のんびり屋リッチは意外と有能
新年一発目の投稿になります!
去年は明るくない話題も多々ありましたが、今年こそはそんな雰囲気が払拭できる一年になって欲しいですね。
今年もまたどうぞよろしくお願いします!
ひょんなことからリッチとなった女性魔術師のエルフォルトが加わってから早数日が経過した。
出会った際の人の話をなかなか聴かないスローペースな性格や、上級魔術の”メガ・エクスプロージョン”をいきなり放つなど奇行が目立ったのでまたなにかやらかしやしないかとレオリアは危惧していたのだが--意外にもエルフォルトは真面目だった。
「エルフォルト、そっち頼むっ」
「あいさ~、”サンダーチェイン”」
襲ってきたモンスターとの戦闘の最中、レオリアからの指示で援護に魔術を放つエルフォルト。掌から放たれた電撃が相対していた五匹のウルフ達に飛び、横に躱すなどして回避しようとしたがエルフォルトは巧みなコントロールで電撃の束を命中させる。ウルフ達は黒焦げの死骸と成り果て、エルフォルトが見事などや顔を決めた
「はい一丁あがり~。どんなもんよ、あたしの魔術の腕は~?」
「あぁ、掛け値なしに言わせて貰うと頼りになるの一言だよ。案外と精密に使えるんだな、あんた」
「ふふん。そりゃあ、腐っても領主お抱えの魔術師だったからこれぐらいは出来て当然だからね~……あ、でも既に体的には腐ってるもんだっけかあたしって~?」
「そこは別にどうでもいい」
ツッコミをいれる傍らで、レオリアは素直に彼女の腕前を評価した。
本人はマイペースな気質ではあるが、魔術師としては凄腕の使い手と言っても良かった。
まず、魔術には系統と言って幾つかの種類がある。火・水・風・土・雷と大きく分けると五種類がある。これに加えて神聖魔術や死霊術などまた様々な魔術がある訳だが、基本的には一般の魔術師が最も使う魔術は先に挙げた火から雷までの五種類になる。
だが、これらの内で大体に魔術師が使うものは多くても二つか三つに留まる。なぜなのかと言うと、五種類の系統魔術を単体で使おうと思ったら当然五種類の魔術を習得せねばならない。
しかし、そんなもの片手間で出来るほどなものでなく、それぞれを極めようとしたら途轍もない労力と時間が掛かるし、逆に低レベルな位置で落ち着いてしまったら実用的でない中途半端な器用貧乏に成り下がる。
そもそも、ひとつの魔術に限っても応用技などを含めれば結構な数の魔術があるのだ。
なので長命な種族でもなければニ、三種類の魔術を使えるだけでも上等というのが普通なのだが、驚くべきことにエルフォルトはその性格に反して魔術の才能にかけては天賦の才があったようで五種類の系統魔術を応用含めて全て覚えつつ、威力もそこらの魔術師以上に高火力を叩き出せる実力があったのだ。
更にリッチとなったことで内包する魔力量の絶対値も上がったようで、生前と比べると高威力の魔術をバンバン使っても魔力が底をつかないという嬉しい恩恵も預かっていた。
本人の性格がややアレだが、戦闘では指示通りに戦ってくれるし目覚めたばかりで勘が鈍ってるとも言ってたがそれも徐々に解消しつつある。
身体強化の魔術も同時並行で使える為に、本来なら後衛に控えるべきポジションでありながら前線に出ても問題ないというのも強みであった。
以上の事から魔術師としては稀有な才能を持ち、実戦でも非常に重宝できる逸材なのであるが--なぜか、ショコラはそんなエルフォルトに対して不満でもありそうな膨れっ面をしていた。
「むす~っ」
「何を膨れてんだよ、あんたは」
「だってだってっ! レオくんったら戦闘になったらそっちのリッチばかりに頼るじゃんっ! 寧ろ私の方は除け者にするみたいに意図的に後ろに下がれって言うし、この間まで親密なタッグを組んでたのにあんまりだよ、この浮気者っ!」
「……あのなぁ、あんたは護衛される側で俺は護衛する側だってのを忘れてねぇか?」
戦闘でハブられたのがお気に召さなかったようで抗議してくるが、そもそもレオリアの仕事は彼女の身の回りの護衛が主任務なのだ。
これまでは手の届く範囲にいて貰った方が守りやすいという事情から、一緒に戦ってきたが新たにエルフォルトという戦闘要員が加わったのであればなにも無理に前に出て貰う必要がない。
別にショコラの戦闘技術はド素人という訳ではないが、さりとて熟練の冒険者並みにあるとも言い難いので妥当な判断なのであるが本人はその扱いにご立腹のようだ。
「とにかく、俺としてはあんたに怪我とかして貰っちゃ困るんだよ。あんたは自衛と援護を気に掛けてくれりゃ良いんだからさ」
「むむむ~っ……ふーんっ、良いもん良いもんっ! 別に戦闘で頼られたくたって気にしないしね私はっ」
「いや今まさにめっちゃ気にしてただろ」
「……その代わりぃ、今夜は抱き枕になって貰うからねレオくん♡」
子供のように頬を膨らまして拗ねてたのから一転、蠱惑的に微笑んできたショコラにレオリアは「うっ……」と呻いた。
別にこれは性的な誘いでなく、文字通りに寝る時の抱き枕代わりになるという意味合いでしかなく、エルフォルトの同行を頼む際に一日一回ハグするという彼女との間で交わした約束事でもあるのだが……これがレオリアには結構な苦行であった。
なにせ、就寝時だけとはいえ異性と密着したまま寝るのだ。それにショコラは見た目もスタイルも悪くない美人の部類に入る……そんな彼女に抱きすくめられて豊満な胸を押し付けられたまま熟睡できるほどレオリアは神経が図太くない。結果として朝方まで悶々とした気持ちを抱えて浅い眠りしか取れなくなるのが常であった。
流石に毎日抱き枕を要求してくる訳でなく、ショコラも口では色々と過激な発言こそするが貞操観念はしっかりしてるようで本気で一線を越えようとする素振りはないが、それが逆にレオリアの性欲を煽り立てているのでそういう意味では困っている……いっそ、街の娼館にでも行って下半身をスッキリさせるべきか本気で悩んでもいた(因みにレオリアは童貞であるので仮に娼館に行っても本番行為は避ける腹積もりである)
(ほほ~、そうですかそうですか~、今夜はショコラさんと寝る訳ですか~? これはまた後が大変になってくんわね~?)
そんな二人のやり取りをニヤニヤしながら見ているエルフォルト。実はレオリアは気付いていないが、昂った性欲を鎮める為に自己処理してたとこを見られてしまっていた--ご丁寧に気取られないように、自身の気配や足音を完璧に隠す隠遁の結界を使ってまで覗き見していたのだ。
完全なる出歯亀であるが、エルフォルト自身は別にレオリアに気があるという訳でなく、単に「女の子みたいな外見の美少年が性欲に苛まれて悶々としてる」というシチュエーションがツボに嵌まったので観賞してるだけというスタンスである。よってこの事をショコラに言ったりなどする気はなく自分だけでひっそり楽しむつもりであるが、なんにせよ性質が悪いとしか言えないだろう。
まぁ、仮に覗いてましたと言えばレオリアの精神的ダメージは計り知れないものになるだろうが……それはそれとして、一行は徒歩での移動と公共馬車の乗り継ぎを繰り返して貿易都市トゥルードゥランにへと順調に進んでいったのだった。




