12 1章 12話 氷霊剣鬼
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名前だけの脅威では無い。真の怪物との戦闘が始まる。
これは撤退戦だ。
勝利条件は苦々しくも一度目と同じく、無事に町までたどりつく、あるいは対象の殺害。
殺害するには、戦力評価を正確にできていない敵を槍、スタッフで攻略する必要がある。
推定で何かしら冷気を扱う。攻撃方法は噛みつき、引っ掻き。口に剣を咥えていたり、鉄の爪をつけてはいないが、この防具では受けられないだろう。スタッフはともかく槍は一撃受ければ折れてしまいそうだな。
逆手に槍を構える。練習したことは無い。何にせよ安易に距離を詰めるのは下策。前世で人間が行う原始的かつ効果的な攻撃。
大きく踏み込み、体を弓のようにしならせて、放つ。
「ああああぁぁ――吹っ飛べ」
自分で投げておいて恐ろしいほどの速度で、砲弾のように着弾した。
目を狙ったつもりだったが、体が随分小さいもので、下手をすれば外れてもおかしくなかったが、なんとか肩に当たったようだ。
怪物の体を宙に浮かせ、森の樹木まで転がっていく。
「少し惜しい気もするけれど。致し方なし」
槍も砕けてしまったかもしれないが、どうせあの威圧感の怪物に普通に斬りかかっても、すぐにへし折れていただろう。
これで逃げ道が空いた。森に入るべきか。いや、獣相手に意味があるとは。
瞬時に町に向かって走り出したが、背後から脅威がすぐに迫る。ギリギリ防御が間に合うが、怪物の比では無く森の方に突き飛ばされた。
「クッソ、やっぱりただの武器が利かない類いの怪物か。それとも地形も変わらない攻撃では効かないってか」
垂直に木に着地して、受け身を取る。地面を転がるやいなやそのまま町に走り出す。
殺すのは無理だな。ちっとも効いちゃいない。
スタッフでの打撃を試しても良いけれど、嫌でも試すことにはなりそうだがあの投擲が効かないのに棍棒サイズの金属棒程度じゃどうにもならない気がする。これがサイズ四倍のロングスタッフでも、たとえ当たっても効く気がしない。
「クッ、デカい図体でべらぼうに素早いな」
攻撃を受けて距離が空いてもすぐに接近される。一撃を加えてこちらをよろめかしては、嘲るようにこちらが立て直すのを遠くで見ている。
猟犬のように、こちらを追い回し、時に足を止めてみては、お前なんていつでも殺せるんだと接近してくる。
完全に遊ばれているな。単純にインファイトを仕掛けられれば、こちらは1分ももたないだろう。
徐々に町に近づきつつあるが、このままでは私が食い殺されるのが先だ。
あちらが接近してくるのに合わせて、あえてこちらからスタッフを打ち込んだ。右腕を前足に削られて体勢が崩れる。
メギ、ガかがっ と。
スタッフが樹木をえぐりとってしまう。
ツゥ と息を吐く。
スタッフを握る手が痺れ感覚が鈍るけれど、両手で握っていたのが味方してなんとか取りこぼさずにすむ。だが手を少し休めなければ強打はできない。
「突進以外はそれでもなんとか。なる」
引っ掻きやただの噛みつきは、助走をつけた突進と比べるとやはり威力に劣る。十分に片手ではそらせないほど強力だが、それでもギリギリ捌ける。
もちろん、まともにやり合っては1分後には屍だ。危なくなる前にあえて吹き飛ばされることで、ダメージを対価に町の方向に近づくが、そう何度も何度も繰り返せない。
どうにかして、この怪物を足止めする手立てを考えなければ。
逃れられない。
「最近こんなのばっかじゃないか、この森、呪われてるんじゃなかろうな。いっそ森の中にトラップでも仕掛けておきゃ良かったよ」
もちろん、人がかかった場合に殺されかねないからやらないが。
一転変わって町に向かって全力疾走する。もう少し町には近づいておきたい。こちらはせこせこと少しでも距離を稼ぎより有利な位置に、より有利に、アドバンテージを。
背を見せれば当然逃がすものかと、容赦なく魔の手が牙が迫る。それは電光石火のごとし。
「馬鹿が、そう何度も同じ突撃をもらうか、頼むから死ね」
両手でしっかりと構え向かってくる顔面めがけてスタッフで突き抜いた。稲妻のような発光、青白く視覚がゆがむ。体包む無重力感。今まで以上に景色が高速で流れる。
空中で暴れると、右手が何かに触れ、そこにあった壁にいや、地面に指を突き立てた。
のたうち回りそうな痛みだ。脇腹を見るとまるでそこだけ冷凍されたかのようになっている。見た目ほどの損傷はないが、動きにくい。右手もボロボロ。左手にかろうじてスタッフを持っているがもう一度は同じ攻撃を受けられない。
向こうもようやく本気モードという事かな。
「ラウンド3だ」
森の植物が次々に生気を失う。風が吹くと、遠い昔に朽ち果てたものかのように、削れて、崩れて、吹いて消える。
やがて大地に霜が張り、しんしんと雪が降り始めた。遠吠えが遠くまでこだまして、響く。お仲間の野犬がそこら中からやってくるようなことは無い。代わりに雪が集まり犬の形を保って次第にそれは生きた犬になっていた。白い塊とは違う。確かに息をして、心臓が鼓動し、血潮が巡り体温が触れる雪を溶かす。
