地下探索
(くっそ、俺としたことが油断しすぎてたかっ!)
落とし穴から真下にへと落下していくレオリアは内心で自分の迂闊さを悔いていた。捕らえてからこれまで、スリは逃げ出すようなことも偽ることを言うようなこともなかったので警戒を薄れさせてたのが不味かった。
いくら大人しくしてようが相手は犯罪に手を染めてる奴なのだから、もっと疑ってかかっても然るべきだったのだ。
まんまと罠に嵌まってしまったが、今はとにかく無事に着地することを考えねばならない。落下先がもし針山なんかだったりしたら一貫の終わりだ。
「おい、俺と手を繋げっ! 早くっ!」
「えっ、レオくん、こんな時になんて大胆なアプローチ!……私、初めてだから色々と優しくして欲しいな♡」
「とんちきなこと言ってないでさっさと掴まれやっ!」
落下中にも関わらず、空中で器用に身をくねらせるショコラにツッコミを入れてまどろっこしくなったレオリアの方から手を掴んだ。
そして、掴んでない方の手を穴の側面に向かって勢いよく殴り付けるように埋め込ませる。ガガガガッと石を削りながら数メートルしたところで強引ではあるがそれ以上落ちることは食い止められた。
落下の反動や二人分の重量など、半端でない力が加わってる筈だがレオリアの細腕は何の問題もなく支えきっており、その肉体の頑健さにショコラは改めて感心する。
「ふぅ、何とか止まったな……にしても、あんにゃろめ。最後の最後で罠に引っ掛けやがるとはふざけやがって」
「流石に予想してなかったねぇ、どうするレオくん? 登ってお仕置きでもしちゃおうか」
「……いや、もうトンズラしてるだろうし、仮に居たとしてもこんな体勢で登ってりゃ向こうにとっては格好の的になっちまう。俺だけだったら何とでもなったろうけど、あんたに危険を及ぼすわけにはいかねぇ」
感情を抑えてここはひとまず穴の底を確認し、降りられるようだったならばそこから脱出するルートを探そうということになる。
ショコラの財布は手元にあることだし、無理してまであのスリを追うことは別にしなくてもいいのだから--しかし、もし再び会った時は落とし前をつけさせてやるとレオリアは意気込んでいた。
それからはショコラが常備しているナイフを楔代わりに打ち込んでそれを足場の代わりにしつつ、二人は落とし穴の下にへと降りていく。
時間にして十数分の逆ロッククライミングを終えて、ようやく穴の底にへと辿り着いた。幸いというべきか、レオリアが危惧したような針山などはなかった。仮になかったとしても、あの高さから打ち付けられてたら全身複雑骨折、または即死の可能性もあったが。
ともかく、降り立つとカンテラを灯して真っ暗なそこを照らしてみる。見回すとポッカリと空いた空洞がいくつかあったが、その先がどこにどう繋がってるのかは皆目分からない。
だとしてもここで立ち止まってても事態は好転しない、レオリアは万一のことも考えてショコラに自分の後ろを歩くように指示してからカンテラの灯りを頼りに暗がりの中を進んだ。
--だいぶ探索してみたが、一向に外どころか上へ行ける道すら見つからぬまま時間だけが過ぎていく。この古城に来た時が夕刻であったから、もう夜になってる頃合いだろう。下手したら、こんな穴蔵で一夜を過ごさねばならないことになりかねなくレオリアは嘆息する。
「悪い、ひょっとしたらここで一晩過ごすことになるかもしんねぇけど……」
「え、別に全然オッケーだけど」
「全然って……大丈夫なのか? こんなところで」
「別に今までだって野宿ぐらいしてたじゃない。むしろ雨風が凌げるだけ、こっちの方がマシだと私は思うよ」
その逞しい意見にレオリアは舌を巻くが、この状況下で取り乱したり不平不満を溢してくれなかったことはありがたく思う。
ギスギスした雰囲気になってしまったら、思いも掛けない事態に悪化してしまうだろうからショコラのポジティブさには感謝した。
「それにねぇ……外と違って人気のないここならさ、レオくんと色々なお楽しみが出来るよね? レオくんとあ~んなことやこ~んなことしちゃったりぃ♡……ふひ……ふひひ、じゅるり♡」
薬をキメたような表情をしながら気味悪い笑いを溢し、挙げ句にはよだれまで垂らすショコラに言うまでもないがレオリアは顔をひきつらせてドン引きした。そして一刻も早くここから抜け出ねばならぬと自分の貞操を守るためにも決死の思いを募らせたのだった。
しかし、体感にして数時間は経過した頃になっても一向に抜け出せる道は見付からなかった。流石にヤバイと思い始め、危険を承知であの落ちてきた穴から上を目指すか、トンネルでも掘って脱出するかとレオリアは考え出した。だが落とし穴の上になにか罠でも仕掛けられてる可能性は否めず、そしてトンネルを掘るプランも下手したら土台を脆くして城が倒壊しかねないこともあるので危険度は変わらない。
手詰まりに陥り掛けて、顔を曇らせるレオリアとは対照的に今の状況をどこか楽しんでそうなショコラだったが、ふと壁に付けてた手になにか違和感を覚えて立ち止まった。
「ん、どうかしたのか?」
「いやね……なんかここの壁、妙な感じがするんだよね。なんていうか、手触りというか質感というか」
壁をぺたぺたと触って確かめていたショコラは気が付いた。ある面を境に他の壁面と比較して、明らかに触れた感じが違ったのだ。
例えるなら、そう見た目だけそれらしくした作り物の壁のように。その壁に耳を当てながら叩いてみると、おかしな反響音を聴き取った。
「うん、やっぱりそうだよ。後から埋め立てでもしたんだろうけど、この先に通路かなにかある」
「抜け道ってやつか? 何にせよ、わざわざ隠してるってことはなにかしらあるってことだし、行ってみるか。ちょっと離れてくれ」
ショコラを下がらせて、レオリアはその壁を思いっきり殴った。バコッ!と音がして壁を突き抜けた手が中空に出たことに、やはりこの先は空洞だったのだと確信する。
そのまま、二人が通れるぐらいに壁を壊して進んでみると洞穴だった造りから石畳で舗装された通路にへとなっていた。火は消えているが、燭台のようなものまである。
明らかにこの先にはなにかあると読み取り、二人は罠に警戒しながら奥にへと歩いていく。暫く進むと、突き当たったところに如何にも重厚な両扉が存在していた。厳重に守られてるかのように、扉には錆びてこそいるがゴツい南京錠が何個もある。
「隠し道に加えて鍵付きの扉か……随分と大層な守りようだな」
「ひょっとして、財宝でもあるんじゃない? だとしたら大金持ちになっちゃうかもね私たち♪」
「まぁ、これだけ秘匿してたら無くはないけどな」
財宝の隠し場所というのはレオリアも考えない訳ではなかったが、また別の可能性もある。それは表に出すとヤバイ品とかだ、禁制の魔道具とか危ない実験の研究施設など公にはできないことを隠してる場所の可能性だってある。まぁそうだとしても、ここまで来て引き返すような野暮な真似はレオリアもする気はないが……錆びた錠前を力ずくで壊し、中にへと踏み行った。
真っ暗な空間を手元のカンテラで照らしながら室内の状況を確認していると、向かって正面の祭壇らしきところに不穏な雰囲気を出す代物が鎮座してあった。
「レオくん。あれってさ、思い違いじゃなかったらさ……棺桶だよね?」
「ああ、どっから見ても立派な棺桶だな」




