11 1章 11話 氷霊剣鬼
1章まで毎日投稿予定。
良いね。賛否感想お持ちしております。
読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。
世界で初めて科学捜査をしたのは、アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズであるらしい。では、これから私の伝記でも記されれば、この世界におけるあがく操作の第一人者は私ということになるのだろうか。否。この世界の最先端の学問は科学にあらず。この世界流に調査を始めるなら魔術捜査の第一人者なんて肩書きはどうだろう。まあそれもこれも、全てはカミナのような魔術の仕えるワトソン君が居たのならの話で、今の私には地道に凶器でも探すほか無い。
よくよく考えてみれば、犯人は明らかに骸骨の幽霊改め幽鬼なのだから、天才的なひらめきも灰色の脳細胞も必要なく、推理小説にはなりゃしない。密室も意外な犯人も居ないというのに名探偵は必要ないだろう。
ただこの世界では、犯人を見つけようだとか、犯罪や人死にを防ごうとする意識はあっても、その証拠を集めたり、現場を調べるみたいな調査というものはおおよそ行われない。故にバージがしている捜査というのは、詳細は分からなくてもそれだけで、感嘆に値するだろう。
つまり、現場の保存はあまり期待できなかった。
それもそのはず。
罪人は取り締まられるか、告発されるものである。
ゆえに物的証拠など必要なく。私とカミナは隣人に痕跡を見つけられることを恐れていたのだ。
今回、探し出すべきなのは幽鬼を追って居るだろうバージの男と、行方不明の子供達だ。どちらも幽鬼と丸っきり関係が無いと言うことは無いだろうが、別幽鬼を必ず見つけなくてはならないという訳でもないはずだ、場合によって専門家であるバージの男に任せてしまえばいい。優先されるのはまずはバージの男を見つけることだ。
犯人は現場に戻るというのは誰の言葉なのか。別にそんな事を一切期待していなかったのだけれど、もしかしたらあの男は見かけるかもしれない。遅れながら現場検証と乗り出してみようかという所在だった。
「あの男に遭遇したのも、この辺りだったかな」
この周辺は昔、現在ニューケイオスがある辺りを含めて樹海であったらしい。ジャッカーロープという怪物が住まう魔の森を、人が殺して奪ったのだ。その名残からか、村を周囲を含めてここいらの森は全てジャッカーロープの森。あるいはジャッカーロープと呼ばれている。
森の奥には未だ多くの怪物が生存している。襲われれば個体にもよるがとても危険なため、開拓者も不用意には近づかない。私にも今は槍がある。鈍器が効かない怪物にも対応はできるだろうが、魔法武器が必要な状況では無力に過ぎるだろう。
「そこまで奥に行かないで事が済めば良いけれど。ああでも、それこそ幽鬼が森の奥に生きる怪物の可能性もあるのか。気が滅入るな」
いつもは道を歩かずに、森の中を通ることとなるもので、歩きにくい道には随分となれた。それにしても全く手をいれないで、森を歩くのはカミナには不可能なので獣のようにとはいかない。普段は棘のある植物や毒草危険な生物なんかを排除しつついるのだ。
今、珍しくも村まで普通に道を歩いているわけだが、こちらはこちらで道の悪さが目に付く。ぬかるんでいたり、石が転がっているのは致し方ないとしても、馬がギリギリ通れるかというぐらいで、どう頑張っても馬車は通れないだろう。荷車が通るのも難しいはずだ。
残っている轍を見るに相当無理をしているのだろう。あるいはこの世界ではそれが当然なのかもしれないが。
