10 1章 10話 氷霊剣鬼
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『私は竜に滅ぼされた。
『なんてことのない。私は物語の主役ではなかった。ただ、世界が1つ滅んだ様子を最後まで見ることが許されたらしい。そうして、死んでしまったものだから、のこのこと、逝き損ねちゃいないが、こうして生き長らえている。
『ヤツは自身を生命を抱える竜エンリルニムシュと名乗った。
『ヤツと私の間にどんな取引があったのか、どんなドラマがあったのか、覚えていない。何度も思い起こそうと、どんなに焦がれて馳せても、初めから持ち合わせていないように読み取ることはできない。
『それは、その他の記憶の全てと同じく。
『ただ、私の中には生まれ落ちたそのときから、尽きぬ怒りとと憎悪を自覚していた。
『よって私の人生は、私の体は竜を殺すためにある』
翌日、すっきりとした目覚めの後、日が昇るまでゆったりと過ごし、一人出かけた。
後ろ髪を引かれるようだったが、私のためにも、孤児の子供達を見つけるためにも、このままじっとしているわけにはいかない。
これは機会だ。千載一遇、絶好の機会。前世の楔を壊し、前に進むための。休息は十分に得た。ここから先は進歩の時だ。そう決めた。
「しかしどこから手をつけようか。情報か?現地調査か?あるいは。何にせよ、まずは武器かな」
この世界は武力に満ちている。戦闘力や生存力、他を害し、己を守る直接的な力がどんな法律よりも重要で尊まれている。
この世界に生まれてすぐの頃、とある低級の怪物が子供を食ったのを覚えている。名前は知らない、怪物の名前を教えてくれくれる教師はいないし、顔見知りだったはずの子供の名前はもう忘れてしまった。
醜悪な蛙のような肌の小人が、子供を食い殺したのは当然の事象で、それを叩き殺した私も当然のようにたたえられた。
化け物を慈しむことも恨むことも無い、人は当然に死ぬし人は当然に殺す。迫害や無慈悲とは違う。ただ、この世界に生きているのものは、前世では神の裁きだとか言って、神に祈るところを、自分の力で天災すらも飲み干して神に献上する生き物なのだ。
力が無いことに対する責任を。ここでは即時に自分が払うこととなる。
そんなわけで、力にもいろんな形はあるが、武力を手っ取り早く強化しようということである。
ニューケイオスは戦い絶えない町だからか、そういう店には事欠かない。生活用品が売っている商店街のような並びの中に、当然に武器屋や防具屋が並んでいるエリアがある。肉屋の隣に槍が並んでいるなんて良くあることだ。
そういえば、あの森であった男は、槍ではなく剣を持っていたな。怪物が専門ならば槍を持っている方が自然な気がするが、森の中で扱いやすいという理由で剣を持っていたのだろうか。
まあ、どんなロジックがあるのか知らないが、いくらプロとはいえ、上っ面だけまねしても良いことはないだろう。おとなしく私の使い慣れた武器を新調しようと思っている。
この店は以前にこの服を仕立てたときにお世話になった店だ。仕立てると言っても、既存のものを改造したわけだが、私の要望通りの機能を現実的に汲み上げててくれた。この服は防具としてもかなり気に入っている。
そんな縁で杖、というとこの世界では魔術士の杖になってしまうのだったか。棍棒のイメージよりは少し長い、半棒みたいなのに近いのだろうか。今の武器を作ってもらった。
「いらっしゃい。ん、お前は怪力の坊主か。今日はなんの用だ。大剣でも買いに来たのか」
「私は別にマイナー武器収集家ではないんだが。今日はは普通に槍を買うよ、急ぎでね、一から注文している暇は無いんだ。大体大剣なんて置いている、のだろうな。どうせ仕入れたは良いけど売れていないんだろう」
「いや、これが以外に売れるんだな。魔術を習えなかったが体力だけは有り余っているような成り上がりには、大型の怪物でも首が絶てるってな」
「本当の成り上がりならもっと良い魔法の武器が、買えるだろうに。大体、斬馬刀とかならリーチの分の利もあるだろうに、まさに鋼の塊だった、的な武器を持とうものなら必殺グルグルアタックとかそんなレベルの取り回しなってしまいますよ」
「グルグルアタックってお前――」
やるだろグルグルアタック。子供のときに。