さすがボスキャラだ、怪物Aは仲間を呼んだ、作った?もうなんだってイーヤ何でも来い。けど、実はこいつらも物理無効とか、雪像みたいに再生するとかとんでも怪物じゃないだろうな。仕舞いには泣くぞ。
右の野犬をたたき落とし、左の野犬の顔面を拳で陥没させた。
槍はすでに使ったが、野犬の性能は先ほどと同じかそれ以下だ。この程度スタッフ一本でもなんとかなるな。
すでに動きは見慣れているし、倍以上早い怪物のおかげで目が慣れた。
やけの統率の取れた野犬だと思ってはいたが、まさかこの怪物が生産した生き物とは、魔術はやはりすばらしい。
処理はできるが逃げ道を塞がれてしまっている。それにあまりよそ見はできない、怪物はこちらの隙をうかがっている。
背のバックパックを下ろして、ひっくり返した。中身はぐちゃぐちゃで割れたり壊れてしまっている。生き残っている瓶のうち、厳重に梱包されている瓶を取り出した。
「試作品だけど使いどころというやつだ、魔術には全然及ば無いけれどね」
瓶は3つ。瓶には火口となる紐が仕込んである。長く良く燃え消えにくい。アポテフロシの欠片を砕いて火を付ける。
瓶の中にはアルコールとアポテフロシの破片だ。アポテフロシの破片はハンマーなどで強い衝撃を与えて砕くことで発火する。通常は竈の中に入れたところで燃え残るほどの安定性を誇る優秀な素材だ。詳しい理屈は分からないがこれは液体に溶け、ただの水に溶かしてみても、ブクブクと、おかしな悪臭のガスがでるだけだが、強い酒みたいなアルコールに混ぜるとどうなるか。
ボンっ と周囲3方向から肉片と火がが飛び散り、辺り一帯に火をつける。
「これじゃ火炎瓶というよりは爆薬だな。想定外に想像以上、ありゃ」
飛び散ったものの中には入れ物も含まれていたらしい。腕に突き刺さったガラスの破片を引き抜く。実験段階ではもっと小規模だったけれど、三つまとめて使うと凄い威力だ。町の中で使わなくて良かった。いや本当に。
爆煙を突き破り突撃する影と打ち合う。怪物には炎も効かないか。
「こういうのは大抵反属性で攻撃して倒すもんじゃないの、無敵キャラは序盤にでてかないんだよ」
少し相手の動きが遅くなっている気がする。相変わらず痛がりも止まりもしないが、攻撃が見えるようになってきている?
見えてはいた、見えていても肉体は限界だったのかスタッフの上から押し倒される。
無意識下の行動だった。生命の危機を切り抜けるために体が行った反射のような行動だ。ポケットにあるアポテフロシの欠片を握りつぶし怪物の顔を吹き付ける。手の平の中にある水晶以外の感触、ケムリグサのお茶の葉だ。火の粉が怪物を一瞬怯ませ、その火の粉がケムリグサに火をつけ催涙効果のある煙が相手を襲う。手の平に収まる程度の量なのに凄い煙だ。怪物はこんな煙を吸ったのは初めてだったのだろうかむせかえっている。
「今のうちに」
転がったスタッフを拾い上げ、バックパックから瓶を一つ取り出して。森の奥に向かって歩き出した。
ありったけのアポテフロシの欠片を瓶の中にねじ込んで混ぜ合わせる。
「ここら辺にはとある低木が群生してるんだよ。大抵それ目当ての子供がよく一人や二人うろうろしてる。お前の親玉がいなければの話だろうけど」
ケムリグサの木の根元、落ち葉の山になっているところに、ワインをぶっかけて。最後の水晶を砕いた。
たちまち樹木が次々と煙を上げて燃え上がる。
「ゲホ、まるで山火事だな。もの作りって大変だよな、この世界の素材は特に意味不明な特性があったりして、お茶一つ作るだけで家中に匂いが染みついたりする。そこら辺の果物を集めてワインを作るとさ。上手くいくときもあれば、ワインなのにそのまま火が付くようなキッツい酒になぜかなったりもするんだよ」
灰色の煙に包まれ真っ白になった森。うなり声を上げて、怒りをため込み怪物は獲物は逃さない。
巨大な氷の刃が次々に体に突き刺される。
絶え間ない痛みに、意識が揺らぐ。視界が暗転する。
それは永遠の暗闇ではなかった。
時間にして10秒にも満たない短い間だったろう。私の体を貫いていたはずの氷の刃はなく、猟犬は何かを経過するように距離を取っている。
だが私はここから逃げ出す体力はなかった。それどころかしっかりと起き上がること出来ていない。
猟犬はやはり、今度こそ私の息の根を止めるべく行動する。
前足のかぎ爪での単純な引っ掻きも、もはや受け止めることもできない。相手の動きを見て、全てを転がるように 泥だらけで避ける。それすらすぐに できなくなって 最後に スタッフを トンッと打ち付けるが。やっぱり効いた様子は 無い。
炎がメラメラとうなりを上げて、ああ騒がしい。
膝が抜けて崩れ落ちる。
「私の勝ちだ」
燃える木をなぎ倒して、真っ暗な刃が怪物の胴を切り裂いた。
メラメラと燃える闘志が、人影からあふれている。
「どうした怪物、知らなかったのか?衛兵ってのはてめえみたいな怪物から民を守るためにいるんだよ」
大の字に倒れる。見上げる先には衛兵隊長マルトルクがそこにはいた。
あんたも十分化け物だ。
良いね。賛否感想お持ちしております。
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