確か大きな街道のようなものは、ウーダンコット領への道を初めとしていくつか存在しているはずだし、これと同レベルということはあるまい。村の人たちも道をどうにかしようとは思わないのだろうか。主要都市の近くなのだから、今後村が町となるだろうに、この道もニューケイオスの金で整備してはどうかと思うけれど、そうもいかない理由があるのだろう。
違うところを見つけては、むずがゆいような、漠然とした優越感と、欲が出てしまうが良くない。私はこのせかいで教育を受けているわけでは無いから、カミナなどから聞いた断片的な知識はあるが、どういう事情でこの世界の人間が生きているのかは分からない。この世界をあまりに知らない。あやふやな記憶だけれど、それの前世の形を最良だと信じて影法師ばかりを追い掛けていては成長は無いとも思うのだ。
道の先にあまりに不自然な雪景色が広がっていた。
ぽつりと、それでいて雄大に、不自然に現れた氷山を中心に空間が切り取られたかのようだった。
「うう、寒」
局地的に雪が降っていたりはしないみたいだが、気温はそこだけまるで冬のようで、温度差からか不自然な風が吹いて雪が巻き上げられていた。
「ううぉ。なんだこれ。氷像?」
雪の中から突然に現れた人影に、槍を突き刺す寸前でその正体に気がついた。氷像だ頭が上半分が削れてはいるが、人間の形をしている。
恐る恐る人形に張り付いた雪を払う。苦痛にゆがんだ顔の残骸らしきものが姿を現した。その残骸すら、ふとした拍子にポロリと取れて断面は赤黒い。
ここに暮らしていた人だろうか。これほどの殺傷力とは、むしろよく農村の民が全滅しなかったものだ。
手元に残った首を見ると私がもいでしまった所とは対照的に初めから無くなっていた所はまるで刃物で切断したこのようだ。よく周りを見れば、両断された樹木が転がっている。
ここで戦闘があったらしい。やはり幽鬼がここを凍らせたのだろうか。
凍っているどころか氷で押しつぶされたのかと思うほどの質量だが、そういう無茶苦茶がまかり通るのが魔術ということ、あるいは怪物なのだろう。だが足りないな。やはりバージの男に会うのは私にとっての必須事項だ。幽鬼ではあの生きる災害、エンリルニムシュには届かない。バージの男だけでもまだ足りない。
無茶苦茶すらも飲み干してしまう怪物を殺そうというのだから。
「バージの男と幽鬼がここで戦ったのかな。この状態じゃ時系列が分からないけれど。多分、衛兵や開拓者が戦ったわけでは無いと思う。雪は舞っているけれどうえから降っているわけじゃ無い。大人数での戦闘ならもっと分かりやすく足跡が残っているはず」
十中八九幽鬼の仕業だろうが、貴族邸の方も確認した方が良いだろうな。バージの男に会えるのなら、どちらでも良いとは思うけれど不意にやぶ蛇を付くと命がいくつあっても足りない。
不意に足音をが聞こえる。
槍を不格好に左の手で剣のように振り回すと間近まで接近していた野犬の横っ面を叩いた。刃は通っていないがひるませることはできたらしい、野犬は距離を取り、私は今度は両手で短槍を構える。
「漁夫の利を狙っても、ここには冷凍食品しか無いよ。それも分厚いコフィンに包まれたね」
視界が悪く、近づかれるまで気がつかなかったが、すでに囲まれているようだ。こっちが不用心なのもあるが、普通こんな明らかにおかしな極寒の空間に入ってくるのかね。
「全く、まだ氷の塊までたどり着いてもいないのだけれど」
先ほ どの野犬の影から飛び出した一頭が、こちらの首をめがけて飛び上がるその口を穂先で突き上げた。今度ばかりは眉間まで両断する。
一振り、血の跡が円を描く。
「案外、血を払うみたいなの簡単だね。ほら、かかって来いよ、わんわんお。巻藁にしてやんよ」
野犬はスラムの子供ですら、注意すれば殺せる敵だ。
私はなまじペットとして暮らしていた姿がちらつくため、食べたことはないが、よく食卓に並んでいる。