チャンバラごっこでちょっと勝てないと、ちょっとした太い枝とかとりあえずデカいものを拾ってきたりして。そしてどんどんサイズアップを。ただ重すぎて慣性のまま回転切り(笑)しかできないという。
案外そのまま手を離すと遠距離質量攻撃最強ってなるんだよ。一撃耐えられると全く同じ攻撃がそのまま飛んでくるんだけどさ。すぐさまレギュレーション違反として封印されること間違いなしだ。
そんな聖剣木の枝とは比べるのも烏滸がましい。ここに所狭しと並べられた武具の数々はさび付いた鈍から、魔法武具、遺物武具と様々だ。
それも皆様から頂きました貴金属では購入できないほどに高価だ。ちなみにただの槍であれば一〇本ぐらい購入できる。
昔の武士が刀を家宝として大事に質屋に入れていただとか、領地をもらえないと武具との採算が合わないなんて話を聞いていたものだから、随分と安価なのだと思ったが。何でも怪物の中には特定の種類の武器で無ければ傷つけることもできないとも聞く。そのような武具は最低でも魔法武具に分類されるらしい。要はそれ以下の武器は相手を傷つけられず、防具は自分を守ることができない。
何にせよ今の私には縁の無い話だ。
「大剣だろうとなんだろうと、魔法武具をくれるって話なら頂きますがね。ハーフソードとかツヴァイヘンダーならなおのこと良し」
「お前ぇ、意外とがめつい奴だな」
「半棒でも六尺棒でも如意棒でも、っていっても通じないか。スタッフでもクォータースタッフでもショートスタッフ良いですよ」
武具の中で最も多いのは意外にも盾だった。やっぱり消耗品は売れるんだろうな、次点で弓矢関係とかだろうか。その次に槍関連だろうか。既製品として売られているものはかさばるからか、あまり置いていないが、槍の穂だけなど部品単位で販売されている。柄や石突き、口金なんかのパーツも含め、セミオーダーメイドのような形になっている。
剣のカテゴリーの武具はあまりなく、人形を相手にする戦争が少ない故だろうか。ダガーやレイピアのような護身武器はいくつかあるものの、ロングソードやエストックのような武器はほとんど存在していない。
「これにしようかな。石突きを柄も一緒に買うからさ、砥石と穂につけるカバーはおまけしてよ」
今使っている半棒よりも拳1つぐらい長い柄を見つけた、しかも都合良く非常に重く頑丈で良くしなる。
「なんでお前はまたそういうマイナーな武器を……どちらかと言えば短槍でしかも片鎌槍か?そして鎌が小さい半端なものを」
「その半端なラインナップを仕入れたのはおっさんでは?あと石突きなんだけど片手で振り回したときにグリップ効くように少し大きめな。そう、そういうヤツ。両手、片手、どちらでも持てて、突いて、振り回して、絡めて、手首を切ってと射程以外は文句なしでしょう」
「これなら普通の十文字槍の方が良くないか。坊主にはまだ長いかもしれないが、坊主の腕力なら余裕だろう」
確かに普通の槍は欲しいが、今回は陣を敷いて戦うわけじゃ無い。常に持ち運ぶし、森に持ち込むことが確定している。組み立て式で金属製なのが理想だが、この世界ではまだ、ネジのような簡単に組み立てるための仕組みは存在していない。
「マジックアイテムには手が届かないから。さすがにただの長い棒を肩に乗っけて歩いてはいられないね」
そういった問題を一挙に解決してくれるのが魔法武具や遺物武具だ。純粋に物理に合わない破壊力があるというメリットの他に、使用者の体力を回復したり、魔術を補助したりする。所有者にサイズや形をある程度合わせてくれるらしく、使いこなせば槍のような武器を長さを変え戦うこともできるという。周囲の環境に合わせて常に取り回しやすい武器となるわけだ。
そういえばこの世界に来てから昔、物理でそういう問題を解決できないかと、なんちゃって三節棍を自作したことがあったが、全身が痣だらけになって5分で諦めた。
「そもそも、そういう武具が手に入るかは運だからな。この町でも金を出せば良い物が手に入る訳じゃ。お、いらっしゃい」
大柄な男が入店してくる。彼は確か、それなりに有名な開拓者だったような。名前は忘れたが。
「おう、いらっしゃい。マードブ、今日はなんだ、武器の手入れか?それとも何か必要か」
「今日は違うんだロシュ。ウーダンコット卿の使いでな、例のバカ息子の武具を一式見繕ってくれとさ」
「あぁ、そりゃ前に断っただろう。お前もあんな奴が怪物退治できると思ってるのか」
どうやら彼らは知り合いらしい。しかしおそらく貴族の息子だろうに、頭にバカが付くとは。親がおおらかなのか、陰口をたたかれるほどバカなのか。
