気に傾けた。
「おぬしならかまわんよ。モドブ坊の頼みだしな」
私は早速モドブ殿と共に、ウースー・ウーダンコット別荘に向かったのだった。
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