前世でもどこかの国では不可解だが食用犬を作っている国があったような気がするし、私が住んでいた国でも数百年前までは食べていたと聞いたことがある。だからきっと間違っているのは私の方なのだろう。
ただ野犬単体は恐ろしくなくとも、群れとなれば大人も逃げ出す。なるべく会わないようにするのがセオリーだろう。
私が今対面している群れは、少し血気盛んすぎるけれど。
「さあて、一体どこからやってきたのかな」
この世界でも数は力だという分かりやすい法則は健在だ。ただ、数も半端では強力な個に蹂躙される。
短槍の使い方はたいしてスタッフと変わらない。両手で幅を取って掴み、穂先を相手に向けて構える。
野犬が二匹同時に突撃してきた。複数を同時に相手するのは難しい。足をかまれたぐらいではブーツで歯が通らないだろうし、歯の一・二本盗れるかも知れないけれど、群がられるのは面倒だ。
右に飛び出て先に一匹処理する。
石突きで鼻っ面を殴ると、情けない声でひるむ。
反転してクルリと180度回し地面に一匹縫い付けた。
槍を軸にして飛び上がった犬を蹴り落とす。この肉体は蹴りの一撃で犬を殺すぐらいたわいない。
普通は3匹も殺されたら逃げるだろう。そこまで貧困しているようには見えないぞ。
「命は粗末にするものじゃ無いぞ、一遍死んだ私が言うんだから間違いないよ。まあけど、まとめて相手してやる、来いよ」
この世界では別に敵を殺したってレベルは上がらない。
この世界には明らかに生き物としての強度が高い個体が居る。
この私の、シーカの肉体を初めとして。
衛兵隊長マルトルク。
開拓者マードブ。
この光景を生み出した骸骨の幽霊。
バージの男。
見たことは無いが、この辺りの主だった怪物、森神ジャッカーロープ。
そして一般的に英雄と呼ばれるような人材が、戦いの中に、つまり後天的に生まれることも調べた。
前世の記憶の中にレベルアップというシステムの情報はのこっていたし、何か殺すことに魔術的な意味があるのでは無いかと考えて実験もした。だが満足のいく実績は得られていない。
私の成果は殺害することで強さは得られないという結果だ。
だから無駄な殺傷は嫌いだ。
たとえ野犬程度ローリスクだとしても、そこには何も残らない、ノーリターンだ。
だから。
「一方的に惨たらしくぶっ殺してやる」
野犬ができることなんて単純だ。足、手。首に噛みつくか、相手にのしかかる事だけで完結している。
飛び上がった野犬は、そのまま真っ直ぐ進むだけ。体重を込め、まっすぐ胴を突き刺す。
背後からの奇襲は獣の息遣いがあからさまだ。槍先を手元に戻し、背後を石突きで殴りつける。
他の固体と比べて大柄、群れのボスだろうか。助走をつけて飛び込んでくる。
握りこぶしを合わせて剣のように持ち、大きく振り回してひるんだ敵を上段から振り下ろし両断した。
死骸の背後から時間差の噛みつきを両手で支えた柄でしっかりと受けて、捩じって振りほどき、蹴飛ばす。
なるべく接敵を短く、速やかに殺す。
まとめてかかってくれば、こちらから動いてタイミングをずらす。
個では敵わないと学んだのか、残り全てで全方位からの一斉攻撃かな。前方に踏み込んでまとめて横に槍を振り回した。たとえ囲まれても、暴れて蹴散らせてしまう。
なんの駆け引きも無い、こんなものはただの蹂躙だ。
残ったのは真っ赤に線を引かれた真っ白な大地だ。赤色すらもすぐに白くなって、何も残らない。
「これで終わりかな。いい槍だね、帰ったら磨いであげよう」
思わず目的を忘れそうなぐらいの大群だった。
激闘だったな。負ける気はしないが。
「最後の一匹まで向かってくるとは、今は良いか」
戦いの最中、気がつけば氷の塊のそばまで来ていたようだ。
触ったら最後肌から離れなくなりそうな氷の壁だ。手にシャツを巻き付けて拭うと。うっすらと中に茶色が見える。本当にこの中に家が閉じ込められているらしい。