「いや、俺が戦って、ご子息は見学だよ。カッコだけ付けばそれでいんだよ」
「そんなバカな企みのために――。そうだ、坊主。お前もその怪物狩りとやらについて行き、代わりに戦いを見せてやれ。同い年の子供に才能の違いを見せられればアレも諦めるだろう」
数日遅かったら受けても良かったけれど、いや時間が有ってもものすごく面倒な気配を感じるが。ともかく今は時間が無い。だいたい、なぜそんなバカの尻拭いをせねばならないのか。
「なんで私がそれを受ける前提に。これでもそれなりに忙しいんだ。そんな事より、その槍を早く組んでくれないか」
「おいおい、依頼を受けなきゃこの槍を売らねえぜ」
とんでもないこと言い始めたぞこのおっさん。
「冗談だって。まあそう言わずによ。あの家にはお前にうってつけな武器があるはずだ、それも遺物武具だ。そいつを依頼料として坊主にやるからさ。気が向いたらで良い、ウーダンコット卿の邸宅でマードブを訪ねてくれ。なあマードブ、お前も良いよなそれで」
「いやいや良かねえよ、こんなフルーレがに合いそうな子供に、いやそのスタッフを普段使ってんのか」
「おうよ、戦闘力は昔っから飛び抜けてるよシーカの坊主は。昔はともかく今は人格も保証できるしな」
失礼な昔と違うのは色合いぐらいのものだよ。当時の私は今より3倍速そうなだった。
手が出るのも3倍速かった。
「良いぜ、坊主はそこそこやれそうだし。まあ良いけどよ、それとバカ息子がどう関係するんだ」
私もそれは気になる。一体、私となんの関係が。
「そりゃあ、薬はなるべく劇薬の方が良いだろう」
えぇ。人のことを一体何だと。
「いたしかたないですね、本当に忙しいんですよ。もし、もし私の手が空けば、尋ねてみますよ。けれど保証はできませんからね」
なぜか槍を手に入れるのに、やることが1つ増えたが、目的は完了したからよしとしよう。ことのついでだ、1つ報酬の前払いをしてもらおう。
「マードブ殿。少しよろしいか」
その場の空気感で私の槍が組み上がるまでマードブは待っていた。マードブは元開拓者で今は貴族、あの有名なウーダンコット卿。ウースー・ウーダンコット子爵配下として働いているらしい。
ウーダンコット卿は町1つ分の領地を持つ立派な貴族で、町外れの丘に別邸を持っている。ウーダンコットは安定した町であり、代官に任せこうして度々ニューケイオスの別邸に来ているらしい。
ニューケイオスの別邸には妻と子供が暮らしている。いくら安定しているとはいえ、大事なものは少しでも怪物の襲撃の可能性が低いところに置いておきたいということなのだろうか。意外と調べてみれば、それを真似する貴族や商人が居そうである。なんせ社交界のインフルエンサー、民にすら高い人気があるウーダンコット子爵である。
このニューケイオスは王都でもないのに多数の貴族が暮らし、ウーダンコット卿のように余暇を過ごしに人が集まる、そんな奇妙な町でもあるわけだ。そんな中、特別ウーダンコット子爵は有名で高名だ。私では計り知れない様々な理由があるのだろうが、この町において最大の要因は、あの豪華すぎる別荘なのだと思う。一度は入ってみたい建物である。
実際、ウーダンコット子爵と話しをするのはとても楽しそうだし、私にとってとても得のある行動だ。時間に余裕があれば二つ返事で快諾していたかもしれなかった
「なんだねシーカの坊主。このまま邸宅に向かうつもりになってくれたのか」
「いや、こちらから伺わせてもらう。それよりも、マードブ殿はウーダンコット子爵に仕えているとか、最近の幽鬼の骸骨の幽霊について、貴族の方が関わっていると聞いたのですが、何か知りませんか」
「いや、全く。俺は何にも知らん。俺はそういうのとはもう関わらないことにしている。そうじゃなきゃ今でも開拓者をやっているさ。まあけど、ウーダンコット卿なら何か知っているかもな、領主とも仲がいいようだし。直接会うこともあるだろう。聞いてみるといい」
「そうか、ありがとう、マードブ殿」
もし手がかりが集まらなかったときはウーダンコット卿を頼ってみることにしよう。しかしそのためには、ウーダンコット慶の難儀な依頼を受けないわけにも行かないだろう。そんな予感もしていたのだった。
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