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早朝

作者: 姥妙 夏希

早朝というのは不思議なもので、日が昇る直前の光が僅かに射しこみ顔を照らしたり、吐いた息が白く霞んでゆらゆらと揺れているだけで、何か感じが良いように思えてしまう。


バス停で待つ一時が、一日の始まりの合図だった。


安い蛍光灯がついたアパルトマンを出て目が段々暗さに馴染んでいくと、ぼんやりとバス停が浮かび上がり私を毎日待っている。ただそれだけで、堅苦しいローファーは自然と弾み、リュックに詰めこんだ重い参考書もまるで軽くなったかのよう。


早起きは苦手だけど、早朝は好き。


澄んだ空気。孤独感。暗いのか明るいのか分からない中途半端さも。


学校に早く行っても、何もすることなんてないのにね。

学校に早く行っても、何もいいことなんてないのにね。


学校に、行っても、いいことなんて、ないのに、ね。


学校は嫌いだけど、早朝は好き。


早朝は、あの子達みたいにくだらないことで騒がない。あの子が好きとか、あの子は無視とか、自分勝手な選り好みなんてしない。恩着せがましさもなく、ただ平等に、顔を控えめに照らしてくれるだけ。自分イイコトしてます、みたいな悟った面も見せない。


昼間の、あのゴテゴテした太陽とは違うの。


何もしてません、やってませんけど、って知らんぷりもしないの。やられました、って被害者面もしないの。


でも、そうしている人達も平等に照らしてくれるの。


人間は嫌いだけど、早朝は好き。


理由もないのに、色恋沙汰で醜い嫉妬を押し付けるような人間が嫌いだ。大して回ってもいない貧弱な脳みそで、浅はかな勘違いをしてそれを正そうともしない人間が、そしてそれをただ傍観している人間が嫌いだ。


早朝は、ただ凛とした空気を纏って、私を包み込んでくれる。

ヒートアップした心を、クールダウンした心を慰めてくれる。


私は嫌いだけど、早朝は好き。


そんな理不尽に文句の一つも言えず、大人しく従っているような私が。同じような人間の一部のくせして、自分だけ達観しているかのように振る舞う私が。心は子供なのに、無理して大人らしく振る舞うから良くない。


でもね、別に私は私が嫌いでも構わない。


早朝なら、きっとそんな私が嫌いな私もまるごと柔らかく照らしてくれる。


だから、そんな存在が要らなくなるその日までは。

私が、私のことをほんの少しでも好きになれるその日までは、


もうちょっとだけ、早朝に登校させてね。

高校生のときずっと朝早く行ってた思い出

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