すさまじい透明度だ。美しくすらある。
スタッフを取り出して氷を殴ると拍子抜けにベッコリとえぐれた。魔法の氷でびくともしないのかと思ったが、何にせよ表面が削れてもとても中までトンネルを掘るのは骨が折れそうだ。
氷の塊にスタッフを突き立てて歩くとパキパキと音を立てて削れていく。
外周をいくら歩いても都合良く家屋まで続いたトンネルがある様子は無い。
もう少しで外周を回り終わって、氷を削った線が見えてくるはずだ。
「これは、スラムの子供か。見たことがある。たった一人、こんな姿で。3日前までは生きていたのか。まさか」
途中、氷に包まれた子供を見つけた。首のところに、何か木の札をかけている。
子供の遺体というのは、見慣れていてもむごいものだ。おそらく孤児院の行方不明の子供達の一人だろうが、なぜここに。だが、もしかしたら子供達の生き残りがどこかにいるかもしれないな。じいさんにも良い報告が出来るかもしれないし。バージの男の事も何か知っているかも。
氷から木の札だけを掘り出してポケットに入れた。
「しかし、誰もまだ調査していないのか。衛兵の誰かが魔術士を呼んで、この氷の塊も、氷の棺も、全部溶かしてしまいそうなものだけれど。そうではないのか」
実際、確か貴族邸の方はそうして溶かしたはずだ。まあ町中でこんな冬があったら色々困りそうだから当然なのかもしれないけれど。
「そういえばマルトルクも、警備をしているのであって、怪物の正体を見つけようとしている訳じゃ無いのか」
バージの男がこの現場に間に合ったのなら、住民がここまで殺されることも、未だ幽鬼が生き残っていることも無いはずだ。ギリギリ間に合わなかったか、後日ここにやってきて、何らかの手段で幽鬼を呼び出した。そして何かしらの理由で殺せなかったと考えるべきだろう。
であれば貴族邸のほうで、すでに十分に情報を得ているということかな。追跡できているのか、もしくは相手の行動を予想できるのか。それなら既に第二の戦いが起こっていて当然だ。情報があっても解決しないとなると、大きな障害があるのか、戦力が足りないのかもしれないか。
ひとまず状況が拮抗していると考えるべきだな。そしてバージは正体を暴いている。
なら私も痕跡を調べなければならないな。貴族邸の方は私ではすんなりと調査はできないだろし、何か策を考えねば。
あるいは金を集めてここを溶かして調査するというのもありか。確実なのは貴族邸の方だな。
「何にせよ、一度町に戻るか。衛兵の誰かか、開拓者を頼るか、金を稼いで魔術士に依頼するか」
今の私の力だけでは行き詰まりだな。
「良いんだか悪いんだか。この様子だと、すぐに片が付いてしまって、男が遠くに行ってしまうということもないだろうし、焦る必要はないが。かといってゆっくりもしていられないってところか」
恋しい元の森との境界線まで戻ってきた。よく見ると徐々に植物が冬を侵食している。
なるほど、この世界の森は特別らしい、それともジャッカーロープが特別なのか。
「あーしんど。そりゃ道を維持するのも大変だ。怪物だけかと思えば環境すらも過酷と来ている。人間は無力だね」
前方。待ち構えていたのは野犬にしては随分と大きく不気味な怪物だった。
瞳は青白く煌めき。炎のように揺らめいている。四肢の1つをとっても大きく分厚く、体格では完全に負けている。ヤツの立っている所だけが凍てついている。その威圧感は獣の範疇を優に超えている。狼のようなまさしく怪物だった。
「ラウンド2ってか?マジかよ。ああもう、畜生め。苦心してギリギリでも殺してやる」
良いね。賛否感想お持ちしております。
読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。




